レヴェナント:蘇えりし者

アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督×レオナルド・ディカプリオ
アメリカ開拓時代の伝説的なハンター、グラスの実話をもとに
息子を殺された男が復讐に燃え真冬の山を突き進む姿を描く

  • 2016/04/25
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レヴェナント:蘇えりし者© Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

映画『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『21グラム』『バベル』などのアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが監督・脚本・製作、主演にレオナルド・ディカプリオ、『ゼロ・グラビティ』『バードマン〜』のエマニュエル・ルベツキによる撮影により、2016年の第88回アカデミー賞にて監督賞・主演男優賞・撮影賞を受賞した話題作。出演はディカプリオ、映画『ダークナイト ライジング』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のトム・ハーディ、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のドーナル・グリーソン、『メイズ・ランナー』のウィル・ポールター、本作が映画デビューとなるネイティブ・アメリカンの部族の一員である若手俳優フォレスト・グッドラックほか。原案は、開拓時代のアメリカに実在したハンターの伝説的な逸話をもとに、世界貿易機関(WTO)のアメリカ大使であり作家であるマイケル・パンクが2002年に出版した著書『The Revenant: A Novel of Revenge』、音楽は2014年に中咽頭癌の治療・療養を経て’15年8月に復帰した坂本龍一。狩猟中に熊に襲われたハンターのヒュー・グラスは瀕死の重傷で身動きができないなか、ハンターの1人に目の前で息子を殺され、極寒の地に置き去りにされるが……。復讐に燃え真冬の山越えで約300kmを進む過酷な道程と、厳しい自然と対等に向き合う強靭な肉体と精神力、古(いにしえ)からの知恵を描く。人工的な照明を一切使わず太陽光や火などの自然光のみの撮影で、原始に近い自然を映す圧倒的な映像に引きこまれる作品である。

レオナルド・ディカプリオ,ほか

1823年、アメリカ西部の広大な未開拓地。ヘンリー隊長が率いる狩猟者の一団が、ミズーリ川沿いで獲物から毛皮を剥ぎとり荷造りをしていると、娘をさらった白人を探す先住民たちの激しい襲撃を受ける。彼らとの衝突を避けるため冬山を越える厳しいルートをいくなか、ベテランのハンターで案内役のヒュー・グラスがハイイログマに喉を裂かれて重体に。身動きのできない彼を運び続けることは困難、という苦渋の決断をした隊長はグラスの息子ホーク、グラス親子を慕うガイド見習いのジム、報酬目的で居残りを志願したフィッツジェラルドの3人にグラスの臨終を看取るよう言い渡して皆を連れて出発。驚異的な生命力で何日も生きながらえるグラスを忌々しく思ったフィッツジェラルドが密かにグラスを殺そうとした時、止めに入ったホークを殺害。フィッツジェラルドはホークの死体を隠し、水場から戻ってきたジムに敵の銃撃と偽り、身動きができないまますべてを目撃していた重傷のグラスを置き去りにして、ジムとともにその場を立ち去る。グラスは生死の境をさまよいながらも亡くした息子を悼み、なんとか体が動かせるようになった頃、フィッツジェラルドに復讐すべく這いずるようにして彼らの後を追い始める。

動くのも声を出すのもままならない瀕死の状態から、烈火のごとき復讐心に突き動かされるかのように、息子の仇の後を追って極寒の山を越え300kmの道を突き進む顛末を描く、非常に過酷な物語。アメリカでは伝説的なハンターとして広く知られるグラスへの思い入れが日本人には特になく、テーマのひとつである“復讐心”にどう向き合うか、という面にフォーカスすると、容易には受け入れ難い面もあるものの、“自然と人”というテーマのほうを静かに見つめると印象が変わってくる。イニャリトゥ監督は本作の主題について語る。「『レヴェナント』は厳しいサバイバルの話だが、同時に、感動的な希望の話でもある。私が大切だと思ったのは、この冒険を、驚嘆と発見、自然と人間の精神の両方を探索するものとして伝えることだった」

レオナルド・ディカプリオ

愛する息子を目の前で殺され絶望し、復讐心を道連れにレヴェナント(黄泉の国から戻った者)となるグラス役は、ディカプリオが熱演。リアリティを追求するイニャリトゥ監督に全面的に応えて、ハーディとの格闘シーンで鼻を折るというアクシデントをものともせず、時にはマイナス27℃となる極寒の環境のなか、バイソンの生の肝臓を食べ、凍った川の中に入り、実際に動物の死骸の中で眠り……という9ヵ月に渡るロケ撮影に臨んだとのこと。ディカプリオは2016年3月23日の来日記者会見で今回の過酷な撮影について、「もう一度と言われても二度とやらないと思う」と笑いながら冗談めかしてコメント。また2016年1月6日(現地時間)にアメリカで開催されたニューヨークプレミアにて、本作に出演した経緯と撮影、テーマについてこのように語った。「出演の決め手は監督だった。脚本のすばらしさに魅了された。絶体絶命の状況で発揮される人間の不屈の精神や、生への執念の根源を描いている。監督はドキュメンタリーのように、異次元の世界や大自然を限りなく追求していた。彼がリアリティにこだわり抜いたからこそ役者として、最高の環境で仕事ができた。本物の大自然の中で集中して演技に臨んだんだ。ヒュー・グラスの冒険は強く心を打つテーマだ。亡霊のように死の底からはい上がってきた彼は勇気を奮い起こして諦めることなく進んでいく」
 休養宣言を撤回して出演した本作にて、アカデミー賞での5度目のノミネートで悲願のオスカーを獲得したことついては、スタッフや共演者、家族への感謝とともに喜びの声をストレートに伝えている。
 ホークを殺害しグラスを置き去りにするフィッツジェラルド役は、トム・ハーディが卑怯で差別的なしぶとい敵役を憎々しく、ハンターたちを率いるヘンリー隊長役はドーナル・グリーソンが誠実な男として、グラス親子を慕うガイド見習いのジム役はウィル・ポールターが半人前の優しい青年として、グラスとポーニー族の女性との間に生まれた息子ホーク役は、実生活でディネ族、マンダン族、ヒダーツァ族、ツィムシアン族の一員であるフォレスト・グッドラックが父思いの素朴な息子として、それぞれに演じている。
 前述のニューヨークプレミアにて、イニャリトゥ監督はこの映画のテーマについてこのように伝えた。「この映画のテーマは“蘇える”ということだ。誰にでも経験があるはずだ。人生に絶望しても、人はやり直す。傷を癒やして、また失敗する。そして、またやり直す。この作品で描くのは何度も蘇える男の話だ」

撮影を手がけたエマニュエル・ルベツキは、’13年の『ゼロ・グラビティ』、’14年の『バードマン〜』、そして本作と、アカデミー賞史上初の3年連続で撮影賞を受賞。日照時間がとても短い真冬のカナダ西部カルガリーを中心に、太陽光や火などの自然光のみでロケ撮影を行ったとのこと。監督の持ち味であるロングショットを撮影するため、限られた日照時間のなかでスタッフとキャストたちは集中し、撮り直しもままならないという非常に大変な撮影だったそうだ。監督曰く「ぴったりのロケ地を見つけるのに5年かかった。このプロジェクトは私の夢だった」そうで、撮影についてこのようにコメントしている。「やりがいがあって、楽しい撮影だったが、良いものを手にするには時間がかかった。私たちは特定の趣と雰囲気を維持したかったので、忍耐強く追求しなければならなかった。特定の状況をつくるという意味では、グラスの役どころと同様に“罠を仕掛けるハンター”に私たちもなったのだ」。また映画の性質について、「本作は言葉で伝えるのではなく、見せる映画だ。言葉やセリフではなく、物事を見せる」と語っている。

トム・ハーディ

実在したヒュー・グラスは1773年にフィラデルフィアで生まれ、1823年にヘンリー隊長の探検に加わりクマに襲われ重傷を負い仲間に見捨てられながらも、自力で生還。当時の新聞記者が全米に彼の話を伝え、彼についての著書は約200年の間にたくさん発表されたことから、アメリカでは広く知られている存在だそう。なかでも映画の原案であるパンク氏が‘02年に発表した著書『The Revenant: A Novel of Revenge』は、広範なリサーチに基づきグラスの姿を生き生きと熱心に執筆したと評価されている。
 ユニークなのは著者マイケル・パンクの経歴と今回の状況だ。現在51歳のパンク氏はスイスのジュネーヴで世界貿易機関(WTO)のアメリカ大使として勤務していることから、政府関係者による地位や肩書の乱用とならないよう倫理規定に基づき、著書やその映画化に関わるプロモーション活動をすることができず、自らの言葉でそのことについて語ることもほぼ一切できないそう。そのためか資料にもごく控えめに「原案:マイケル・パイク」とあるだけでプロフィール表記もなく、ひっそりとしている。ワイオミング州トリントンで生まれ育ったパイク氏は、子どもの頃は兄弟とともにハイキングや釣りや狩りをして過ごしたとのこと。そしてジョージ・ワシントン大学で国際関係を学び、コーネル大学ロースクールを卒業後、弁護士として上院議員の国際貿易顧問に。その後クリントン大統領のもとホワイトハウスで国家安全保障会議と国家経済会議のディレクターを務め、アメリカ合衆国通商代表の事務所で働き、法律事務所のパートナーを経て、2009年にWTOのアメリカ大使に。こうした多忙な日々のなかパイク氏は朝4:30に起きて仕事に行く前に執筆し、数年かけて著書を完成させたとのこと。彼のそうした純粋な情熱と献身はどこか胸を打つものがある。『The Revenant: A Novel of Revenge』は本作の撮影が始まった頃には絶版となっていたものの、映画の公開にあわせて改めて単行本として再出版されたそうだ。著書と映画化について直接には何も話せないことを残念に思いながらも、一度は絶版となった著書が認められ充実のスタッフ&キャストで映画化、オスカーをはじめ多数の映画賞を受賞という一連の出来事について、家族みんなでとても喜んでいるそうだ(「Washington Post」「The New York Times」記事より)。

アメリカでは’15年12月25日に北米で限定公開した後、‘16年1月8日に全米公開となり、全米興行成績はすでに1億8000万ドルを突破、全世界の興行成績は4億4000万ドルを越え、イニャリトゥ監督作品のなかでも最高の成績となっているという本作。監督は今回のオスカー受賞で、2015年の『バードマン〜』の受賞に次いで2年連続で監督賞を受賞した史上3人目、65年ぶりの快挙とのことで喜びもひとしおだろう。最後に’16年2月28日(現地時間)に行われた第88回アカデミー賞授賞式に参加した際のイニャリトゥ監督のメッセージをどうぞ。「こんなことが起きるなんて信じられません。この賞を受けることは素晴らしいことです。クレイジーで才能豊かなキャスト、スタッフ、いろんな大陸で撮影した方々……いろんな人と共有したいです。レオ、君こそが“レヴェナント”だよ。人生を注ぎ込み演じてくれてありがとう。トム・ハーディや、先住民の皆さん、英国兵の皆さん……多くの方々からのさまざまなサポートに感謝しています。本当に興奮しています。この世代であらゆる偏見を自ら解放しましょう。肌の色など全く意味がないのだと。髪の長さの違いと同じでね」

作品データ

レヴェナント:蘇えりし者
公開 2016年4月22日よりTOHOシネマズ 日劇ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 アメリカ
上映時間 2:37
配給 20世紀フォックス映画
原題 THE REVENANT
監督・脚本・製作 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ
原案 マイケル・パンク
脚本 マーク・L・スミス
撮影 エマニュエル・ルベツキ
音楽 坂本龍一
アルヴァ・ノト
出演 レオナルド・ディカプリオ
トム・ハーディ
ドーナル・グリーソン
ウィル・ポールター
フォレスト・グッドラック
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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