ゴースト・イン・ザ・シェル

人気コミック『攻殻機動隊』をハリウッドで実写映画化
原作やアニメのキャラクターやビジュアル、思想を尊重し、
資本と技術を贅沢に駆使して熱心に作り込まれたSF作品

  • 2017/03/31
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ゴースト・イン・ザ・シェル© MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.

1989年に発表されて以来、アニメ映画、TVアニメ、小説、ゲームと展開し世界的な人気を誇る士郎正宗の人気コミックリーズ『攻殻機動隊』をハリウッドで実写映画化。出演は『アベンジャーズ』シリーズなどのスカーレット・ヨハンソン、2016年にフランス政府からレジオン・ドヌール勲章を受章したビートたけし、『LUCY/ルーシー』のデンマーク人俳優ピルー・アスベック、『アクトレス 〜女たちの舞台〜』のジュリエット・ビノシュ、ミュージシャンとしても活動している俳優マイケル・ピットほか。監督は1995年に押井守監督のアニメ映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』を観て以来ずっと惹かれ続けていたという『スノーホワイト』のルパート・サンダースが手がける。脳以外は全身義体である世界最強の少佐は、エリート捜査組織・公安9課を率いて凶悪なテロに立ち向かうなか、自身の記憶に不信を抱く。オリジナルの世界観をもとに新たにダイナミックかつスタイリッシュに構築し、はっきりとしたメッセージとわかりやすいストーリーで描く。原作やアニメのキャラクターやビジュアル、哲学的な思想を尊重しながら、資本と技術を贅沢に駆使して熱心に作り込まれたエキサイティングなSF作品である。

近未来。アジアをはじめさまざまな人種や文化がミックスした市街地。世界で唯一、脳以外は全身義体で世界最強の少佐率いるエリート捜査組織・公安9課は、凶悪なサイバーテロ犯罪を捜査している。他者の脳を次々とハッキングし自在に操るという謎の犯人を追うなか、少佐は自分の記憶が操作されていたことに気づき……。

スカーレット・ヨハンソン

公安9課を率いる少佐のルーツを描くストーリーである本作。凶悪テロの犯罪捜査、うごめく陰謀、そしてチームである仲間たちとの活躍、ほのかな恋情、家族のようなつながりなど、SFをベースにサスペンスと人間ドラマといったストーリーがしっかり楽しめる内容となっている。
 そもそも『攻殻機動隊』は、スティーヴン・スピルバーグ、ジェームズ・キャメロン、ウォシャウスキー姉妹ら大物監督たちもファンであると知られていて。今回の実写映画化の始まりは、まず2008年に『攻殻機動隊』初の実写化権をスピルバーグとドリームワークスが取得。それから8年かけてストーリーやスタッフやキャストといった準備を進め、実写での映画化を実現したそうだ。サンダース監督は本作について「リメイクではなく、リイマジニング」と語り、本作のストーリーと製作について、2016年11月13日に日本で行われたイベントでこのように語った。「この映画にはアクションもたくさんあり、クレイジーで極端な近未来を描いている。サイバーパンクの世界観を保ちつつ主人公の内面を映す、1人のキャラクターが自身を発見する旅なんだ。実写化では特にトーンにこだわった。マンガやアニメの実写化はトリッキーで難しい部分があるけれど、原作に非常に強さがあるし、キャスティング、ロケーション、デザインを一から作り上げて、違和感なく信じられるようにしたんだ」
 また製作総指揮のジェフリー・シルヴァーは、原作の思想やビジュアルを尊重したことや新たなストーリーとしての見どころを語る。「オープニングシーンの芸者ロボットをはじめ、ハンカ・ロボティックスやゴミ収集車など、自分もファンとして虜になった数々の細部が登場します。サンダースは原作の象徴的な要素を実写に数多く生かしています。原作には人間やテクノロジー、心身二元論をめぐる様々な要素があるなか、今回の映画ではストレートな探求の物語を通した『発見の旅』に焦点を当てています」 

公安9課を率いる少佐役のヨハンソンは、凶悪なサイバーテロの真犯人を追いながらも、自身のルーツをひたむきに探し求める姿を好演。彼女は1年以上前から準備を始め、撮影が始まる数か月前からニューヨークやロサンゼルスにて武術の専門家でアクションシーンの指導を担当したリチャード・ノートンと格闘技術の訓練をしたとも。ヨハンソンは語る。「武器の扱い方を学び、スタントチームの協力のおかげですべての格闘とワイヤーアクションをやり遂げることができたわ。身体性はこのキャラクターにとってすごく重要な部分だから、何でも自分でやれるようになろうと心に決めていたの」
 公安9課のメンバーとしては、少佐の相棒バトー役には「もともと14歳の時に観た押井守監督の映画版のファン」というピルー・アスベックが無骨ながらも人情味とユーモアと少佐への思いをあたたかく表現、元警察官で義体化していないトグサ役はシンガポール出身の実力派俳優チン・ハンが、少佐以外で唯一の公安9課の女性メンバー、ラドリヤ役は今回が長編映画デビューであるイギリスの女優で歌手のダヌシア・サマルが、情報収集のエキスパートであるイシカワ役はシドニー出身のラザルス・ラトゥーエルが、優れたスナイパーであるサイトー役はオーストラリアに拠点を置く日本人俳優・泉原豊が、爆発物のエキスパートであるボーマ役はジンバブエ出身で現在はニュージーランド在住のタワンダ・マニモが、そして公安9課の指揮をとる荒巻大輔役はビートたけしがどっしりとした存在感でハマっている。また映画のオリジナル・キャラクターであり、ハンカ・ロボティックス社の科学者で少佐を作り出したオウレイ博士役はジュリエット・ビノシュが、謎の男クゼ役はマイケル・ピットが、街で暮らす女性役は桃井かおりが、それぞれに演じている。本作には日本、ニュージーランド、オーストラリア、フランス、イギリス、アメリカ、カナダ、ジンバブエ、デンマーク、シンガポール、ポーランド、トルコ、フィジー、中国、ルーマニア、そしてベルギーなど世界各国から俳優たちが参加していて、国際色豊かな多国籍の雰囲気がよく伝わってくる。

ピルー・アスベック

ヨハンソンはストーリーのなかでも、少佐の内面を描く内容に惹かれたと語る。「自らの出自の真実を知りたいという彼女の欲求について、ルパートと私は会話を重ねました。このキャラクターは、自分には与えられた人生と、自分で選び取る人生の両方があると考えるようになる……それがこの映画に参加したいと思った本当の理由です。真のアイデンティティーの探究、誰もが持っている孤独感、そしてつながり――こうしたことはいつでも今日的なテーマだから」
 また1955年のアニメ映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の押井守監督はヨハンソン演じる少佐をこのように称賛している。「少佐には凶暴で、好戦的な側面もあるが、不安に苛まれてもいる。彼女はまったくの人間でもなければ、まったくのロボットでもない。スカーレットはそれを目で表現することができる。彼女は僕が描いたキャラクターとかなり近い。この役は彼女のための役で、他の誰も演じることができなかっただろう」
 サンダース監督は本作のメッセージについて語る。「テクノロジーは精神をまるごと乗っ取ることはできない。僕たちの自我は何らかの形で変わらずに存在し続ける。(劇中で)少佐の内面はゆっくりと変質を遂げる。それは自分に起こる良いことや悪いこと、どんなことも理解し受け入れていくプロセスだ。そこには本当に力強いメッセージがあり、それこそが届けたいものだ。自分が何者であっても何が起きようとも、その経緯が自分を作り上げていく。そのプロセスが僕たちの強みとなり、パワーとなるんだ」

個人的に本作でとても魅力的だと思うのは、SFとしてのビジュアルの見せ方だ。近未来のマシンやユニークなデジタルの表現が満載でありながら、郷愁を誘うアンティークなデザインや、古典的な拳銃や昔ながらの下町の風情が混在するさまをグレーがかったトーンと独特のニュアンスで描いている。長い間愛されてきたアニメやコミックを実写化するのは容易ではないものの、本作ではキャストとスタッフの表現力により充実のビジュアルと世界観が楽しめる。製作では、ニュージーランドのウェリントンに拠点を置く世界的に有名なデザイン・特殊メイクの制作会社「WETAワークショップ」のデザインチームが尽力した。そのスタッフの多くが原作コミックやアニメ版、TVシリーズのファンだったそうで、特に少佐が姿を自在に消すことのできる熱光学迷彩のデザインと製作は、数か月の研究と開発を経て完成したそうだ。そもそも2014年にサンダース監督が決まると、監督はプロデューサーたちに自らの考えを伝えるため、110ページものグラフィック・ノベルを自作して見せたとも。監督は語る。「『攻殻機動隊』のもともとの世界に立ち返りたかった。原作コミックのビジュアルに本当に心を捉えられたので、物語を大まかに説明するグラフィック・ノベルのなかに、原作のビジュアルをたくさん取り入れたんだ」
 さらに製作総指揮のシルヴァーは語る。「原作コミックやアニメの表現をすべてそのまま実写の映像に置き換えるのではなく、作品の精神に忠実にありつつも、新たな領域へ進めるように努めました。世界中にファンがいる作品に取り組むときは、ファンたちに心から敬意を払い、期待されるすべてを与えなければならない――その上で、新たなものを加えるんです」

スカーレット・ヨハンソン

2017年3月16日に日本で行われた記者会見で、サンダース監督は本作についてこのように語った。「アニメを実写化するというのは難しいですし、今回は様々な面においてチャレンジがありました。日本映画を意識したカットを取り入れましたし、黒澤明監督の『酔いどれ天使』とリドリー・スコットの『ブレードランナー』を合わせたような世界観をつくりあげるというチャレンジもしました。観た後にディスカッションできる、それぞれに考えてもらえる映画にしたかったんです。技術革新が進むなかで何が人間たらしめるのかというテーマは、原作の士郎正宗さんがパイオニアだということも改めて伝えたいです」
 おそらくご本人の意向と思うが、本作の製作過程に原作者・士郎正宗氏の名はあがっていない。撮影現場には押井守氏や神山健治氏が招かれ、製作総指揮をつとめる日本人メンバーが参加していたことは記されているが、士郎氏の動向やコメントは一切ない。士郎氏がメディアにほとんど出ないというのは承知ながら、できることなら個人的には本作について、士郎正宗氏の話をお聞きしたいと思う。
 SFの世界観をしっかりと描きながらも、メッセージをくっきりと際立たせてわかりやすい内容にし、幅広い層が楽しめるだろう本作。最後に、前述の記者会見でビートたけしが語ったメッセージをお伝えする。「原作はとてもマニアックでこういった作品は実写化などされるにあたり、文句を言われるのが定説ですが、今回は原作にとても忠実で、これまで実写化されてきた作品の中ではじめての成功例なんじゃないかと思います。監督がこの作品にかけていることも伝わりましたし、大きなスクリーンで観てほしいです」

作品データ

ゴースト・イン・ザ・シェル
公開 2017年4月7日よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 アメリカ
上映時間 1:47
配給 東和ピクチャーズ
原題 GHOST IN THE SHELL
監督 ルパート・サンダース
原作 士郎正宗
脚本 ジェイミー・モス
ウィリアム・ウィーラー
アーレン・クルーガー
出演 スカーレット・ヨハンソン
ピルー・アスベック
ビートたけし
ジュリエット・ビノシュ
マイケル・ピット
チン・ハン
ダヌシア・サマル
ラザルス・ラトゥーエル
泉原 豊
タワンダ・マニモ
桃井かおり
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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