欲望のバージニア

1930年代の禁酒法下、不毛な時代を生き抜く
バージニア州に実在した伝説的な3兄弟の物語
烈しい抗争劇に信念を貫く男たちの生き様を描く

  • 2013/06/21
  • イベント
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アクの強い個性派から味のある若手まで、実力派の俳優たちが結集。1930年代のアメリカ南部に実在し、今もバージニア州のフランクリンで伝説的な人物として慕われている3兄弟の物語。出演は『トランスファーマー』のシャイア・ラブーフ、『ダークナイト ライジング』のトム・ハーディ、『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェイソン・クラーク、『ゼロ・ダーク〜』で高い評価を得たジェシカ・チャスティン、『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカ、『裏切りのサーカス』のゲイリー・オールドマン、『英国王のスピーチ』のガイ・ピアースほか。監督は『ザ・ロード』のジョン・ヒルコート、音楽と脚本はミュージシャンであり脚本家としても活動するニック・ケイヴが手がける。禁酒法時代、密造酒の製造・販売をするボンデュラント3兄弟が、高額の賄賂を要求する取締官に反発。命がけの抗争へと発展してゆく。実話ベースのダークな人間ドラマである。

1931年、バージニア州フランクリン。世界で最も酒の密造が盛んにおこなわれている無法地帯。長男ハワード、次男フォレスト、末っ子のジャック、“不死身”と噂されるボンデュラント3兄弟は質のいい密造酒の製造・販売を生業にし、手堅い仕事ぶりで地域の人々や闇商売の関係者から一目置かれていた。そんな折、新しく着任した取締官レイクスが地域一帯に高額の賄賂を要求。ボンデュラント兄弟は、その一方的で高圧的な言い渡しを断固拒否。レイクスは残虐な手口で兄弟の周囲を執拗に攻撃し脅迫する。強靭な肉体をもつハワードとフォレストが血で血を洗う報復の応酬を重ねるなか、体は軟弱でも知恵のまわるジャックは兄たちの反対を無視して野心にまかせ、名うてのギャング、フロイド・バナーに大口の取引を仕掛ける。

シャイア・ラブーフ

アメリカの小説家マット・ボンデュラント(3兄弟の末っ子ジャックの実の孫)が2008年に出版した小説『The Wettest County in the World(邦題:欲望のバージニア)』を映画化。小説のあとがきには、「この物語は、家族の様々な秘話、新聞の見出しや記事、裁判の記録に基づいている。と同時に、数十年にわたって伝わる噂やゴシップも混ざり合っている。私は不確かな記録や曖昧な出来事の奥の“真実”を探ろうとした」と記されている。無法者ながら、死にかけてもひるまずに身内を守り、自らの信念を貫き通す生き様は見ごたえがある。

トム・ハーディ、ジェシカ・チャスティン

三男ジャック役はラブーフが熱演。スピルバーグの秘蔵っ子として数々の作品に出演するも、スピルバーグを批判し、のちにそれを悔やむ内容をコメントするなど、ここしばらく微妙な状況が伝わっていたことは周知の通り。(当分は)ハリウッド超大作に出演する予定はない、というなか、本作について、「なにがなんでも絶対にやりたい役だった」と並々ならぬ意欲で挑んだと語っている。次男フォレスト役はハーディが静かな威厳をたたえて。ストイックで敵には冷酷ながら色恋沙汰には不器用、という古い気質の男を自身の持ち味を生かして演じている。長男ハワード役はクラークが享楽的で豪快なイメージで。兄弟のリーダー格であるフォレストが次男であることがすこし不思議だったものの、原作ではフォレストが長男とのこと。映画ではクラークがハワード役に決まったことで、ハワードが長男という設定となったそうだ。そして兄弟のパブに身を寄せる、過去のある美女マギー役はチャスティンが気骨のある女っぷりで、厳格な牧師の娘でジャックが夢中になる無垢な少女バーサ役は、ワシコウスカが純真かつ思春期の娘らしく好奇心いっぱいに、ジャックの親友で発明好きの少年クリケット役はデイン・デハーンがホッとする雰囲気を表現。注目は2人の悪役、兄弟を執念深く追い詰める取締官レイクス役はピアースが神経質に、黒髪をセンター分けでなでつけて蝶ネクタイに手袋といういでたちで、フロイド役はオールドマンがいかにもギャングらしくハットにストライプのスーツをまとい、独特のカリスマ性を発揮しつつ要領のよさもコミカルに演じ、物語にアクセントをつけている。

シャイア・ラブーフ、ミア・ワシコウスカ

アメリカには現在も地方行政当局が酒類販売の禁止や制約をしている禁酒郡が南部を中心に500以上あり、規模により「dry county」「dry towns」「dry cities」「dry townships」などと呼ばれているとのこと。原作のタイトル「Wettest County in the World(直訳:世界で最も濡れた州)」は、禁酒時代のアメリカにおいてバージニア州フランクリンが世界で一番密造酒が盛んな地域といわれていたことに由来する。そもそもヒルコート監督は「強烈で生き生きとした独自性のあるギャング映画が撮りたかった」そうだが、個人的には厳しい時代をサバイバルする市井の人たちの不屈の力強さに惹きつけられた。法的な抑圧、悪徳な権力の横行、ギャングの栄華、地域の結束、不毛な時代を家族や愛する人たちとともにどう生き抜くか。いつの時代もある面において、この映画の原題『LAWLESS(無法な、非合法の)』という部分がある。そこに屈せずに正攻法でいくことは、英雄なのか馬鹿なのか。“勝てば官軍 負ければ賊軍”という言葉が頭をかすめつつ、自らの“役割”をまっとうした3兄弟の生き様にしみじみとするのである。

作品データ

欲望のバージニア
公開 2013年6月29日公開
丸の内TOEIほかにて全国順次ロードショー
制作年/制作国 2012年 アメリカ
上映時間 1:56
配給 ギャガ
原題 LAWLESS
監督 ジョン・ヒルコート
脚本 ニック・ケイヴ
原作 マット・ボンデュラント
出演 シャイア・ラブーフ
トム・ハーディ
ジェイソン・クラーク
ジェシカ・チャスティン
ミア・ワシコウスカ
ガイ・ピアース
ゲイリー・オールドマン
デイン・デハーン
ノア・テイラー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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