マダム・マロリーと魔法のスパイス

オスカー女優ヘレン・ミレン×ラッセ・ハルストレム監督
人種や文化の対立と共生を、コミカルにロマンティックに描く
仏印のシェフと家族が織りなす、あたたかなヒューマン・ドラマ

  • 2014/11/07
  • イベント
  • シネマ
マダム・マロリーと魔法のスパイス©2014 DreamWorks II Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

王道のフレンチとインド料理、まったく異なる2つの伝統の世界が出会ったら――? アメリカ人作家リチャード・C.モレイスのベストセラーとなった処女小説『The Hundred-foot Journey(マダム・マロリーと魔法のスパイス)」』を、『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』『ギルバート・グレイプ』のラッセ・ハルストレム監督が映画化。製作にはスティーブン・スピルバーグ、オプラ・ウィンフリーが名を連ねる。出演はイギリスのオスカー女優ヘレン・ミレン、インドのベテラン俳優オム・プリ、『新ビバリーヒルズ青春白書2』などアメリカのTVドラマに出演しているマニッシュ・ダヤル、バラエティ番組のお天気お姉さんとして人気を博し、2014年の映画『イヴ・サンローラン』など女優として活躍しているシャルロット・ルボン、1989年の映画『仕立て屋の恋』のフランス人俳優ミシェル・ブランほか。
 インドでレストランを経営していたカダム一家はあるきっかけでヨーロッパに移住。フランスでインド料理店を始めようとするが……。フランスとインド、人種や文化の対立と共生を、ときにはコミカルにときにはロマンティックに描く。おいしそうな料理の香りをふわりと感じるかのような、あたたかなヒューマン・ドラマである。

インドの大都市ムンバイでレストランを経営していたカダム一家は、選挙の対立派閥から放火され、店を焼失し料理名人のママを亡くし、逃げるようにヨーロッパへ移住する。一家があてもなく車で移動していると、南フランスの山あいで車が故障。通りかかった地元の女性マルグリットが町まで車を牽引してくれる。彼女は疲れ切った一家を家に招き、手早く作ったおいしい料理をふるまう。フランスのワインやチーズのおいしさにカダム一家は心が安らぎ、腕のいいシェフである次男ハッサンは、そんな彼女に見とれていた。翌日、カダム家のパパは空き家でレストランを開くと宣言し、地元の人々や家族たちの冷たい反応を押し切る。が、その空き家の場所は、堅物のマダム・マロリーがオーナーを務め、ミシュランで1つ星を保持する格式あるフランス料理店「ル・ソール・プリョルール」の真向いだった。

フランスとインドのカルチャーギャップを、人種や文化、料理の違いなどからコミカルに描く人間ドラマ。マルグリットと次男ハッサンをはじめ、惹かれ合いながらもすれ違う男女の関係を軽妙に描くラブ・ストーリーであり、結束の強い家族のドラマでもあり、濃厚なラブ・シーンはないので、人種、宗教、年齢を問わずたくさんの人たちがファミリーやカップルで楽しめる仕上がりとなっている。

ヘレン・ミレン

原作は世界28カ国で販売され、ベストセラーとなっているアメリカ人作家リチャード・C.モレイスの処女小説。この物語に惚れ込んだプロデューサーのジュリエット・ブレイクはモレイスに面会し映画化権を取得。スティーブン・スピルバーグとオプラ・ウィンフリーはブレイクのプレゼンを受けて、共同プロデューサーとなったそうだ。1985年の映画『カラーパープル』で組んで以来29年ぶりに、有名監督であるスピルバーグと、司会者や女優として活躍し成功したアフリカ系アメリカ人の象徴であるウィンフリーが一緒に仕事をすることも話題となっている。今回のタッグについてスピルバーグは、「人々の相互性を描いた素晴らしい物語を語るために、実に相互的な形でクリエイティブなエネルギーをやりとりできたよ」と語り、ウィンフリーは「ちょっとした宝石のようなこの小説は紛れもない芸術だし、そこには私が自分のキャリアを通してずっとやろうとしてきたことが書かれていたの。しかもスピルバーグとまた一緒に仕事ができるなんて最高だわ」とコメントしている。

厳格なマダム・マロリー役はヘレン・ミレンが高潔かつチャーミングに好演。カダム家の頑固者のパパはオム・プリが、インド人一家の長として威勢よく演じている。絶対味覚をもつ料理人の次男ハッサン役はマニッシュ・ダヤルがやさしく純情な天才肌として、マダムのもとで一流の料理人を目指すマルグリット役はシャルロット・ルボンが明るく凛として、おいしいものが大好きなサン=アントナンの町長役はミシェル・ブランがとぼけた様子で演じている。
 相手の才能を伸ばしたいと思いサポートし、異性として惹かれながらも、相手の能力に嫉妬して八つ当たりをしてしまう女性の微妙な心理。そこを批判し断罪するのではなく、それまでのサポートに感謝し相手を尊重しながら、みんながハッピーになるための第3の道を模索する男の姿は、マッチョなサクセス・ストーリーの主人公よりも格段に、ある意味でとてもたのもしい。

マダム・マロリーと魔法のスパイス

原作者リチャード・C.モレイスは、ポルトガル生まれのアメリカ人としてスイスで育ち、ジャーナリストを経て、’10年に本作の原作である処女小説『The Hundred-foot Journey(マダム・マロリーと魔法のスパイス)』を発表し、作家としてデビューした人物。『フォーブス』誌のヨーロッパ特派員として勤務後、‘03年にアメリカへ帰国し、『ザ・ニューヨーク・タイムズ』にフリーランスの撮影ニュース素材を売るように。1991年には『フォーブス』誌の連載をまとめたピエール・カルダンの非公認伝記『Pier Cardin : The Man who Become a Label』の出版も。モレイスが’13年に発表した2作目の小説『Buddhaland Brooklyn』は、日本の山寺からニューヨークのイタリア人地域に寺を建立するよう命じられた、40歳の仏教僧の物語とのことだ。
 この映画には原作者のモレイスのように、複数の国や人種の文化で育ったスタッフが関わっているとのこと。脚本家のスティーヴン・ナイトはイギリスでインド系住民の人口が最も多いバーミンガム出身であり、映画化権を獲得したプロデューサーのブレイクは、アメリカのドイツ系移民の娘なのだそう。ブレイクは語る。「この物語が私の心に大きく響いた理由は、このキャラクターたちが私の家族であったとしてもおかしくないと思えたからよ。この作品には実に大切なテーマがたくさん描かれている。人種差別、受け入れること、変わろうとする力、そういったものは、あらゆる移民を描いた物語に共通するものなの」。スピルバーグとウィンフリー、2名の大物プロデューサーも含め、充実の製作陣についてハルストレム監督は語る。「魔法のような偶然だよ。絶妙のタイミングで適確な脚本、適確な出演者、適確なプロデューサーたちがそろうなんて、なかなかないことだからね」。

マダム・マロリーと魔法のスパイス

国々の文化や世界経済の発展にともなって、ハリウッドでもインド向けや中国向けの作品が増えつつあるいま。あからさまにピンポイントで1国1人種を狙っているのを感じると、思わず「日本人は観なくていいのかな」という気になったりもするものの、こうしてカルチャーギャップや対立を交えながらも、相互理解や共生を描くストーリーは、多くの人が親しみを感じたり、観ていて単純に楽しめるのではないだろうか。ハルストレム監督作品のもつ人間らしさやぬくもり、ほのぼのとしたロマンティックな雰囲気が、伝統的なフランス料理やインド料理のおいしそうな映像とともに心地よく楽しめる本作。食欲の秋、心をあたたかいもので満たす本作をどうぞ、「Bon appétit!(召しあがれ!)」

作品データ

マダム・マロリーと魔法のスパイス
公開 2014年11月1日公開
Bunkamura ル・シネマほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2014年 アメリカ
上映時間 2:02
配給 ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
原題 The Hundred-foot Journey
監督 ラッセ・ハルストレム
脚本 スティーヴン・ナイト
製作 スティーブン・スピルバーグ
オプラ・ウィンフリー
ジュリエット・ブレイク
原作 リチャード・C.モレイス
音楽 A.R.ラフマーン.モレイス
出演 ヘレン・ミレン
オム・プリ
マニッシュ・ダヤル
シャルロット・ルボン
ミシェル・ブラン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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