偏屈で裕福な老婦人が決意した型破りな終活とは?
“現代社会あるある”をあたたかい視点で映し出す
軽やかで後味のいいハートフルなストーリー
自分が死ぬ時は“最高の訃報記事”で、と決意した偏屈で裕福な老婦人の型破りな終活とは? 出演は初共演で本作ではともにプロデューサーとしても参加している、『愛と追憶の日々』などのシャーリー・マクレーン、『レ・ミゼラブル』のアマンダ・セイフライドほか。監督はミュージック・ビデオの制作や脚本家としても活動しているマーク・ペリントン、脚本は監督の20年来の友人でありクリエイティブ・ディレクターとして活躍するスチュアート・ロス・フィンクが手がける。ビジネスで財を成した老婦人ハリエットは80代になり、自身の訃報記事を地元の若い新聞記者アンに依頼するが……。独特のシニカルなユーモア、都市で暮らす人々の孤独、疑似家族、そしてラブ・ロマンスも少々。世代や育った環境や背景がまったく異なる2人の女性が出会い、反発しながらも影響し合い、かけがえのない絆が生まれてゆくさまを描く。現代的なテーマを取り入れながら、軽やかで後味のいいハートフルなストーリーである。
広告業界で成功した老婦人のハリエットは何不自由なく暮らすなか、80代になり孤独と死への不安を感じるように。ある日、自身の訃報記事を生前に執筆することを思いついたハリエットは、地元の若い新聞記者アンに記事を依頼。新聞社の上司命令によりアンは仕方なく取材を始めるが、疎遠になっている家族や知人、かつての仕事仲間、地元の牧師まで、いい評判がまったく得られないという状況に。 ハリエットは “最高の訃報記事”を完成させるべくアンを巻き込み、自分の人生を変えることを決意する。まず地域のコミュニティセンターを訪ねたハリエットとアンは、9歳のやんちゃな少女ブレンダと出会い、親交を深めてゆく。
現代社会あるあるをストーリーに効果的に取り入れ、あたたかい視点で映し出す物語。終活に邁進するシニア世代、仕事に恋に迷えるアラサー女性、施設でたくましく生きる少女、といった個性のはっきりとした3世代の女たちのカラフルなキャラクターが皆それぞれにのびのびとしていて魅力的だ。施設の子どもの面倒をみるという善行も、ラジオDJに挑戦するという人生の冒険も、すべては訃報記事のために逆算で、というあざとさを隠しもせず始めるものの、関わる人たちに良い影響を与え、ハリエットもまた満たされてゆくという展開がいい塩梅だ。
訃報記事を依頼するハリエット役は、シャーリーが尊大すぎてユーモラス、彼女なりの正義感や正論を主張する姿が勇ましいシニア役を堂々と好演。脚本家のスチュアート・ロス・フィンクはもともと彼女のファンだったそうで、この役は彼女のためにあてがきをしたそうだ。2017年3月3日、ロサンゼルスで行われた記者会見にて、自身の功績について問われたシャーリーはこう答えた。「レガシーとか、功績だとか、あとに残すものに関してはよくわからない。それは他人が決めること。仕事に関しては、今後も素晴らしい脚本を見つけ、出資を募っていくだけ。プライベートに関しては、自分がこれまでに学んだことをできるだけ多くの人と共有していきたい。なにかを求める前に、自分のことを知らなきゃいけないということを伝えたい。あと、正直に自分らしく生きること。たとえ、それがとても辛いことでもね(笑)」
新聞記者のアン役はアマンダが、ハリエットに翻弄されながらも友情を結び、自身の可能性をつかんでゆく姿を生き生きと演じている。ハリエットの娘エリザベス役はアン・ヘッシュが、ハリエットのもと夫エドワード役はフィリップ・ベイカー・ホールが、アンの上司ロナルド役はトム・エヴェレット・スコットが、小生意気さがかわいらしい少女ブレンダ役はアンジュエル・リーが、そしてラジオDJロビン役は、実生活でアマンダの夫であるベテランの舞台俳優トーマス・サドスキーが、それぞれに演じている。
この映画は味わいのあるサウンドトラックも特徴のひとつ。予算の都合上、メジャーなアーティストの曲が使えないことから、ザ・リグレッティド(The Regretted)、ブラッド(Blood)、ウィッチ(Witch)、アムネスティ(Amnesty)、レイディ・ラム(Lady Lamb)、ザ・キンクス(The Kinks)といった、あまり知られていないインディーズの音楽を中心に選曲したという。ペリントン監督は本作の音楽について語る。「この映画を作る半年ほど前、ぼくがずっと聞いていたのはアル・スチュワートの『Year of the Cat』だった。でも、使用料がおそろしいほど高かった。撮影中はなるべく節約して、音楽をたくさん使えるように努力したんだが、どうしても25曲ほど使いたい。そこでミュージック・スーパーバイザーから、インディペンデントレーベルの音楽のみを使うことを勧められた。それで聴いたことのない曲を大量に聴き込み、古いジャズからブルース、ソウル、メキシカン、パンクまで、それぞれのシーンでぴったりの曲を選んだんだ」
シャーリーはこの物語の魅力について、こんなふうに語っている。「『あなたの旅立ち、綴ります』は、女性はビジネス戦力とはみなされていなかった1930年代に生まれた女性たちの観点から主に書かれているのよ。当時の女性は、成功したかったら、あちこちに自分の権威をちらつかせないとダメだったの。この映画の人物はそれをするのよ。面白いのは、自分の人生でいろんな人を怒らせてきたっていうのはわかっているんだけど、いい印象を残したい、と思うこと。そして2人の女性が、以前は目を向けようともしなかったことを明らかにする話でもある。それは、2人が互いを刺激するからわかるようになるのよ。それぞれが自分を知るようになるの」
世代や人種、育った環境や背景を超えた友情、それぞれに孤独に生きる女たちが疑似家族のように一時的に支え合い、またそれぞれに出発してゆく。こうして言葉にすると、近年によく描かれているテーマの作品ではあるものの、実力派の役者たちが生き生きと演じ、街で暮らす人々をやさしい目線で映し、全編を通して軽やかで温かく後味がいいことから、やはり観ていて気持ちが良く、人に勧めたくなる。最近は“イヤミス”といったあえて後味の悪さが残るものや、ダーティな犯罪ものや、実話ベースの重厚なストーリーの映画が多いのはご存知の通り。それはそれでひとつの流れとして味わいつつ、市井の女性たちのささやかな悲喜こもごもを充実のキャストで観るのも、やはりいいものだなと筆者は思う。
劇場公開 | 2018年2月24日よりシネスイッチ銀座、新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2016年 アメリカ映画 |
上映時間 | 1:48 |
配給 | ポニーキャニオン STAR CHANNEL MOVIES |
原題 | THE LAST WORD |
監督 | マーク・ペリントン |
脚本 | スチュアート・ロス・フィンク |
出演 | シャーリー・マクレーン アマンダ・セイフライド アン・ヘッシュ トーマス・サドスキー フィリップ・ベイカ―・ホール トム・エヴェレット・スコット アンジュエル・リー |
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