リメンバー・ミー

ミュージシャンを夢見る少年が〈死者の国〉に迷い込む
少年とガイコツの相棒は、思いを叶えることができるのか
メキシコ音楽と家族をテーマに描くカラフルなファンタジー

  • 2018/03/19
  • イベント
  • シネマ
リメンバー・ミー©2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

2018年の第90回アカデミー賞にて長編アニメーション映画賞と主題歌賞をW受賞、メキシコにて歴代興行収入1位を獲得し、本国アメリカをはじめ各国で高い評価を得ているディズニー/ピクサー最新作。メキシコの伝統的な祭礼行事〈死者の日〉に、ミュージシャンを夢見る少年ミゲルは死者の国へと迷い込み……。監督は『トイ・ストーリー3』のリー・アンクリッチ、共同監督は『モンスターズ・ユニバーシティ』のエイドリアン・モリーナ、製作総指揮はジョン・ラセターが手がける。少年ミゲルと彼は目的を果たし、もとの生者の国へ戻ることができるのか、ミゲルが出会った死者の国の住人ヘクターの切なる願いは叶うのか。死者の世界を描きながらも暗く陰鬱な感じはまったくなく、陽気でカラフルなビジュアル、ご先祖様たちをはじめ個性的なガイコツたちと少年ミゲルとのコミカルなやりとり、メキシコ音楽を生かした魅力的なサウンド、そして家族のドラマで惹きつける。まさに“ピクサーの新たな傑作”である、魅力的なファンタジー作品である。

リメンバー・ミー

一族で靴職人をしている家に生まれたミゲルは、音楽が大好きなミュージシャンを夢見る少年。しかし、ある理由から先祖代々、厳格な家族の掟により、ギターを弾くどころか音楽を聴くことすら禁じられている。ふとしたきっかけで伝説の歌手エルネスト・デラクルスが自分の“ひいひいおじいちゃん”だと推測し興奮したミゲルは、自分も“死者の日”に開催される音楽コンテストに出ようと決意。デラクルスの霊廟に忍び込み、飾られていたギターを手にすると、突然カラフルで美しい“死者の国”に迷い込んでしまう。日の出までに元の世界に帰らないと、ミゲルの体は消滅してしまうというなか、陽気だけど孤独なガイコツ、ヘクターと出会う。ヘクターはミゲルに“ある願い”を託すため、ミゲルが元の世界に戻る方法を一緒に探し始める。

死者の国での少年の冒険を陽気にポップに描く、ユニークなアニメーションである本作。ポップでコミカル、ただキャラクターやビジュアルがかわいいというだけでなく、デザインにもストーリーにもある種の洗練があり、家族をテーマにした物語はわかりやすく、子どもから大人まで楽しめるピクサーの持ち味が満載だ。死者をアニメーションでユーモラスにキモかわいく、骸骨で描いたのはティム・バートンの『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』というシンプルですばらしい作品がすでにあるのは周知の通り。骸骨のキャラクターによる似て非なるスタイルで挑むのは容易なことではないものの、バートンのクラシカルなおとぎ話のような風合いや、あえて陰鬱な影のあるメランコリーな感覚とは異なる別ものとして、新たなオリジナルの世界観をくっきりと打ち出している。
 この映画はメキシコの伝統的な祭礼行事〈死者の日〉をテーマにビジュアルを作りこみ、“ご先祖様や故人と交流し楽しく過ごす”という行事のもつ祝祭のようなイメージと同じくとても明るい感覚に。物語としては、夢の実現を目指す少年と、理解してくれない家族への反発、死者やご先祖様たちを含むわけありの大人たちとの心の交流が描かれ、あたたかなドラマ性が充実していることが特徴だ。最近はとくに映画でも文学でも死生観をいかに描くかが重視されているなか、こうきたか、という面白さがある。またセリフ自体は英語であるものの挨拶は「Ola!」などのスペイン語で軽快に、メキシコの民俗文化や風習、人々の暮らしや考え方を尊重して劇中に反映させ、現代のアメリカ政府の方針に対してクリエイティブを通じて平和的かつ効果的に物申す、といったスタンスも胸を打つ。2018年の第75回ゴールデン・グローブ賞にて作品賞(アニメ部門)を受賞した際のスピーチで、アンクリッチ監督は感謝を込めてこのように語った。「すばらしい才能にあふれたキャストとスタッフに感謝します。作品の力を信じ、我々を後押ししてくれたディズニーとピクサーのエグゼクティブ・チームにも感謝します。我々の先祖にも感謝したいと思います。彼らのおかげで今の我々がいて、インスピレーションを与えてくれています。そして最後に、この『リメンバー・ミー』という作品は、メキシコの偉大な人たちの存在がなければ、できませんでした。どうもありがとうございました」

リメンバー・ミー

キャラクターは、家族には内緒でミュージシャンを目指す少年ミゲル、家族の掟は絶対で厳格ながら、みんなに深い愛情を注ぐおばあちゃんのエレナ、100歳近い高齢で記憶も失いかけながらも、家族みんなに愛され敬われているひいおばあちゃんのココ、かつて靴職人として起業し、ある悲しい出来事から音楽禁止の掟を打ち出した気丈なひいひいおばあちゃんのイメルダ、そして死者の国でミゲルと出会うわけありの気さくな男ヘクター、死者の国でもスターとして人気を誇る伝説のミュージシャン、エルネスト・デラクルス、死者の国でもアーティスト活動を続けているフリーダ・カーロが登場。またミゲルになついているノラ犬のダンテは、メキシコ原産のメキシカン・ヘアレスドッグ(通称:ショロ犬)。頭のよい犬種として知られ、メキシコでは「家を邪悪な魂から守り、亡くなった人をあの世に導く」といわれているそうだ。
 オリジナルでは、ミゲルの声を4歳からマリアッチのグループで歌っていた13歳のアンソニー・ゴンザレスが、ヘクターの声をメキシコ出身の人気俳優ガエル・ガルシア・ベルナルが、デラクルスの声をアメリカ人俳優のベンジャミン・ブラットが担当。溌溂としたアンソニーの歌声をはじめ、俳優たちの歌が楽しめる。日本語吹き替え版では、ヘクターの声を藤木直人、イメルダの声を松雪泰子、伝説の歌手デラクルスの声を劇団☆新感線出身の橋本さとし、そして少年ミゲル役は数々の歌番組で受賞歴のある13歳の石橋陽彩が担当。「ウン・ポコ・ロコ」をはじめ日本人にとっては不慣れだろうラテンのナンバーも、石橋陽彩と橋本さとしが見事に歌いあげている。また実在したアーティスト、フリーダ・カーロの声は渡辺直美が、死者の国の音楽コンテストに登場する実力派“ロス・チャチャラコス”のメンバーの声は、日本版エンドソングを担当しているシシド・カフカと東京スカパラダイスオーケストラのドラマー茂木欣一が担当している。

第75回ゴールデン・グローブ賞の作品賞(アニメ部門)、第45回アニー賞にて最多11部門(長編アニメーション賞・監督賞・脚本賞・編集賞・視覚効果賞・音楽賞・キャラクターアニメーション賞・美術賞・キャラクターデザイン賞・絵コンテ賞・ボイスキャスト賞)を受賞。そして2018年3月4日(現地時間)に行われた第90回アカデミー賞授賞式にて、長編アニメーション賞と主題歌賞の2部門をW受賞するなど、数々の賞を獲得。アカデミー賞にて長編アニメーション賞と主題歌賞のW受賞は、第86回アカデミー賞の『アナと雪の女王』以来であり、リー・アンクリッチ監督は『トイ・ストーリー3』でも長編アニメーション賞と主題歌賞のW受賞を果たしているため、本作で2度目の同2部門のW受賞となり、アカデミー賞史上初ということも注目されている。
 主題歌「リメンバー・ミー」は、『アナと雪の女王』の大ヒット曲「レット・イット・ゴー」の作詞作曲を手がけたクリステン・アンダーソン=ロペス&ロバート・ロペス夫妻が新たに書き下ろした楽曲。歌詞には、“たとえ離れていても、家族はいつも繋がっている”という思いが込められ、作曲者のクリステンが「曲のテンポや音調次第で、異なる解釈ができる歌詞でもあります」と語る通り、どこか懐かしいシンプルで明るいメロディはさまざまに変化し、劇中でいろいろなアレンジで魅力的に歌われている。日本版のエンドソングとして、シシド・カフカ feat.東京スカパラダイスオーケストラによるヴァージョンも。
 ピクサー史上初めて、音楽をテーマに作ったという本作。ミュージシャンによる演奏シーンも多く、ギターと歌がメインのメキシコ音楽からミュージカル風、オーケストラの演奏まで多彩な音楽が堪能できる。サウンドトラックは『カールじいさんの空飛ぶ家』のオスカー受賞作曲家マイケル・ジアッキーノが手がけ、レコーディングではバンダ、マリアッチ、ソン・ハローチョといったメキシコ音楽を演奏するトップ・ミュージシャン約50人が参加。彼らの演奏は録画され、ギターにカメラを装着し指の動きも記録。アニメーターたちはその録画をもとに、劇中でのミゲルやデラクルスをはじめキャラクターたちの指の動きやパフォーマンスに取り入れ、リアルなライブ感覚をアニメーションに生かした。なかでも陽気でリズミカルなスパニッシュギター、朗々と伸びるヴォーカルの「Un Poco Loco」、アコースティックギター1本で弾き語る「Everyone Knows Juanita」「The World Es Mi Familia」など、メキシコ音楽を歌うシーンはどれも本当に楽しい。

リメンバー・ミー

ところで、本作の製作総指揮を手がけるディズニー/ピクサー・スタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサーのジョン・ラセターは、2017年11月に職場のハラスメントで複数の女性から告発され、半年間の休職中。夢や理想を描き子どもから大人まで楽しめる良作で知られるピクサーの顔として責任を自覚し言動を改め、今後はピクサーで働く女性たちにとってより安心して仕事に打ち込める環境となることを期待している。
 本作のカラフルな〈死者の国〉は、ユネスコ認定の世界遺産であるメキシコのグアナファトの街を参考に、また“死者の日”に現世と〈死者の国〉をつなぐマリーゴールドの花びらでできた大きなアーチ橋は、やはり世界遺産であるメキシコの歴史地区モレリアにある水道橋から着想を得た。神秘的な獣も登場する美しい映像は個人的に、どこかジブリの『千と千尋の神隠し』を彷彿とさせる感覚も。祖先を尊ぶテーマについて、日本のお盆も含め各国の風習を参考にしたとプロデューサーのダーラ・K・アンダーソンは語る。「世界中の様々な場所でどのように祖先を敬うかをリサーチするなかで、日本のお盆も、先祖の人々の存在と彼らの偉業を重んじ、理解を示す大切な行事であると学びました」
 アンクリッチ監督は物語の本質的なテーマについて語る。「この映画の主な舞台は死者の国ではありますが、映画のテーマ自体は死ではなく、人生や家族、先祖を思い出す大切さ、そして彼らの思い出を賛美することにあります。これは世界中の人々が共感できるテーマだと思います。先祖について学び、思い出すことの重要性が映画の主要テーマとなっているのです」
 そして2018年2月21に東京で行われた来日記者会見にて、すでに世界興行収入が750億円を突破し、人種も国籍も超えて大ヒットしていることについて、メキシコ出身のエイドリアン・モリーナ共同監督はこのようにコメントした。「ピクサーのアーティストもそれぞれ違うバックグラウンドがありますが、亡くなった人を忘れないということにみんなが共感しているのを見て、普遍的なテーマだと思いました。その反応が世界中で受け入れられたのかなと思います」

同時上映は、『リメンバー・ミー』と同じく家族をテーマにした短編作品『アナと雪の女王/家族の思い出』。かの前作から約6ヶ月後、アナとエルサが姉妹で初めて一緒に過ごすホリデーシーズンを描き、4曲の新曲を披露。日本版声優は前作に続き、アナ役は神田沙也加、エルサ役は松たか子、オラフ役はピエール瀧が担当している。
 2作とも年齢問わず誰もが楽しめる作品であり、子どもたちと一緒に楽しむファミリー向けの春休み映画としても良質。おりしも日本は春分の日を目前に、年に2回のお墓参りの季節。『リメンバー・ミー』をきっかけに、改めてご先祖様に思いをはせてみるのもいいかもしれない。

作品データ

劇場公開 2018年3月16日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 アメリカ映画
上映時間 1:45
配給 ウォルト・ディズニー・ジャパン
原題 COCO
監督 リー・アンクリッチ
共同監督 エイドリアン・モリーナ
製作 ダーラ・K・アンダーソン
製作総指揮 ジョン・ラセター
音楽 マイケル・ジアッキーノ
歌曲 ロバート&クリステン・アンダーソン・ロペス
声の出演 アンソニー・ゴンザレス
ガエル・ガルシア・ペルナル
ベンジャミン・ブラット
日本語版の声の出演 藤木直人
松雪泰子
橋本さとし
石橋陽彩
渡辺直美
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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