“M資金”をめぐり、意図をもつ者と陰謀が動き出す
詐欺師の男は報酬50億の法外な盗みを依頼され……
世界を舞台にこれからの富の流れを問うサスペンス
誰のために、なんのために。これからの世界経済、富の流れを問う作品。『亡国のイージス』を映画化した阪本順治監督と原作者の福井晴敏が再びタッグを組み、今回は共同で脚本を執筆。出演は佐藤浩市、香取慎吾、森山未來、観月ありさ、石橋蓮司、豊川悦司、寺島進、三浦誠己、岸部一徳、オダギリジョー、仲代達矢、そして映画『オールド・ボーイ』の韓国人俳優ユ・ジテ、映画『ブラウン・バニー』で主演・監督をつとめたヴィンセント・ギャロほか。GHQ (連合国軍最高指令官総司令部)が占領下の日本で押収した財産などをもとに現在も極秘で運用されているという時価数10兆円ともいわれる“M資金”をめぐり、意図をもつ者と陰謀が動き出す。ただのマネーゲームに終わらない、グローバルな意識を喚起するサスペンスである。
2014年、日本。詐欺師の真舟雄一がいつものようにM資金詐欺で架空の融資をもちかけていると、顔見知りの刑事の邪魔が入る。さっさとひきあげようとした真舟のもとに見知らぬ若い男が現れ、「“財団”の人間があなたを待っている」と告げる。“日本国際文化振興会”という名に聞き覚えのあった真舟は、「M資金は本当に存在するのか?」という父親が死の間際まで追っていた疑問に後押しされ、いぶかしみながらも石優樹と名乗る男についてゆく。2人が古びたビルに着くと手荒な男たちに襲われ、なんとか逃げ切った翌日、真舟は石の案内により2人の男と会う。初老の本庄一義のいう「M資金を盗み出してほしい。金額は10兆円。報酬は50億」というケタはずれの内容と、“M”と名乗る若い男のいう「成功した暁にはM資金の秘密を教える」という話に興味をもち、真舟は計画にのることにする。
日本、ロシア、発展途上の小国、そしてアメリカへ――。“M資金”をめぐり人々の思惑と陰謀が交錯するサスペンス。父から子へ、そのまた次の世代へと継がれてゆく意思、変わりゆく世界に向かってゆく意識を力強く描く。個人的に、映画は前情報一切なしで観ることから「近ごろ増えてきた経済・金融もの、M資金をモチーフにした人間ドラマ」という感覚でさらりと観たため、本作のクリアなメッセージ性に驚いた。演技派と人気俳優を配し、“M資金”という有名なモチーフのサスペンスというエンターテインメントとして惹きつけつつ、健全な指針を打ち出す。社会的なテーマを前面に押し出さないところは、作品として楽しんでもらえたら意思は伝わる、と観客を信頼してゆだねているかのようだ。
詐欺師として生きてきた勘と運、しぶとさをもつ真舟雄一役は佐藤浩市が土臭く。いざというときの判断と行動に迷いがなく、ブレのない豪気なキャラクターはみていて気持ちがいい。謎の若い男、石優樹役は森山未來がすばらしくハマり役で実力を発揮。本作ではクラヴマガというイスラエルの接近戦闘術を体得したそうで、ダンサーとして鍛えた高い身体能力による武道家並にキレのあるアクション、壇上から切実に英語で訴えかける長回しのシーンには迫りくるものがあり、『世界の中心で、愛を叫ぶ』からさらなる成長をしみじみと感じさせる。2013年5月に文化庁より「文化交流使」に任命された森山は日本での俳優活動を休業し、2013年10月〜2014年9月末の1年間、ベルギーとイスラエルの劇団を拠点に演劇の共同制作や公演、一人芝居をすることは周知のとおり。最高の仕事を打ち出したのちの休業と留学、そして2014年の復帰が楽しみだ。青年M役に香取慎吾、Mをサポートする本庄役に岸部一徳、真舟と敵対する高遠美由紀役に観月ありさ、その部下の辻井役に三浦誠己、財団の理事長で表向きは投資顧問会社の代表をつとめる笹倉暢彦役を仲代達矢、ロシアにある財団の極東支部の代表・鵠沼役をオダギリ ジョー、真舟の詐欺仲間である酒田役に寺島進、真舟の顔見知りの北村刑事役に石橋蓮司、1945年当時の米軍の密偵、ハリー遠藤役を豊川悦司が演じている。またニューヨーク投資銀行のハロルド・マーカス役にヴィンセント・ギャロ、ハロルドの雇う暗殺者役にユ・ジテと、海外の実力派俳優も重厚で国際的なドラマとしての軸を担っている。
撮影はアメリカのニューヨーク、ロシアのハバロフスク、タイのカンチャナブリ、そして日本にて。ニューヨークにある国連本部での撮影は、日本映画として本作が初めてとのこと。国連の撮影は本部の補修工事が始まる2012年夏までとされたため、撮影初日にクライマックスである森山のシーンを撮影したそうだ。国連のシーンでは加盟国193カ国を意識して、エキストラは国連職員の方々の協力もあり500人以上のさまざまな国籍の人たちが参加。阪本監督はエキストラ、スタッフ、関係者に対して、東日本大震災に寄せられた支援へのお礼の言葉を述べてから撮影を開始したとのこと。そして9ヵ月後、極寒の真冬のロシアで撮影したのち、タイで架空の国、カペラ共和国のシーンを撮影。カペラ共和国の人民としてモン族の人々が撮影に参加。マイナス18℃のロシアから35℃のタイへ、温度差53℃という激しい環境変化に対応しながら乗り切ったそうだ。
“M資金”とは、第二次世界大戦終戦時の混乱期に、ダグラス・マッカーサー率いるGHQ (連合国軍最高指令官総司令部)が占領下の日本で押収した財産などをもとに現在も極秘で運用されているといわれる資金のこと。M資金が公的に認められたことは一度もなく、都市伝説のひとつとも。GHQの管理下に置かれた押収資産は、戦後の日本で復興と賠償にほぼ費やされたとされるも、資金の流れに不透明な部分があり、“M資金”の存在が噂されるようになったそうだ。事実として、旧日本軍が降伏直前に東京湾の越中島海底に隠匿した、インゴット化された金1,200本、プラチナ300本、銀5,000トンという大量の貴金属が1946年4月6日に米軍によって実際に発見されたこともあり、“M資金”の存在はさまざまな映画や小説などのモチーフとなっている。近年では’11年に映画化された浅田次郎の小説『日輪の遺産』など。
“M資金”を軸に、7年の構想を経て’12年の初頭に坂本監督と作家の福井氏による脚本が完成し、映画化した本作。’13年8月9日には福井氏が書き下ろした初の経済小説として同名の原作が刊行されたそうだ。作家の福井晴敏は’98年に『Twelve Y.O.』で第44回江戸川乱歩賞を受賞し小説家としてデビュー。’99年に刊行された『亡国のイージス』で第53回日本推理作家協会賞長篇、’03年『終戦のローレライ』で第24回吉川英治文学新人賞など数々の文学賞を受賞した人物。’05年には3本の小説が映画化され、『ローレライ』『戦国自衛隊1549』『亡国のイージス』が相次いで公開されたことも話題に。一方、阪本監督は’89年に映画『どついたるねん』で長編デビューし、近年は’10年の『座頭市 THE LAST』、’12年『北のカナリアたち』など武闘派の作品から人間ドラマまで幅広く手がける。シリアスなテーマを軸に、ユーモアやロマンスを含む人間ドラマの面も丁寧に。『亡国のイージス』『人類資金』に次ぐ、阪本監督と福井氏のタッグに今後も期待したい。
公開 | 2013年10月19日公開 丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー |
---|---|
制作年/制作国 | 2013年 日本 |
上映時間 | 2:20 |
配給 | 松竹 |
監督・脚本 | 阪本順治 |
原作・脚本 | 福井晴敏 |
出演 | 佐藤浩市 香取慎吾 森山未來 観月ありさ 石橋蓮司 豊川悦司 寺島進 三浦誠己 岸部一徳 オダギリジョー ユ・ジテ ヴィンセント・ギャロ 仲代達矢 |
記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。