是枝裕和監督 × 阿部寛 × 樹木希林
ギャンブル依存の売れない作家は息子の養育費もままならず…
“元家族”の微妙な関係と思いを映す、ささやかな物語
『そして父になる』『海街diary』の是枝裕和監督による、“なりたかった大人になれていない大人たち”の物語。出演は、2008年の是枝作品『歩いても 歩いても』で親子を演じた阿部寛と樹木希林が再び母と息子として、『劇場版 MOZU』の真木よう子、’16年10月公開予定の『デスノート Light up the NEW world』の池松壮亮、’16年8月公開の『秘密 THE TOP SECRET』のリリー・フランキー、『紙の月』の小林聡美、『家族はつらいよ』の橋爪功ほか。売れない作家の良多はギャンブルがやめられず、離婚した元妻と暮らす息子の養育費を払うこともままならない。年老いた母、しっかり者の姉、現実を見据える元妻、大人たちを見つめる子ども、“元家族”の微妙な関係と、それぞれの思いを淡々と映す、ささやかな物語である。
母の留守中、実家の団地に勝手に上がり込んだ良多は、父の遺品から金目のものを売り払ってギャンブルに負け続けの穴埋めをしようとするが、何も見つからない。出先から帰ってきた母に聞くと、父の遺品はすべて捨てたと言われ、いつも通り他愛ない話をして過ごす。良多は15年前に文学賞を獲ったきりの売れない作家で今は興信所に勤めているも、周囲にも自分にも「小説のための取材だから」と言い訳をしながら日々をやり過ごしている。ギャンブルがやめられず、離婚した妻・響子の元にいる11歳の息子・真悟の養育費もろくに払えず、響子には呆れられている。そして月に1度の真悟との面会日に、今月分の養育費を用意できないまま、良多は真悟を連れて母の団地を訪ねる。その夜は台風が接近し、迎えに来た響子も一緒にしぶしぶながら団地に泊まることになる。
是枝裕和が原案・脚本・監督・編集をつとめる最新作。私小説であるかのような、どこかひっそりとした雰囲気の是枝監督らしい物語だ。2001年に本作の着想を得たことについて、是枝監督は語る。「父が亡くなって、団地でひとり暮らしを始めた母の元へお正月に帰った時に、いつかこの団地の話を撮りたいなあ、と思いました」。脚本の執筆は2013年の夏、『海街diary』の脚本に取り組みながら、「今なら書ける」と思い立ってすぐに執筆を始め、第1稿を完成させたそうだ。
ギャンブルで金をスり続け、養育費も払えず、新しい恋人のいる元妻の身辺調査をコソコソする、売れない作家で興信所勤めの良多役は阿部寛がどこまでもダメな感じで、団地でひとり暮らしをしている母・淑子役は樹木希林が、息子に愛あるダメ出しを飄々と繰り出す様をいい味わいで演じ、母と息子のゆったりとしたコミカルなかけあいが楽しい。キャスティングについて監督はそもそも、「樹木さんがOKしてくれなければ、この作品は撮らないつもりでした」と語り、良多役もまた「(阿部さん以外の)ほかの人にお願いする発想がまったくなかった。だから脚本も阿部さんの声を思い浮かべて書いていました」とのこと。阿部寛は語る。「僕はなぜか強い妻がいる役柄をいただくことが多いのですが、男っていうのは、『奥さんが強くてね』と言っているくらいの方が、人間味があって魅力的ですよね。強がっているのに非常に弱い、ダメだけど愛おしい良多をみなさんに見ていただけたら嬉しいです」。また『奇跡』以降、すべての是枝作品に出演している樹木希林は是枝監督について、こんなふうに話している。「あれほど感性豊かな人って、普通はもっとエキセントリックになるものだけど、是枝さんはぼやーんとした感じ(笑)。才能ですね。人柄も才能だと思います」
シングルマザーとして一人息子を育てる良多の元妻・響子役は真木よう子が、一人息子の真悟役は吉澤太陽が、良多の勤める興信所の所長・山辺役はリリー・フランキーが、興信所の後輩である町田役は池松壮亮が、良多をたしなめる姉の千奈津役は小林聡美が、淑子の音楽の先生・仁井田役は橋爪功が、響子の新しい恋人であるエリート会社員・福住役は小澤征悦が、それぞれに演じている。
劇中に登場する団地は、是枝監督が9歳から28歳まで実際に住んでいた場所である、東京都清瀬市の旭が丘団地とのこと。撮影の際には当時の是枝監督を知る団地の住人たちがやってきて、ほのぼのとした歓迎ムードが漂っていたそうだ。物語の登場人物と団地の共通点について、監督は語る。「この映画に登場する人たちはみな『こんなはずじゃなかった』という思いを抱きながら、夢見た未来とは違ってしまった今を生きています。そして、映画の主な舞台になる公団住宅も、建設された当時は思いもしなかったであろう、老人ばかりの現在を生きています。今回の映画は、そんなどうしようもない現実を抱えながらも、夢を諦めることも出来ず、だからこそ幸せを手に出来ないでいる、そんな等身大の人々の今に寄り添ったお話です」
「自分の今を一番色濃く反映出来た作品であることは間違いない」と監督が語る本作。2016年の第69回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に出品し、現地での上映でも好評を得たとのこと。映画祭の公式上映後、2016年5月19日にカンヌで行われた日本メディア向けの囲み取材で、監督は本作についてこんなふうに語った。「今回は伝わるか伝わらないかをあまり気にせず、狭く深く描いていった作品だったのですが、きちんと描けば必ず伝わると思っていたので、それを今日の上映で実感しました。郷土愛が強いタイプではないんですが、自分の地元がカンヌで上映されると、さすがにちょっと感慨深かったですね。団地センターとか(笑)」
公開 | 2016年5月21日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2016年 日本 |
上映時間 | 1:57 |
配給 | ギャガ |
英題 | After The Storm |
原案・監督・脚本 | 是枝裕和 |
出演 | 阿部寛 真木よう子 小林聡美 リリー・フランキー 池松壮亮 吉澤太陽 橋爪功 樹木希林 |
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