eHills Club 試写会日記

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ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

M・ストリープ×T・ハンクス、スピルバーグ監督・製作
機密文書を告発したジャーナリストの実話をもとに
報道の自由と、米国初の女性新聞発行人の成長を描く

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

メリル・ストリープとトム・ハンクスが初共演、スティーヴン・スピルバーグが「いま撮るべき作品だ」という思いから監督・製作を手がけた実話ベースの物語。共演は2018年8月10日に日本公開の映画『オーシャンズ8』のサラ・ポールソン、脚本家や作家としても活躍しテレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」でエミー賞の脚本賞(バラエティ/音楽番組)を受賞したボブ・オデンカーク、戯曲『8月の家族たち』でピューリッツァー賞、舞台『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』でトニー賞を受賞した戯曲家で俳優のトレイシー・レッツほか。脚本は本作で映画脚本家デビューしたリズ・ハンナが手がける。ベトナム戦争が長期化し米国内で反戦の気運が高まっていた1971年、ベトナム戦争に関するアメリカ国防総省の極秘文書“ペンタゴン・ペーパーズ”の存在をニューヨーク・タイムズがスクープ。ワシントン・ポストの発行人キャサリン・グラハムは、編集主幹ベン・ブラッドリーとともに真実を報道するために奔走する。実在したジャーナリストの秘話をもとに、報道の自由を改めて伝え、また社会で女性が差別的に扱われていた時代に、ひとりの女性が重要な局面で成長し周囲の信頼を得ていく経緯を描く、力強いヒューマン・ドラマである。

トム・ハンクス,メリル・ストリープ

ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカで反戦の気運が高まっていた1971年。アメリカ国防総省がベトナム戦争について調査・分析した極秘文書、通称“ペンタゴン・ペーパーズ”の存在をニューヨーク・タイムズがスクープする。その後の記事は政府の圧力で差し止められるが、アメリカ主要紙初の女性新聞発行人であるワシントン・ポスト社主のキャサリン・グラハムは、同紙の編集主幹ベン・ブラッドリーらとともに、真実を報道するために動き出す。

トルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンの4政権にわたって隠蔽されてきたベトナム戦争に関する膨大な事実を記録した機密文書“ペンタゴン・ペーパーズ”について報道し、当時のニクソン大統領率いるアメリカ政府から起訴された、実在の新聞社とジャーナリストたちの逸話をもとに描く作品。硬派なジャーナリズムものというだけではなく、夫の死により思いがけずワシントン・ポストを継ぎ、46歳で専業主婦からアメリカ主要紙初の女性新聞発行人となったキャサリン・グラハムが、男社会で思い迷いながらも成長し、周囲と互いに理解を深めていくさまがドラマとしての魅力を高めている。製作のエイミー・パスカルはこのストーリーについて語る。「世間に伝えるべき物語だと思いました。この脚本で特に気に入った点は、それまで働いたことがなく誰にも相手にされなかった主婦が、歴史に残るような重大な決断を迫られたということ。その決断が彼女の人生と新聞業界を大きく変え、彼女はフォーチュン誌が選ぶトップ500企業の初の女性経営者となった。非常に興味深かったわ」

“ペンタゴン・ペーパーズ”とは、1967年に当時のアメリカ国防長官ロバート・マクナマラの指示で作成された文書「History of U.S. Decision-making in Vietnam, 1945-66(アメリカ合衆国のベトナムにおける政策決定の歴史、1945-1966年)」のこと。この文書には、前述の4人の大統領がベトナム戦争におけるアメリカの軍事行動について何度も国民に虚偽の報告をし、政府が平和的解決を追求していると発表していた時も、軍とCIAは極秘に軍事行動を拡大していたこと、暗殺、ジュネーブ条約の違反、不正選挙、アメリカ連邦議会に対する嘘についての証拠が記されていた。1975年にアメリカがベトナム戦争から撤退するまでに、58,220人のアメリカ兵が死亡し、最終的に100万人以上の命が犠牲となった。
 最初に文書について報道したニューヨーク・タイムズに情報を提供したのは、文書の執筆者の1人である政府出資のシンクタンク「ランド研究所」のもと軍事アナリストで、のちに内部告発者となったダニエル・エルズバーグといわれている。当時の米国政府によるマスコミの起訴や裁判の行方については劇中で描かれ、エルズバーグらがどのように文書を持ち出し、文書をリークするに至ったかについては映画の公式HPでもわかりやすく解説されている。

メリル・ストリープ,ほか

新聞発行人であるワシントン・ポスト社主、キャサリン・グラハム役はメリル・ストリープが丁寧に表現。女性として男性の経営陣に見下され軽んじられるなか、当時はいち地方紙の規模だったワシントン・ポストとして社員や家族の生活や未来を担いながら、難しい判断を下すさまがリアルだ。メリルは自身が演じたキャサリン・グラハムと、この物語のテーマについて語る。「女性が育児や家事以外は求められていなかった時代に、彼女も自分に自信をもてない女性だったの。ライバルだけでなく、友人からも能力を疑われていた彼女にとって自身の立場を明確にするのはとても難しく、本当に孤独だったと思うわ。実際にあの時代を生きてみないと、今といかに社会が異なっていたかを想像することは難しい。私は経験したわ。女性の社会進出という時代の転換期を実際に体験したから、今回の役作りに生かすことができた。そして、この作品に出てくる人物は全員がリスクを冒している。これは、一般の人々がいかに変化をもたらし、歴史を変えたかについての物語だと私は思っています。大きな変化は1人の人間の勇気から始まるの」
 ワシントン・ポストの編集主幹ベン・ブラッドリー役はトム・ハンクスが剛腕の編集者として。いつもの“ハリウッドきってのナイスガイとして知られている(メリル)”やさしく人情深いトムとはまったく違う、目的のためなら手段を選ばず独裁的、人を人とも思わないといったベンの剛毅さを表現。トムがベン本人を知るたくさんの人と会って話を聞き、本人のインタビュー映像の数々を見てリサーチしたこと、スピルバーグが一時期ブラッドリーの家の近所に住んでいた時にベン本人と何度も話をしたことがあったことも、人物描写に役立っているようだ。そしてベンの妻トニー役はサラ・ポールソンが夫とキャサリン双方の立場を理解する存在として、ワシントン・ポスト編集局次長・記者ベン・バグディキアン役はボブ・オデンカークが、ワシントン・ポスト取締役会長フリッツ・ビーブ役はトレイシー・レッツが、ワシントン・ポスト取締役アーサー・パーソンズ役はブラッドリー・ウィットフォードが、第8代アメリカ合衆国国防長官ロバート・マクナマラ役はブルース・グリーンウッドが、元アメリカ合衆国軍事アナリストのダニエル・エルズバーグ役はマシュー・リスが、キャサリン・グラハムの娘ラリー・グラハム・ウェイマウス役はアリソン・ブリーが、それぞれに演じている。

トム・ハンクス,メリル・ストリープ,ほか

ペンタゴン・ペーパーズの公表に次いで、ウォーターゲート事件を果敢に調査・報道したことにより、ワシントン・ポストを一流紙へと押し上げた存在として知られているキャサリンとベンの協力関係の始まりとしても描かれている本作。リズ・ハンナによる本作の脚本は、ハリウッドの2016年度ブラックリスト(映画化されていない魅力的な脚本や無名の脚本家と、映画関係者を結ぶシステム)で2位となり、業界から注目されていた。ハンナは執筆のきっかけと本作の内容について語る。「(ピューリッツァー賞を受賞した)グラハムの回顧録『Personal History(邦題:わが人生)』を読んで、彼女の声を伝えたいと思いました。でも、単なる伝記作品を書くつもりはなかったから、どのように取り上げるべきか模索していました。その後ベン・ブラッドリーの回顧録を読んで、ペンタゴン・ペーパーズの公表という重要な決断を知ったの。それで、ワシントン・ポストの将来を決めたグラハムの成長という観点から、彼女とブラッドリーの物語に決めました。リスクをはらんだ行為やドラマチックな出来事がたくさん展開する物語なの」
 スピルバーグはこの脚本に惹かれた理由を語る。「脚本の前提と優れた文章、徹底的な研究、そして特にグラハムについての美しくパーソナルな描写に惹かれた。今すぐこの映画を作らなければならないと思ったよ。とにかく夢中になった」
 そしてスピルバーグは、『スポットライト 世紀のスクープ』でアカデミー賞脚本賞を受賞したジョシュ・シンガーに脚本のブラッシュアップを依頼。シンガーはワシントン・ポストで20年間記者として活躍し、編集主幹も務めたスティーヴ・コル(現在はニューヨーカー誌のライターで、コロンビア大学ジャーナリズム大学院の学部長)をはじめとするジャーナリストたち、グラハムとブラッドリーの家族といった実際に当時を体験した多くの関係者から話を聞き、歴史的な要素や時代背景を肉付けした。

ベトナム戦争に関わる重要な告発と報道の秘話とともに、ひとりの大人の女性が成長し、辣腕の同僚男性と対等になっていくさまが描かれている本作。報道や政治にかかわる史実ものというと、中年〜シニアの男性が中心で女性は添えもの状態のストーリーも少なくないなか、本作のような視点の作品は独特で筆者は染みるものがあった。個人的にはベンの妻がキャサリンの立場と心情おもんぱかって夫に伝え、ベンがそれを理解し受けとめるというさりげないシーンにも響くものが。この映画の製作を手がけたクリスティ・マコスコ・クリーガーは語る。「男性中心の社会の中で女性が立ち上がるのは今でも困難なこと。状況は日々改善されているけど、それでもまだ改めるべき点がたくさんある。グラハムが先駆者として女性のために道を切り開いてくれたから、私たちは声を上げることに対して以前より抵抗がないし、強い女性になりたいと思える。この作品に多くの優秀な女性スタッフが携わっているのは当然だわ。時には現場にいる女性の数が男性よりも多いことがあって、私も初めての経験だった。キャサリン・グラハムの精神が撮影現場にあふれているような感じがしたわ」
 そしてトランプ大統領就任45日後に製作を発表した本作について、スピルバーグはこのように伝えた。「今こそ、報道の自由という美徳を追求するのに完璧な時期だ。信念を貫いた報道が行われることでこの国の民主主義がいかに発展するかについて、率直な議論を交わすべき時だと思っている」

2018年3月26日更新

作品データ

劇場公開 2018年3月30日より全国ロードショー
TOHOシネマズ 日比谷にて3月29日特別先行上映
制作年/制作国 2017年 アメリカ映画
上映時間 1:56
配給 東宝東和配給
原題 The Post
監督・製作 スティーヴン・スピルバーグ
脚本 リズ・ハンナ
ジョシュ・シンガー
製作 エイミー・パスカル,p.g.a.
スティーヴン・スピルバーグ,p.g.a.
クリスティ・マコスコ・クリーガー,p.g.a.
出演 メリル・ストリープ
トム・ハンクス
サラ・ポールソン
ボブ・オデンカーク
トレイシー・レッツ
ブラッドリー・ウィットフォード
ブルース・グリーンウッド
マシュー・リス
アリソン・ブリー
ライター:あつた美希 CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/2015年はハースト婦人画報社『25ans』で“姫のためのエンタメ・コンシェルジュ”、フレグランスジャーナル社『アロマトピア』で“シネマ・アロマ”を連載。インタビュー記事の執筆も。