三浦しをんの特異な小説を大森立嗣監督が映画化
25年前に島で起きた殺人事件をめぐる
幼なじみ3人の因縁を描くダークな人間ドラマ

  • 2017/11/13
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光©三浦しをん/集英社・©2017『光』製作委員会

直木賞作家・三浦しをんの小説『光』を、映画『まほろ駅前多田便利軒』『まほろ駅前狂騒曲』と三浦氏の人気シリーズを手がけた大森立嗣監督が映画化。出演は、映画『ニワトリ★スター』『赤い雪 RED SNOW』など2018年も公開作品が続く井浦 新、“まほろ駅前”シリーズや2018年のNHK大河ドラマ『西郷どん』の瑛太、NHK-BSのドラマ『ふれなばおちん』の長谷川京子、映画『破門 ふたりのヤクビョーガミ』の橋本マナミほか。故郷の島である出来事を経験した3人の幼なじみの25年後の因縁を描く。暴力、執着、虚無、歪んだ愛情、そのすべてを呑み込む何か。ジェフ・ミルズのエレクトロ・ミュージックが鳴り響き、岡本太郎氏のオブジェやフリーダ・カーロの絵画などのアートを取り入れ、独特の境地がスクリーンに広がる。不思議な感触のダークな人間ドラマである。

井浦 新,瑛太

原生林が生い茂る東京の離島、美浜島。14歳の信之は幼なじみで同じ中学に通う同級生の美花と付き合い、体を重ねている。また父親から激しい虐待を受けている年下の少年・輔は、信之を慕いどこにでもついてくるため、信之は同情しながらも疎ましく思っていた。ある夜、神社の境内の森の中で、美花が見知らぬ男に乱暴されているのを見た信之は、激情にかられて男を殺害。輔はそのすべてを見つめていた。そして満月の夜、大津波が美浜島全体を襲う。
 25年後、津波で家族も家も失った信之は美浜島を離れ、都会の団地で妻・南海子と小さな娘・椿と3人で暮らし、市役所に勤務している。そして美花は一切の過去を捨て、女優・篠浦未喜として活躍していた。ある日、25年前の殺人事件のすべてを知る輔が信之の前に現れて、脅しをかける。

このストーリーは、実際に現実で起きている残虐な事件を容認するとかそういうことではまったくなくて。闇に対峙した人間の生々しい心情や行動を見つめながら、誰にとっても身近な暗黒と、はるか遠くの大きな視点を同時に見るようなユニークさを筆者は感じた。だまし絵や3Dの絵を見るのに、目の焦点をいつもと変えることで、もともとあるものが立体的に浮きあがる、というような。
 原作者の三浦しをん氏は映画と物語のテーマについて、このようにコメントしている。「映画『光』によって、“暴力と欺瞞を暴き立てたさきにあるもの”がなんなのか、私は知ることができた気がする。“生きる”ということだ。暴力と欺瞞から目をそらさずに、生きつづけるほかないということだ。そうやって我々は残酷でうつくしい日常を営んできたのだし、これからもそうする以外にないのだろう」

井浦 新,長谷川京子

ごく普通の夫であり父である信之役は井浦新が、内面の狂気をあたり前に受け入れている男として、信之を慕いながらも脅す輔役は瑛太が、ある意味で娼婦のような妖艶さと無邪気さを醸しつつ。表裏一体の愛憎がくるくると表になったり裏になったり。情も憎しみも偽りなく本物で、過剰にあふれてコントロール不能、それが解き放たれたら、という。ともに共演を熱望していたという井浦と瑛太は、さまざまな感情が混然となった複雑な関係を繊細に表現している。
 女優となった美花こと篠浦未喜役は長谷川京子が、信之の妻・南海子役は橋本マナミが、輔の父・洋一役は平田満が、美花のマネージャー・小野役は南果歩が、少年期の信之、美花、輔は福崎那由他、紅甘、岡田篤哉がそれぞれに演じている。

大森監督は脚本を執筆するなか、三浦しをん氏と何度も意見を交わし、推敲を重ねたとのこと。三浦氏は「デビュー作を拝見して以降、ずっと(大森監督)作品のファン」で、「ものすごく楽しみに、全幅の信頼を置いて、映画『光』の完成を待ち望んでいた」とも。そして三浦氏は映画へのコメントを、このように結んでいる。「私の不徳ゆえに小説でうまく届けきれなかったと感じていた点を、映画『光』は軽々と乗り越えていった。そして知りたいと願っていた“そのさき”の風景を見せてくれた。大森立嗣監督はじめ、この映画を生みだしたスタッフ・キャストのみなさまに、敬意と感謝の気持ちをお伝えしたい」

瑛太,橋本マナミ

生命力をみなぎらせて鬱蒼と生い茂る森に、いきなり激しいエレクトロ・ミュージックが響き渡るシーンから始まる本作。ともすると浮いてしまいかねないほどの強さと存在感をもつジェフ・ミルズのサウンドを、大森監督が映像にうまく生かしているのも面白い。また劇中には岡本太郎氏のオブジェやフリーダ・カーロの絵画、彫刻<カピトリーノの牝狼>などのアート作品がたびたび登場。さらなる非日常へトンッと突き飛ばされる感覚は、個人的には北野武監督作品を思い出した。大森監督は本作に個性的な音楽やアートを取り入れたことについて、「自分自身には“わからない”ものを取り入れ、その力を借りて自分自身を超えていきたい」という一心だった、と語っている。また2017年11月9日に行われた本作のプレミアイベントにて、監督はこのように語った。「自分自身の頭が硬直してきているというか、そういうのを一度壊したい、というのがありました。出来上がったのを見て、言葉にはできない胸の奥がざわざわしたものがあった。これは僕にとって特別な作品です」

観る人によって印象が大きく変わるだろう本作。最後に、前出のプレミアイベントにて井浦新、瑛太、大森監督がそれぞれに伝えたメッセージをご紹介する。
 大森監督:「映画はかなり衝撃的というか、なかなか最近の日本映画にはない映画に仕上がっていると思います」
 瑛太:「みなさん元気ですか!? 元気がないとこの映画、最後まで見終わることができません!」
 井浦:「一秒たりとも頭で考えた芝居なんてひとつもなくて、本能のままに感じたままをそれぞれの共演者の方たちとやらせていただいて。そうしたことは、ほぼないことです。そんなお芝居ができた作品で、間違いなく宝物のような作品になったなと思います」

作品データ

光
劇場公開 2017年11月25日より新宿武蔵野館、有楽町スバル座ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 日本映画
上映時間 2:17
配給 ファントム・フィルム
映倫区分 R-15指定
監督・脚本 大森立嗣
原作 三浦しをん
音楽 ジェフ・ミルズ
出演 井浦新
瑛太
長谷川京子
橋本マナミ
南果歩
平田満
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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