ミケランジェロ・プロジェクト

第二次世界大戦下、芸術の専門家による特殊部隊が結成
その使命は文化財の保護と、ナチスに奪われた美術品の奪還
実話をもとに主役級の豪華俳優陣の共演で描くドラマ

  • 2015/11/06
  • イベント
  • シネマ
ミケランジェロ・プロジェクト©2015「ミケランジェロ・プロジェクト」製作委員会/ユーロワイド・フィルム・プロダクション

第二次大戦下のあまり知られていない史実をもとに、ジョージ・クルーニーが監督・製作・脚本・主演、豪華キャストの共演で描く作品。出演はジョージ、『オーシャンズ』のマット・デイモン、『ロスト・イン・トランスレーション』のビル・マーレイ、『アルゴ』のジョン・グッドマン、『アーティスト』のオスカー俳優ジャン・ドゥジャルダン、『ムーンライズ・キングダム』のボブ・バラバン、イギリスのTVシリーズ『ダウントン・アビー 〜貴族とメイドと相続人〜』のヒュー・ボネヴィル、『ブルージャスミン』のケイト・ブランシェットほか。アメリカの作家ロバート M. エドセルによるノンフィクション『The Monuments Men: Allied Heroes, Nazi Thieves, and the Greatest Treasure Hunt in History(モニュメンツ・メン: 同盟国の英雄たち、ナチスの盗賊、そして史上最高の宝探し物語)』をもとに、ジョージ・クルーニーとグラント・ヘズロフが共同で脚本を手がける。
 第二次世界大戦下、アメリカとイギリスの芸術家の専門家による特殊部隊「Monuments, Fine Arts and Archives (MFAA)」が結成。戦地の文化財を保護し、ナチス・ドイツに略奪された芸術品を奪還して元の持ち主に返す、という使命のもと活動を開始するが……。ミケランジェロの彫刻作品≪ブルージュの聖母子≫や、ベルギーの聖バーフ大聖堂が誇る多翼祭壇画≪神秘の仔羊(ヘントの祭壇画)≫をはじめ、膨大な数の美術品の行方は? 芸術を愛し守り後世に伝えようと奮闘した人々の実際の活動をもとに、フィクションとして描くドラマである。

第二次世界大戦の終戦間際、1944年7月。アメリカ政府の後押しを受け、芸術の専門家で結成された7名の特殊部隊“モニュメンツ・メン”は、戦地の文化財を保護し、ナチスに強奪された美術品を奪還すべくフランスのノルマンディーに上陸。ヨーロッパ各地の最前線を捜索するなか、ナチス・ドイツが各国から何もかも奪っていったことを知る。奪われた美術品の在り処がつかめないなか、ヒトラーは「ネロ指令」(ドイツが敗北した際にはすべてを破壊する)を発令。ドイツの敗色が色濃くなり“破壊”期限が刻々と迫るなか、メンバーは手分けして芸術品の行方を探るうちにあることに気がつく。

ミケランジェロ・プロジェクト

軍事にはほど遠く戦争経験ゼロ、芸術の専門家である中年やシニアを中心とした7人のメンバーが最前線の現場で経験したこととは?
 主役級の俳優たちが多数共演しているキャスティングが話題の本作。元となっている実話やテーマは魅力的であるものの、内容は良くも悪くもあまり印象に残らずにさらりとしている。なのでこの映画は実際にこうした活動を行った人々がいたことを知り、1本の作品でそうは実現しないだろう豪華キャストの顔合わせをシンプルに楽しむのがおすすめだ。
 本作の役者陣と撮影現場について、ジョージとのコラボレーションが今回で6度目となるマット・デイモンはこんな風に話している。「このメンツはとにかくすごいよ。毎日現場へ出かけてはそれぞれ違う、魅力的で面白い人々と仕事できるし、彼らは皆、僕がずっと尊敬してその活動を追っていたような役者ばかりなんだからね。だからジョージに最初に言ったんだ。『僕はただ現場に来てバラの香りを楽しむようにしているよ。だってこれ以上素晴らしい状況ってないだろう!』ってね。信頼できる最高の監督、最高の脚本、最高の役者陣、そんな環境だと仕事してるなんてことは忘れちゃうよ!」

この豪華キャストは、ほぼ全員ジョージの友人や知り合いということから実現したとのこと。美術史学者のフランク役はジョージが冷静に、メトロポリタン美術館の主任学芸員ジェームズ役はマットが落ち着いて、建築家リチャード役はビルが飄々と、その相方である美術史学者で舞台興行主であるプレストン役はボブがリチャードに振り回されながらも真面目に、彫刻家のウォーター役はジョンが、フランス人の元美術学校主任のジャン役はジャン・デュジャルダンが、イギリスの元歴史家ドナルド役はヒューが、渡米しアメリカ軍の兵士となったドイツ生まれのユダヤ人でメンバー最年少のサム役はディミトリ・レオニダスがそれぞれに演じている。パリのジュ・ド・ポーム国立美術館のキュレーター、クレア・シモーヌ役はケイトが、ナチスが略奪した美術品の行方について秘密裏にリストを作成する、勇気あるフランス人女性として表現している。

マット・デイモン,ケイト・ブランシェット

そもそも実際のMonuments Menとは。正式名称は「The Monuments, Fine Arts and Archives (MFAA)」。第32代アメリカ合衆国大統領フランクリンD. ルーズヴェルトの認可を受け、1943年に発足した委員会「American Commission for the Protection and Salvage of Artistic and Historic Monuments in Europe」から派生し、西側同盟国軍の1部門としてスタートしたとのこと。メンバーはアメリカやイギリスの美術館や建築博物館、スタジオや大学などから召集された人々で構成され、ノルマンディー上陸作戦が決行されてから最初の6週間はメンバー7名のみでイングランドで軍の基礎訓練を受けた後、戦地へと赴いたそうだ。その後1951年の任務完了までにMFAAで任務に当たった人数は約350人。彼らは1000以上もの隠し場所から何百何千という美術品を探し当て、レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」「モナ・リザ」やゴッホ「ひまわり」をはじめ、レンブラント、ルノワール、ロダン、ピカソなどの貴重な芸術品や文化財、合計約500万点を奪還。さらに彼らは美術品のみならず、現在のレートに換算すると約50億ドル相当となる金の延べ棒やコインなども発見したそうだ。

この作品の登場人物の多くはモニュメンツ・メンの実在のメンバーと、その関係者をモデルにしている。こちらの人たちだ。
 美術学者でフォッグ美術館の保存部門の代表、後にウースター美術館とボストンのイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館の館長(理事)となったジョージ・スタウト大尉。後にニューヨークのメトロポリタン美術館の館長(理事)となるジェームズ J. ローリマー副大尉。任務中に膨大な数の美術品を発見し、フランスからレギオン・ドヌール勲章を、ベルギーからOrder of Leopoldを贈られた建築家のロバート・ポージー。アメリカ有数の彫刻家であるウォーカー・ハンコック隊長、有名建築家でありMFAAのアドバイザーとして参加した隊長ロバート・ポージー、後にニューヨーク・シティ・バレエ団を立ち上げた兵卒リンカーン・カースティン、メンバー最年少の18歳であるドイツ生まれのユダヤ人、兵卒ハリー・エトリンガー。
 そして美術史学者でありフランス抵抗軍のメンバー、ナチス占領下のパリでジュ・ド・ポーム美術館の監督官を務めていたフランス人の女性ローズ・ヴァーランド。ローリマー副大尉に情報を提供しMFAAの活動に貢献したそうだ。ナチスは略奪した美術品の貯蔵庫としてジュ・ド・ポーム美術館を利用し取引の場としていたなか、彼女は4年間出入りする美術品の詳しい情報を秘密裏に記録。実はドイツ語が堪能であることをひた隠し、美術品の搬送経路をフランス人地下組織に情報提供し続けたそうだ。ただローズの活動は秘密裏であったことから、戦後はフランスの美術界で“ナチスに協力した裏切り者”と誤解され、1980年に他界した際の葬式にはわずか6人の参列のみだったとも。没後に彼女の功績が知られるようになってからは、讃えられているそうなので、それは少しホッとする。
 ドイツ生まれのユダヤ人で最年少メンバーのサム役のモデルとなったハリー・エトリンガーは今も健在とのこと。劇中の≪レンブラントの自画像≫にまつわるエピソードは物語ではなく本当のこと、というのも感慨深い。彼は映画化を喜び、当時のことや今の思いについてこのようにコメントを寄せている。「今思えば、当時の私は、任務の重要さを理解しきれていなかったのかもしれないね。自分が携わっている活動がいかなるものなのか、深いレベルで自覚できていなかった。それでも私は、私なりに役目を全うしていたと自負しているよ。優秀なメンバーだった、とね。そうさ、私たちは大事なものを奪い取るのではなく、本来在るべきところに還した。それは人類史上、文明が始まって以来の、大変稀で素晴らしい行いだったんじゃないか。とても価値のあることに参加することができたと、今も誇らしく、嬉しく思っているよ」

マット・デイモン,ヒュー・ボネヴィル,ジョージ・クルーニー

「この世界に、ほんのささやかな、小さな美しさを遺すため」
 彼らの活動について、ローズ・ヴァランの遺した言葉が筆者にはとてもしっくりとくるものがあって。芸術や表現への思いはすべての人に理解されることではないだろうし、そんなに重要なことなのかと思う人たちの方が多いのかも知れなくて。魅力あるテーマとスタッフとキャスト、なかなかの制作費を投じた一大エンターテインメント作品でありながらこの映画が良くも悪くもさらりとしていて印象に残りにくいのは、そうした大勢の人たちの視点がほとんどないまま、現実では意識の隔たりによる温度差が大きいこと、そこへの歩み寄りや相互理解のための努力はほどんど描かれていないことが、どこか“足りない”感につながっているのかもしれない。

とはいえ監督・製作・脚本・主演を務めたジョージ本人によるこの作品についての思いを知ると、これはこれでいいんだろうな、とも。彼は本作についてこんな風に語っている。「我々は今回そもそも、アカデミー賞が取れそうな作品なんかより、ただただ面白くて、しっかりしたエンターテインメント作を作ろうって思ってたんだ。その作品の一部になれたことを、作品に携われたことを誇りに思えるようなものを。そしたらキャスト全員がなんの迷いもなく飛び乗ってくれた。みんなが脚本を気に入ってくれたってわかったよ。だってそんな立派な額のギャラじゃないしね(笑)!それで勇気がわいたんだ。現実の世界で僕らはいつだってボロボロにされて耐えている。だからこそ今この作品を創りたかった。誰もが、時にはこんな作品を撮ってみたい、参加してみたいって思うものなんじゃないかな。自分たち自身のことがなんだか誇らしく思えるような、気持ちのいいポジティブな作品を見てみたい、創ってみたいって」

作品データ

ミケランジェロ・プロジェクト
公開 2015年11月6日よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
制作年/制作国 2013年 アメリカ
上映時間 1:58
配給 プレシディオ
原題 The Monuments Men
監督・脚本・製作 ジョージ・クルーニー
脚本・製作 グラント・ヘスロヴ
原作 ロバート・M・エドゼル
出演 ジョージ・クルーニー
マット・デイモン
ビル・マーレイ
ジョン・グッドマン
ジャン・デュジャルダン
ボブ・バラバン
ヒュー・ボネヴィル
ケイト・ブランシェット
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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