The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ

ソフィア・コッポラ監督、カンヌ映画祭監督賞受賞作
美しい女性たちのドロドロと渦巻く感情を耽美的に映す
ひとりの男を巡る、女性7人の愛憎を描くスリラー

  • 2018/02/19
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The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ© 2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

ソフィア・コッポラ監督・脚本・製作、2017年の第70回カンヌ国際映画祭にて監督賞を受賞した注目作。出演は『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』のニコール・キッドマン、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』のコリン・ファレル、『マリー・アントワネット』などS・コッポラ監督作は4作目となるキルスティン・ダンスト、『SOMEWHERE』のエル・ファニング、『サウスポー』のウーナ・ローレンスや、『スパイダーマン:ホームカミング』のアンガーリー・ライス、米国のミュージカル『マチルダ・ザ・ミュージカル』のエマ・ハワード、TVシリーズ「超能力ファミリー サンダーマン」のアディソン・リーケほか。原作はアメリカの作家トーマス・カリナンが1966年に発表した小説『The Beguiled』、1971年にドン・シーゲル監督によりクリント・イーストウッド主演で『The Beguiled(邦題:白い肌の異常な夜)』として映画化されたことでも知られる。南北戦争のさなか、7人の女性が暮らすアメリカ南部の女子寄宿学園で、ひとりの負傷した北軍兵士をかくまうことになり……。美しい女性たちの楚々とした暮らしのなかで、ドロドロと渦巻いてゆく感情を耽美的に映す。ひとりの男を巡り、女性7人の愛憎劇の顛末を描くスリラーである。

ニコール・キッドマン,エル・ファニング,ほか

1864年、アメリカ南部バージニア州。南北戦争が3年続くなか、森でキノコ狩りをしていた少女エイミーは、傷を負ったひとりの北軍兵士マクバニーを発見。手当をするためにマーサ・ファーンズワース女子寄宿学園へ連れ帰る。園長のマーサ、教師のエドウィナ、そして5人の生徒エイミー、アリシア、ジェーン、エミリー、マリーという7人の女性のみが暮らす学園では、最初は敵兵に戸惑うものの、キリスト教の教えのもと傷が回復するまで面倒を見ることに。ワイルドでハンサム、紳士的なマクバニーに、男子禁制の学園で暮らしていた女性たちは色めき、彼は誠実な態度で7人全員の信頼を得てゆく。しかし女性たちが自分の虜になることを楽しむかのようなマクバニーの態度に、彼女たちの秩序が崩れ始め、ある出来事が起こる。

監督らしいガーリーな世界観を生かしつつ、嫉妬や欲望など女性たちのダークな面を描き、本格的な心理サスペンスへの挑戦など、ソフィア・コッポラの新境地と言われる本作。この物語に惹かれた理由について、監督は1999年の自身の初監督作品『ヴァージン・スーサイズ』を例に挙げてこのように語っている。「私は集団内での女性同士の人間関係にずっと興味があるの。女性同士が接する時の機微ってすごく微妙でしょう? そしてこの話にもあるように、男との関わり方も女性によってそれぞれで千差万別。このストーリーに惹かれたのは、女性のグループを扱い、世間から切り離された女の子たちという意味で『ヴァージン・スーサイズ』を彷彿とさせるものがあったから。それに今まで幅広い年齢層の女性を扱ったことがなかったから、人生のステージが異なる女性同士の関わり合い方を描いてみたかったの」

コリン・ファレル,エル・ファニング

マーサ・ファーンズワース女子寄宿学園の園長マーサ役は、ニコールが威厳をもち貞淑にあろうとしながら心乱れるさまを繊細に、教師エドウィナ役はキルスティンが、マクバニーに純粋な思いを捧げる真面目な女性として、負傷した北軍兵士マクバニー役はコリンが、女性たちの気持ちをもてあそぶさまを俗っぽく、マクバニーを挑発する早熟なアリシア役はエルが小悪魔風に、森でマクバニーを発見した幼い少女エイミー役はウーナ・ローレンスがあどけなく、そのほかの学園の少女たち、ジェーン役はアンガーリー・ライスが、エミリー役はエマ・ハワードが、マリー役はアディソン・リーケが、それぞれに魅力的に演じている。
 コリンは自身が演じるマクバニーのキャラクターについて語る。「彼はナルシストであるものの、人の求めるものを読む才能がある。相手が嫌がることを察知して上手く避け、逆に相手の弱いところを攻める。優しい言葉をかけたり、控えめなふりをしたりね」
 ソフィア監督は女性たちとマクバニーの関係性、このストーリーの特徴について語る。「女性たちにとってマクバニーが現れたことは希望につながり、マクバニーにとっては天国にたどり着いようなもの。女性たち全員が彼にかかりきりで洋服まで着せてくれるんだもの。魅力的だけれど、信じてしまったら痛い目に遭いそうな男っているでしょう? みんなが経験したことのある共感できる話だと思う」

ロケーションは、アメリカで最も完璧なギリシャ様式の大邸宅のひとつと言われる国定歴史建造物で、19世紀半ばに建設されたメイドウッド・プランテーション・ハウスを中心に。学園のキッチンやダイニング、外観などのシーンはここで行われ、応接室や音楽室、寝室など内装のアレンジが必要なシーンは、ニューオリンズにある個人所有の住居を使用。撮影はヴィンテージのレンズによるフィルム撮影にて。電灯照明が導入される10年以上前の設定のため、日光を最大限に活用し、自然光が足りないときはロウソクで明かりを補った。また冒頭でエイミーがマクバニーを見つける森の中のシーンは、ニューオリンズのシティ・パークにて。このシーンはコッポラ監督と撮影監督のフィリップ・ル・スールが、黒澤明監督の『羅生門』からインスピレーションを得て撮影したとも。そして虫の声や遠くに聞こえる大砲の音などを取り入れた控えめなサウンドトラックは、実生活でソフィア監督の夫であり監督との2人の愛娘の父親であるトーマス・マーズがヴォーカルをつとめるフランスのバンド、フェニックスが手がけている。

エル・ファニング,ウーナ・ローレンス,ニコール・キッドマン,アディソン・リーケ

キルスティンが独自の目線で語るこの物語の特性は、的を射ている。「南部ゴシックのような話ね。水面下でブクブクしていたものが煮えたぎって、やがて爆発してしまう。ホラーではないけれど、女性同士の緊張関係や破壊的な行動を描くなかに、ゾッとするようなホラーの要素があると思う」
 このストーリーは観ていて気分がよくなる話ではまったくないものの、おぞ気の立つ物語をのぞいてみたい、というのもまた人の心理なのかもしれない。戦時下で派手さや贅沢さはなくとも、ハンドメイドのドレスでエレガントに過ごす女性たちのロマンティックな雰囲気は、いかにもソフィア監督作品らしい魅力のひとつ。そのスウィートな風合いと、嫉妬と欲望でどす黒く濁り混沌としてゆく様相の落差が、美醜を互いに際立たせているような感覚も。そうした感性やセンスの面から楽しむことができるのも見どころだろう。

「男女のパワーバランスは普遍的なテーマで、男女の間には永遠に解けないナゾがある。テーマ自体が奥深いでしょ?」
 本作について、映画のリメイクではなく、原作の小説を女性の視点から再解釈し脚本化したというソフィア監督は語る。そして「今も繰り広げられている男女の力関係、愛憎劇を描いてみたいと思った」とも。
 ソフィア監督は映画製作のみならず、2016年にはイタリアのローマ歌劇場にて『椿姫』で初のオペラ演出を手がけたことも話題に。そして新境地に挑戦した本作で、2017年の第70回カンヌ国際映画祭にて監督賞を女性としては史上2人目、56年ぶりに受賞した。自然体のスタンスで公私ともにますます充実している彼女の活躍が、今後も大いに楽しみだ。

作品データ

The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ
劇場公開 2018年2月23日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 アメリカ映画
上映時間 1:33
配給 アスミック・エース
STAR CHANNEL MOVIES
原題 The Beguiled
監督・脚本・製作 ソフィア・コッポラ
出演 ニコール・キッドマン
エル・ファニング
キルスティン・ダンスト
コリン・ファレル
ウーナ・ローレンス
アンガーリー・ライス
アディソン・リーケ
エマ・ハワード
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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