カナダのフォーク・アート画家の実話をもとに描く
病を患い、孤独だった女性がパートナーを得て結婚し、
画家として認められてゆく姿を描く実直な人間ドラマ
カナダの小さな港町で、電気も水道もないわずか4メートル四方の小さな家で慎ましく暮らし、夫の支えのもと画家として作品が認められていった実在の女性画家モード・ルイスの半生をもとに映画化。出演は『ブルージャスミン』のサリー・ホーキンス、『6才のボクが、大人になるまで。』のイーサン・ホークほか。監督はアイルランド出身でイギリスを拠点に活躍する、サリー・ホーキンス主演のTVドラマ「荊の城」のアシュリング・ウォルシュ監督が手がける。子どもの頃からリウマチを患い、家庭に恵まれなかったモードがひとりの男性と出会い、衝突しながらも支え合い、画家として認められてゆく姿を描く。自分たちなりの幸せな暮らしを送った夫妻の実話をベースに描く、実直な人間ドラマである。
カナダ東部、ノバスコシア州の小さな町。子どもの頃からリウマチを患い手足に障害のあるモードは、絵を描くことを楽しみに暮らしている。両親が他界するとモードは兄から疎まれ、叔母の家で暮らすも厄介者扱いをされていた。ある日、商店で家政婦募集の広告を貼り出した男エベレットに興味をもったモードは、そりの合わない叔母から逃れるためにも、住み込みの家政婦になろうと決意。町はずれで魚の行商を営むエベレットの家で、家政婦として同居し始める。家政婦のはずが家事があまり得意ではないモードと、孤児院で育ち、学もなく、日々の暮らしで手一杯のエベレットは衝突してばかりいたが、時が過ぎ2人なりの暮らしをしていくなかで結婚。そしてニューヨークから避暑に来ていた女性サンドラが、モードの絵を見て才能を見抜き、絵の創作を依頼する。
ひとりの素朴派画家の半生であり、必要に迫られて始まったギクシャクした同居から、情がわき結婚し、添い遂げてゆく夫婦の物語でもある本作。2人のラブ・ストーリーに惹かれたというイーサンは、自身が演じた夫エベレットの視点によるテーマについて語る。「あの夫婦のインタビュー映像を見た時、この素晴らしい夫婦の物語を世に広めたいと思った。そして自分がもしエベレットだったら、と役を自分のものにするためにじっくり考えたよ。エベレットの視点によるこの映画の主題は、他人の愛し方を学ぶことなんだ」
リウマチを患い背中を丸め、縮こまった手で絵を描き続け、画家として徐々に認められてゆくモード役は、サリーが丁寧に表現。家庭に恵まれず萎縮する生活から、自分で選んだ道をゆき、パートナーと支え合うことで自信を得て画家としても充実してゆく姿を静かに演じている。モードの夫エベレット役はイーサンが、無骨な男として。最初はモードを家政婦として見下し邪険に扱いながらも、結婚後は絵の創作にモードが集中できるよう、家事と営業を担いサポートするさまを内心の葛藤を含めて演じている。モードの才能を見出すサンドラ役はカリ・マチェットが、世間体を重んじるモードの叔母アイダ役はガブリエル・ローズがそれぞれに演じている。
サリーは実際に絵本作家の両親をもち、学生時代は美術と演劇のどちらを選ぶか悩んだほどだったそうで、モード役のオファーは即決で受けたという。サリーは絵を描くことについて楽しそうに語る。「撮影前に数ヶ月間、素朴派画家の絵画教室に通いました。本編中にモードが壁や窓に絵を描く場面がありますが、あれは実際に私が描いていますし、撮影に使われた絵画のいくつかも私の作品なんですよ」
1938年からルイス夫妻が実際に32年暮らした家は、実寸のサイズが4.1m×3.8m。モードが家の壁や窓、掃除道具や皿などに絵を描き、家の中を自身の絵で埋め尽くしたことから、“ペインテッドハウス”と呼ばれ、現在はカナダのハリファックスにある、ノバスコシア美術館にモードの絵画と共に常設展示されている。映画ではこの本物をモデルに、内部での撮影が可能な4.2×4mに拡張して1階部分を再現して建築。インテリアや小道具は、2人が使っていたものに似たストーブや鳩時計、モードが長年集めていたカレンダーなどに似たものを探し出して配置。家の内部は物語が進むほど絵が描き足され、当時のレトロな雰囲気に、モードの描く絵がよく映えてかわいらしくなっていくさまも楽しめる。撮影監督のガイ・ゴッドフリーは、モードの鮮やかな絵と、紆余曲折の人生について語る。「この映画はノバスコシアの片田舎の小さな家に住む、才能ある女性の話だ。人生に対するユーモアのセンスに優れ、描く絵には暗さがまったくなく、目を引く明るさがあった。我々の狙いは、実際の彼女の困難な生き様を描くこと。明るい絵との対比にこの物語の素晴らしさがある」
モード・ルイスの絵はもともと独学で、魚売りの夫エベレットが魚を売る時に、モードの描いたポストカードを1枚25セントで一緒に売りだしたことが始まりだった。それが評判となり、1964年にカナダの週刊誌『Star Weekly』、1965年にカナダ国営放送CBCのドキュメンタリー番組『Telescope』にて紹介。その後アメリカのニクソン大統領から絵の依頼あり、モードの絵はホワイトハウスに2枚飾られていたこともあったという。そして現在、カナダでは小品でもオークションで500万円を超える人気を誇るそうだ。本作のプロデューサーをつとめるメアリー・ヤング・レッキーは、モードの人生と、彼女の絵の魅力について語る。「彼女の物語は美しく刺激をもらえるわ。関節リウマチを患い人生を通して苦しんだけど、彼女の絵には影がなく陽気な面しかない。木には季節ごとに花や雪 紅葉が描かれ、空には鳥が飛び回り、シカたちは笑顔を見せ、ウシには長いまつ毛がある。人生に喜びを見い出す彼女の絵は、見る人を幸せな気持ちにしてくれる。何も持っていなくても、人生は満ち足りると教えてくれるの」
批評家の評価より、熱心な愛好家に好まれる画家として今も愛されているモード・ルイスの半生を描く本作。運命的な出会いとか夢のような成功物語といったキラキラしたエピソードではなく、常にいさかいや苦労とともにありながらも、自分たちなりの生き方を大切に、2人らしい暮らしをまっとうした、地に足の着いた夫妻の物語であることが静かに胸を打つ。ウォルシュ監督は本作のストーリーと、映画製作への思いについて、このように語っている。「光のある物語よ。ハッピーエンディングとは言えないけど、美しい物語なの。暗さもあるけど、同時に明るさもある。彼女は夫の人生に命を吹き込み、夫は妻が絵を描けるよう、好きなようにやらせた。私のこれまでの作品と同様に、細かいことにこだわりました。物語の構成が素晴らしいので、感情移入してもらえると思います。泣けるシーンもあるし、笑えるシーンもある。観る人みんながモードやエベレットと、恋に落ちると思う。映画を作る時は、いつもそれを目標にしています」
最後に、モードを演じたサリーが語る、このストーリーに込められたメッセージをお伝えする。「2人は断熱材のない小さな家で、厳しい冬の寒さをうまくやり過ごしていました。彼らは常に前を向いて物事と戦っていたの。その精神があったからこそ、モードは人生に肯定感を得て、あの時代の障害や困難を乗り越えて力強く生き抜きました。だから私たちも、何だってできるのよ」
劇場公開 | 2018年3月3日より新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ、東劇ほかにて全国ロードショー |
---|---|
制作年/制作国 | 2016年 カナダ・アイルランド映画 |
上映時間 | 1:56 |
配給 | 松竹 |
原題 | MAUDIE |
監督 | アシュリング・ウォルシュ |
脚本 | シェリー・ホワイト |
出演 | サリー・ホーキンス イーサン・ホーク カリ・マチェット ガブリエル・ローズ |
記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。