キャロル

ケイト・ブランシェット×ルーニー・マーラ共演
1950年代のNYを舞台に女性同士の恋と葛藤を描く
困難でも自身の人生を選択することを静かに映すドラマ<

  • 2016/02/05
  • イベント
  • シネマ
キャロル© NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

1955年に出版、1960年に映画化された『太陽がいっぱい』の原作者パトリシア・ハイスミスが別名義で発表したベストセラーを、映画『エデンより彼方に』のトッド・ヘインズ監督が映画化。出演は映画『ブルー・ジャスミン』のオスカー女優ケイト・ブランシェット、2015年の第68回カンヌ国際映画祭にて本作で主演女優賞を受賞したルーニー・マーラ、『それでも夜は明ける』のサラ・ポールソン、『ゼロ・ダーク・サーティ』のカイル・チャンドラーほか。脚本はアメリカの2005年のTVドラマ『ミセス・ハリスの犯罪』で脚本・監督を務めたフィリス・ナジー。性的マイノリティに対して厳しい時代である1950年代のニューヨークを舞台に、女性同士の恋と葛藤を描く。困難でも自分自身の人生を選択することについて、静かに映すドラマである。

1952年、クリスマス前のニューヨーク。マンハッタンにある高級百貨店のおもちゃ売り場でアルバイトとして働くテレーズは、フォトグラファーに憧れて写真を撮ったり、恋人のリチャードから結婚を切り出されたりしながらも、どこか充実感を得られずにいる。ある日、テレーズの売り場にエレガントな装いの女性キャロルがやってきて幼い娘へのプレゼントを購入。イブまでにプレゼントが届くよう配送の手配をしたテレーズは、キャロルが売り場に忘れていった手袋を自宅へと郵送する。すると後日、お礼にとキャロルからランチに誘われ、その週末に郊外のニュージャージーにあるキャロルの屋敷に招待される。2人がお茶を飲みピアノを弾いて穏やかな時間を過ごしていると、別居中の夫ハージが突然やってきてキャロルを攻め立て、激しい口論になる。

カイル・チャンドラー,ケイト・ブランシェット

女性同士の恋愛をことさらに強調するのではなく、出会って恋をして、続けていくか別れるか、というごく一般的な恋愛の経緯を映す作品。性的マイノリティに対する偏見や差別がとても厳しかった当時、ひとつの前向きな選択を示唆するストーリーが関係者たちから熱い支持を得て、原作の小説は100万部超の売上となり、その頃からすると画期的なベストセラーとなったそうだ。
 原作者は数々の作品が映画化されたことで知られているパトリシア・ハイスミス。10代から作家を目指し、1950年に29歳で長編第1作『見知らぬ乗客』を出版、1951年にはアルフレッド・ヒッチコック監督によって同名で映画化される(小説・映画ともに原題は『Strangers on a Train』)。そして1955年に出版した『The Talented Mr. Ripley』は、1960年にアラン・ドロン主演、ルネ・クレマン監督によって『太陽がいっぱい(原題:Plein soleil)』 、1999年にマット・デイモン主演、アンソニー・ミンゲラ監督によって『リプリー』として映画化されるなど、ほかにも数々の作品が映像化されているアメリカ出身の女性作家だ。
 『キャロル』の原作はハイスミスが1952年に“クレア・モーガン”という別名義で出版した長編第2作の『The Price of Salt』。1948年に着想を得て’51年に書き上げるも、『見知らぬ乗客』の成功により“サスペンス作家”のレッテルを貼られたことから、“女性同士の恋愛”の物語を発表するとまた別のレッテルを貼られるのではと恐れ、“クレア・モーガン”名義で出版。’53年にペーパーバック版が出版されると100万部超のベストセラーに。それから30数年後の1984年、60代になったハイスミスは自身の名義で『Carol』という元のキャロルで出版したそうだ。

キャロル役はケイトが自分らしい道を選択する女性としてくっきりと、テレーズ役はルーニーがキャロルに惹かれる自分にとまどいながらその気持ちを自然に受け入れていくさまを表現している。ルーニーの恋人リチャード役はジェイク・レイシーが、キャロルと離婚協議中の夫ハージ役はカイル・チャンドラーが、キャロルの親友アビー役はサラ・ポールソンが、それぞれに演じている。
 ケイトは彼女たちの恋愛について、このように語っている。「彼女(テレーズ)にとってはそれが初めての恋で、初めて誰かを好きになるというのは、それが男同士でも女同士でも、あるいは男女であっても、ロミオとジュリエットのようにとめられないものではないかしら。そしてお互い傷つく。というのも彼女たちは同じ性別というだけではなく、互いに社会階級も違えば、年齢のギャップもあるから、それだけ障害が大きいの」
 そしてルーニーはこの物語についてこのようにコメントしている。「わたし自身はふたりの関係にラベルを貼ったことはないわ。キャロルを“レズビアン”と見たことはない。’50年代という時代は、まだそういう関係が公には存在していなかったし、人々はそういう関係にラベルを貼って箱にしまいこんでいたと思う。わたしにとってこれは同性愛の物語ではなく、ふたりの人間が自然に恋に落ちて、お互いを必要とし合う物語。ふたりのキャラクターは人生の過渡期にあって、ふたりとも途方にくれた状態にある。そんなときに出会って、お互いのなかに探していたもの、望んでいたものを見つけるの」

ルーニー・マーラ

女性同士の愛を男性監督が手がけていることについては、「わたしはトッドの大ファン」と言うルーニーが太鼓判を押している。「彼に大きな尊敬を寄せていたし、今回もとても大きな期待をしていて、彼はその通りに素晴らしい監督だった。とくに女優にとって彼は憧れの監督なのではないかしら。というのも、彼は女性のことをとても愛しているし、女性の心情をとてもよく理解してラブストーリーを描くことができるから」
 そしてヘインズ監督は映画で愛を描くことについて、このように語っている。「古典的なハリウッドの脚本では、通常、男性の視点で女性が語られる。男性の視点が力と動きのある立場で、その対象は動かない立場だ。しかし愛が誰の視点で語られるかといえば、弱者の方なんだ。弱者は相手を見つめ、相手が自分をどう思っているか解明しようとする。これがとても気に入った。『キャロル』は、明らかに本筋とは何の関係もない男の視点から始まり、やがて観客はこれがテレーズの物語になると気づく。だが映画の終盤に今度はキャロルの視点に変わる。その時、弱い立場にいるのはキャロルだからね。そして心を開放することがどれだけ大切なことか気づいているのも、キャロルなんだ」

ビリー・ホリディの歌う「Easy Living」がゆったりと流れ、1950年代のニューヨークの建築やファッションが再現されている本作。明るさや派手さはなくともシックでモダンな映像は魅力のひとつだ。このことについて監督は、「たとえばヴィヴィアン・マイヤーやルース・オーキンといった当時の写真家も参考にした。今回はスーパー16で撮影して、デジタルでは出せない粒子の荒さなどにこだわった」と話している。

ケイト・ブランシェット

アメリカでは2015年6月26日に事実上、全米で同性婚が合法化されることになって。日本では2015年11月5日より渋谷区にて、同性カップルを結婚に準じる関係と公的に認める「パートナーシップ証明書」の全国初の交付が話題となったことも記憶に新しく。トランスジェンダーや同性愛といった性的マイノリティに対して社会が前向きに動き始めているなか、こうしたテーマの映画も増えつつある。ただなかには、完成した映画の公開が製作国で無期延期となり、日本でも公開中止になる、という場合も(最近では『アバウト・レイ 16歳の決断(原題:About Ray)』)。センシティブなテーマであることから、観る側が誤解や偏見をもつことにならないように、誠実かつ丁寧に製作することが求められている。

『エデンより彼方に』『ベルベット・ゴールドマイン』などを手がけてきたヘインズ監督は、「『キャロル』はたぶん僕にとって初めてのシンプルなラブストーリーじゃないかな」と語る。「僕はこれまで、愛というよりは純粋な欲望を描いてきたと言えるかもしれない。また、僕の映画はアイデンティティの問題も取り上げている。意識的にせよ無意識的にせよ、ひとつのアイデンティティだけを受け入れることや、ひとつのアイデンティティに限定する困難についての問題をね」

作品データ

キャロル
公開 2016年2月11日よりTOHOシネマズみゆき座ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 アメリカ
上映時間 1:58
配給 ファントム・フィルム
映倫区分 PG12
原題 Carol
監督 トッド・ヘインズ
脚本 フィリス・ナジー
原作 パトリシア・ハイスミス
出演 ケイト・ブランシェット
ルーニー・マーラ
カイル・チャンドラー
ジェイク・レイシー
サラ・ポールソン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。