犬ヶ島

W・アンダーソン最新作はストップモーション・アニメ
近未来の日本を舞台に、少年と犬たちの冒険を描く
ディテールにこだわり、邦画にオマージュを捧げた注目作

  • 2018/05/15
  • イベント
  • シネマ
犬ヶ島©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

『ムーンライズ・キングダム』『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソンが監督・ストーリー・脚本・製作を手がけ、4年かけて670人のスタッフとともに作り上げた注目のストップモーション・アニメ。声の出演は、スコットランド系カナダ人の父親と日本人の母親をもち日本語と英語を話すバイリンガルのカナダ人俳優コーユー・ランキン、アンダーソン監督作品常連の俳優であるビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、エドワード・ノートン、ハーヴェイ・カイテル、ティルダ・スウィントン、F・マーレイ・エイブラハム、ボブ・バラバン、フランシス・マクドーマンド、野村訓市、そして新たにスカーレット・ヨハンソン、グレタ・ガーウィグ、ブライアン・クランストン、リーブ・シュライバー、ヨーコ・オノ、また日本からはRADWIMPSの野田洋次郎、村上虹郎、渡辺謙、夏木マリといったメンバーが参加。原案のストーリー制作に、アンダーソン監督の盟友で『ダージリン急行』を手がけた2人、フランシス・フォード・コッポラ監督を父にもつロマン・コッポラ、俳優・脚本家・音楽家として活躍するジェイソン・シュワルツマンが参加している。“犬インフルエンザ”が大流行し、感染を恐れた人々がすべての犬を“犬ヶ島”に追放。12歳の少年アタリは愛犬で親友のスポッツを救うため、1人で犬ヶ島へ――。アンダーソン監督が日本を舞台にストップモーション・アニメで描く、勇気ある少年とユニークな犬たちの風変わりな冒険譚である。

エドワード・ノートン,ジェフ・ゴールドブラム,ビル・マーレイ,ボブ・バラバン,ブライアン・クランストン

今から20年後の日本。“犬インフルエンザ”が大流行するメガ崎市では、人への感染を恐れた小林市長が、ノラ犬も飼い犬もすべての犬を“犬ヶ島”に追放することを宣言。まずは市長宅の護衛犬スポッツを島に送り込むよう命じる。数か月後、怒りと悲しみと空腹を抱える犬たちがさまよう島に、12歳の少年アタリが小型飛行機でやってくる。両親を亡くし遠縁の伯父・小林市長の養子となったアタリは養父に背くことと知りながらも、愛犬で親友のスポッツを救うと決意。島で出会った勇敢で心優しい5匹の犬、レックス、キング、ボス、デューク、チーフを新たな相棒に、スポッツの探索を開始する。一方、メガ崎市では、犬インフルエンザの治療薬を開発していた渡辺教授を代表とする“親犬派”と、市長を支持する“反犬派”の対立が深刻になっていた。

「僕たち(アンダーソン監督、コッポラ、シュワルツマン)は日本が大好きで、日本映画からインスピレーションを得た何かを作りたかった。そこで、日本をテーマにしたファンタジーにしようと決めて、このストーリーが形になったんだ」と監督が語る本作。アタリ少年の英語なまりの日本語のセリフ、リズミカルで和とラテンが融合したような印象もある和太鼓の演奏など、独特の斬新さで引き込む本作。物語ではディテールにこだわったパペットと美術セット、和をベースにアーティスティックに楽しくミックスされた音楽や文化を背景に、個性的なキャラクターとストーリーが展開してゆく。製作のジェレミー・ドーソンは本作のテーマについて語る。「『犬ヶ島』はコメディとドラマに満ちた壮大な旅の物語で、侍映画と冒険映画のスピリットもある。あらゆる面でスケールの大きな映画だが、誰もが共感できるシンプルでベーシックな友情と信頼の物語でもある」

ブライアン・クランストン,コーユー・ランキン

声の出演は、豪華メンバーが多数参加。12歳の少年・小林アタリ役はコーユー・ランキンが当時8歳(現在11歳)とは思えないほどの落ち着きのある賢いキャラクターを好演。ケンカの強いノラ犬のチーフはブライアン・クランストンが、以前は教師の主と室内で暮らし、仲間の和を重んじるレックスはエドワード・ノートンが、かつては女主人に大切にされていたゴシップ好きのデュークはジェフ・ゴールドブラムが、高校野球チームの元マスコット犬のボスはビル・マーレイが、22本ものドックフードのCMに出演していた元アイドル犬のキングはボブ・バラバンが、もと市長宅の護衛犬スポッツはリーヴ・シュレイバーが、そしてゴミ島でも美しい毛並みを誇る謎の美女犬ナツメグはスカーレット・ヨハンソンが、未来を“ビジョン”で見ることができる“予言犬”オラクルはティルダ・スウィントンが、その予言を伝えることができるジュピターはF・マーリー・エイブラハムが。
 “反犬派”であるメガ崎市の小林市長は、本作の共同脚本とキャスティング・ディレクターをつとめる野村訓市が、小林市長を補佐する非情な男メイジャー・ドウモは高山明が、“親犬派”である犬インフルの血清を開発する渡辺教授は伊藤晃が、渡辺教授を尊敬する助手ヨーコ・オノはその名の通りヨーコ・オノが、メガ崎高校の交換留学生で新聞部のトレイシー・ウォーカーはグレタ・カーヴィグが、同高校の新聞部員のヒロシは村上虹郎が、ニュース番組で、日本語から英語への同時通訳を務める通訳ネルソンはフランシス・マクドーマンドが、テレビ局の男性キャスターはRADWIMPSのヴォーカル野田洋次郎が、ある手術の筆頭執刀医は渡辺謙が、トレイシーの下宿のおばさんは夏木マリが、さらにゴンドはハーヴェイ・カイテルが、スクラップはフィッシャー・スティーブンスが、それぞれに表現している。

グレタ・ガーウィグ,村上虹郎,ほか

三船敏郎の豊かな表情から影響を受けたという小林市長のビジュアル、黒澤明監督が好んだすべてのキャラクターがフォーカスされている“パン・フォーカス・ショット”をはじめ、黒澤監督の映画『酔いどれ天使』(1948)、『野良犬』(’49)、『悪い奴ほどよく眠る』(’60)、『天国と地獄』(’63)など都市を舞台にした作品など、さまざまな日本映画へのオマージュが込められているという本作。『犬ヶ島』は2018年の第68回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞し、アンダーソン監督は前作『グランド・ブダペスト・ホテル』の銀熊賞(審査員グランプリ)受賞に続き、2作連続受賞となったことも話題に。監督は2018年2月15日にベルリンで行われたベルリン国際映画祭の記者会見にて、日本映画から受けた影響についてこのように語った。「今作は2人の監督から最も強く影響を受けていて、黒澤明監督と宮崎駿監督です。ディテールと沈黙という点で、宮崎監督では自然があり、静寂があり、アメリカのアニメーション伝統には見られないリズムです。その点でとてもインスピレーションを受けました」

2004年の映画『ファンタスティック Mr.FOX』以来、アンダーソン監督にとって2作目となるストップモーション・アニメの魅力について、このように語っている。「ストップモーション・アニメーションは古風な手法です。さまざまな理由から、今ではあまり使われない手法です。アメリカ・オレゴン州にあるライカという会社はストップモーション・アニメーション映画を制作しています。日本の映画史ではストップモーション・アニメーションの存在が薄いですが、非常に美しい詩的な作品がいくつかあります。実際ミニチュアや小道具作り、セット作りやパペット製作などの各分野で腕を磨いたスキルの高い人々のグループを得たら、まるで最高峰の演奏家500人で構成されたオーケストラを指揮するような感覚になりました」
 CGや3Dプリンターはほとんど使用せず、キャラクターはパペットでひとつひとつ丁寧に制作。総数は500人以上の人間と500匹の犬、パペット1,097体。こうしたエピソードの数々は、作品の公式HPの“TRIVIA”で紹介されさている。アニメーション監督のマーク・ウェアリングは、監督のこだわりについて語る。「ウェスは手作り感を残すことに非常にこだわった。観客にクラフト技術を見てもらいたいのだと思う。彼はアニメーションのポンという音やひび割れの感覚が好きだ。動物たちの毛が毛羽立つ様や衣装の動きを見せたかったんだと思う」

監督は日本の観客に向けて、メッセージを語る。「本作は様々な要素をひとまとめに混ぜ合わせて完全にファンタジーとなっていますが、実際の日本文化、特に日本映画に惹かれたファンタジーとして、日本人の皆さんが日本らしさを感じてもらえる作品になっていたらと願っています」
 日本では、アンダーソン監督が大ファンで熱望したことから、『AKIRA』の大友克洋によるコラボレーション・イラストが実現。またアンダーソン監督の大ファンである、漫画『ドラゴンヘッド』『バタアシ金魚』の漫画家・望月ミネタロウによる、『犬ヶ島』のアナザーストーリーが、『週刊モーニング』にて2018年5月24日発売号より全3回の予定で掲載決定と、魅力的なメディアミックスの展開も。そしてアンダーソン監督は2005年の『ライフ・アクアティック』以来、13年ぶりとなる来日が決定。喜びとともに、コメントを寄せている。「僕はこの過去3年の間、イギリスの映画用防音スタジオにあるミニチュアの日本で暮らしてきたようなものだった。それに日本映画に影響された想像上の日本のなかでと考えると過去6年間にもなる。だから本当の、実物大サイズの日本を訪れ、犬ヶ島を作り上げるためにこれまでかけてきた時間の結果を見せられることにとても興奮しているんだ」

作品データ

犬ヶ島
劇場公開 2018年5月25日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2018年 アメリカ、ドイツ映画
上映時間 1:41
配給 20世紀フォックス映画
原題 『Isle of Dogs』
監督・脚本・製作・原案 ウェス・アンダーソン
原案 ロマン・コッポラ
ジェイソン・シュワルツマン
原案・キャスティング・出演 野村訓市
出演 ブライアン・クランストン
コーユー・ランキン
エドワード・ノートン
ボブ・バラバン
ビル・マーレイ
ジェフ・ゴールドブラム
高山明
フランシス・マクドーマンド
伊藤晃
スカーレット・ヨハンソン
ハーヴェイ・カイテル
F・マーリー・エイブラハム
ヨーコ・オノ
ティルダ・スウィントン
野田洋次郎
渡辺謙
夏木マリ
フィッシャー・スティーブンス
村上虹郎
リーヴ・シュレイバー
コートニー・B・ヴァンス
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。