清須会議

歴史ファンの三谷幸喜が満を持して挑む初の時代劇!
信長の死後、後見に名乗り出た勝家や秀吉の人間模様を描く
史実をもとに戦国時代の人々の心情を丁寧に伝える人間喜劇

  • 2013/10/25
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清須会議© 2013 フジテレビ 東宝

子どものころから歴史が大好きだったという三谷幸喜監督が、映画6作目にして満を持して挑む初の時代劇。出演は役所広司、大泉 洋、小日向文世、佐藤浩市、妻夫木聡、浅野忠信、寺島 進、でんでん、松山ケンイチ、伊勢谷友介、鈴木京香、中谷美紀、剛力彩芽、坂東巳之助ほか主役級の俳優陣が集結。天正10年(1582年)本能寺の変で、明智光秀の謀反により織田信長は天下統一を目前に死去。その後、重臣たちを中心に織田家の跡目と領地配分を決めるべく開かれた評定の場、日本史上初めて“会議で歴史が動いた”とも言われる「清須会議」の5日間の様子を描く。戦国武将を描きながら合戦シーンや血なまぐさい陰謀がほとんどなく、史実をもとに人間模様と心情を丁寧に描く群像劇である。

1582年、旧暦の6月。織田信長とその長男・信忠の死後、後見として筆頭家老・柴田勝家と、山崎の戦いで明智軍を討伐した羽柴秀吉の2人が名乗りをあげる。勝家は盟友であり参謀的存在の丹羽長秀の助言により、信長の三男でしっかり者の信孝を、秀吉は次男で大うつけ者と噂される信雄を信長の後継者として推挙。勝家と秀吉がともに思いを寄せる信長の妹・お市は、以前に愛する夫と子供を殺された秀吉への恨みから勝家に肩入れ。秀吉は軍師・黒田官兵衛の策により信長の弟・三十郎信包を味方に引き入れ、急遽会議に参加することとなった池田恒興に領地を約束し、妻・寧の内助の功を生かしながら、入念に根回しをしてゆく。そして評定の日、後見となるのは勝家か秀吉か――?

「『清須会議』は群像劇です。登場人物全員にドラマがあります。戦国時代の話ですが、きっと皆様にも自分を投影する誰かがこの中にいると思います」という三谷監督。戦国武将の話なのに合戦シーンがないなんて、と思う向きもあるかもしれないが、心配はご無用。当時の様子を再現すべく細部まで作りこまれたビジュアルとともに、史実の人物の心理をわかりやすく伝え、人間喜劇として見ごたえのある仕上がりとなっている。監督は語る。「時代劇や歴史ドラマが好きな自分からすると、これまで、ほぼ会話劇で作られた時代劇というのはあまりなかったと思うんです。この作品は、戦国時代を舞台にしているのに、ほんの少しの殺陣のシーンがあるだけで合戦もありません。でも一方で、ぶっとんだ設定でも、はちゃめちゃな内容でもないという点では、ある意味全うな時代劇になったと思います」

役所広司、佐藤浩市、小日向文世

信長の筆頭家老・柴田勝家役は、役所広司が素朴な田舎侍として好演。後見人問題よりもお市の方のご機嫌とり、という様子がほほえましい。期待以上にハマっているのは、三谷映画には初出演となる羽柴秀吉役の大泉洋。狡猾さも度胸と愛嬌の抱き合わせで、人あたりよくノリよく気前よく、生まれながらの勘働きと見事な要領で、大局を見据えた根回しを畳みかけてゆく姿に、秀吉らしさがくっきりと浮かび上がる。三谷監督は自身の作・演出による2011年の舞台『ベッジ・パードン』で一緒に仕事をした時に大泉に対するイメージが変わり、今回の秀吉は彼しかいないと思ったとのこと。「彼はサービス精神旺盛だから、バラエティ色の強いイメージがありますが、芝居の基本的な部分がちゃんとしていて、人間の裏表、明と暗を演じられる、力のある役者です」と明言している。織田四天王の策士のひとり、丹羽長秀役は小日向文世が真剣に織田家の今後を案ずるが故の苦悩を、勝家派でも秀吉派でも勝ち馬に乗ろうとする池田恒興役は佐藤浩市が軽妙に、秀吉の妻・寧役は中谷美紀が夫を献身的に支える妻を明るく溌剌と表現している。信長の妹・お市の方役の鈴木京香と、信忠の妻で未亡人となった松姫役の剛力彩芽は、白塗りにお歯黒とまろ眉という風貌で登場。ラスト近く、松姫のお歯黒のほほえみは夢に見そうなほどでたまらない。信長の弟・三十郎信包役は伊勢谷友介、長男・信忠役は中村勘九郎、跡継ぎ候補となる次男・信雄役は妻夫木聡、三男・信孝役は坂東巳之助、勝家側の家臣・前田利家役は浅野忠信、秀吉側の黒田官兵衛役は寺島進、堀秀政役は松山ケンイチ、前田玄以役はでんでん、佐々成政役は市川しんぺー、森蘭丸役は染谷将太が演じている。そして三谷作品の常連である俳優陣は、会議に間に合わなかった重臣・滝川一益役に阿南健治、明智光秀役に浅野和之、門番・義兵衛役に近藤芳正、母・なか役に戸田恵子、弟・小一郎役に梶原善が出演。また短い出演ながら、忍びの者・枝毛役に天海祐希、前作『ステキな金縛り』のキャラクターである北条家家臣・更科六兵衛役として西田敏行も登場。しっかり楽しむには前もって役柄の相関図に目を通しておくとわかりやすいだろう。またお市の方の侍女役を瀬戸カトリーヌが演じ、洋風の顔で時代劇? と思ったものの、某シーンで手首のスナップをビシッと効かせるところなど、三谷作品をはじめ豊富な舞台経験により喜劇のツボを心得ている感覚は観ていてたのしい。

織田信長役の篠井英介は少し線が細く上品さが感じられるものの、あの有名な肖像画によく似ている……と思ったら、登場人物の風貌は実際に残っている肖像画になるべく近くなるように、髷から特殊メイクから三谷監督自らがスタッフとともに嬉々として試行錯誤して作り上げたとのこと。監督は10歳のころに清須会議に興味をもち、戦国武将の肖像画を数多く掲載する『別冊太陽 戦国百人』(絶版)を毎日眺め、さまざまな文献を読み漁って武将たちとも“まるで友達のように思えるほど慣れ親しんだ”という歴史大好きな子どもだったとか。秀吉は“ハゲネズミ”、光秀は“金柑頭”といわれていた裏話や数々の肖像画からすると、時代劇の髷に髪が多すぎることがかねがね気になっていたそうで、本作では額が広く鼻の高い織田一族、髪がかなり少ない秀吉に大きな耳をもつ羽柴の人々など、作りこまれた各人の髷と特殊メイクにも注目だ。

佐藤浩市、妻夫木聡、大泉 洋

また舞台美術は’06年の映画『THE 有頂天ホテル』以来、三谷作品の美術を4作にわたって手がけている種田陽平が担当し、繊細なディテールを追求した大がかりなビジュアルに。舞台となる清須城は、一般的には天守閣がなかったといわれるものの(あったという説も)、今回は映画のためのオリジナルとして白壁ではなく木の壁で天守閣を作成。高さ2mのミニチュア模型を作り、城郭部分には平安時代の寝殿造りの様式を取り入れたそうだ。そして日本庭園や渡り廊下を介して居室が配置された城内の様子、各人のキャラクターを表すかのような部屋の内装も観ていて飽きない。

史実をもとに衣装やメイク、建築や内装、照明などのビジュアルはより当時に近いものに、話し方などキャラクターに関わる面は比較的平易にわかりやすく、実在しない人物も織り交ぜて描く本作。本作は三谷自身17年ぶりとなる書き下ろし小説を原作に、小説とは異なるアプローチで映画化。自分の作品とはいえ小説の映画化は監督として初の試みとのこと。そもそも最初に提出した映画のプロットが短編小説ほどの分量になっていたため、小説を執筆することにしたものの、いざ小説を書こうとすると脚本とは違って、何をどこまで具体的に説明するべきか迷うこともしばしばで、「小説は本当に難しかったです」とコメントしている。とはいえ執筆の際に細部まで具体的にイメージしたことは、映画製作にとても役立ったとも。

鈴木京香、役所広司 

先日行われた完成披露試写会で三谷監督は、「僕は映画監督としてこれが6本目になりますが、どうしても自分が映画監督とは思えません。やはり映画ファンなんです。映画ファンとして、映画を作っているという感じです。そして、僕は歴史ファンでもあります。歴史ファン、そして映画ファンでもある僕が作ったのがこの『清須会議』になります。本当にファン冥利に尽きます。自分の一番好きな世界を、一番好きな形で、一番好きな俳優さんたちと、一番好きなスタッフたちと一緒になって作ったと思っています」とコメント。歴史の資料が伝える通り、勝家や秀吉、お市の方や松姫の行く末は広く知られているところ。ただ、戦国の世に悲劇的な末路をたどったといわれるあの人も、数奇な運命だったといわれるあの人も、けっこうそれなりに幸せだったのかも。そんなふうに観る側にほのぼのとした想像力を引き出すところは、監督の手腕によるところだ。いつもに増して入魂の本作について、三谷監督はこんなふうに語っている。「今まで僕が作ってきた映画とは少し違うテイストになっているので、それをお客さんがどう判断されるのかはわからないですが、観れば楽しんでいただけるはず。時代劇の名作が数多くある中で、その歴史に加わることができるような作品になっていればいいなと思います」

作品データ

清須会議
公開 2013年11月9日公開
全国東宝系にてロードショー
制作年/制作国 2013年 日本
上映時間 2:18
配給 東宝
監督・原作・脚本 三谷幸喜
出演 役所広司
大泉 洋
小日向文世
佐藤浩市
妻夫木聡
浅野忠信
寺島 進
でんでん
松山ケンイチ
伊勢谷友介
鈴木京香
中谷美紀
剛力彩芽
坂東巳之助
阿南健治
市川しんぺー
染谷将太
篠井英介
戸田恵子
梶原 善
瀬戸カトリーヌ
近藤芳正
浅野和之
中村勘九郎
天海祐希
西田敏行
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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