美女と野獣

1740年に執筆された“最初の物語”には野獣の秘話が――
人の美徳や悪徳、神や精霊の存在が絡み合い、
運命的なロマンスを描く、大人向けのファンタジー

  • 2014/10/24
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  • シネマ
美女と野獣©2014 ESKWAD - PATHE PRODUCTION - TF1 FILMS PRODUCTION ACHTE / NEUNTE / ZWOLFTE / ACHTZEHNTE BABELSBERG FILM GMBH - 120 FILMS

彼はなぜ野獣となったのか? 野獣に囚われたベルの家族とは? 18世紀にフランスで発表され、ディズニーをはじめ絵本、アニメーション、映画、ミュージカルなど繰り返し描かれてきた古典の名作を実写で映画化。出演は、2013年の映画『アデル、ブルーは熱い色』でカンヌ国際映画祭史上初、主演女優として最高賞のパルム・ドールを受賞したレア・セドゥ、『ブラック・スワン』ほかハリウッド作品でも活躍しているフランスの個性派俳優ヴァンサン・カッセルほか。監督・脚本は’01年の映画『ジェヴォーダンの獣』で知られるフランスの監督クリストフ・ガンズ。美しい娘ベルは、父がバラを盗んだ代償として、自ら野獣の城へと囚われるが……。
 恋人や家族とのつながり、信頼、愛、不信、驕り、裏切りなど、人の美徳や悪徳が絡み合い、これまでにあまり描かれていなかった原作のサイドストーリーとともにドラマティックに展開。誰もが知っている顛末ながら、クラシカルで美しい美術や衣装、ダークファンタジーの風味と活劇の要素が相まって、非日常の世界を楽しめる作品である。

ナポレオン一世の第一帝政時代、フランス。裕福だったある一家は船の事故により破産し、都会の邸宅から田舎の質素な家へと引っ越す。母亡き後、わがままに育った3人の兄と2人の姉は田舎暮らしを嫌がっているものの、働き者で思いやりのある末娘ベルは慣れない畑仕事や家事にも精をだし、家族水入らずの暮らしに満足していた。
 ある日、父は吹雪で道に迷い、森の奥の古城にたどり着く。そこにはまるで父をもてなすかのように豪華な食事や子どもたちが欲しがっていたドレスがあったため、父はそれらを贈り物としてありがたくいただくことに。そして古城の庭にあった薔薇を、末娘ベルのために手折る。すると突然、恐ろしい野獣が現れ、「一番大切なものを盗んだ」代償として、命を差し出すよう言い渡す。猶予は1日、戻らなければ家族を殺す、と。
 お土産に1本の薔薇を、と父に頼んだ自分のせいだと知ったベルはショックを受け、意を決して父のかわりに野獣の城へと赴く。

レア・セドゥ,ヴァンサン・カッセル

『美女と野獣』というと、ディズニーのアニメーション版のテーマ曲として大ヒットしたセリーヌ・ディオン&ピーボ・ブライソンのデュエット曲を思い出す人も多いのでは。そもそも原作がディズニーと勘違いされている場合も少なくないとか。これまでの『美女と野獣』の多くは、フランスのヴィルヌーヴ夫人が1756年に文庫で発表した30ページ弱の短縮版『美女と野獣』をもとにしているとのこと。もともとは、同夫人が1740年に執筆した数百ページもの物語が最初の『美女と野獣』と言われ、本作はこの作品をもとに映画化したそうだ。
 ガンズ監督は「フランス文化のDNAの一部とも言える“おとぎ話”の映画化を手がけたい」と熱望し、最初の物語を読み込むうちに、これまで描かれてきた『美女と野獣』には、ベルの父や兄弟姉妹たちの性格、そして王子が呪いをかけられた理由についてほとんど触れられていない、と気づいたとのこと。監督は語る。「ヴィルヌーヴ夫人による原作は、ギリシャ神話やローマ神話、特に古代ローマの詩人オウィディウスによる『Metamorphoses(変身物語)』からヒントを得ている。僕は、このヴィルヌーヴ夫人版をベースにし、偉大な神々の要素を物語に反映させながら、人間と自然の力とのつながりを描きたいと思った。現代では、日本の精霊信仰をルーツとする宮崎駿監督の作品に、これと似たテーマが見られるね」

野獣の城へ赴く娘ベル役はセドゥが、愛らしくもきっぱりと美しく。好奇心いっぱいに古城をひとりで探検したり、謎の小さな生き物たちをからかったり、という少女のかわいらしさと、レディとして誇り高く振る舞い、野獣をひとりの男性として意識し女性としての慈悲深さと強さに目覚めてゆく面とのギャップが魅力的だ。野獣役はカッセルが、荒々しい怒りと深い孤独、内面に複雑な感情を抱える異形の者を表現。ベルの夢で野獣の過去が明かされてゆき、2人の間に流れる空気が徐々に変わってくるくだりはロマンティックだ。ベルの父親役はフランスのベテラン俳優アンドレ・デュソリエが、子どもを思いつつ、ずるさや弱さのあるいち父親として人間臭く演じている。古城がまだ壮麗だった頃、16世紀ごろのプリンセス役は、ドイツで歌手として活躍しているイボンヌ・カッターフェルトが生き生きとエレガントに表現している。

余談ながら、フランスの映画でよく感じることは、恋愛への比重が重く、「それくらい当たり前でしょ」というポテンシャルの高さ。たとえば純真そうなヒロインでもわりと濃厚なベッドシーンがあったり(この作品にはありません)、相手役に艶っぽい視線や挑戦的な台詞をさらりと投げかけたり、恋愛を女性優位に進める流れが明確で、ある種の清々しさがある。本作では、ベルが野獣と初めて対面する場面をはじめ、恐ろしい野獣が華奢な女性にどこか気圧される、というシーンがたびたびあり、ベルが自分の意思を臆さずに相手にはっきりと伝える率直さを備えているところは観ていて胸がすく。

ヴァンサン・カッセル

本作の監督・脚本を手がけたクリストフ・ガンズは、権威あるパリの映画学校IDHECで学び、’80年代初期に映画雑誌を創刊し、批評家としても活動していた人物。1993年のオムニバス映画『ネクロノミカン』の一話で劇場映画監督デビュー。日本のコミックを映画化した日仏合作の『クライング・フリーマン』(’96年)、コナミのゲームを映画化した『サイレントヒル』(’06年)を手がけるなど、日本とのつながりも。ヴァンサン・カッセルやモニカ・ベルッチが出演した2001年の映画『ジェヴォーダンの獣』は、日本ではさほどヒットしなかったものの、クラシカルな美術と衣装、華やかでキレのあるバトルやアクション、ダークファタジーと、個人的にだいぶツボで。本作ではますます熟練したガンズ監督のスタイルを、たっぷりと堪能させてもらった。ガンズ監督は、フランスの芸術家ジャン・コクトーが監督を手がけた1946年の映画『美女と野獣』をリスペクトしているとのこと。そのため本作は自身にとって「相当なチャレンジになる」と覚悟していたとも。今回の製作について監督は語る。「コクトーのリメイクをするつもりはなかった。むしろ今まで描かれてこなかったおとぎ話を新しい形で映画化したいと思ったんだ」

アンドレ・デュソリエ

古典作品では、ヒロインは待ったり泣いたり守られたりするばかりの受け身で保守的なキャラクターであることも少なくないものの、最近は古典が原作でも自分の頭で考え判断し行動するヒロインが多い。
 本作のベルも然り、同性としてストレスなく観ることができるのは単純に楽しい。もちろん古典のオリジナル性を尊重し、当時の時代考証に基づき厳格につくられる作品も素晴らしいし、子供向けのシンプルでハッピーなアニメーションも、大人が楽しめるアクションやロマンスを描くエンターテインメントもそれぞれに楽しいもの。原作のオリジナル性とガンズ監督の演出で魅せる本作は、ディズニー版を期待すると「ぜんぜん違う」となるだろうが、まったく別の大人向けのファンタジーとして楽しんでみてはどうだろう。

作品データ

美女と野獣
公開 2014年11月1日公開
TOHOシネマズ スカラ座ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2014年 仏独
上映時間 1:53
配給 ギャガ
原題 La Belle et La Bete
監督・脚本 クリストフ・ガンズ
出演 レア・セドゥ
ヴァンサン・カッセル
アンドレ・デュソリエ
エドゥアルド・ノリエガ
ミリアム・シャルラン
オドレイ・ラミー
サラ・ジロドー
ジョナサン・ドマルジェ
ニコラス・ゴブ
ルーカ・メリアヴァ
イボンヌ・カッターフェルト
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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