舞妓はレディ

「舞妓になりたい!」 少女が京都の花街へやってきた!
言語学の教授は「彼女を一人前の舞妓にする」と賭けをして……
皆々様で歌い踊る、ミュージカル仕立てのハッピーな物語

  • 2014/09/19
  • イベント
  • シネマ
舞妓はレディ©2014 フジテレビジョン 東宝 関西テレビ放送 電通 京都新聞 KBS京都 アルタミラピクチャーズ

2007年の映画『それでもボクはやってない』、’12年の『終の信託』と、社会派作品が続いていた周防正行監督が、1996年の『Shall we ダンス?』以来18年ぶりに手がけたエンターテインメント作品。出演はオーディションで800人の中から選出された16歳の上白石萌音、さまざまな映画やドラマで活躍する長谷川博己、富司純子、田畑智子、嶋政宏、濱田岳、岸部一徳、妻夫木聡、そして周防監督作品の常連である草刈民代、渡辺えり、竹中直人、小日向文世、中村久美らが顔をそろえる。 ある日、小さくとも歴史のある花街(かがい)・下八軒(しもはちけん)に、コテコテの方言を話す少女が「舞妓になりたい」とやってくる。京都の花街を舞台に、舞妓さんや芸妓さん、おねえさんにおかあさん、おにいさんにおとうさん、皆々様で歌い踊る、ミュージカル仕立ての明るくハッピーな物語である。

京都の花街、下八軒には悩みがあった。舞妓がたった1人しかいないのだ。舞妓は通常5〜6年で芸妓となるのに、下八軒の舞妓・百春はもう10年の間そのまんま。「30歳の舞妓なんて」と百春が嘆くなか、「舞妓になりたい」という少女・春子が、百春と芸妓の豆春と里春らが暮らす下八軒の老舗のお茶屋・万寿楽(ばんすらく)にやってくる。新しい舞妓が欲しくとも、鹿児島弁と津軽弁がミックスのコテコテの方言を話し、誰の紹介もない、見ず知らずの春子を引き取るわけにはいかず、万寿楽の女将・千春は春子を追い返そうとする。が、たまたま居合わせた、言語学者の京野が春子に興味を抱き、「この訛りでは舞妓は無理だ」という、万寿楽の客で老舗呉服屋の社長・北野に対し、「春子を一人前の舞妓にしたら、京野のお茶屋遊びの面倒をすべて北野がみる」という約束を取り付ける。そして春子は万寿楽の仕込み(見習い)になり、唄や舞踊の稽古、花街のしきたりなどを学び始めるが……。

上白石萌音,長谷川博己

明るいフレーズが耳に残るテーマ曲「舞妓はレディ」をはじめ、オリジナルの歌曲の数々で彩るエンターテインメント作品。そもそもは20年程前、と周防監督は語る。「映画『シコふんじゃった。』(1991年)の次回作として、今度は女の子たちの話が撮れないものかと考えていた。そこでたまたま目にしたニュースが、舞妓さんのなり手がおらず、京都のお茶屋さんが困っているというものだった」。
 最初は’89年の周防監督作品『ファンシイダンス』のように、日本の伝統文化をリアルに表現しようと考えていたものの、京都で取材を進めていくうちに、こんなふうに思ったそうだ。「そもそもリアルなお茶屋遊びってなんだろうと。実はお茶屋遊びは、お客さんの数だけあるのです」。そして今回の作品をミュージカル仕立てにしたことについて、2014年9月6日に東京・新宿で行われた公開直前イベントにて、周防監督はこのように語っていた。「僕の映画はリアリズムで描くんですが、お茶屋さんを取材したところ『あの世界はそう簡単に分かることじゃないな。きっと遊び尽くさない限りそんなものは描けないだろう』と思いました。そして、お茶屋さんに行っていて楽しいことがいっぱいあったんです。その楽しいことを映画にすればいいんじゃないかと思いました。僕にとっての京都や芸妓さん、舞妓さんの世界はファンタジーだったんですね。その楽しさを皆さんに伝えるのに歌と踊りはうってつけではないか。まさにお座敷遊びには唄と踊りがつきものなので、ミュージカルという手法を使って京都を明るく楽しく描こうと思いました」。

舞妓になるべくお稽古と京言葉の練習にはげむ春子役は上白石萌音が好演。監督がオーディションで、「素直で素朴な雰囲気、まっすぐ心に届く心地好い歌声に魅せられた」という彼女はオーディションの時点で14歳、今は16歳の高校生。本作の企画の段階では、まだ彼女が生まれていなかったことから、監督は「実現まで20年もかかったのは、主役の少女を待つためだったのではないか」とコメントしている。
 春子に京言葉の指導をする言語学者の「センセ」こと京野役は長谷川博己が熱心に、春子を預かる万寿楽の女将、千春役は富司純子がきびしくもいたわりの心をもって、春子の先輩である万寿楽の芸妓、里春役は草刈民代が堂々と、古参の芸妓の豆春役は渡辺えりが盛り上げ役で、京野と賭けをする老舗呉服屋の社長・北野役は岸部一徳が飄々と、里春に夢中の常連客、高井役は嶋政宏が情熱的かつコミカルに、里春と秘密の恋仲である歌舞伎役者の市川勘八郎役は小日向文世が遊び慣れた風に演じている。さらに京野先生の助手、西野役に濱田岳、舞妓や芸妓の面倒をみる男衆(おとこし)の青木役に竹中直人、踊りの師匠役に中村久美、千春がむかし憧れた映画スター役に妻夫木聡、舞妓時代の千春役に大原櫻子、アルバイトの舞妓として松井珠理奈(SKE48)と武藤十夢(AKB48)らが出演している。ちなみに下八軒で唯一の舞妓、百春役を演じた田畑智子は、実家が祇園の料亭で、母親がもと舞妓だったそうだ。

富司純子,上白石萌音

言語学の教授がお偉いさんと賭けをして……というくだり、訛りのひどい素朴な少女がレディへと成長していくさまに、オードリー・ヘプバーン主演の1964年の映画『マイ・フェア・レディ』を彷彿とさせる本作(『舞妓はレディ』と舞妓はレディの音読みも似ている)。劇中のミュージカル・シーンの中でも、千春が舞妓時代の思い出、映画スターとの淡い恋を語る曲「Moonlight」のシーンは特に魅力的だ。周防監督はこのシーンについて、「僕が20年来、温めてきたシーンです。京都のお茶屋で生きてきたある女性の思い出話を元にしています」とコメント。「往年のハリウッドのミュージカルへのオマージュもあって、洒落たシーンにしたかった」とも。役者たちの歌と表現力、サウンド、振り付け、美術セットが相まって、クラシカルで上品な風合いと、ポップでドリーミーな雰囲気が素敵な仕上がりとなっている。エンディングでは「舞妓はレディ」の曲にのせて、盛大なパレードのようになり、屋根の上では本編中では絡みのなかった竹中・渡辺ペアが『Shall we ダンス?』以来ひさしぶりにダンスを披露。竹中直人は『Shall we ダンス?』の時に着用したカツラをつけて、渡辺えりは当時と似ているドレスで、という演出も効いている。作詞は京都出身のシンガーソングライター種ともこが周防監督と共同で、作曲は映画音楽を数多く担当し、周防監督の従兄弟である周防義和が手がけている。

舞妓はレディ

各メイン・キャラクターに1曲ずつ持ち歌があり、俳優たちそれぞれの見せ場が楽しめる本作。周防監督は語る。「役者が上手に歌うのではなく、たとえばウディ・アレン監督の『世界中がアイ・ラヴ・ユー』のように、その役柄や、役者自身の個性を活かした歌にしたかったんです」。さらに、「旨い歌を聞きたいのであれば、歌手の歌を聞けばいい。でも役者の歌にはそれぞれの個性、役柄がにじみでてくるので面白いんです。それは『Shall we ダンス?』で役者たちが見せてくれたダンスで思い知らされました。役者にしか出せない味わいがあるんですよ」とも。和装でダンスをするシーンがほとんどで、着物の裾をひらいてステップをふみ、振袖をぶんっと振って大きい動きをすることは、シニア世代の方々にはギョッと目をみはる面もあるとは思うものの、それもまたご愛嬌。日本時間の2014年7月7日、フランスのパリで開催された『Japan Expo』で本作のプレミア上映会、主演の上白石萌音によるステージ・パフォーマンスと舞台挨拶は大好評だったとのこと。和製ミュージカル仕立てのカラフルで“かいらしい”世界へ、いざ!

作品データ

舞妓はレディ
公開 2014年9月13日公開
全国東宝系にてロードショー
制作年/制作国 2014年 日本
上映時間 2:15
配給 東宝
監督・脚本 周防正行
音楽 周防義和
振付 パパイヤ鈴木
日本舞踊振付・指導 花柳達真
振付 パパイヤ鈴木
出演 上白石萌音
長谷川博己
富司純子
田畑智子
草刈民代
渡辺えり
竹中直人
嶋政宏
濱田岳
中村久美
岩本多代
高橋長英
草村礼子
岸部一徳
小日向文世
妻夫木聡
松井珠理奈(SKE48)
武藤十夢(AKB48)
大原櫻子
徳井優
田口浩正
彦摩呂
津川雅彦
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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