悪と仮面のルール

芥川賞作家・中村文則のノワール小説を映画化
“悪”を刻まれた男のダーティなドラマであり
その一途な思いと、周囲との人間模様を描く

  • 2018/01/15
  • イベント
  • シネマ
悪と仮面のルール© 中村文則/講談社 © 2017「悪と仮面のルール」製作委員会

アメリカの「The Wall Street Journal」紙にて、英語訳が2013年のベストミステリー10作に選出された芥川賞作家・中村文則氏の小説を映画化。出演はNHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』、映画『探偵ミタライの事件簿 星籠の海』の玉木宏、『聖の青春』の新木優子、『銀魂』の吉沢亮、そして村井國夫、光石研、中村達也、柄本明ほか。監督は福山雅治ら人気アーティストのミュージックビデオやCMを数多く手がけ、長編映画初監督の中村哲平が手がける。“悪”になるために創られた男・文宏は、顔を変え過去を捨て、ある目的のために殺人を繰り返すが……。衝撃的な内容や展開を描くダーティなドラマというだけでなく、“悪”について観る側に問いかけ、自問を促すかのような作品である。

玉木宏,ほか

日本有数の財閥・久喜家の三男として生まれた11歳の久喜文宏は父・捷三から、世界に拭いがたい悪の心”邪”を残すために生まれ、育てられたと告げられる。その後、文宏は久喜家の養女となった少女・香織と惹かれ合うようになり、彼女を守るために父を殺害して失踪する。そして十数年後、文宏は整形手術によって顔を変え、新たな戸籍を得て、“新谷弘一”という別人に。香織を守るために辣腕の探偵・榊原を雇い、殺人を繰り返してゆく。そんななか、文宏の過去を知る冷酷な異母兄の幹彦や、日本社会の転覆を企むテログループ“JL”が香織を狙い……。

犯罪を描くダーティなドラマでありながら、それだけではない本作。“悪”に傾くことについて、メッセージを明確に投げかけている。ラスト近くの文宏と青年との対話に含まれることは、どんなことにも染まりやすい若い世代にはとくに大切な感覚のように思える。また文宏が初恋の女性・香織を一途に思う恋愛ストーリーであり、いろいろな立場の人間たちが思い迷いながらも判断し自分なりの選択をしてゆく人間ドラマでもあるので、犯罪ものが不得手という場合でも意外と入りやすいだろう。中村哲平監督はこのストーリーの魅力について語る。「ただ暗いだけの話ではなくて、人を殺す場面でもちゃんと理由と意思がある。非常に重い話ではあるんですけど、最終的には恋愛ドラマであり、少しの希望があり、登場人物それぞれが“答え”をもっている。みんな純粋なんです」

新木優子,玉木宏

“悪”を刻み込まれた新谷弘一こと久喜文宏役は、玉木宏が壮絶な過去をもつ影のある男として表現。新境地に挑戦している。文宏の初恋の相手・香織役は新木優子が心優しい女性として、テログループ“JL”のメンバーである亮祐役は、吉沢亮が自分なりの道を行こうとする青年として、文宏を“邪”として育てる父・久喜捷三役は舞台で活躍する村井國夫が、文宏が依頼する探偵・榊原役は光石研が、文宏の異母兄であり、軍事産業で成功した現在の久喜グループを束ねる久喜幹彦役は中村達也が、殺人事件を追うベテランの刑事・会田役は柄本明がそれぞれに演じている。
 劇中では登場人物たちの対話が見どころのひとつ。撮影前に監督と俳優陣はリハーサルの時間を長くとり、キャラクターの人物像をともに掘り下げていったそうだ。文宏と香織のストーリーに加え、個人的には探偵・榊原、刑事・会田、それぞれの文宏への思いに、染みるものがあった。

映画化にあたり、脚本の完成まで2年かけたとのこと。スタッフたちは原作を尊重し、プロットだけでも10回以上作り直して、常に原作のもつ世界観や魅力をできるだけ脚本に盛り込むように心を砕いたとも。2017年12月12日に東京で行われたプレミアイベントにて、原作者の中村文則氏はスタッフとキャストを称え、このようにコメントした。「素晴らしいスタッフの方々、素晴らしい役者さんたちに演じていただけて、本当に素晴らしい出来になっていてとても感動しました。原作者もとても幸せだなと映画を観終わったあとに思いました」
 同イベントにて中村哲平監督は、原作と俳優たちへの思いを感謝とともに語った。「中村文則さんの原作を映像化するということで、すごく大きなプレッシャーを感じていたのですけれど、素晴らしいキャストのみなさんのおかげで素晴らしい作品になりました。現場ではNG とかがあまりなく、スムーズに撮影が進んだなというのが想い出です。20分、30分と長く回したテイクもミスとかもなく、スムーズに、でも感情的に演じていただきました」

吉沢亮,玉木宏

ここしばらく、映画で残酷な手口の犯罪が描かれる内容が増えている。実際の事件に影響を受け、人や社会の闇を描く重厚なストーリーが求められているのかもしれないけれど、そうした映画を次々と観ていくと、個人的には、どうしてそんなに、と思ってしまうこともある。ただ本作については、ストーリー展開や役者陣の魅力で引きつけながら、物語に込められた思いがくっきりと伝わるポイントを筆者は感じ、しみじみとした。中村哲平監督はこの映画について、このように語る。「この話は普遍的なもので、根本的にはみんなと変わらない(面がある)と思います。だから、若い人がこの映画を観ても引っかかってもらえる部分があると思いますし、幅広い年齢層の方に観てもらいたいですね」
 そして前述のイベントにて主人公を演じた玉木宏は、物語のテーマについてこのように語った。「善と悪とは非常に曖昧なもので、もちろん犯罪をすれば悪事になってしまうのですが、心のなかにある善悪というものは誰しもがもっているものだと思います。きっと観終わった後には、どこまでが自分のなかの理性で抑えられるものなのか、とか、自分が命をかけてまで守りたい人がいるかとか、そうことを想像させてくれるような作品だと思います」

作品データ

悪と仮面のルール
劇場公開 2018年1月13日より新宿バルト9ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 日本映画
上映時間 2:18
配給 ファントム・フィルム
原作 中村文則
監督・編集 中村哲平
脚本 黒岩勉
出演 玉木宏
新木優子
吉沢亮
中村達也
光石研
村井國夫
柄本明
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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