コンピュータが人類の能力を超越したスーパーAIに?
近い未来に起こり得る出来事、夫婦の愛と絆を描き、
生命と科学、情報社会への倫理を投げかけるSF作品
優れた科学者の脳がスーパーコンピュータにアップロードされたら、いったい何が起こるのか? 2045年ごろには起こるだろうという予測もなされている、人類の能力をコンピュータが超越する“シンギュラリティ”をテーマに描くSF作品。出演はハリウッドで実力・人気ともに認められているジョニー・デップ、オスカー俳優のモーガン・フリーマン、’08年の映画『それでも恋するバルセロナ』のレベッカ・ホール、’06年の映画『ダ・ヴィンチ・コード』のイギリス人俳優ポール・ベタニー、映画『ダークナイト』シリーズのキリアン・マーフィほか。製作総指揮は映画『ダークナイト』『インセプション』のクリストファー・ノーラン、そして2000年の映画『メメント』以来、ほぼすべてのノーラン監督作品で撮影監督を手がけ、『インセプション』でアカデミー賞撮影賞を受賞したウォーリー・フィスターが本作で監督デビューを果たす。人工知能を開発・研究する科学者のウィルは、反テクノロジーの過激組織に銃撃され、死の宣告を受ける。夫ウィルとともに人工知能を研究してきた妻エヴリンは、ウィルの死の間際にその頭脳をスーパーコンピュータへとインストールするが……。近い未来に起こり得ると予測される出来事、夫婦の愛と絆を描き、生命と科学、情報社会への倫理を投げかけるSF作品である。
科学者のウィルは妻エヴリンとともに、人工知能“PINN”に意志をもたせるべく開発・研究を続けている。ある日ウィルは、講演会のあとに反テクノロジーの過激組織“R.I.F.T.”に銃撃され、医師から死の宣告をされる。夫を失いたくない、という思いから追い詰められたエヴリンは、夫妻の友人である神経生物学者マックスの協力を得て、ウィルの死の間際にその頭脳を電極移植でスーパーコンピュータにインストールする。試行錯誤の末に人工知能“PINN”にウィルの頭脳が蘇るも、マックスは本当に元のウィルなのかどうかと疑惑をもつが、エヴリンはAIとして蘇ったウィルに夢中になる。そしてエヴリンはウィルの頭脳を宿した人工知能“PINN”とともに失踪し、2年の月日が流れた。
電極移植・脳波の解析・人工知能のプログラミングによって人間の頭脳をAIにインストールすること、人類の能力をコンピュータが超越する“シンギュラリティ”についてなど、最新の研究や実際に活発に議論されている内容に基づいた前半は面白く見ごたえがある本作。そのぶん、物語が進んでゆく後半〜結末の部分、何をどのように伝えていくかというところがある種あやふやなところが残念に感じられる。壮大なテーマであり、約30年後にはフィクションではなく事実となるかもしれない内容であるということは、サイエンス・フィクションとして描くにはかなりハードルが高いテーマであるということ。そこに挑戦したこと自体に価値があると言えるのかもしれない。本作のストーリーは、脚本家ジャック・パグレンとコンピュータ科学者である妻との何気ない会話から始まったとのこと。本作の脚本は、ハリウッドの業界人が選ぶ映画化未着手の要チェック脚本リスト、通称“ブラックリスト”にも選ばれていたそうだ。
心優しい愛妻家の科学者であり、肉体が死んで、人工知能“PINN”を介した意識だけの存在となるウィル役は、デップが不気味な静けさで表現。意識だけのAIとなっても不自然なほど人間らしいという、不協和音のような、そこはかとない違和感を漂わせている。妻エヴリン役はホールが、愛する夫を失いたくないという思いにとらわれながらも、究極的な進化を遂げるAIと世界の先行きとのはざまで苦悩するさまを演じている。AI研究の先駆者で夫妻とマックスの恩師であり、現在はFBIとともにサイバー・ディフェンスの分野で活動するジョセフ役はフリーマンが思いやりをもって、夫妻の友人で神経生物学者のマックス役はベタニーが友情を尊重しながらもAIの暴走を危惧する誠実な男として、サイバー・ディフェンスの捜査を行うFBIのブキャナン捜査官役はマーフィが冷静沈着に、反テクノロジーの過激派組織“R.I.F.T.”の女性リーダー、ブリー役はケイト・マーラが決断し行動する強靭さを、それぞれに表現している。
最終的なある結末について、受けとめ方はひとそれぞれと思いつつ、個人的にはやや違和感をおぼえた。映画のメッセージ性が、市井のいち観客としてわかりにくかったものの、プレスシートにあった山口高平氏(人口知能学会会長、慶応義塾大学理工学部教授)のコメントに、得心がいった。「テロ集団R.I.F.T.がAIを邪悪と考えAI研究者を攻撃するシーンは恐怖を感じましたが、研究者はより倫理観をもって研究を進めよということを示唆しているのでしょう」
トランセンデンスの『トランセンデンス』は「超越」の意。人類の能力をコンピュータが超越する“シンギュラリティ”について、アメリカの発明家で実業家のレイ・カーツワイル氏は2045年ごろまでに実現可能と発言しているそう。グーグルの創業者ラリー・ペイジ氏はカーツワイル氏を熱心に支持しているそうで、人工知能分野への巨額の投資を行い、カーツワイル氏は’13年にグーグルで人工知能の研究チームの責任者に就任したとも。本作には技術顧問として、カリフォルニア大学バークレー校の電気工学と神経科学の教授ホセ・カメルナ博士、同校の電気工学の教授マイケル・マハルビッツ博士、カリフォルニア工科大学のもと研究者でシアトルにあるアレン脳科学研究所の最高科学責任者のクリストフ・コッホ博士などが参加。カメルナ博士は「この映画の前提は、ブレイン・マシン・インターフェイス(脳介機装置)の開発に対する刺激的かつ先見の明のあるものだ」と語り、マイケル・マハルビッツ博士は「明らかにこれはSF映画だが、根底にあるものは、特に映画の前半ではリアルタイムなリサーチに基づいている」とコメントしている。
物語のメッセージ性より、生命と科学、情報社会の現状、こうしたことが約30年後には起きるかもしれない、という設定と展開が興味深い本作。この映画にはこうした内容についてわかりやすく広く伝えるという、ユニークな意義があるのかもしれない。最後にデップの本作についてのコメントをどうぞ。「21世紀に入って、人間がテクノロジーを崇拝する姿と、それが人間の未来にもたらす意味を検証するのは重要なことだと思う。テクノロジーか生態系か、平和主義者か過激主義者か。今ここで自分たちのコンピュータ依存をどこまで許すべきかという問いかけが必要なのだと思う」
公開 | 2014年6月28日公開 丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2014年 アメリカ |
上映時間 | 1:59 |
配給 | ポニーキャニオン/松竹 |
原題 | TRANSCENDENCE |
監督 | ウォーリー・フィスター |
脚本 | ジャック・パグレン |
製作総指揮 | クリストファー・ノーランほか |
出演 | ジョニー・デップ モーガン・フリーマン ポール・ベタニー レベッカ・ホール キリアン・マーフィ ケイト・マーラ |
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