シンデレラ

かのおとぎ話を充実の顔合わせでディズニーが実写化
大筋はそのままに現代的にアレンジされた内容とは?
名曲と名シーンが蘇る、きらびやかなファンタジー作品

  • 2015/04/14
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シンデレラ© 2015 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

監督に『ハムレット』『エージェント:ライアン』のケネス・ブラナーを迎え、ディズニーが1950年のアニメーション版の公開から65年ぶりに伝説的な名作を実写化。出演はオーディションで抜擢された若手女優リリー・ジェームズ、TVシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』のリチャード・マッデン、2005年の映画『アビエイター』と'13年の『ブルージャスミン』でオスカーを2度受賞したケイト・ブランシェット、そして'11年の『英国王のスピーチ』のヘレナ・ボナム=カーターほか充実の顔合わせで。脚本はブラナー監督同様、監督・脚本家・プロデューサー・俳優として活躍するクリス・ワイツが担当。設定や大筋のストーリーは元のままに、シンデレラやプリンス、継母や魔法使いなどのキャラクターたちは新たに描き直され、現代的な感覚を取り入れて内容をアレンジ。ガラスの靴にかぼちゃの馬車、魔法のドレスで舞踏会へ。名シーンの数々をきらびやかに実写化したファンタジー作品である。

貿易商の父と優しい母のもと、両親の愛を一身に受けて少女エラは幸せに過ごしていた。が、母が病で他界した数年後、父が再婚。華やかで冷たい美貌をもつ継母、それなりに美人なのに口汚く行儀の悪い2人の義姉との生活が始まり、父は事故で他界。継母と2人の義姉とエラの4人の生活が始まると、3人はエラを召使いのように扱い、屋根裏部屋に移される。そして顔に暖炉の灰をつけたまま働くエラを、義姉たちは“灰まみれのエラ=シンデレラ”と呼んで蔑む。重ね重ねの仕打ちに耐えきれずエラが馬で森にかけてゆくと、キットと名乗る青年と出会う。

実写化にあたり、これまでの「受け身のイメージを一新し、自らの意思で行動し、勇気をもって運命を切り開く、新たなシンデレラ像」を打ち出したという本作。フェアリー・ゴッドマザーの魔法で舞踏会に行き、王子様に幸せにしてもらう、という受動的な内容を、優しさと勇気をもつエラが困難に立ち向かい、自らの意思で選び取ったからこそ、という主体的な要素を前面に出してリメイクがなされている。また継母は夫がエラにかける愛情に嫉妬するという女の性(さが)に苦しみ、義姉たちはお調子者で下品であるものの根っからの悪人ではない、として。そして王子は立場と責任をわきまえつつ、父である国王に自らの意志をはっきりと述べる好青年として描かれている。

リリー・ジェームズ

前向きな気持ちで逆境に耐えるシンデレラ役はジェームズが初々しく、森で出会うキットこと王子役はマッデンがお坊ちゃまながらもりりしく。落ちぶれてすさんだ美貌の継母役はブランシェットが贅沢好きで狡猾に、2人の義姉はソフィー・マクシェラとホリデイ・グレインジャーが滑稽に、王子の父である王様役はデレク・ジャコビが威厳をもって、王子の警護をするアフリカ系のキャプテン役はノンソー・アノジーが誠実に、王室の一員である大公役はステラン・スカルスガルドが保守的に、エラの両親はベン・チャップリンとヘイリー・アトウェルが愛し合う夫婦としておっとりと演じている。
 個人的に筆者の一番のお気に入りは、ヘレナ・ボナム=カーターが演じる魔法使いことフェアリー・ゴッドマザー。本作でフェアリー・ゴッドマザーは陽気でエキセントリックなキャラクターになっていて、「私の番ね?」と言って、例の歌「Bibbidi-Bobbidi-Boo (The Magic Song)」を歌いながらも、魔法をちょっと失敗するあたりもかわいらしい。

男性を中心とした大人たちが至極真面目な気持ちで現代性をふまえて作ったことは、よくわかる。よくわかるし、取り立てて不快な部分もないものの、たとえば“アナ雪”と比べると、物足りなくわかりやすく共感しきれないような。……考えてみると、エラは何も間違えない。どんなときも正しくて賢い。本作のエラのミスといえば、ガラスの靴を片方おとしたくらいだ(1950年のアニメ版ですら、ベッドで朝の鐘を聴いたシンデレラが「この鐘!起きろって言うのね!」とひとりごちる場面などがある)。
 今回の実写版では、逆境に陥ろうと選択を何ひとつ誤らない優等生女子が、同じく優等生の箱入り王子と完璧なハッピーエンドを迎える、と見えるのだ。絵本や童話、アニメーションのおとぎ話ならそういうものだから、と流せるあたりが、実写版でドラマ性を高めるとなると生半可なリアルさが影響して、他人事としてやや白けてしまうのかもしれない。
 たとえば『アナと雪の女王』では、Wヒロインが2人とも一度は間違った道を選びながらも、体当たりで行動しながら悩み考え、くじけたりあきらめたりしそうになりながらも周囲のアドバイスを受け入れて助けられ、彼女たちなりの幸せを見出す、というお話で。欠けている部分や抜けている面があり、悩み迷い失敗しながらもあきらめずに立ち上がり自分たちなりの満足を得る、という方が実際のわたしたちの心情に近いため、共感が得やすいのかなと。

ヘレナ・ボナム=カーターが本作の魔女役について、うまいことを語っている。「フェアリー・ゴッドマザーが、なんでも完璧にこなせるわけではないことにしたほうが面白いし、より好感のもてる存在になるのよ」

シンデレラ

ところで、“アナ雪”で監督・脚本をつとめたジェニファー・リーは共同監督のひとりとはいえ、ディズニー長編アニメーション製作で初の女性監督として大きな成功を収めたわけで。ディズニーがこれからもっと女性を積極的に監督や脚本などの製作スタッフに起用して、作品の魅力に一層の磨きをかけていくことに期待したいところだ。

そもそも不幸な境遇の少女が美しく変身して幸せになる物語は、世界各地に古くから存在しているとのこと。なかでも、イタリアの詩人ジャンバティスタ・バジーレによる1634年の説話集『ペンタメローネ』に収められた「灰かぶり猫」、ドイツのグリム兄弟が編纂した1812年の『グリム童話集』の「灰かぶり」、そしてもっとも有名なのは、ルイ14世に仕えたヴェルサイユの宮廷人でありフランスの作家シャルル・ペローによる1697年の童話集『がちょうおばさんの話』に収録された「サンドリヨン、または小さなガラスの靴」とのこと。ガラスの靴やカボチャの馬車、フェアリー・ゴッドマザー、そして“時計の鐘が12時を打つまでに帰らなければならない”という設定は、ペローが創作したと考えられているとも。1950年のディズニー・アニメーション版もペローの原作に基づいて製作されたそうだ。
 ちなみに本作では、12時が過ぎると魔法が解けてすべて元通りになるのに、ガラスの靴だけは消えない、という永遠の謎について、「靴の魔法は得意なの!」とフェアリー・ゴッドマザーが言い放つという強引さは、個人的に嫌いじゃない。

シンデレラ城がオープニングロゴのシンボルとして使われているディズニー映画。オーケストラのキラキラとした演奏とともにジェームズが歌う「A Dream Is a Wish Your Heart Makes」や、ボナム・カーターが明るくユーモラスに歌う「Bibbidi-Bobbidi-Boo (The Magic Song)」などの名曲を聴くと心地よく鳥肌が立つのは、筆者もディズニーの名作アニメに夢中になった子どものひとりだったからで。
 フェアリー・ゴッドマザーが魔法の杖をふるい、カボチャを馬車に、ネズミを馬に、トカゲを御者に(キモかわいい)、シンデレラがすばらしいヘアメイクとともにボロボロのドレスからゴージャスなドレス姿に変わる変身シーン、豪華絢爛なお城の舞踏会でのダンスシーンでシンデレラがドレスをひるがえして王子様と踊るさまを眺めると、「うわあ」と一瞬で童心に返る思いも。

シンデレラ

アメリカの現地時間2015年3月1日、ロサンゼルスのエル・キャピタン・シアターにて行われたワールドプレミアで、ブラナー監督は本作についてこのようにコメントしている。「12時の鐘が鳴り響いた時に、舞踏会を去るシンデレラの姿を観客のみんなはドキドキしながら見てほしい。そして文字通り、全世界の人々をこの舞踏会に招待したいんだ」

本作は同時上映で、“アナ雪”のその後を描く短編『アナと雪の女王/エルサのサプライズ』が観られることも話題のひとつ。待望のアナ雪の短編から、充実のスタッフ&キャストと最新技術できらびやかに実写化された伝説的な名作童話の世界へ。家族みんなで名曲や名シーンをシンプルに堪能できる、ファンタジー作品である。

作品データ

シンデレラ
公開 2015年4月25日公開
TOHOシネマズ日劇ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 アメリカ
上映時間 1:45
配給 ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
原題 CINDERELLA
監督 ケネス・ブラナー
脚本 クリス・ワイツ
出演 リリー・ジェームズ
ケイト・ブランシェット
リチャード・マッデン
ステラン・スカルスガルド
ソフィー・マクシェラ
ホリデイ・グレインジャー
デレク・ジャコビ
ヘレナ・ボナム=カーター
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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