ヘイル、シーザー!

黄金期のハリウッドを描くコーエン兄弟最新作
大作の撮影中、誘拐された主演スターの奪還なるか?
豪華キャストの劇中劇やミュージカルも堪能できる群像劇

  • 2016/05/16
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ヘイル、シーザー!© Universal Pictures

ジョエル&イーサン・コーエン監督・脚本・製作の最新作は、1950年代のハリウッドを舞台に描く群像劇。出演は『ノーカントリー』のジョシュ・ブローリン、『ゼロ・グラビティ』のジョージ・クルーニー、『アベンジャーズ』シリーズなどのスカーレット・ヨハンソン、『ムーンライズ・キングダム』のフランシス・マクドーマンド、『グランド・ブダペスト・ホテル』のティルダ・スウィントンらのコーエン兄弟作品の常連たち、また『007 スペクター』のレイフ・ファインズ、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のジョナ・ヒル、『フォックスキャッチャー』のチャニング・テイタム、そして若きハン・ソロを描く『スター・ウォーズ』のスピンオフ映画(北米で2018年5月28日公開予定)の主演に抜擢され、いま時の人となっている若手俳優アルデン・エーレンライクほか。ハリウッドのスタジオで大作映画の撮影中、主演の人気スターが誘拐され……。宗教もの、ウエスタン、ミュージカル、水中ショー、上流階級もの、といったさまざまな映画の撮影が進むなか、映画業界のあらゆる問題を解決する“何でも屋”が暗躍する。ジョエルが「この作品は昔の映画に対する愛から生まれたんだ」と語る、コーエン監督らの映画業界への愛と敬意がたっぷりと注がれた、カラフルな作品である。

1950年代のハリウッド。映画業界のスキャンダルや揉め事を解決するプロ、キャピトル・ピクチャーズの“何でも屋”エディ・マニックスの朝は早い。今日も問題の多い女優のもとに駆けつけ手際よく場をおさめ、聖書にもとづく作品の映画化に反対する宗教指導者たちを説得し、さまざまなトラブルに対応しながら毎日が過ぎてゆく。黄金期のピークを過ぎたハリウッドでは、各メジャースタジオはテレビの急速な台頭に押されるなか、赤狩り(共産主義の弾圧)や米ソ冷戦といった第二次世界大戦以降の政治的・社会的情勢の変化にも直面していた。そんな折、スタジオの命運を賭けた聖書にもとづく大作『ヘイル、シーザー!』の撮影中に世界的大スターの主演俳優ベアード・ウィットロックの誘拐事件が発生。現場が大混乱に陥る中、エディは速やかな事件解決のため行動を開始。セクシーな若手女優ディアナ・モランやダンスで魅せるミュージカルスターのバート・ガーニー、演技がどヘタなアクション俳優ボビーを巻き込みながら、隠密裏に身代金を準備。その頃、ウィットロックは見知らぬ海辺の家で目をさまし……。

ジョージ・クルーニー

アメリカの映画業界に実在した人たちがモデルとなっている登場人物や彼らのエピソードからヒントを得た内容、名作の舞台となった場所でのロケなどが楽しめる本作。当時のハリウッド映画やその関係者のことを知っているほうが断然楽しめる内容で、それらを知らないと置いてけぼり感もややあるだろうものの、豪華キャストが本格的な衣装やヘアメイクでパフォーマンスする劇中劇やミュージカル、アクの強いキャラクターたちの言動、奇妙な誘拐劇の顛末などを眺めるだけでも、それなりに楽しめるだろう。ジョエル・コーエンは語る。「この作品は、昔の映画に対する愛から生まれたんだ。(製作の過程で)過去のジャンルから少しずついろいろな要素を取り入れることができたのは、この映画を撮る楽しみのひとつだったね」

映画スタジオの“何でも屋”エディ・マニックス役はブローリンが好演。さまざまな問題解決に日々奔走し、映画業界の表と裏を知り尽くしながらも彼なりにその世界を愛する姿を飄々と演じている。女と酒が大好きな世界的大スターのベアード・ウィットロック役はクルーニーが、妙に順応しやすい素直で間の抜けた感覚をコミカルに。セクシーな人気女優ディアナ・モラン役はヨハンソンが口は悪くとも華やかに、ミュージカルスターのバート・ガーニー役はチャニング・テイタムが初挑戦のタップダンスで魅せ、キャピトル・スタジオのベテラン映像編集者C・C・カルフーン役はフランシス・マクドーマンドが職人らしく、ゴシップ記事で人気の双子の女性記者ソーラ役&セサリー役はスウィントンが1人2役で、上流階級のドラマを手がけるローレンス・ローレンツ監督役はファインズが、訛りの強い英語で演技がどヘタなアクション俳優ボビー役はエーレンライクが、それぞれに演じている。
 コーエン兄弟作品にお初のファインズは、出演できるのを何年も待っていたそうで、撮影をとても楽しんだとコメント。「ジョエルとイーサンの指導は控えめで、とてもリラックスしている。それはなかなかできないことだよ。現場ではチームができ上がっていて、各自が自信を持っている。段取りがスムーズであらゆる作業が迅速に進み、とても効率的で素晴らしい雰囲気だった」

スカーレット・ヨハンソン

本作のキャラクターは、たくさんの実在した人物がモデルとなっているとのこと。1950年ごろに映画スタジオMGMで実際に“何でも屋”をしていた実在のエディ・マニックスとハワード・ストリックリング、『世紀の女王』など数々の水中ショーで知られる女優エスター・ウィリアムズ、『ミネソタの娘』のオスカー女優ロレッタ・ヤング、1930〜‘50年代にかけてライバル同士だった女性コラムニスト、ヘッダ・ホッパーとルエラ・パーソンズ、1950年代から長きに渡り人生相談コラムを担当したアビゲイル・ヴァン・ビューレンとアン・ランダースの双子の姉妹、『避暑地の出来事』などの青春映画スターであるトロイ・ドナヒュー、1930〜40年代に“ハリウッド・キング”と称されたアクション・スターのタイロン・パワー、“歌うカウボーイ”として知られるジーン・オートリーやロイ・ロジャース、そして『雨に唄えば』などで知られる大スターのジーン・ケリー、『トップ・ハット』などで愛される大スターのフレッド・アステアなどなど。元ネタを知っておくとこの作品の内容もより楽しめるだろう。

見どころは、現代の人気俳優たちが本格的な衣装とヘアメイクで当時の映画撮影を再現する劇中劇や、彼らが歌い踊るミュージカルシーンの数々。クルーニーは劇中劇『ヘイル、シーザー!』で膝丈のチュニックに革製の胸当て、独特な形状のサンダルといった1959年の映画『ベン・ハー』のようないでたちで古代ローマ時代の英雄を演じ、エーレンライクはカウボーイ役で投げ縄や射撃の大半を演じ(ギョッとするような馬上スタントはアクション監督タッド・グリフィスの息子ガットリンが担当したよう)、ヨハンソンは人魚の尾ひれをつけて水中に飛び込み32人のパフォーマーたちとともに水中ダンスを優雅に舞い、テイタムはセーラーカラーに帽子といった水兵スタイルで鮮やかに歌とダンスとタップを披露している。テイタムは本作の魅力について語る。「この映画の最大の魅力は、どこを取ってもエンターテイメントに満ちている点だ。これは映画という芸術形式を称える映画だ、たとえその輝きが失われつつあるとしても」

チャニング・テイタム,ほか

またこの映画では、過去の名作の舞台となった場所でのロケも。劇中劇『ヘイル、シーザー!』で約200人の兵士が行進するアッピア街道のシーンは、テレビシリーズ『大草原の小さな家』が撮影されたシミバレーにある撮影地ビッグスカイ・ムービー・ランチにて、ヨシャファトの物語は『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』『バットマン』『ザ・モンキーズ』などの撮影で知られるロサンゼルスのグリフィスパークにある元採石場ブロンソン・ケイブスにて、ウエスタンのシーンは数々の西部劇に加え、『スタートレック』の有名なエピソード「怪獣ゴーンとの対決(Arena)」や映画版『フリントスト―ン』のベッドロックシティとしても撮影されたバスケス・ロックス自然公園にて、またキャピトル・ピクチャーズの外観は現代のワーナー・ブラザース・スタジオの車と機材をすべて片づけて撮影し、映画スタジオとしてロサンゼルスのダウンタウンにあるユニオン駅の外観を一部使用したとも。念願のコーエン兄弟作品への初出演となったテイタムは、現場で感じたことについて嬉しそうに語る。「ジョエルとイーサンとの撮影は学ぶことがすごく多かった。彼らはかなり具体的なんだ。映画産業とその歴史を茶化しながら、同時にそれを称えている。本当にすごい才能だよ」。また当時の撮影を丁寧に再現した劇中劇の撮影について、「ほんとに感動したよ。映画が当時どのように作られていたか理解することができた。撮影の仕組みから場面ごとに継ぎ目なく撮るカメラの動かし方までね。夢のなかで1951年の撮影所を見学しているようだった」とコメントしている。

ハリウッドのスタジオ・システムの偽善的な側面をコミカルに描きつつも、当時の黄金期を象徴するプロ意識や職人技に対するコーエン兄弟のオマージュが込められている本作。ダークな面も含めてオフビートの笑いとともに映画愛を作品として表現するという意味では、どこかアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督・脚本・製作による2014年の映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を思い出す感覚も。そもそも『ヘイル、シーザー!』の構想自体は約15年前からあったそうで、コーエン監督たちは“思考実験”の感覚でクルーニーにその内容を伝えたところ、クルーニーが「映画になる」と周囲に話したことから始まったとのこと。実際に脚本を書いたのは映画にする直前だったとも。1950年代のハリウッドを軸に、宗教、ウエスタン、ミュージカルなどのジャンルも描く大がかりな内容について、ジョエルは冗談めかして笑いながら語る。「脚本を書いてから『なんてこった、これを撮るなんて』と、それがいつも問題なんだ。…うそだよ、そんなことないよ(笑)」。この映画に登場する共産主義者についてはイーサンが、「物語にきちんとハマる面白いキャラクターを考えていて思いついたのであって、僕らの考え方を反映させているわけではないよ」とコメント。そしてジョエルはこの作品の魅力について、このように語っている。「この作品は、1950年代のハリウッドを意図的に美化して描いたものなんだ。当時の映画製作や美しくデザインされた映画に対して、愛情と称賛という要素もあるね。現代の感覚では、あの環境や状況に自分たちの身を置くことは不可能だけれど、当時の映画作りに愛おしさを感じさせる内容になっているんじゃないかな」
 そしてコーエン監督作品の常連であるスウィントンは映画について、このように語っている。「映画は今も大勢の人たちを夢中にさせ続けている。幸運にもこの業界で働くことができている人たちさえもね。映画には決して変わらない何かがある。当時の人たちにも夢が必要だったし、それは今も変わらないわ」

作品データ

ヘイル、シーザー!
公開 2016年5月13日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2016年 アメリカ・イギリス
上映時間 1:46
配給 東宝東和
原題 Hail,Caesar!
監督・脚本・製作 ジョエル・コーエン & イーサン・コーエン
出演 ジョシュ・ブローリン
ジョージ・クルーニー
アルデン・エーレンライク
レイフ・ファインズ
スカーレット・ヨハンソン
ティルダ・スウィントン
チャニング・テイタム
Cフランシス・マクドーマンド
ジョナ・ヒル
ヴェロニカ・オソリオ
アリソン・ピル
クリストファー・ランバート
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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