ドリーム 試写会日記 毎週、あつた美希から映画ファンの皆さんへ熱いドリーム!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
ドリーム

© 2016Twentieth Century Fox

NASAに尽力した黒人女性3人の実話を映画化
人種差別が色濃く残る東西冷戦下のアメリカで
実力と知恵で邁進してゆく女性たちを描く感動作

NASAの宇宙開発に携わった実在する黒人女性3人の逸話を伝える、アメリカのノンフィクション作家マーゴット・リー・シェタリーの『Hidden Figures: The American Dream and the Untold Story of the Black Women Mathematicians Who Helped Win the Space Race(邦題:ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち)』を原案に映画化。出演は『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のタラジ・P・ヘンソン、『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』のオクタヴィア・スペンサー、シンガーで『ムーンライト』にも出演しているジャネール・モネイ、『クリミナル 2人の記憶を持つ男』のケビン・コスナー、『スパイダーマン』シリーズのキルスティン・ダンスト、『ムーンライト』のオスカー俳優マハーシャラ・アリほか。監督・製作・脚本は『ヴィンセントが教えてくれたこと』のセオドア・メルフィが手がける。NASAのラングレー研究所で働く数学者、技術者志望、管理職希望の3人の女性が、人種隔離政策による理不尽な待遇と環境のもと、不屈の姿勢で宇宙開発に尽力する姿を描く。実力と知恵で邁進してゆく登場人物たちの姿がすがすがしい、良質な人間ドラマである。

1961年、東西冷戦下のアメリカ、ヴァージニア州ハンプトン。NASAのラングレー研究所ではソ連との熾烈な宇宙開発競争のなか、有人宇宙飛行の準備を進めている。所内ではロケットの打ち上げに必要な“計算”を行うために、優秀な頭脳を持つ黒人女性たちが計算手として働いている。そのひとりである数学者のキャサリンは天才的な実力を見込まれ、黒人女性として初めて宇宙特別研究本部のメンバーに抜擢。しかし人種差別が色濃く残るなかで白人男性ばかりの職場の雰囲気はとげとげしく、そのビルには有色人種用のトイレがないことから、トイレを使うのに遠く離れたビルまで1日に数回往復するという不便な毎日に。そんななか、同僚の技術者志望のメアリーはエンジニアの試験を受けることを決意し、管理職希望のドロシーは、今後のコンピューター導入を見込んでプログラミングとデータ処理を独学で学び、仲間の女性たちにも教え込み、それぞれに今と先を見すえて自ら判断し行動してゆく。

オクタヴィア・スペンサー,タラジ・P・ヘンソン,ジャネール・モネイ,ほか

デジタルのスーパーコンピュータが誕生する以前、宇宙開発でも計算をすべて人の手で行っていた頃の実話をもとに描く本作。ロケットを打ち上げた時の軌跡や再突入の針路を正確に、高度な計算を即座にできる特別な頭脳と技能をもつ人々が集められた。ジム・クロウ法(人種差別的内容を含む米国南部諸州の州法)がヴァージニア州で浸透したままのなか、ラングレー研究所がアフリカ系アメリカ人の数学教師を中心とした女性のみのチームを雇ったことは前向きなことではありながら、所内ではっきりと区別はなされ、食事する場所もトイレも白人とは別で、仕事場もウエスト・コンピューティング(西計算グループ)として所内の敷地でも遠くはずれたエリアの建物にあり、給料も白人の同業者よりも少なかったという。
 この映画の企画を進めていた製作のドナ・ジグリオッティは、脚本執筆にアリソン・シュローダーを起用。シュローダーはNASAでプログラマーを務めた祖母、本作でも描かれるアメリカ初の有人宇宙飛行“マーキュリー計画”に参加した祖父らと同じく、彼女は高度な数学を学びNASAでインターンの経験も。しかしNASAの歴史に詳しいシュローダーでさえも、キャサリン、メアリー、ドロシーについては知らなかったと話す。「NASAの“人間コンピュータ”のことは知っていたけれど、アフリカ系アメリカ人の女性たちによる計算グループがあったことは1度も聞いたことがなかったわ」

女性数学者でありシングルマザーとして3人の娘たちを育てるキャサリン役は、タラジが天才的な数学の能力と忍耐強さをもつ人物として、技術者志望のメアリー役はジャネールが陽気でタフな女性として、管理職希望のドロシー役はオクタヴィアが面倒見がよく同僚たちを導く存在として表現。宇宙特別研究本部を率いるハリソン役はケビンが、やや配慮が足りないながらも部下を平等に評価しようとする上司として、悪気はなくとも無意識のうちに差別意識をもつ上司ミッチェル役はキルスティンが、キャサリンに惹かれる軍人ジム役はマハーシャラ・アリが、それぞれに演じている。

タラジ・P・ヘンソン

設定や背景、時期や研究所のほかの人物などについてはフィクションの部分も含む本作。ただし数学者のキャサリン・G・ジョンソン、航空宇宙科学エンジニアのメアリー・ジャクソン、ウエスト・コンピューティングのリーダー、ドロシー・ヴォーンは実在する人物であり、NASAのホームページでプロフィールをそれぞれ確認することができる。キャサリンは10歳で高校へ入学、18歳で数学とフランス語の学位を取得。人種に対する差別が撤廃された後、白人と同等の立場でウエスト・ヴァージニア大学の大学院に入学した最初のひとりであり、1953年にNASAの前身であるNACA(アメリカ航空諮問委員会)が運営するラングレー研究所に配属。ジョン・グレンの地球周回軌道の主な軌跡や、1969年の月へのアポロ飛行の計算を手がけ、2015年に米大統領自由勲章を受章した。ドロシーは19歳で大学を卒業後、数学教師を経て1943年にラングレー研究所に入所。すぐにウエスト・コンピューティング・グループの責任者となり、最新のIBMコンピュータが登場すると電子計算とフォートラン・プログラミングを専門に学び、自分と同僚たちを組織に欠かせない存在にして、ウエスト・コンピューティングのリーダーと見なされた。そしてメアリーは自然科学と数学の学位を取得し、1951年よりラングレー研究所に勤務。風洞実験や航空データを専門とする航空宇宙科学のエンジニアとなった。現在99歳のキャサリン本人は当時のことについて、このように語っている。「問題を解いてほしいと頼まれたから解くという感じで、アプローチしていたの。でも計算をやっているときには、自分たちがやっていることの重要性について、それが何のためか、なぜ重要なのかをもっと知りたいといつも思っていたわ。ただNASAでは知っているかどうかに関わらず、私たちは皆、同じ目標を目指していたの」

アメリカの情勢や世界の移民についてなど、人種や民族について改めて考えさせられる今。こうした出来事を越えてきた人たちがいて、現代の暮らしにつながっていると知ることは、差別や平等について考える上で参考になる部分もあるかもしれない。メルフィ監督は本作のテーマについて、このように語っている。「このストーリーでは、スキルと知識がどのように平等をもたらすものかがわかる。宇宙開発競争の時代にすべてを脇へどけて、“人種も性別も経歴も関係なく、数学ができるならば月へ到達する手助けをしてください”と言ったとき、素晴らしいことが起こった。人はその才能で判断されるようになり、その代わりに国に高い価値のある貴重な贈り物をしたんだ」

『ドリーム』
2016年 アメリカ映画

データ

2017年9月8日更新

オクタヴィア・スペンサー,ほか
オフィシャルサイト
『ドリーム』

2017年9月29日よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国ロードショー


■2016年 アメリカ映画
■上映時間 2:07
■20世紀フォックス映画配給
■原題/『HIDDEN FIGURES』
■監督・製作・脚本/セオドア・メルフィ
■脚本/アリソン・シュローダー
■原作/マーゴット・リー シェタリー
■出演/タラジ・P・ヘンソン
オクタヴィア・スペンサー
ジャネール・モネイ
ケビン・コスナー
キルスティン・ダンスト
ジム・パーソンズ
マハーシャラ・アリ




プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/
2015年はハースト婦人画報社『25ans』で“姫のためのエンタメ・コンシェルジュ”、フレグランスジャーナル社『アロマトピア』で“シネマ・アロマ”を連載。インタビュー記事の執筆も。
あつた美希