ヴェルサイユの宮廷庭師

ヴェルサイユ宮殿の庭園建設をモチーフに、
ケイト・ウィンスレット扮する女性造園家の愛と仕事を描く
美しい庭園や建築、大人のラブロマンスを映すドラマ

  • 2015/10/05
  • イベント
  • シネマ
ヴェルサイユの宮廷庭師©BRITISH BROADCASTING CORPORATION, LITTLE CHAOS LIMITED, 2014.

ヴェルサイユ宮殿に現存する美しい庭園〈舞踏の間〉の建設をモチーフに、フィクションを織り交ぜて描く物語。出演はオスカー女優のケイト・ウィンスレット、エルメス2014春夏コレクションのアイコンも務めたベルギーの俳優、2012年の映画『君と歩く世界』のマティアス・スーナールツ、『プラダを着た悪魔』のスタンリー・トゥッチほか。監督・共同脚本・出演は『ハリー・ポッター』シリーズで知られるイギリスの俳優アラン・リックマン。
 造園家のサビーヌは裕福ではなくとも天職を得て、単身で仕事に打ち込む日々を送っている。ある日、ルイ14世によるヴェルサイユ王宮の造営にあたり、国王の庭園建築家アンドレ・ル・ノートルの指揮のもと、その庭園建設に参加できることになり…。フランス国王ルイ14世や庭園建築家アンドレ・ル・ノートル、ヴェルサイユ宮殿の庭園〈舞踏の間〉といった実在の人物や庭園に、女性造園家サビーヌというキャラクターを組み合わせて現代的なストーリーに。男性優位の社会や仕組みに、ヒロインが実力で結果をだし本音で意思を伝え、女性の才と誇りを知らしめてゆく。美しい庭園や建築を背景に、わかりやすい展開とラブロマンスでシンプルに楽しめる作品である。

1682年のフランス。田園地方で造園家として働きながら暮らすサビーヌ・ド・バラは、男性の同業者たちが女性というだけで見くびり皮肉をいうのを尻目に、国王ルイ14世が造営するヴェルサイユ王宮の庭園建設に参加することに。伝統と調和を重んじる庭園建設の責任者ル・ノートルと、“ほんの少しの無秩序”を大切にするサビーヌは、最初は意見が対立するも、ル・ノートルはサビーヌのたくましく自由な精神と、草木や自然のありのままの美しさを生かす、みずみずしい造園の感性に惹かれてゆく。ひょんなことからルイ14世と知り合ったサビーヌは大勢の貴族やとりまきたちが集うルーヴル宮へ招かれる。しきたりも装いもろくに知らないためサビーヌは気おくれするが、素直な気性と率直な話しぶりでだんだん周囲の人たちとうちとけてゆく。

アラン・リックマン,ケイト・ウィンスレット

スクリーンに広がるフランス式庭園の美しさをゆったりと楽しめる本作。男尊女卑の時代に女性が仕事で成果をあげ、女性として誇りをもつことの大切さ、それを尊重すべきであると率直に明言するヒロインがさわやかだ。心に傷を負い愛のある生活を半ばあきらめて仕事に打ち込んできた大人の男と女が出会い、正反対の気質とセンスに反発しながらも、惹かれ合ってゆく、という王道のラブ・ストーリーでもあって。ストーリーは当時の時代性を思うと非現実的な面がありつつも、時代ものならではのクラシックで豪華な建造物や美術セットを楽しみつつ、現代女性に親しみやすい内容となっている。

タフで温かい感性の持ち主であるサビーヌ役はケイトが好演。本作の撮影で水のタンクに入り泥にまみれていたケイトは、実は第3子を妊娠中だったというから驚く(2013年12月に男児を出産)。彼女はサビーヌ役を快諾した理由について、「あのシビアな時代に自由奔放な心を持つサビーヌという人物に新鮮さを感じたの」とコメントしている。ルイ14世が信頼を寄せる庭園建築家アンドレ・ル・ノートル役は、マティアスが専門家ならではのどこか浮世離れした気品と、仕事への情熱と実力のある魅力的な人物として表現。サビーヌとアンドレが惹かれ合うさまはメロドラマ風でわかりやすくロマンティックだ。フランス国王ルイ14世役はリックマンが悪気なく贅沢な趣味人らしく、ルイ14世の弟オルレアン公役はスタンリー・トゥッチがわがままで遊び心のある貴人として演じている。

ケイト・ウィンスレット

1979年にユネスコ世界遺産として庭園とともに登録されたヴェルサイユ宮殿。その絢爛豪華なヴェルサイユ宮殿以上に、太陽王ルイ14世は壮大な庭園づくりに注力したとも。さまざまな木々や花々などの植物を幾何学的な形にデザインして配したフランス式庭園をメインに、水のない地にわざわざ運河で水を引き、いくつもの優美な噴水を建設。膨大な血税と人力が注ぎ込まれたことから驕奢(きょうしゃ)といわれるのももっともながら、300年以上の間改修や維持が継続され、今も誇るその美しさには胸を打つものがある。
 本作ではル・ノートルの監督のもとサビーヌが設計・建設したという設定になっている庭園〈舞踏の間〉は、別名〈ロカイユの木立〉とも呼ばれ、積み上げられた硅石とアフリカやマダガスカル産の貝の間を水が流れ、階段状の滝のようになっている清涼感あふれる空間。映画では2007年に改修工事を終え今もヴェルサイユにある本物の〈舞踏の間〉さながら、製作スタッフも「驚くほど(本物に)そっくり」と語るほどの庭園が再現されている。

撮影はイギリスで、ナショナル・トラストの管理する施設で行われた。ルイ14世様式のインテリアが美しいブレナム宮殿やワデスドン・マナーハウス、ル・ノートルの家に仕立てられたハムハウス、そしてハンプトン・コート宮殿、クリブデンハウス、アッシュリッジ・エステート、チェニーズ・マナーハウスなどでも。なかでもルーヴル宮として撮影されたブレナム宮殿は、今回初めて屋内シーンの撮影許可を得たそうで、サビーヌがルーヴル宮に招かれる華やかなシーンでその映像を堪能できる。

ケイト・ウィンスレット

サビーヌが好む“ほんの少しの無秩序”、この映画の原題『A Little Chaos』はひとつのキーワードとなっていて。混沌も気にせずに受け入れる、もっというとアクシデントを楽しむ、というような感覚だろうか。近視眼的にみるとカオスはやっかいなものだけれど、予定調和と秩序だけでは味気なくどこか物足りないという状態に、思いがけない魅力や良い変化のきっかけを与えるものでもあって。愛や人生に“A Little Chaos”を恐れずに受け入れると、思ってもいなかったような道があっさりと広がっていくこともあるのかなとか。ふとそんなことを思わせる、後味のさわやかな作品である。

作品データ

ヴェルサイユの宮廷庭師
公開 2015年10月10日より角川シネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマほか全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 イギリス
上映時間 1:57
配給 KADOKAWA
映倫区分 PG-12
原題 A LITTLE CHAOS
監督・共同脚本 アラン・リックマン
脚本 アリソン・ディーガン
アラン・リックマン
ジェレミー・ブロック
出演 ケイト・ウィンスレット
マティアス・スーナールツ
アラン・リックマン
スタンリー・トゥッチ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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