沈黙-サイレンス-

遠藤周作の歴史小説をマーティン・スコセッシが映画化
キリシタン弾圧の史実をもとに、人の狡さや弱さ、
強さと信念について描く、重厚なヒューマンドラマ

  • 2017/01/20
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遠藤周作の歴史小説『沈黙』を、『タクシードライバー』『ディパーテッド』のマーティン・スコセッシ監督が映画化。出演は『アメイジング・スパイダーマン』のアンドリュー・ガーフィールド、『シンドラーのリスト』のリーアム・ニーソン、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』のアダム・ドライバー、そして窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシほか日本人俳優も多数。脚本は『ギャング・オブ・ニューヨーク』のジェイ・コックスが手がける。江戸時代の初期、厳しいキリシタン弾圧のなか、日本に渡った高名な宣教師フェレイラが棄教したという知らせがポルトガルに届く。彼の弟子である若き司祭ロドリゴとガルペは、フェレイラの安否と真相を確かめるべく長崎へ潜入するが……。キリシタン弾圧の史実をもとに、人の狡さや弱さ、強さと信念について描く、重厚なヒューマンドラマである。

17世紀、江戸時代の初期。幕府の厳しいキリシタン弾圧により、高名な宣教師フェレイラが日本で捕えられ棄教したという知らせがポルトガルに届く。彼の弟子である司祭のロドリゴとガルペは、 師の消息を確かめるべく危険を承知で日本に渡ることを決意。マカオで案内人として日本人のキチジローを雇い、その手引きで長崎へと潜入する。ロドリゴとガルペは“隠れキリシタン”と呼ばれる日本人たちに丁重に迎えられ、彼らの司祭として務めながら隠れ住むことに。そしてフェレイラの行方がつかめないまま日々が過ぎ、幕府の取締りは厳しさを増してゆき、ロドリゴらは囚われてしまう。

リーアム・ニーソン

スコセッシ監督が1988年に原作と出会ってから28年かけて、遂に映画化を実現したという本作。監督は初めて『沈黙』を読んだ時、大きな衝撃を受け、まるで彼個人に話しかけられたような気がしたと言う。「遠藤が本で提示したテーマは、私がとても若い時からずっと考えていたものだ。熱烈なカトリックの家庭で育ったため、私と宗教との関りはとても深かった。子供の時に浸っていたローマカトリック教の精神性は、いまだに私の基盤となっている。私はこの年になっても、信仰や疑い、弱さや人間のありようについて考え、疑問を感じているが、これらは遠藤の本がとても直接的に触れているテーマだ」
 そして監督は2017年1月16日に行われた来日記者会見にて、原作との出会いと映画化への思いについて、このように語った。「エピスコパル教会のポール・ムーア大司教から『沈黙』を差し出されました。『最後の誘惑』(キリストとユダについて描き、議論を巻き起こしたスコセッシ作品)の後で、私は自分の信仰心を見失い、何かいまひとつ納得いかないという気持ちになっていました。『沈黙』は、もっと深く探究しなければならないのだと教えてくれた、私にとって大切な作品なのです」

窪塚洋介

棄教したという師の消息を追い、ポルトガルから日本へと渡る若き司祭ロドリゴ役は、アンドリューが熱心な宣教師として。ロドリゴとともに渡日したガルペ役はアダムが、混沌とした状況に翻弄されながらも信者たちを導こうとする司祭として、ロドリゴとガルペの師である高名な宣教師クリストヴァン・フェレイラ役はリーアム・ニーソンが、2人を案内する日本人の男キチジロー役は窪塚洋介が、長崎奉行所の通辞(通訳)役は浅野忠信が、敬虔な隠れキリシタンのひとりであるモキチ役は塚本晋也が、長崎奉行の井上筑後守役はイッセー尾形が、それぞれに演じている。監督は前述の記者会見にて、本作のテーマと今日性について、また劇中のキチジローの存在と問いかけについて、このように語った。「弱さや懐疑心を描いた作品だから、そういうテーマ(問題)を抱えた人に伝わればいい。また、否定ではなく受け入れることを描いた作品でもあり、特にキチジローは『弱き者の生きる場はどこに?』と問いかけます。弱者を排除しない世界、人が人として生きる真価とは何かを考えることでもあります」
 原作である遠藤周作の『沈黙』は、実在のポルトガル人宣教師クリストヴァン・フェレイラの史実をもとに創作された歴史小説。1966年に出版されてすぐにベストセラーとなり80万部以上を売り上げ、同年に谷崎潤一郎賞を受賞。1969年に英訳されて以来、世界20カ国以上で翻訳され、高く評価されている作品だ。遠藤周作は1923年に東京で生まれ11歳の時に洗礼を受け、『イエスの生涯』をはじめ多くの作品でキリスト教を主題としている。1991年、スコセッシ監督は脚本家のジェイ・コックスとともにニューヨークで遠藤周作と会い、「『沈黙』の映画化に賛同いただくようお願いした」とのこと。その際に「実現すると嬉しいね」と話してくれたとも。また監督は原作を「何度も数えきれないほど読み直している」そうで、この小説について、「数少ない芸術作品にしか見出したことのない、滋養のようなものを与えてくれる」と語っている。

浅野忠信

「なぜ『沈黙』を映画にしたのか。それは私にとって、この作品が人間にとって本当に大切なものは何かを描いた作品だからです」このようにスコセッシ監督が語る本作は、キリスト教の信仰と弾圧についての物語であるものの、人の内面、心の在り方に迫る人間ドラマとして丁寧に描かれている。とりあえずの仏教徒、特定の宗教への思い入れは特にない、という日本人に多いタイプの筆者にも、劇中に登場する信者たちの信仰の純粋さは胸を打ち、理不尽や不条理に追い詰められてもくじけずに清濁併せ呑み、生き抜くためにも、信じることは人の心を強くするという“信仰”の本質を感じた。監督は前述の来日記者会見にて、本作への思い入れについてこのように語った。「積年の思いでようやく完成したこの作品を、日本の皆さんに受け入れてもらえて本当に嬉しく、夢がかなったという気持ちです。どう作るべきか、どう解釈するべきか、試行錯誤の旅だった。映画が完成したから終わりではなく、この映画とともに生きていく感覚です」

作品データ

沈黙-サイレンス-
公開 2017年1月21日よりTTOHOシネマズ スカラ座・みゆき座ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2016年 アメリカ
上映時間 2:41
配給 KADOKAWA
原題 Silence
監督 マーティン・スコセッシ
脚本 ジェイ・コックス
原作 遠藤周作
出演 アンドリュー・ガーフィールド
リーアム・ニーソン
アダム・ドライバー
窪塚洋介
浅野忠信
イッセー尾形
塚本晋也
小松菜奈
加瀬亮
笈田ヨシ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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