ビフォア・ミッドナイト

リンクレイター監督×イーサン・ホーク×ジュリー・デルピー
2人の出会いから18年、現実と同じ歳月を経てドラマが展開
観客と親しい関係を築いてきた人気シリーズの3作目

  • 2013/12/24
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18年前、1995年の映画『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』から始まったリチャード・リンクレイター監督、主演はイーサン・ホークとジュリー・デルピーによるシリーズ3作目が完成。1作目ではアメリカ人の青年ジェシーとフランス人のセリーヌが旅行途中の学生同士として出会い、2作目の2004年の映画『ビフォア・サンセット』では実際の歳月と同じく9年後の再会を、そして本作では、それから9年後に家族として暮らす2人の今を描く。出会って恋をして、恋愛で揉めて、互いにパートナーとして暮らし、増えてゆく家族と友人、続いてゆく人生と生活のあれやこれや。シリーズの特徴である2人の会話劇により、今回は長年の連れ合いとなった大人の男女の本音が生々しくぶつかり合うストーリーである。

ギリシャの空港にて、名残を惜しみながらアメリカへ帰る息子ハンクを見送ったジェシーは、ギリシャの友人宅へと戻るため家族を待たせてあった車に乗り込む。あれから9年、小説家のジェシーと環境運動家のセリーヌには双子の娘たちが生まれ、一家はパリで暮らしている。今はギリシャの友人に招かれ、海辺のバカンスを楽しんでいる最中だ。後部座席では双子たちがぐっすりと眠り、運転席と助手席ではジェシーとセリーヌが互いに思うままつらつらと話をして、ジェシーの前妻との息子ハンクのこと、父親として何をしてやれるか、セリーヌが自身の仕事について話すうちに、ふとジェシーはシカゴへ引っ越すのはどうかと口走り、セリーヌが不満をぶつける。そしてギリシャの別荘で友人たちとフランクに語らう楽しい時間を過ごした翌日、ジェシーとセリーヌはひさしぶりに2人だけの時間をすごすことに。散歩をして海辺のレストランで夕日を眺め、さあベッドへ、というところで言い合いになり、激しい口論になってゆく。

ジュリー・デルピー、イーサン・ホーク

アメリカ男ジェシーとフランス女セリーヌのその後を描く人気シリーズの3作目。セリーヌとのウィーンでの一夜を小説として発表し、人気作家となったジェシーはパリの書店で9年ぶりにセリーヌと再会。学生だった2人は年を重ね、ジェシーはすでにアメリカで結婚、セリーヌはフランスで環境保護団体に勤務し、カメラマンの恋人がいた。アメリカとフランスという互いの異なる生活環境と、それぞれにパートナーがいる現状がありながらも惹かれ合い、悩んだ末によくよく話し合い、2人は決断。それから9年後の今――という流れだ。同じスタッフとキャストで製作され、ストーリーのなかでも現実と同じ歳月を経てゆく、ということが大きな特徴である本作。アイドル俳優さながらに初々しい美男美女だったホークとデルピーは、恋愛ドラマの似合う大人になり、そして生活感のたっぷり漂うちょっとくたびれた中年に、という展開で、9年ごとにその世代の人生ドラマを臆することなくみせてゆく。ホークもデルピーも今だって当然、体型やファッションを整えれば昔と変わらずに美しいままなのに、あえて一般的な40代夫婦の姿、としてそれらしい風貌をありのままの姿であるかのようにバーンとさらしているところがある種すがすがしい。

ジェシー役はホークが父親として男として惑う姿を。パリで新しい家族たちと幸せに暮らすジェシーは、気難しい元妻とともにアメリカで暮らす息子ハンクが気がかりなことから、いろいろと口走ってはセリーヌを怒らせてしまう。デルピーは双子たちの母親としてタフに、また環境活動家としての仕事をどう続けていくかを悩み、仕事と子育てを両立する現代の女性らしく。2人はベッドで行為の途中からケンカになり、セリーヌはトップレスでワンピースを腰にはだけたまま部屋を歩き回り、乳房をゆらして口論をし続ける……とパートナー相手に油断しまくりの女性の姿をサバサバと見せているところに、デルピーやるなあ、と妙に感心してしまった。 「簡単なゲームは男に勝たせておけばいいのよ」。ギリシャで若い世代から同世代、人生の先輩である老齢の方というメンバーでテーブルを囲み、おいしそうな料理とワインを楽しみながらフランクに話す気持ちのいいシーンにて、セリーヌが語る。“男は精神的マッチョだから、付け入るスキをわざと与えているの、わかる?”という恋愛大国フランスの女性の賢(さか)しさ、今だから話すとね、という話しぶりもなかなか。そして猫撫で声で、「アナタって頭がいいのね……アタシ疲れちゃうと自分の名前も書けなくなるのぉ……」と。若いころのデルピーというと、白く透けるふわふわの柔らかそうな肌にポテッとした唇と丸くうるんだ瞳、ちょっとロリータ風味でまるでスキだらけ、砂糖菓子のように極甘の“おいしそうな”女の子だったわけで、こうした台詞もどこか感慨深い。そして中盤からはジェリーとセリーヌ2人の会話劇となり、丁々発止が延々と展開。夫婦のリアルな日常をのぞき見る、という感覚だ。

イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー

14分におよぶ冒頭の車内の長回しのシーンのように、長い1カットでたっぷり見せることでも知られている本作。散歩のシーンやホテルでの口論のシーンも見ごたえはなかなかだ。とはいえ、人んちの夫婦生活の日常が楽しいかどうかというと、正直、いやそれほどは……というところもなきにしもあらず。わかりやすいドラマやサスペンス、非日常がある内容ではなく、ベタベタの現実をなんで映画でまで、とか、若い世代にとっては中年夫婦のいざこざなど「夢がない、生々しすぎる」という向きもあるかもしれない。なんというか、この作品は単体でどうこうというより、同じメンバーでずっと続けている、という継続に意義があって。体と心、意識の変化、美しいときから成熟して老いていく、その記録、人が向かっていくところ。スタッフとキャストがライフワークとして淡々と撮り続けていること、ひとつの方法、ひとつの取り組み方として、ある男女の物語に長い時間をかけて向き合っているところが、企画としてとても興味深いのだ。

ジュリー・デルピー

1作目ではリンクレイター監督が半自伝的な脚本を執筆し、2作目と3作目は監督、ホーク、デルピーが3人で脚本から共同で手がけたとのこと。最初からそういうプランだったわけではなく、それぞれがお互いにこの物語のその後について考えていて、別の理由で会った時に話にのぼり、自然発生的に進めていく、という形だったそう。脚本は、俳優たちが自分のキャラクターについてのみ決めるということではなく、3人で物語について話し合いを重ねて概要が決まり、ホークが設定を送ると、デルピーは人の心情を綴った文章を送り……というふうに練られていくそうだ。台詞が即興のように感じられる部分も、「耳から血が吹き出しそうになるまで(ホーク)」リハーサルを何度も繰り返した上でのことで、俳優たちはリンクレイター監督による妥協のない演出のもと、全編にさりげない雰囲気を醸すことに熱心に心をくだいているとも。ここまでくるとまた9年後にシリーズ4作目が期待されるところながら、次回作の可能性については3人とも明言を避けている。デルピーとホークは率直に、製作から撮影、完成までのすべてがあまりにも大変であることから、また9年後、とすぐには考えられない、と語っている。主演の2人と同世代で、3作品すべてを公開時に観てきているわたしのような人間のみならず、内容の特性から、登場人物に親しみをもち身近に感じている人も多いという本作。続編については、9年後にやるもよし、これで終わるもよし。個人的には36年後くらいに老齢となった2人の関係と主張がちょっと観たいような。さて、この先はありやなしや、果たしていかに。

作品データ

ビフォア・ミッドナイト
公開 2014年1月18日公開
Bunkamuraル・シネマほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2013年 アメリカ
上映時間 1:48
配給 アルバトロス・フィルム
原題 Before Midnight
監督・脚本 リチャード・リンクレイター
出演・脚本 イーサン・ホーク
ジュリー・デルピー
出演 シーマス・デイヴィー=フィッツパトリック
ジェニファー・プライアー
シャーロット・プライアー
ゼニア・カロゲロプーロ
ウォルター・ラサリー
アリアン・ラベド
ヤニス・パパドプーロス
アティーナ・レイチェル・トサンガリ
パノス・コロニス
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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