T2 トレインスポッティング

あれから20年、レントンがスコットランドに帰郷。
キレのある音楽と映像、大人の悲哀や可笑しみ、
裏切りで途切れた友情の落とし前をスタイリッシュに描く

  • 2017/03/27
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T2 トレインスポッティング

「未来を選べ。」
 このキャッチで本国イギリス、アメリカや日本で大ヒットした1996年の映画『トレインスポッティング』の20年後を描く続編が完成。出演は前作より引き続き、『スター・ウォーズエピソード3/シスの復讐』などのユアン・マクレガー、『フル・モンティ』のロバート・カーライル、『イーオン・フラックス』ほか舞台やTVで活躍するジョニー・リー・ミラー、2017年公開の映画『ワンダーウーマン』のユエン・ブレムナー、『ソフィアの夜明け』のアンジェラ・ネディヤコバほか。監督は『スラムドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイル、脚本はジョン・ホッジ、製作はアンドリュー・マクドナルド、製作総指揮に原作者の作家アーヴィン・ウェルシュほか、キャストもスタッフも前作からのオリジナル・メンバーが多数。あれから20年、仲間を出し抜き大金を持ち逃げしたマーク・レントンが、スコットランドのエディンバラに帰ってくる。そして仲間たちと再会するが……。ただの続編に留まらず、前作から引き続きキレのある音楽や映像で惹きこみつつも大人として生きるペーソスや可笑しみ、裏切りで途切れた20年前の友情と人間関係がどうなっていくのかをユニークかつ冴えたストーリー展開で魅せてゆく、味わい深いドラマである。

スコットランドのエディンバラ。3人の仲間を出し抜き大金を持ち逃げしたマーク・レントンが、20年ぶりにオランダから戻ってきた。シック・ボーイことサイモンは、美人のガールフレンドを使って売春やゆすりをしながら、表向きはパブを経営。ジャンキーのスパッドは妻子と別れて孤独に苦しみ、ケンカ中毒のベグビーは殺人罪で刑務所に服役している。レントンは実家に戻ったあとでまずスパッドのアパートへ行きサイモンとベグビーの近況を聞く。その後レントンがサイモンに会いに行くと最初こそモメたものの、もともと子どもの頃から仲の良かった2人は、サイモンのガールフレンドのベロニカも引くほど親密に。そうこうしているうちにベグビーが刑務所を脱獄しサイモンのパブに現れ、サイモンがレントンの話を少ししただけで、「殺してやる!」と激昂する。

ユアン・マクレガー,ロバート・カーライル

伝説的な映画が20年を経ての、まさかの続編である本作。こういう作品はアタリかハズレかが大きいものだが、本作は見ごたえアリの内容となっている。復讐をストーリーのポイントにしながらユーモアと皮肉を交え、イギリスらしい冴えた音楽と映像で彩り、中年の迷いと可笑しみともの悲しさを現代的な視点で描いている。
 ボイル監督も当初は「つまらない続編を作って、みんなを失望させたくなかった」そうで、「最初の映画の封切りから21年が過ぎていた。一般的な常識で考えると続編を作るには20年遅すぎる気がした」とも。そして原作者の作家アーヴィン・ウェルシュや脚本家ホッジ、プロデューサーたちと脚本の内容を吟味し、続編が決定に至った経緯をボイル監督はこのように語っている。「映画の誕生から20周年目がやってきて、私たちは考えた。作るなら、今か、永遠になしか、そのどちらかだ。ジョンは脚本を書き上げ、私はすぐにそれを読んで、俳優たちに送った。私は思っていた――『この脚本をやらないなんて、どうかしている』。ただ、出演を断る理由もいくつか考えられた。特に気になったのは、何人かの俳優たちはTVのレギュラー番組を持っていたことだ。でも、幸いなことにみんなすごく前向きな返事をしてくれて、この企画を進めることができたんだ」

レントン役のユアンは人情と抜け目なさが状況次第でファジーにゆれる柔軟さをいい塩梅で、シック・ボーイことサイモン役は、ジョニー・リーがレントンへの憧れや友情や恨みがごっちゃになり混乱するさまをリアルに、気のいいジャンキーのスパッド役はユエン・ブレムナーが変化する状況に右往左往しながらも自分らしい道をゆく姿をいい味わいで、衝動的かつ暴力的なのに人気のキレキャラ、ベグビー役はロバート・カーライルが暑苦しくももの悲しさとともに、サイモンの彼女のベロニカ役はアンジェラ・ネディヤコバがコケティッシュに、20年前のレントンの元カノ・ダイアン役はケリー・マクドナルドがデキる大人の女性として、そして裏社会で伸しているマイキー・フォレスター役は前作に引き続き原作者のアーヴィン・ウェルシュが演じている。劇中ではトランス状態や便器、「〜〜を選べ」というセリフなどなど、前作で印象的だったシーンやアイテムが今回はこのように登場する、という面白さも。
 また本作では1996年当時のキャラクターを幻影のように、若い役者たちが演じている姿も印象的だ。ユアンは彼らが現場にいるのを見た時の不思議な感覚を語る。「そこには若いユエンやトミー、ジョニーやボビーがいて、僕のサッカーTシャツを着た役者もいる。すごく変な感じだった。なんて言ったらいいのかわからない。まるでこう言われている気がしたんだ。つまり、僕たちはもう22歳や23歳ではないってね。映画の中でもそうだが、それを思い知らされることになった」
 ボイル監督は20年ぶりに4人の俳優が顔を揃えて出演することへの感慨とともに、本作のテーマのひとつについてこのように語っている。「俳優たちに並んでもらい、20年前の容姿について振り返ると、すごく残酷に思える。たぶん、10年前なら俳優たちもそれほど変わっていなかっただろうけど20年となるとさすがに長く、その時間の重さが実感できる。みんなは今の容姿の受け入れ、以前の容姿と比べられることも覚悟している。すごく正直だ。現在の自分の立場に対する自分の責任も認めている。それこそが、今回のテーマでもあるしね」

ジョニー・リー・ミラー,ユアン・マクレガー,アンジェラ・ネディヤコバ

本作の音楽は、アンダーワールドのリック・スミスが映画全体のスコアを担当。前作ではアンダーワールドの「Born Slippy」をはじめ、ブラーやルー・リードの参加したサントラが大ヒットしたように、今回もイギー・ポップやブロンディに加えエディンバラのミュージシャン、ヤング・ファーザーズなどもセレクトされた充実のサウンドとなっている。リック・スミスは前作を称え、今回の音楽制作についてこのように語っている。「アーヴィンの原作にも、ダニーの映画にも、キャラクターにも、音楽にも、熱があった。そして20年が経過して、今回の新作のために音楽を作曲したり集めたりするのが本当に楽しい。あの時と同じようにとらえてもらえれば、と心から望んでいるよ」

原作者アーヴィン・ウェルシュは、自身の作家デビュー作として初めて生み出したキャラクターである本作の4人を、とても大事に思っているとのこと。ウェルシュは1993年のデビュー長篇『trainspotting』が世界的なヒットとなり、2002年に続篇『Porno(現在の邦題:T2 トレインスポッティング)』、2012年に『trainspotting』のプロローグにあたる『Skagboys』、そして2016年にベグビーの過去と現在を描く『The Blade Artist』を発表した。彼は今回の映画について、「他の人物に自分の願望を見てしまう部分がある。こうした対抗意識や相手への確固たるリスペクトがこの新作映画には出ている」と話し、キャラクターへの思いをこのように語っている。「人物たちが、今、何をしているのか、みんなは知りたがるだろう。それというのも、彼らに向上心があったせいだ。どんなに暗い状況でも、彼らが前に進み、なんとか解決法を見つけようする限り、観客たちは許すだろう。それによってドラマも発展するはずだ。つまり、人物たちが変わっていき、最後は以前と違う人間になってほしいと考える。彼らはそうする中で知恵を身につけ、何かに目覚めるかもしれない」
 ボイルは原作の魅力と続編の映画化について語る。「『T2』はアーヴィン・ウェルシュの2冊の本が基になっている。今回の映画は彼らの10年後のことを書いた本『Porno』の要素もあるが、原作の『Trainspotting』と輪を描いている部分もある。原作はまるで現代の『ユリシーズ』だと思う。本当に卓越した本で、これを読んでいると、まるで“激しい海の流れ”に飲まれていくような感覚がある。この映画はその力の奥に引き戻されていくような感じがあり、そんな世界に戻ることができて、本当に嬉しく思っている」

ジョニー・リー・ミラー,ユアン・マクレガー

またボイルは本作のさらなるテーマと、見どころについて語る。「この映画は時間を描いていると思っていた。ただ、編集に入って1カ月くらいたった時、実は“男であること”や“男が年をとること”もテーマになっていると気づいた。少年時代と大人の男は異なっているということだ。最初の映画には少年時代の無責任な感覚が出ていた。何も気にしないで生きていて、そんな時代はほかにない。気にしなくちゃいけないと思うことすらない。そして、『T2』はそれを裏返してみせる。時間はこっちのことなんておかまいなしだ。人前でかっこをつけるのも昔は簡単だったはずだが、今はその感覚を取り戻すには時間がかかる。だからこそ、お互いを探り合い、過去を蘇らせようとするのだろう。そのことを楽しんでいるのか、復讐を考えているのかは別としてね」
 余談ながら、前作をオンタイムで観た時は筆者もハマり、レントンのポスターを額に入れて部屋に置いていたりして。そして仲間内で「この中なら誰がタイプ?」とみんなで話していたことを思い出した。といってもだいたいみんなレントンで、シック・ボーイ派がちらほらという感じで。20年後の今、「この中なら誰が?」とふと考えてみたら、迷わず「スパッド」と思った。意志も腕力もひ弱で状況に流されやすくとも、純粋で素直で優しくて情が深く、クリエイティブに対して献身的で、危機を前にすると自己保身よりも「友だちと女性を守らなくちゃ」と考える。レントンが前作の最後でスパッドにしたことも、20年後を描く本作で最初にスパッドを訪ねることも、なんとなくわかる気がする。
 復讐と友情、少年たちが青年を過ぎ中年となり、20年を経て裏切りの過去にケリはつくのか。時代性に画期的に訴える前作のようなビビッドな面白さがあるわけではないものの、その後の彼らの決着にしても、この年齢になるとそうだよね、という感覚やユーモアの風合いにしても、いい味わいがあって。実社会と同様にきっちり20年歳をとったキャラクターたちが繰り広げるドラマ、あのスタッフ&キャストがスタイルとカルチャー、彼らの物語をいま表現するとこうなる、という面白さを体感してみてはいかがだろう。

作品データ

T2 トレインスポッティング
公開 2017年4月8日より丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 イギリス
上映時間 1:57
配給 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
映倫区分 R15+
原題 T2 Trainspotting
監督 ダニー・ボイル
脚本 ジョン・ホッジ
原作・
エグゼクティブ・プロデューサー
アーヴィン・ウェルシュ
製作 アンドリュー・マクドナルド
出演 ユアン・マクレガー
ユエン・ブレムナー
ジョニー・リー・ミラー
ロバート・カーライル
ケリー・マクドナルド
アンジェラ・ネディヤコバ
アーヴィン・ウェルシュ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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