プロミスト・ランド

脚本・主演マット・デイモン×ガス・ヴァン・サント監督が再タッグ
“シェール革命”と沸く現代アメリカの社会問題を背景に、
人としてどう生きるかを静かに投げかける人間ドラマ

  • 2014/08/15
  • イベント
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1997年の映画『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』でアカデミー賞脚本賞受賞などの2部門を受賞した、マット・デイモンとガス・ヴァン・サント監督が再びタッグを組んだ作品。出演はデイモン、本作の共同脚本と製作を手がけるジョン・クラシンスキー、映画『ファーゴ』のオスカー女優フランシス・マクドーマンド、映画『イントゥ・ザ・ワイルド』のベテラン、ハル・ホルブルック、映画『レイチェルの結婚』のローズマリー・デウィットほか。アメリカの架空の田舎町マッキンリーを舞台に、地中深くから採掘する新しいエネルギー"シェールガス"をめぐり、採掘権を安く買い占めたい企業と、収入を見込む住民たち、自然と住環境を守るべく反対する住民たちとの間での顛末を描く。“シェール革命”と謳われ、世界経済の仕組みやパワーバランスを変えると期待をされながらも、今は厳しい見方が強まってきている、現代アメリカのエネルギー事情。この社会問題をテーマにしながら、組織の中で中堅となった男が仕事とどう向き合うか、恋愛も含め、人としてどう生きていこうとするのかをたどる。良し悪しは定めず、観る側に静かに投げかけてくる人間ドラマである。

大手エネルギー会社の幹部候補であるスティーヴは、仕事のパートナーであるスーとともに、見渡す限り農場ばかりの田舎町マッキンリーにやってくる。この土地には良質なシェールガスが埋蔵されており、近年の不況に苦しむ農場主たちから、相場よりも安く採掘権を買い占めることが目的だ。町の財政が立て直せる、と多くの住民たちからスティーヴらは歓迎されるも、老齢の科学教師フランクと環境活動家の青年ダスティンは強固に反対。シェールガス採掘の賛否は住民投票で決められることになる。自分なりの信念をもって仕事をしてきたスティーヴだったが……。
 アメリカの“シェール革命”の側面にある社会問題を、人間ドラマとしてわかりやすく描く。 アメリカにおけるシェールガス採掘の現状がある程度わかっていることが前提で描かれているものの、そこを知らなくても、デイモン演じる主人公スティーヴの心情を通じて、出世か信念か、どの場所でどのように生きていくか、そして恋愛など、経験を積んできた大人の惑いと選択が共感を誘うストーリーになっている。

マット・デイモン

エネルギー会社勤務のエリートであるスティーヴ役はデイモンが自然体で。それなりに野心をもって着々と出世をしながら、これまでの自分をゆるがす出来事に向き合う姿を丁寧に演じている。脚本を執筆したデイモンは本作について、「身近にいそうなキャラクターが登場する誰でも共感できるストーリーだ」と語っている。環境活動家のダスティン役は、クラシンスキーが熱意ある青年として表現。デイモンとクラシンスキー、ヴァン・サント監督の3人は撮影現場でもいい関係を築いていたそうで、アリス役のデウィットは、「マットとジョンは、ガスと一心同体だったわ。アイデアを出し合い、シナリオを練り直している3人の姿を、撮影の合間によく見かけたの」とコメントしている。スティーヴの同僚であるスー役はマクドーマンドがタフなワーキングマザーとして、都市から故郷へ戻りマッキンリーで暮らしている小学校の教師アリス役は、デウィットが穏やかに、環境破壊を案じてガスの採掘を反対する老齢の高校教師フランク役はホルブルックが堂々と演じている。ヴァン・サント監督はリアリティを大切にし、オーディションで地元の住民たち約500名をエキストラとして採用したそうだ。

そもそもはクラシンスキーが、小説家で脚本家のデイヴ・エッガースのもとに原案を持ち込み、ストーリー作りを開始したとのこと。デイモンは映画『アジャストメント』で共演したエミリー・ブラントの夫であることが縁でクラシンスキーと知り合い、ディナーで意気投合し、クラシンスキーの執筆している脚本に興味をもったそうだ。それからすぐに脚本を共同で執筆するようになり、約9か月の間、西海岸の自宅に近い場所で毎週末に会い、家族ぐるみの付き合いのなかで執筆を進めていったそうだ。デイモンはこの時のことについて、楽しそうに語っている。「ジョンは非常に頭の回転が速い。だから執筆作業はどんどん進み、僕たちは一緒によく笑った。ベン・アフレックとの共同作業を思い起こさせたよ。あの時とすごく似た感覚で、何より楽しかったね。あんなに楽しいものだということを、長い間忘れていたよ」。最初はデイモンが自ら監督を手がける予定だったものの、スケジュールの関係でそれが難しくなり、ヴァン・サント監督にデイモンが脚本を送付してオファーしたところ、すぐに「監督をしたい」と返事がきたそうだ。当初の脚本では風力エネルギーをテーマにしていたものの、ニューヨーク州北部を舞台として考えてリサーチをし、題材をシェールガスの採掘に変更したそうだ。クラシンスキーはこの作品のテーマについて語る。「これは現在、アメリカの多くのコミュニティを分断している複雑な問題なんだよ。シェールガスの採掘というのは、現代アメリカのアイデンティティを問うストーリーの背景としてふさわしい問題だった。これは、得るものも失うものも、両方がとてつもなく大きい賭けだからね」

ローズマリー・デウィット,マット・デイモン

シェールガスとは? 貯留岩層と呼ばれる地表近くの地層にある在来型の天然ガスではない、地中深くにある頁岩(けつがん。シェール)に含まれている天然ガスのこと。地下数千メートルの場所にあり、以前は採掘が不可能と言われていたものの、アメリカの中小企業による技術革新によって、採掘されるように。その頃には石油に代わる新たなエネルギー“シェール革命”により、世界経済の図式や国際関係のパワーバランスが変わるとまで言われ、大手企業が資本を投じて参入したものの、現在は産出量の維持が難しいこと、採掘や輸送などの生産コストがかかりすぎること、採掘時や利用時における環境問題、一時の大幅な供給過剰による価格の急落が問題に。シェールガス事業に参入した企業が大きな赤字を抱えていると報道がなされている。この映画の製作年である2012年ごろは“シェール革命万歳”の時期で、2014年の現在はシェールガスの問題点が世界に広く知られるようになってきていて。この作品がようやく日本で公開されることに、社会的な背景を感じるところだ。余談ながら、シェールガス事業については、「東洋経済オンライン」などの経済系のサイトで詳しく紹介されている。シェールガスとアメリカ経済などの背景をよりよく知ってから映画を観るのもおすすめだ。

マット・デイモン,ジョン・クラシンスキー

デイモンとクラシンスキーによる本作の脚本では、シェールガスの採掘について賛否両方の立場から描き、問題点が率直に示されている。が、そのことについての是非はあえて示さず、中立の立場としている。クラシンスキーは語る。「映画を観てくれた観客が、自分なりの決断を下せばいい。僕たちの目的は、映画のキャラクターが真剣に悩みながらも自分なりの決断を下していく姿を、笑いと感動を織り交ぜながら描き出しだしていくことだからね」。アリス役を演じたデウィットは脚本について、「俳優なら誰でもこんな脚本に出会いたいと思っているわ。美しい物語が巧みに綴られているの。それに大切なテーマがある。でも深刻な問題提起の映画というわけではないのよ」とコメントしている。現代アメリカの社会問題を背景に、丁寧な人間ドラマで惹きつける物語。デイモンは本作について、こんなふうに語っている。「この映画は、何らかの答えを引き出そうとしているわけではない。とはいえ、きっと希望のもてる答えがあると僕は信じているけれどね」

作品データ

プロミスト・ランド
公開 2014年8月22日公開
TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2012年 アメリカ
上映時間 1:46
配給 キノフィルムズ
原題 PROMISED LAND
監督・製作総指揮 ガス・ヴァン・サント
脚本・製作 ジョン・クラシンスキー
マット・デイモン
原作 デイヴ・エッガース
出演 マット・デイモン
ジョン・クラシンスキー
フランシス・マクドーマンド
ローズマリー・デウィット
ハル・ホルブルック
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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