トラッシュ!-この街が輝く日まで-

S・ダルドリー×R・カーティス×F・メイレレス
スラムの子どもたちがたくましく生き抜こうとする姿を描く
事件の真相に迫るサスペンスにして力強いヒューマンドラマ

  • 2014/12/26
  • イベント
  • シネマ
トラッシュ!-この街が輝く日まで-©Universal Pictures

権威の乱用、執拗な恫喝、残虐な暴力。それでもスラムの子どもたちはあきらめない。『リトル・ダンサー』『めぐりあう時間たち』のスティーヴン・ダルドリー監督と、『ラブ・アクチュアリー』『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』のリチャード・カーティスが脚本を手がけ、イギリスの作家アンディ・ムリガンの小説を映画化。製作総指揮としてブラジル出身であり映画『シティ・オブ・ゴッド』『ナイロビの蜂』の監督を手がけたフェルナンド・メイレレスが参加。出演は映画や舞台などで活躍するベテラン俳優のマーティン・シーン、映画『ドラゴン・タトゥーの女』のルーニー・マーラ、そしてオーディションで選ばれたブラジルの無名の少年たち、リックソン・テベス、エデュアルド・ルイス、ガブリエル・ウェインスタインほか。
 ゴミを拾って生活している少年ラファエルは、ひとつのサイフを拾う。残された手紙とメモの謎とは?社会的弱者にあたるスラムの子どもたちが事件に巻き込まれながらも、知恵と根性で必死に生き抜こうとする姿を描く。力強く熱いヒューマンドラマである。

ブラジル、リオデジャネイロ郊外。ゴミを拾って暮らす少年ラファエルは、ある日サイフを拾う。その後すぐ、「財布を見つけたら謝礼を渡す」と警察から通達があるも、この街で警官がアテにならないことは誰もが知っている。ラファエルは仲間のガルドと世慣れたラットと話し、これは重要なサイフであると考え、隠し持つことにする。3人が財布に入っていたロッカーキーで預けられていた物を取り出すと、刑務所に収監されている人物宛の1通の手紙と、数字が羅列するメモが。その夜、警官に目をつけられたラファエルは連れ去られ、少年たちの保護者であるジュリアード神父が警察署へ乗り込むも、ラファエルは見つからず……。

リックソン・テベス,ガブリエル・ウェインスタイン

観ていてつらくなるシーンも多々あるものの、ただ前を向いて振り返らずに全力で走っていく少年たちのたくましさや、危険を冒しても信念に従ってサポートする周囲の人々の姿が胸を打つ。情感ある映画作りで知られるダルドリーとカーティスの“イギリスを代表する2大トップフィルムメーカーの初タッグ”らしく、人間ドラマとしての軸がしっかりと。さらに製作総指揮として参加しているメイレレスの作品に通じる、ノンフィクションのような臨場感やサスペンス作品としてのスリル、くっきりとしたメッセージ性を感じさせる仕上がりとなっている。
 原作の小説は出版前から注目を浴びていたことから、プロデューサーのクリス・サイキエルはダルドリー監督と脚本家カーティスにいち早く打診し快諾を得て、映画化権を取得したとのこと。ただカーティスは映画『アバウト・タイム』の製作、ダルドリーは2012年のロンドン五輪の開会式と閉会式のプロデュースなど、それぞれの仕事が進行していたことから、撮影開始がその4年後となり、ようやく完成したそうだ。
 原作の小説、そして今回の映画化について、ダルドリー監督は語る。「原作の素晴らしい点は、この力強い語り口だ。これは私にとって大きなチャレンジになるだろうと思った。このジャンルの映画は撮ったことがなかったし、言葉(ポルトガル語)もわからないからね」

ラファエル役はテベスが少年らしく、素直で好奇心に満ちた言動で。友人ガルド役はルイスがのんきで気のいい少年として、ポルトガル語から英語への通訳も。ラット役はウェインスタインが機転の利く知恵者として、それぞれに表現。ウェインスタイン以外は演技経験がなく、3人とも演じたキャラクターと同様にブラジルのスラムで生まれ育ったそうだ。ダルドリー監督は、子供たちとの仕事は発見の旅だったと語る。「彼らもとても厳しい環境からやって来た。これは彼らの物語でもあり、最後には役を自分のものにしていた。彼らの信じるもの、彼らの感じるものが表れている」。
 そしてアメリカ人宣教師ジュリアード神父役はシーンが、同じく子どもたちのサポートをするアメリカ人女性オリヴィア役はマーラがひたむきに、ともに最悪の状況に失望しながらもできることをしようと心をくだく姿を演じている。実生活で、シーンはフィリピンのマニラにあるスモーキー・マウンテンでチャリティ活動を約10年続けており、マーラはNPO組織「Uweze」を立ち上げ、アフリカ最大規模のスラムがあるケニアのキベラで、貧困により孤児となった子供たちの救命救急診療を行っているとのこと。シーンとマーラについてダルドリー監督は、「彼らはスラムで生きる人々のことをよく知っていて、その経験はすごく役に立った」とコメントしている。また問題の財布の持ち主アンジェロ役はワグネル・モウラ、子どもたちを恫喝する警官フェデリコ役はセルトン・メロと、ブラジルの演技派俳優たちの出演について、ダルドリー監督は、「昔から2人のファンだった」とのこと。すべてのキャスティングについて、「今回はどの役も第一希望で通すことができた」とコメントしている。

リックソン・テベス,ガブリエル・ウェインスタイン

原作者のアンディ・ムリガンはオックスフォード大学英文学部を卒業後、舞台制作に10年携わった後、インドの西ベンガル州コルカタの児童養護施設に滞在したことを機に教師に転身。イギリス、ブラジル、インド、ベトナム、フィリピンなど各地で教鞭を執った後、イギリスに帰国し2009年に処女作『Ribblestrop』を出版。’11年に出版した続編『Return to Ribblestrop』がイギリスの新聞ガーディアンで「2011年度 最優秀児童書(フィクション部門)」に選出。ムンバイとマニラでの経験を基に執筆された本作の原作『Trash』は27カ国語に翻訳され、’12年のカーネギー・メダル賞にノミネートされたそうだ。
 ムリガンは本作の内容について、10代の子たちが楽しめる、物語に必要な危険がたっぷりつまった内容を意識して書いたとのこと。そして、若い読者たちの前から世界の真実を隠すべきではないと信じているとも。「(登場人物の3人の少年たちは)傷つきやすく見えるかもしれない。だが彼らの意志は強く、生き抜くため毎日戦っている。この作品の子どもたちは、彼らが置かれた厳しい環境から抜け出そうともがいている。その状況は、彼らのせいではないはずなのに。もし本が、若い読者たちに問題を直視させ、考えるきっかけになったらと思う」

リックソン・テベス

2016年に開催予定のリオデジャネイロオリンピックを前に、映画の終盤には生々しい背景もさらりと織り込まれている本作。映画では舞台は「ブラジルのリオデジャネイロ郊外」と明示しているものの、原作では架空の国としたことについてムリガンは、「自分が愛した国に一方的な判断を下すことはできないと思ったんだ」とコメントしている。フィクションとしながらも事実に限りなく近いことを含ませるのは社会派作品によくあることで、ダルドリー監督がロンドン五輪に携わったこともあり、劇中終盤の表現はリアリティを感じさせる。今まさに話題となっているソニー・ピクチャーズの映画『The Interview』然り、実在する1国の事情を具体的に指す作品が、その国からのクレームで問題となるのはままあることで。本作の撮影は実際にリオデジャネイロで行われ、映画製作に理解のあるブラジル政府のおかげで撮影は大いに助かったとのことで、このストーリーでありながら製作名義がブラジル・イギリスの共同なのだから、計り知れない。メジャースタジオ作品の撮影には相応の利益があるため、国のイメージよりもそれが優先されたのか、本作のテーマはブラジル1国の問題というより南米全体の問題であるということか、もしくはブラジルの外交筋の中にも横行する汚職を改善しようと心をくだく人々もいるのか、オリンピック前のアピールに映画はちょうどいいと思ったのか。
 マーラが演じたオリヴィア役について、原作者のマリガンが語る言葉は、観る側の感覚に響くものがある。「あのキャラクターは私がモデルになっているんだ。彼女は第3世界を訪問し、その経験でふさぎ込んでいる。どう扱っていいか分からない大きな問題の前で立ち尽くしている彼女はまるで私だ。そして少年たちが彼女の心を超えていく」。
 アンジェロ、ラファエルと、天使の名前をもつ人々が、凶悪で非道なスパイラルがとめどなく続く社会の悪循環に一石を投じる本作。スラムのゴミ山が舞台の生真面目な社会派作品では、と敬遠するのはもったいない! 熱く疾走するサスペンスと胸のすくエンディングを、どうぞお見逃しなく。

作品データ

トラッシュ!-この街が輝く日まで-
公開 2015年1月9日公開
TOHOシネマズ みゆき座ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2014年 ブラジル・イギリス
上映時間 1:54
配給 東宝東和
原題 TRASH
監督 スティーヴン・ダルドリー
脚本 リチャード・カーティス
原作 アンディ・ムリガン
製作 クリス・サイキエルほか
製作総指揮 フェルナンド・メイレレス
出演 マーティン・シーン
ルーニー・マーラ
ワグネル・モウラ
セルトン・メロ
リックソン・テベス
エデュアルド・ルイス
ガブリエル・ウェインスタイン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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