マネーモンスター

J・フォスター監督×G・クルーニー×J・ロバーツ
金融やエンタメなど現代社会に対する風刺を含ませ
リアリティ番組ふうの緊張感で描くサスペンス

  • 2016/06/10
  • イベント
  • シネマ
マネーモンスター

ジョディ・フォスター監督、ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツ共演という豪華な顔合わせによるサスペンス。出演者はほかにアンジェリーナ・ジョリー監督作『不屈の男 アンブロークン』で主演を務めた25歳のジャック・オコンネル、2015年に『ピープル』誌の「世界で最も美しい50人」に選出されたモデル出身のカトリーナ・バルフほか。上場したばかりの会社アイビス・キャピタルの株が急落。その株取引で全財産を失った男が、全米で高視聴率を誇る財テク番組『マネーモンスター』生放送中のスタジオに乗り込み、司会者を銃で脅し番組をジャックする――。生放送の番組ジャックという事件の行方、その現場で人気司会者と敏腕女性プロデューサーはどう対処していくのか、株価が急落した企業の対応とその裏事情、番組をジャックした犯人の動機と事情など、はりつめた緊張感の中さまざまなドラマが交錯し展開してゆく。金融やエンターテインメントなどアメリカの現代社会への風刺を含みつつ描くサスペンスである。

ジョージ・クルーニー,ジュリア・ロバーツ

人気司会者リー・ゲイツは今日も快調、高視聴率を誇るアメリカの財テク番組『マネーモンスター』の生放送が始まる。が、放送開始から間もなくスタジオ内に銃声が響き、外部から侵入した不審者によってリーが人質にとられ、番組がジャックされてしまう。犯人の男は株価の急落によって全財産6万ドルを失ったと話し、銃でリーを脅し爆弾をセットしたベストを着せて、この番組でリーが間違った情報を無責任に伝えたからだと生放送で訴える。番組のプロデューサー兼ディレクターのパティは最悪の事態を回避しようと、株価の急落により8 億ドル以上もの損失を出した会社アイビス・キャピタルの広報担当者ダイアンに、生放送で株主に対して納得のいく説明をするよう求める。が、通り一遍の回答しか得られず、犯人も番組スタッフも苛立つなか、リーはパティとイヤホンで会話しながら、犯人をなだめすかしつ命懸けの駆け引きをする。そして警察が事態を収めようと動き出し、パティとダイアンはそれぞれにアイビス社の株価急落の理由を独自に調べ始める。

“リアルタイム・サスペンス”と銘打ち、アメリカのリアリティ番組さながらテイストで描く作品。事件が起き、解決しようと関係者たちがそれぞれにあらゆる手段を講じ、紆余曲折を経て展開し、登場人物たちのキャラクターが立っていることで人間ドラマとしても引きつける、というわかりやすい構成でシンプルに楽しめる。
 視聴率がとれる人気司会者として一目置いてはいるものの、スター然とした軽薄な態度と毎度の気まぐれな番組進行に辟易するディレクター、本物の番組ジャックが生放送で起こっていても、いつもの様子でテレビ画面をぼんやりと眺める全米の視聴者たち、大きな危機を回避するためには関係者のある程度の犠牲もやむなしと強引に作戦を進めようとする警察の人々、会社の上司と株主やメディアとの板挟みになり自分の無力さに焦れる広報担当者……と、“アメリカの現代社会あるある”を生々しくとらえているところも興味深い。

ジュリア・ロバーツ,ジョージ・クルーニー

人気司会者リー役は、ジョージが軽薄で刹那的な業界人から事件に対処していくことで人としての気づきを得ていくさまを好演。本作には製作としても参加し、劇中では誰を支持し信じるかは、理屈よりも直感で決まる、という感覚を表現している。リーが番組の冒頭で踊るダンスは、トム・クルーズが映画『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』で演じた、Fワードを連呼する映画プロデューサー、レス・グロスマンのダンスを彷彿とさせる面白さも。フォスター監督は本作の見どころについて、このようにコメントしている。「私が最もワクワクするのは、仕事で成功しているのに、じつはダメ人間で軽薄なうぬぼれ屋が、まわりに助けられながら難局を切り抜け、人間的な心を見出し、大人の男へと変化していく過程なの」
 番組のプロデューサー兼ディレクターのパティ役は、ジュリアが仕事熱心で突発的な事件にも回避するためにベストを尽くそうとする姿を演じている。2016年5月12日に第69回カンヌ国際映画祭にて本作がガラ上映された際、カンヌに初めて参加したジュリアは喜びとともにこのように語った。「すぐ隣には親愛なる友人ジョージがいて、私がどこにでもついて回りたくなるようなジョディがいる。素晴らしいわ。ジョージが脚本を送ってくれて、すごく気に入ったの。それでジョディと電話で話して、2人ともとても興奮したわ。TV局のスタジオやコントロールルームでの撮影はすごくハードワークだった。私はただ、いつもジョディにいいところを見せたくてがんばっていたようなものね(笑)」
 フォスター監督は友人である2人が出演を快諾し、『オーシャンズ12』以来11年ぶりにジョージとジュリアが共演し実現した本作について、2016年6月2日に約8年ぶりに来日し行われた舞台挨拶付き試写会イベントにて、このように語った。「2人とも素晴らしい俳優で、しかも友人でもあります。特別な絆があって、マジカルな関係です。映画を観てもその絆が感じられると思います。ジョージには、プロデューサーも務めてもらいました。この映画は脚本を手にしたところから始まったのですが、その内容がいい形になったところで、ジョージに見せました。そしたら彼もいろいろと意見を言ってくれ、快諾してもらったという経緯があります。なので、この企画が成立したのはジョージのおかげでもあるのです。また、彼は私に監督としても自由を与えてくれ、とても感謝しています」
 番組をジャックしたカイル役は、ジャック・オコンネルが武装し無謀な犯罪をしてはいても憎めない人間臭い青年として、ストーリーの重要な役割を担っている。8億ドル以上もの損失を出したアイビス・キャピタル社の広報担当者のダイアン役は、カトリーナ・バルフが会社と株主やメディアとの板挟みになり困惑する広報担当者から、自分で調査し判断するようになっていく様子を、アイビス社のCEOウォルト役はドミニク・ウェストがひたすらコメントを避けようとする姿を演じている。

作品の系統として、’16年3月に日本公開となった『マネー・ショート 華麗なる大逆転』などの金融もの、’16年4月に日本公開となった『スポットライト 世紀のスクープ』などのジャーナリズムものの流れを汲むとも言われている本作。確かにそういう面もあるものの、筆者が女性のせいか個人的には、女性キャラクター2人が男性に三下り半をつきつけて自立を選択するところや、異性であっても恋愛抜きで純粋に仕事のパートナーとして信頼し合うことがストーリーのポイントとなっているところも印象に残って。ふと、フォスター監督のプライベートを思い出した。彼女は2013年の第70回ゴールデングローブ賞授賞式で、自身が同性愛者であることに関わる発言をしてなんとなく周知のこととなり、2014年4月にパートナーの女性写真家アレクサンドラ・ヘディソンと同性結婚をしたことで公認となって。今回はそれから初めて完成させた映画だからこそ、自分らしい感覚や考え方を臆することなく率直に打ち出すことができたのかなと。LGBTQに関わることは世界的にひとつの流れとなっているなか、彼女が自身のプライベートをオープンにしたこと、ならではの視点や発想がさまざまにあることは、彼女にとってこれからある意味で強味になっていくのではないだろうか。

ジョージ・クルーニー,ジャック・オコンネル

2016年5月4日(LA 現地時間)には、ジョディ・フォスターがハリウッドの殿堂入りを果たしたというニュースも。俳優として20代の時に映画『羊たちの沈黙』『告発の行方』でアカデミー賞を2回受賞し、監督として今回で4作目、プロデューサーとして数々の作品を手がけるなど、ハリウッドへ多大な貢献をしてきたことが称えられている。ハリウッド・ウォーク・オブ・フェイム(ハリウッド大通りとヴァイン通り沿いの歩道に、エンターテイメント界で活躍した人物の名前を刻んだ星型プレートが2,000以上埋め込まれている)に自身の名入り星型プレートを追加するセレモニーに参加したジョディは、殿堂入りの喜びをこのように語った。「アメイジングだわ! このハリウッド大通りから10ブロック先で私は育ったの。子供のころからウォーク・オブ・フェイムの星のセレモニーが行われていることにワクワクして、夢見ていたの。自分の息子たちに『ママはどうしてハリウッド大通りに星がないの?』と聞かれてこう答えたわ。『映画監督としてもらえるまで待っているのよ』と。その夢が叶ったわ。本当にありがとう! ハリウッドが大好きよ」
 また前述の舞台挨拶付き試写会イベントにて、日本のファンにこのように呼びかけた。「この映画が心から大好きです。愛情を注いでつくりました。制作は大変でしたが、この映画はテクノロジーやスピード感など、今を生きている世界の物語です。早いペースで展開していくので、気を張って観てください! そして、自分だったらどうするかを考えてみてください」

作品データ

マネーモンスター
公開 公開
制作年/制作国 2016年 アメリカ
上映時間 1:39
配給 ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
原題 Money Monster
監督 ジョディ・フォスター
脚本 ジェイミー・リンデン
脚本・原案 アラン・ディ・フィオーレ
ジム・カウフ
出演・製作 ジョージ・クルーニー
出演 ジュリア・ロバーツ
ジャック・オコンネル
ドミニク・ウェスト
カトリーナ・バルフ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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