山下敦弘監督×松田龍平主演の初タッグ
しっかり者の小学生と偏屈でぐうたらなおじさん
奇妙なコンビの珍道中を描く、ほのぼのドラマ
しっかり者の小学生の甥っ子と、インテリなのに何かとダメダメなおじさん。彼らの日常とハワイを旅する珍道中を描く、ほのぼのとした物語。出演は『舟を編む』の松田龍平、『悼む人』の10歳の子役・大西利空、『海よりもまだ深く』の真木よう子、戸次重幸、寺島しのぶ、宮藤官九郎、キムラ緑子、銀粉蝶、戸田恵梨香ほかの充実の顔合わせで。原作は芥川賞作家・北 杜夫が自身の経験をもとに1972年に発表した同名の小説、監督は『オーバー・フェンス』の山下敦弘、脚本は須藤泰司プロデューサーが強い思い入れとともに甥っ子の役名“春山ユキオ”名義で参加。小学生の雪男は、学校の宿題の作文「自分のまわりにいる大人について」で、家に居候しているお父さんの弟・おじさんについて書くことにする。大学の臨時講師で自称・哲学者、ビンボー、ケチ、屁理屈ばかりの“インテリぼんくら”のおじさんの姿を、「ぼく」の素朴なつぶやきと的確な目線で追っていく。オフビートの笑いを誘う、のんびりとした作品である。
小学4年生の春山雪男は「自分のまわりにいる大人について」というテーマで作文を書くことに。公務員の父と専業主婦の母では面白い内容が浮かばないので、居候しているおじさんについて書こうと決める。おじさんは大人のくせに万年床に寝転がってマンガばかり読み、しょうもないイタズラをして、猫のニャムよりも働かずに運動神経もゼロ、時には雪男をダシにお母さんからお小遣いをもらうことも。ある日、お見合い話がきたおじさんは乗り気ではなかったものの、相手の女性・稲葉エリーがハワイの日系四世の美女だったために一目ぼれ。でも彼女は祖母が経営するコーヒー農園を継ぐためにハワイへ帰国。どうしても彼女に会いたいおじさんは、雪男とともにハワイへと向かう。
ダメダメなのにどこか憎めないおじさんと、小学生ながらよくできた甥っ子の雪男のコンビによる、のどかな物語。ともすればやや退屈になりかねない内容ながら、松田龍平の演じる、したいことをしたいようにする弟タイプの自由な大人と、大西利空の演じる面倒見のいいお兄ちゃんタイプの子どもという、どことなく納得するバディとしての相性の良さが観ていて楽しい。人の弱さやダメさをいい味わいで描く山下監督の演出の妙、主役級の俳優を何人も配する贅沢ぶりがいい塩梅の面白味となっている。
おじさん役は松田龍平がいつでもどこでもマイペース、飄々とした仕方ない人として。彼が演じているからこそ独特のテンポとおかしみで、おじさんが魅力ある人として伝わってくるのだろう。2016年10月5日に東京で行われた完成披露親子試写会の舞台挨拶にて、彼はこのように語った。「はじめにこの台本をいただいた時、どんな映画になるのかまったく想像できなくて、でも実際に完成作を見た時に本当に素敵だなと思いましたし、そこではじめてコメディ映画だと気づきました(笑)。それまでは何の映画なのかよくわかっていなくて、台本を何度も読んでもどうしたらいいかわからなくて、監督に『この映画はどうしたらいいんでしょうか』とお聞きしたら、『俺もちょっとわからないんだよ』と言われて(笑)。そういうところからスタートしたので、かえって『やってやる』というチャレンジ精神が生まれて、そしたらこんな優しい映画が出来上がりました。面白いシーンの時は笑って、この映画を楽しんでいただければ、と思っています」
「ぼく」こと小学生の春山雪男役は大西利空が、小さな体でおじさんと手をつなぎながらも、どちらかというと世話を焼く側になることの方が多い様子がかいがいしくもかわいらしい。エリー役は真木よう子がマドンナとして爽やかに、和菓子屋の御曹司・青木役は戸次重幸が、雪男のお母さん役は寺島しのぶが、お父さん役は宮藤官九郎が、お母さんの姉・智子おばさん役はキムラ緑子が、エリーの母親キャシー役は銀粉蝶が、雪男の担任のみのり先生役は戸田恵梨香が、それぞれに演じている。
昭和40年代の設定で描かれている原作を、時代を現代に置き換えて描く本作。撮影は日本に加え、ハワイのオアフ島とハワイ島にて。ハワイではオアフ島のチャイナタウンなどで撮影され、おそらく意図的にわかりやすいハワイの名所はほとんど映されていないものの、ハワイ島のコーヒー農園などゆったりとした雰囲気が楽しめる。
本作の企画を手がけた須藤プロデューサーは、映画『探偵はBARにいる』シリーズを手がけた際、松田龍平に「もう少し年齢を重ねたら“おじさん”を演じてもらいたい!」と思い、自ら脚本を書き上げて映画化を実現したとのこと。須藤プロデューサーは原作を小学校の頃に読み、その面白さから強く印象に残っていたそうだ。原作者である作家・北 杜夫は、芥川賞を受賞した純文学『夜と霧の隅で』のほか、自身が船医として半年間務めた体験をもとにした『どくとるマンボウ航海記』などのエッセイでも知られる通り、精神科医であり小説家である人物。この映画の原作『ぼくのおじさん』の主人公は自らをモデルに執筆したそうで、おじさんの居候する春山家は、著者の父である歌人で医師の斎藤茂吉の一家を描いているという逸話も。
率直な雪男少年の目線で大人たちの姿をとらえ、ゆったりとした時間が流れる本作。山下監督は前述の完成披露親子試写会の舞台挨拶にて、この映画の魅力についてこのように語った。「雪男が作文に書くのは、子どもからみた大人の世界。お子さんには雪男の眼を通して、お子さんの視点から映画を観てもらえますし、大人も自分の中にあるはずの子どもの眼で観ていただけると、『大人って変で、でも面白い』ということを感じて、お楽しみいただけると思います」
最後に2016年11月3日に行われた初日舞台挨拶にて、松田龍平が語ったメッセージをお伝えする。「夢中で“おじさん”をやってきました。大人が子どもと同じ目線で一緒に笑って観ることのできる映画です。ぼくも好きな映画になったので、たくさんの方に観ていただきたいと思います」
公開 | 2016年11月3日より丸の内TOEIほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2016年 日本 |
上映時間 | 1:50 |
配給 | 東映 |
監督 | 山下敦弘 |
原作 | 北 杜夫 |
脚本 | 春山ユキオ |
出演 | 松田龍平 大西利空 真木よう子 戸次重幸 寺島しのぶ 宮藤官九郎 キムラ緑子 銀粉蝶 戸田恵梨香 |
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