ラ・ラ・ランド

D・チャゼル監督がミュージカルとジャズに愛を捧ぐ
ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン共演で
夢と愛を生きる2人をオリジナルの楽曲と物語で鮮やかに

  • 2017/02/10
  • イベント
  • シネマ
ラ・ラ・ランド© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

映画『セッション』の新鋭デイミアン・チャゼル監督による新作は、もうすぐ授賞式を迎える第89回アカデミー賞にて最多13部門14ノミネートのほか、すでに第74回ゴールデン・グローブ賞など数々の賞を受賞している話題作。出演は『きみに読む物語』『ドライヴ』のライアン・ゴズリング、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のエマ・ストーン、『セッション』のJ・K・シモンズ、そしてグラミー賞アーティストのジョン・レジェンドがミュージシャンを演じ、劇中で書き下ろしの曲「Start A Fire」を演奏、エグゼクティブ・プロデューサーも務める。カフェで働きながら女優を目指すミアは、場末のバーで演奏するジャズ・ピアニストのセバスチャンと出会い、最初は互いに反発し合うが……。現代のロサンゼルスを舞台に、夢を追う男女の姿をオリジナルの楽曲にのせて描く。情熱と苦悩、恋愛と諍い、生き生きとしたエネルギーを音楽と歌とダンスで軽妙かつ鮮やかに映し出すミュージカル映画である。

アメリカのロサンゼルス。映画スタジオのカフェで働くミアは女優を目指しているものの、何度オーディションを受けても落ちてばかり。ある日、ピアノの音色に惹かれてバーに立ち寄ったミアはピアニストのセバスチャンに声をかけるが、店長の選曲に従わずにクビになった彼は、無礼な態度でミアを無視する。その後、ミアとセバスチャンはなぜか何度も偶然に会い、互いに皮肉や嫌味を言い合いながらも、そのうち夢を語るようになり、惹かれ合ってゆく。

ライアン・ゴズリング,エマ・ストーン

高速道路の渋滞にハマった人たちが車から次々と降りて歌い踊り出すという、思いがけないシチュエーションでの躍動的なダンス・シーンから始まる本作。ブロードウェイの『ウィキッド』をはじめ数々のミュージカル、映画、テレビ番組などを手がけてきたプロデューサーのマーク・プラットは、チャゼル監督の手腕について語る。「ロサンゼルスの現在の生活を、クラシックなミュージカルのスタイルで描くという新しいアプローチに感心した。ジャック・ドゥミ監督作品のような豊かな色彩や、ジェローム・ロビンズやボブ・フォッシーの振り付けを取り入れながら、現代のキャラクターにリアルな感情を演じさせることで、チャゼルはミュージカルというジャンルを甦らせたんだ」

ジャズ・ピアニストのセブことセバスチャン役は、ライアン・ゴズリングが夢よりも愛を選ぼうとする男のせつない心情を表現。ピアノの演奏を3カ月間かけて習得し、全編吹き替えなしで彼が演奏を披露。ライアンはもともとピアノを演奏したいと思っていたそうで、このようにコメントしている。「ピアノを習う時間がほしいとずっと思っていたんだ。このチャンスをフルに活かして、3カ月間一心不乱に練習した。非常に満たされた準備期間だったよ」
 彼の演奏のクオリティには監督も作曲家のハーウィッツもとても驚いていて、共演したミュージシャンのジョン・レジェンドもこのようにコメントしている。「本当にうまくてゾクゾクした。ピアノを始めて数カ月とは思えない腕前だ。正直、悔しかったし、感動したよ」
 女優志望のミア役はエマ・ストーンがまっすぐに情熱的に。恋愛にも夢にも率直に向き合い、迷ったり挫折したりしながらも進んでゆく姿を好演している。2014年のブロードウェイの主演舞台『キャバレー』でも歌とダンスが高く評価されたエマは、本作でものびやかなパフォーマンスで惹きつけている。彼女の歌う曲のなかでも「Audition」と「City of Stars」の2曲は、事前収録ではなくそのシーンの撮影時に実際に歌った声そのままで、より臨場感が楽しめる。エマは語る。「『キャバレー』の経験で生のパフォーマンスがとても重要であると思っていたの。今回も歌に何か大切なエッセンスが加わったはずよ」
 またセブをバンドに誘うキース役はジョン・レジェンドが、バーの店長役はJ・K・シモンズが、ミアの友人ケイトリン役は日系イギリス人のソノヤ・ミズノが演じている。ちなみにジョン・レジェンドはミュージシャンが出演する場合に多いチョイ役ではなく、セブと一緒に何度もバンドの演奏をしたり、古いミュージシャン仲間として彼の進退に関わったりと俳優としてしかと演じている。

エマ・ストーン

劇中で数々の魅力的なミュージカル・シークエンスが展開する本作。「ダンスナンバーはできる限りワンテイクで撮りたい」というチャゼル監督の考えから、重要なシーンでそれを実現したというから驚きだ。まず道路や車の上で大勢の人々が魅せるオープニング・ナンバー「Another Day of Sun」は、道路を封鎖したほんのわずかな時間にてワンテイクで撮影。バラバラに歌い動き始め、ラストにはかなり遠くまで全員で一斉に同じ振りで踊るシーンは圧巻だ。ゴズリングは語る。「いったんカメラが回ってしまえば、すべてをできる限り完璧にこなさなければならなかった。だから、リハーサル期間を3カ月設けたんだ。デイミアンが欲しがっている映像をワンテイクで撮れるようにね」
 またメイン写真にもなっている黄色いワンピースのミアとシャツにネクタイ姿のセブが「A Lovely Night」を歌い踊る約6分のシーンも、カットなしで撮影。この曲はかわいらしいラ・ラ・ランドの割には歌詞がシニカルなところがまた楽しい。街を見下ろす高い丘の上から美しい夜景を2人で見ながら、「こんな素敵な夜なのに、なぜ隣にいるのがあなたなの?」とお互いに歌とダンスを応酬するのだ。
 チャゼルが多くの場面で求めたワンテイクの撮影について、撮影監督のリヌス・サンドグレンは語る。「デイミアンは、後から効果を加えるのを望まなかった。この映画の魔法に偽物はひとつもない。何もかも現実にカメラの前で起こらなければならなかった。本当に難題だったよ」
 2017年1月26日に行われたジャパン・プレミアにて、ワンテイクの撮影についてライアンはこのように語った。「すごく大変。本当に大変だった。ただ、絶対に間違えてはいけない緊張感の中でスタッフ全員が集中して、一生懸命で、みんなとの繋がりを感じたし、そこにマジカルなものが生まれたんだ」

「この映画を作ること自体が夢だった」と語るチャゼル監督。そもそも本作の企画は、往年のミュージカル映画『雨に唄えば』や『シェルブールの雨傘』、『ロシュフォールの恋人たち』などに憧れていたチャゼル監督がハーバード大学在学中に思いついたとのこと。その時に、昔からの友人であり同大学で作曲と管弦楽の編曲を学び、本作にも作曲で参加しているジャスティン・ハーウィッツとともに、卒業制作としてミュージカル映画『Guy and Madeline on a Park Bench』を2009年に撮影。それが高い評価を受けてチャゼルは気鋭の若手監督として大々的に注目された。そして大学を卒業後、チャゼルとハーウィッツはロスに引っ越して脚本の執筆を進めながらミュージカル映画の制作を目指したものの、脚本を安く買いたたかれ、曲をジャズからロックに変更するなどの理不尽な要求をされたことから行き詰まり、まずは映画『セッション』をハーウィッツとともに先に製作。それが世界的に認められ成功したことから、もともとの目標だったミュージカル映画を製作会社に売り込み、ライオンズゲートとブラックレーベルメディアと契約。予算も拡大、前述のプロデューサー、マーク・プラットも加わり、本作が完成したそうだ。

ライアン・ゴズリング

「ジャズは死にかけている」とは、劇中のセブの台詞。筆者は個人的にジャズもミュージカル・ナンバーも大好きで普段からよく聴いているので、そこまで廃れているとは思っていなかったし、これほど魅力あるジャンルが消えてなくなることなど考えたこともなかったけれど。確かにジャズもミュージカルも一部の愛好家が好むもので、往年の名曲が好まれ、ファンの数が年々減ってきているなか、すべてがオリジナルの楽曲とストーリーによるミュージカル映画で、若い世代からシニア層まで幅広いファンに支持されているのは快挙であり、ジャズとミュージカルにまだまだ大きな可能性があると示すことができたこと自体が、素晴らしいことだなとしみじみと思う。
 余談ながら、劇中ではオリジナル・スコアの楽曲以外にも、a-ha「Take On Me」などのヒット・ソングもちらほら。ふと、ジャズ・ピアノの演奏が趣味の知人が「『Take On Me』のコードは意外と格好いいんだよ」と言っていたことを個人的に思い出した。

本作が2017年のアカデミー賞にて、1997年の映画『タイタニック』と並ぶ史上最多13部門14ノミネーションとなったことについて、2017年1月27日に東京で行われた来日記者会見でチャゼル監督はこのように語った。「まだショックから抜けられない。とても光栄なことだと思っています。この映画は心を込めて作った作品で、多くの人が自分たちの限界を超えて作った映画です。映画に関わってくれたスタッフたち、チームの皆が評価されて本当に嬉しい」 また2017年2月4日(現地時間)には第69回全米監督組合(DGA)賞にて、長編映画部門の監督賞を32歳のチャゼルが最年少で受賞。授賞式のスピーチにて、彼は本作についてこのように語った。「この映画が希望を与えることを願っています。伝えたいメッセージがひとつあるとするなら、たとえどれほど非現実的に思えても夢を追い続けてほしい、ということです。それが波及効果を生むこともあると、本当に信じています」(アメリカ『VARIETY』オンラインより引用)。

作品データ

公開 2017年2月24日よりTOHOシネマズ みゆき座ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2016年 アメリカ
上映時間 2:08
配給 ギャガ/ポニーキャニオン
原題 LA LA LAND
監督・脚本 デイミアン・チャゼル
出演 ライアン・ゴズリング
エマ・ストーン
ジョン・レジェンド
J・K・シモンズ
ソノヤ・ミズノ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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