タイピスト!

キュートなラブ・ロマンス×熱血スポ根!
都会に憧れる娘が鬼コーチに素質を見出され……?
’50年代のフランスを舞台に描くロマンティック・コメディ

  • 2013/08/19
  • イベント
  • シネマ
タイピスト!© 2012 - copyright : Les Productions du Trésor - France 3 Cinéma - France 2 Cinéma - Mars Films - Wild Bunch - Panache Productions - La Cie Cinématographique - RTBF (Télévision belge)© Photos - Jaïr Sfez.

ポップでキュート、意外にも“スポ根”のエッセンスを効かせたフランス映画。出演は2005年の映画『ある子供』でセザール賞にノミネートされたベルギー出身の女優デボラ・フランソワ、フランスの演技派俳優ロマン・デュリス、映画『アーティスト』で世界的な注目を集め、映画『The Past』で2013年の第66回カンヌ国際映画祭にて女優賞を受賞したベレニス・ベジョ、『オーケストラ!』などフランスを代表する女優ミュウ=ミュウほか。監督・脚本は、ジェーン・バーキンのPVや音楽関係のドキュメンタリー、短編映画を手がけ、本作が長編映画監督デビューとなるレジス・ロワンサル。製作は『オーケストラ!』を手がけたアラン・アタル、撮影は映画『アーティスト』のギョーム・シフマン。1950年代末、都会の生活に憧れて田舎からやってきたローズは、ひょんなことからタイプライターの早打ち大会に出場することに。’50年代の映画や名優へのオマージュ、カラフルなファッション、ロマンティック・コメディ、シンデレラ・ストーリー、そして熱血スポ根というドキドキワクワクを詰め込んで、フランスのエスプリで仕上げた作品である。

1958年のフランス。都会に憧れるローズ・パンフィルはノルマンディーで雑貨店を営む父親のもとを飛び出し、女性たちの憧れの職業“秘書”の面接を街の保険会社で受ける。なんとか試験雇用をもぎとるも、ノロマで不器用なローズは1週間でクビを宣告されてしまう。が、社長である雇用主のルイはローズの唯一の特技であるタイプライターの早打ちに注目し、「タイプライター早打ち大会」に出場すればクビは取り消し、という条件を提示。ローズは言われるまま地方大会に出場するもあっさりと予選落ちに。これまでさまざまなスポーツ大会に出場してきたルイはコーチ魂に火が付き、ローズにマンツーマンでタイプライターの特訓を開始。2人でタッグを組み再び大会出場を目指す。

デボラ・フランソワ、ロマン・デュリス

クラシックな衣装やインテリア、車などのカラフルでキレイなビジュアル、小気味いい展開で魅せていくロマンティック・コメディ。田舎娘の成長物語でサクセス・ストーリーというだけではなく、恋愛ドラマとしての繊細な情感というフランス映画の醍醐味もしっかりと。一番のポイントはこのテイストでスポ根! という意外なマッチング。ストーリーや人物を丁寧に描くという基本を大切にしながら意外な要素を取り入れてセンス良く仕上げるあたり、まるで伝統的なフレンチに山椒など異国の調味料を取り入れて新鮮な風味を引き出す一流のシェフのよう。ロワンサル監督の手腕は本国フランスでも高く評価されているそうだ。

ローズ役はフランソワがかわいらしく。ウブで不慣れな地方の娘が、ハードなトレーニングに耐え自信と輝きを増してゆく姿を生き生きと表現。役作りのためにフランソワ本人も実際に訓練を積んだそうで、アメリカ海兵隊の秘書が3回の動きで用紙を交換する方法を教えるビデオ、タイプライター早打ち大会の映像、タイピングと用紙の交換テクニックを記した教本を渡され、1日2〜3時間の練習を3か月間続けたそうだ。鬼コーチとなるルイ役はデュリスが冷静で公平な様子で演じ、相手の価値を尊重しようとしすぎて、ある意味で武骨で無粋という大人の男の不器用さがよく伝わってくる。ルイの幼馴染でもと恋人のマリー役はベジョが、幸せな主婦であり大人の女性として、ルイの母親役はミュウ=ミュウがおだやかな様子で演じている。劇中でマリーがルイに、恋愛についてはっきりと意見するところは女性として響くものが。ロワンサル監督をはじめ脚本執筆はすべて男性ながら、女性と男性両方の目線や立場、受け取り方や思考のズレによる誤解や行き違いがよく描かれているところも面白い。

デボラ・フランソワ

1950年代を舞台に描く本作では、名画へのオマージュもふんだんに。監督はフランソワに、’54年の映画『麗しのサブリナ』、’57年の『パリの恋人』『昼下がりの情事』のオードリー・ヘプバーン、そしてマリリン・モンローを参考にするように伝えたそう。ローズのポニーテールはヘプバーンのまさにそれだ。ロワンサル監督自身は着想を得た映画としてビリー・ワイルダーやダグラス・サークの作品、そしてジャック・ドゥミ監督の『ジェルブールの雨傘』『赤い風船』『地下鉄のザジ』、ジャン=リュック・ゴダールの『女は女である』をはじめヌーヴェル・ヴァーグの作品をあげている。劇中でローズがバスルームからでてくるシーンは、アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』でヒロインを演じたキム・ノヴァクを参考にしたそうだ。

ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ

初の長編映画である本作で、高い評価を得たロワンサル監督。そもそものきっかけは監督がタイプライターの歴史を伝えるドキュメンタリー作品で早打ち大会の短い映像を見て、「タイプライターが競技になるなんて信じられない」と驚いたことから調査を開始。約4年かけてリサーチし、大会の映像や写真、関連文書を見つけて、実際に地方大会で優勝した男女に取材も。「これぞまさに本物の競技だ!」と思った監督は、脚本家たちとともに脚本を書き上げたそうだ。そして企画を聞きつけたプロデューサーのアラン・アタルは脚本を取り寄せて、読んだ数日後すぐに「映画を作りたい」 と監督に申し出たそう。アタルは語る。「度肝を抜かれたし、とても感動した。ロマンスと競技の融合は、『ロッキー』の女性版のようだった」。甘くてかわいいだけの恋愛映画とはひと味ちがう本作。お熱いのがお好き? それとも?

作品データ

タイピスト!
公開 2013年8月17日公開
ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次ロードショー
制作年/制作国 2012年 フランス
上映時間 2:14
配給 ギャガ
原題 Populaire
監督・脚本 レジス・ロワンサル
脚本 ダニエル・プレスリー
ロマン・コンパン
撮影 ギョーム・シフマン
製作 アラン・アタル
出演 ロマン・デュリス
デボラ・フランソワ
ベレニス・ベジョ
ミュウ=ミュウ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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