173年前のアメリカで誘拐され奴隷となった自由黒人の実話
希望をもち続け、自由を取り戻した男の過酷な道のりをたどる
気鋭の監督スティーヴ・マックィーンによる重厚な人間ドラマ
南北戦争以前、ニューヨークに暮らす“自由黒人”が誘拐され、アメリカ南部で奴隷として売買され、過酷な労働を強いられた11年8カ月と26日間――。1853年に出版されベストセラーとなった、アフリカ系アメリカ人ソロモン・ノーサップの回想録『Twelve Years a Slave』を映画化。出演は映画『2012』のキウェテル・イジョフォー、『悪の法則』のマイケル・ファスベンダー、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』のベネディクト・カンバーバッチ、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のポール・ダノ、そして本作の製作を手がけるブラッド・ピットほか。監督・製作は彫刻家・写真家として知られ、2008年の長編初監督作『Hunger』、’11年の『SHAME −シェイム−』でも話題となったスティーヴ・マックィーン。奴隷制で人は人をどのように扱っていたのか、誘拐された男は絶望的な状況にあっても、どのように希望をもち続け、自由を取り戻したのか。実話をもとに、ひとりの男の数奇な運命と過酷な顛末を描く、重厚な人間ドラマである。
1841年、アメリカのニューヨーク州サラトガ。生まれた時から自由証明書で認められた“自由黒人”のソロモンはヴァイオリニストとして活動し、愛する妻と2人の幼い子どもたちとともに幸せに暮らしている。ある日、知人の紹介で、ワシントンに出向いて演奏する依頼を受ける。契約の2週間を終え、興行主と祝杯をあげていつになく酔いつぶれた翌朝にソロモンが目覚めると、見知らぬ小屋に鎖でつながれていた。見張りの男たちに自由黒人だと言っても耳を貸さず、「おまえは南部から逃げてきた奴隷だ」と言われ、ソロモンは何度も激しく鞭で打たれる。そしてニューオーリンズの奴隷市場に船で運ばれ、奴隷商人は男も女も全員裸で並ばせて、小さな子どもまで「将来は立派な家畜になりますよ」と買い手に売り込む。そこでソロモンは、大農園主のフォードに買われていく。
本年度の第86回アカデミー賞にて作品賞をはじめ9部門にノミネートされ、第71回ゴールデン・グローブ賞にて作品賞(ドラマ部門)を受賞した本作。名前も身分も奪われ、“家畜”とさげすまれ、逆らえば首を木にくくられたまま長時間放置され、焼けつく太陽にさらされて毎日綿を摘み、収穫量が少ないと鞭で打たれる……約170年前のアメリカの奴隷制度で人が人にしていた事実。情報として知ってはいても、こうして映像と物語でまざまざと再現されると、いいようのない思いがこみあげてくる。何度も何度も絶望に打ちひしがれながらもソロモンは希望を捨てず、遂に……という事実は大きな救いであるものの、ソロモンのとらわれたいばらの道はあまりにも暗く深く、ひどく険しい。
なぜ自由黒人だったソロモンが誘拐され、奴隷として売買されたのか。アメリカで1865年まで続いた奴隷制度により、アフリカ大陸からアメリカ大陸へ渡ってきた約1100万人のアフリカ人のうち約40万人がアメリカ合衆国に連行され、彼らの子孫は約400万人にまで増加。が、1808年に海外からの黒人輸入が禁止されたことから奴隷市場の価格が高騰し、自由黒人を誘拐して売り飛ばすという犯罪が増加したのだそう。当時は奴隷の物語がたくさん出版されたものの、自由黒人でありながら誘拐され奴隷となった経験を執筆したのはソロモン1人であり、大きな反響を呼んだそうだ。
ひたすらに機を待って耐え続けるソロモン役は、イジョフォーが賢く誇り高く。時には怒りに我を忘れ、時には悲しみや苦しみ、みじめさに押しつぶされそうになりながらも、同じ奴隷の立場にある仲間を気にかけ、静かに自由を取り戻す時をうかがい続ける、強靭な精神力の表現にひきこまれる。最初にソロモンを所有する大農園主のフォード役はカンバーバッチが、聖書を説きながら奴隷制度を利用する矛盾を演じ、極端な人種差別主義者である農園主エップス役はファスベンダーが、奴隷たちを虐げる残忍なシーンの数々を怪演。冷淡に価格交渉をする奴隷商人役はポール・ジアマッティが、有能なソロモンをねたむフォード農園の監督ティビッツ役はダノが、エップスに性的に執着され虐待される奴隷の少女パッツィー役はオーディションで1000人以上の応募者から監督に見出され、本作で長編映画デビューとなるルピタ・ニョンゴ、ショー夫人役はオバマ大統領の代理人をつとめたこともある女優であり活動家のアルフレ・ウッダードが演じている。また本作で製作を手がけるブラッド・ピットはカナダ人の奴隷解放論者バスを演じ、短い出演ながら重要なメッセージを印象的によく伝えている。
本作の監督・製作を手がけたグレナダ系のイギリス人スティーヴ・マックィーンはもともと彫刻家や写真家として活動し、イギリスの美術賞ターナー賞を受賞。彼のアート作品はテート美術館、MoMA、ポンピドゥ・センターなど世界中の美術館に所蔵され、’02年に大英帝国勲章4位、’11年には3位を授与された、現在44歳の人物だ。長編映画監督デビューは、IRA活動家のボビー・サンズの実話をもとに脚本も手がけた’08年の『Hunger』、長編第2作はセックス依存症の男の孤独と葛藤を描いた’11年の『SHAME−シェイムー』。ブラッド・ピットは彼の長編映画監督デビュー作『Hunger』を観て、ぜひ彼の作品をプロデュースしたいとオファーしたそうで、マックィーンはピットの尽力について、「ブラッドが参加しなかったら、この映画は製作されなかったと思う」とコメント。また、「彼はプロデューサーとして、全力で僕たちを支援してくれたし、俳優としては、数分登場しただけで誰よりも多くのことを伝えることができるから、本作ではソロモンにとって重要な役を演じてもらった。ブラッドとプランBプロダクションズにはとても感謝している」と語っている(「プランBエンターテインメント」はピットが’02年に設立した映画制作会社であり、本作を製作した)。
物語の大部分は苦悩に満ち、精神的にも肉体的にもやりきれない重圧がずしりと響く本作。マックィーンはこの原作に出会う前から、自由と隷属の両方を経験した男の視点から、アメリカの奴隷制度を描きたいと考えていたものの、ソロモン・ノーサップの回想録『Twelve Years a Slave』という「人間が驚くほど非人間的な扱いを受けた」信じがたいほどの実話があると知り、驚愕したとも。この映画のテーマについてマックィーンは語る。「観客はソロモンに感情移入し、自分に彼のような勇気と尊厳があるだろうかと考える。物語のテーマは、愛する家族のもとへ帰るという希望だ。希望は過酷さに勝つんだよ」
公開 | 2014年3月7日公開 TOHOシネマズみゆき座ほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2013年 アメリカ・イギリス |
上映時間 | 2:14 |
配給 | ギャガ |
原題 | 12 Years a Slave |
監督・製作 | スティーヴ・マックィーン |
脚本・製作総指揮 | ジョン・リドリー |
製作 | ブラッド・ピット |
出演 | キウェテル・イジョフォー マイケル・ファスベンダー ベネディクト・カンバーバッチ ポール・ダノ ポール・ジアマッティ ルピタ・ニョンゴ ブラッド・ピット アルフレ・ウッダード |
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