原作・町田康×脚本・宮藤官九郎×監督・石井岳龍
綾野剛ら豪華キャストがハジけるカオスの世界
極彩色のド派手な時代劇エンターテインメント
芥川賞作家・町田康の小説を脚本・宮藤官九郎、監督・石井岳龍にて映画化。出演は綾野剛、北川景子、東出昌大、染谷将太、浅野忠信、永瀬正敏、國村隼、豊川悦司ほか充実の俳優陣が顔をそろえる。街道にあらわれた浪人は突然、巡礼の物乞いの男を問答無用で切って捨てる。男は新宗教「腹ふり党」の一員であり、浪人は災厄を未然に防いだと語るが……。勘違いからのハッタリ、隠密指令、1人の女性を巡る恋、そして最後に思いを遂げるのは? アクションとギャグ満載の時代劇であり、ラブストーリーの要素も少々。楽曲が邦画の主題歌として公式に使用されるのは今回がお初というセックス・ピストルズの「アナーキー・イン・ザ・U.K.」にのせて、ド派手に魅せるエンターテインメント・ムービーである。
ある日、街道にあらわれた1人の浪人が突然、巡礼の物乞いの男を問答無用で切って捨てる。近くに居合わせた黒和(くろあえ)藩士・長岡主馬(ながおか・しゅめ)に理由を問われた浪人は、男は世間を惑わす新宗教「腹ふり党」の一員であり、災厄を未然に防いだと語る。浪人は掛十之進(かけ・じゅうのしん)と名乗り、長岡に自らを“超人的剣客”であると強引に売り込み、黒和藩に入り込むが……。
スタッフ、キャストともに豪華な顔合わせで、美術や衣装、CGなどのヴィジュアルをガッツリと作りこんだエンタメ作。時代劇+セリフにカタカナをバンバンいれる御法度破りのミックス感覚で、若い世代が観やすい内容となっている。そもそもは「2時間尺の配信コンテンツとしてdTVで配信する予定」だったものの、結果的に全国325館で公開する“配信事業者が制作した日本で初めての実写映画”という製作側にとって肝煎りの作品になったとも。もともと原作の小説が発売された2004年に石井監督が映画化を希望したものの、技術面や資金面で折り合いがつかずに断念。2015年石井監督の『ソレダケ / that's it』で衝撃を受けた伊藤和宏プロデューサーが監督と話し、原作者の町田康に『パンク侍〜』の映画化を打診したところ、快諾。町田氏が石井監督と俳優として『爆裂都市 BURST CITY』(82)、『鏡心・3Dサウンド完成版』(05)(監督の改名前の石井聰亙名義の作品)に出演したこともあり、町田氏は今回の映画化について、このように語っている。「石井監督だからこそというより、石井監督じゃなきゃ映画化をOKしていなかった」
そしてもともと石井監督のファンであり、「真面目に生きていれば良い事があるもんです。憧れの石井組の一員になれました」と語る宮藤官九郎が脚本に決まり、2016年に初稿が完成。石井監督との仕事や初稿の面白さに惹かれた俳優たちみんながオファーを快諾したという。伊藤プロデューサーは出演者について、「最初に考えた夢のキャスティングをそのまま実現できた。奇跡的なことだと思います」とコメントしている。
パンク侍こと掛十之進役は綾野剛がハジけて熱演。黒和藩筆頭家老の内藤帯刀(ないとう・たてわき)役は豊川悦司が策士として、掛が惹かれる女性ろん役は北川景子が謎めいた美しい女性として、正論を旨とする黒和藩の藩主・黒和直仁(くろあえ・なおひと)役は東出昌大が堅物として、黒和藩の次席家老・大浦主膳(おおうら・しゅぜん)役は國村隼が運命を受け入れる人物として、大浦の用人の幕暮孫兵衛(まくぼ・まごべえ)役は染谷将太が気弱で周囲に左右されやすい若者として、顔と腹にうずまき模様のあるもと腹ふり党大幹部の茶山半郎(ちゃやま・はんろう)役は浅野忠信がつかみどころのない男として、“喋る”大猿・大臼延珍(でうす・のぶうず)役は3時間以上かけた特殊メイクを全身に施した永瀬正敏がクールなデキる男ならぬ猿として、掛の暗殺を請け負った凄腕の刺客・真鍋五千郎(まなべ・ごせんろう)役は村上淳が冷静なリアリストとして、阿呆ながら念動力をあやつるオサム役は若葉竜也が超自然の申し子として、もと内藤の家臣ながら大浦につくことになる長岡主馬(ながおか・しゅめ)役は近藤公園が意外な才能を開花させる人物として、内藤の密偵・江下レの魂次(えげれのこんじ)役は渋川清彦が仕事のデキる純情な男として、それぞれに演じている。また冒頭で掛が斬る物乞いの男役は原作者の町田康が演じている、というお楽しみも。
見どころはいろいろあるなか、目立つのは後半の合戦シーンだろう。ここでは特撮・CGチームが尽力し、最も多いシーンにはワンカット内に腹ふり衆が約3000人、猿が一億匹映っているとも。クライマックスで掛が「俺は、パンク侍だっ!」と叫ぶシーンは、石井監督の鶴の一声「ここは宇宙曼荼羅や!」で方向性が決まり、石井監督と30年以上の付き合いである特撮の第一人者・尾上克郎特撮監督が、“曼荼羅の万華鏡”というイメージで背景を作り上げたそうだ。
個人的に一番ツボだったのは、刺客・真鍋のねぐらに掛の暗殺を依頼しにきた幕暮がぐずぐずと切り出せずにいるなか、真鍋が心のなかでツッコミを入れ続け、幕暮をイジっていくさもないシーン。あとは腹ふり党メンバーの寄せ書きの内容がほぼ完全に夏フェスに行った若者のコメントに類似しているところとか、“重箱の隅”的なあたりがもれなく面白いところが、宮藤脚本はやっぱり素敵だなと。キャラクターとしてはクールでミステリアスな“でうす(神ゼウスに音が似ているのもカッコイイ)”もさることながら、濃厚な人物と世界観のなかでひとり浮いている、幕暮孫兵衛のふけば飛ぶような存在感の軽さが面白く。幕暮役を演じた染谷将太は本作について、このようにコメントしている。「たまらなかったです。たまらない世界でした。刺激しかなかったです。甘ったるいものなんかなかったですよ。スパイスだけそろっちゃったんですよ。誰も中和する人なんていなかったですよ。パンクを映画にし、映画をパンクにした、この作品と石井さんを愛しています。世界が跳ね上がる日がたまらなく楽しみです」
2018年6月11日に行われた完成披露舞台挨拶イベントにて、主演の綾野剛は本作について、このように語った。「町田さんの原作に、宮藤さんの脚本、そして監督が石井監督ですから、本作は間違いなく劇薬です!この舞台にいらっしゃる一人一人の役者さんがパンク精神を注入した作品で、言葉で説明するにはどうにもこうにも宣伝不可能な作品なんです!」
血が多すぎるとか残虐シーンがとか内容どうこうよりも、奇想天外な夏向けのド派手なお祭り映画として眺めるといいだろう本作。原作者の町田氏は石井監督を称えて、このように語っている。「私の小説を石井さんが撮る。このことに特別な感慨があります。人の脳に束の間浮かんでは消える幻のごとき瞬間の連鎖、を石井さんはスクリーンに顕現させてくれました。小説作者としてこんなうれしいことはありません。ぜひともご覧になってください。『宇宙が砕けますよ』」
劇場公開 | 2018年6月30日より丸の内TOEIほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2018年 日本 |
上映時間 | 2:11 |
配給 | 東映 |
原作 | 町田康 |
監督 | 石井岳龍 |
脚本 | 宮藤官九郎 |
出演 | 綾野剛 北川景子 東出昌大 染谷将太 浅野忠信 永瀬正敏 村上淳 若葉竜也 近藤公園 渋川清彦 國村隼 豊川悦司 |
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