英国総督 最後の家

英国人総督夫妻の献身、異教徒同士の若い2人の恋愛
インドとパキスタンとして英国の植民地から分離独立した
1947年当時を、実話から着想を得て描く人間ドラマ

  • 2018/08/07
  • イベント
  • シネマ
英国総督 最後の家© PATHE PRODUCTIONS LIMITED, RELIANCE BIG ENTERTAINMENT(US) INC., BRITISH BROADCASTING CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND BEND IT FILMS LIMITED, 2016

イギリスによる植民地支配から、インドとして独立、パキスタンとして建国、2つの国に分離独立した1947年のインドの実話から着想を得た物語。出演は映画『パディントン』、ドラマ「ダウントン・アビー」のヒュー・ボネヴィル、映画『ラストキング・オブ・スコットランド』、ドラマ「X-ファイル」のジリアン・アンダーソン、『マダム・マロリーと魔法のスパイス』のマニーシュ・ダヤール、インドで活躍する若手女優フマー・クレイシー、『ハリー・ポッター』シリーズのマイケル・ガンボンほか。監督・脚本は映画『ベッカムに恋して』で知られ、自身の祖父母も分離独立で大移動したというグリンダ・チャーダが手がける。1947年、インド返還のため新総督に任命されたルイス・マウントバッテンが、妻と娘とともにイギリスから首都デリーへやってくる。総督の屋敷では日々論議が行われるが……。関係者への取材や歴史資料のリサーチ、当事者の手記などに基づき、インドの分離独立の政治的な背景を軸に、良心ある人々の献身と苦悩、宗教が違うことから惹かれ合いながらも結ばれることが難しい恋人たち、といった人間模様とともに分離独立の成り行きを描いてゆく。チャーダ監督が「分離独立が市井の人々に与えた影響を、観客にきちんと理解してもらえる映画を作りたかったのです」と語る、史実をもとにした物語である。

ヒュー・ボネヴィル,ニーラジ・カビ,ジリアン・アンダーソン

1947年2月、インドのデリー。統治権の譲渡をすべく最後の総督に任命されたルイス・マウントバッテン卿が、妻エドウィナと娘パメラとともにイギリスから赴任。ヒンドゥー教徒、イスラム教徒、シク教徒の500人の使用人たちが住み込みで働く、瀟洒で広大な総督の館で一家は暮らし始める。そんななか、総督付きのスタッフとなったインド人の青年ジート・クマールは、以前から思いを寄せていた女性アーリアと再会。パメラの世話係として働くアーリアもジートの熱意に惹かれていくが、信仰が違うことや幼いころからの婚約者が自分にいること、父を裏切ることもできないことから関係を進められずにいる。一方、マウントバッテン卿は、統一インドを目指すマハートマー・カンディーやジャワハルラール・ネルーらの国民会議派と、分離独立を強く求めるムスリム連盟のムハンマド・アリー・ジンナーらとともに、統一か分離かの論議を連日続けていた。またエドウィナは市井の人々とふれあい、女性や子どもたちの暮らしを視察するなかで、統一インドとして平和的に独立する道を後押ししたいと思うように。しかし宗教対立による暴動が各地で激化してゆくなか、政情の安定や人々の安全な暮らしをなるべく早く実現すべく、総督は非常に難しい判断が迫られる。

ヴィクトリア女王のひ孫である、思いやりのあるイギリス人総督とその家族の苦悩、自国や自身の宗派の利益を優先する一部の政府関係者の思惑、国家の分離による市井の人々の混乱、異教徒間の対立。そうした複数の視点を取り入れ、1947年から70周年の2017年に、インドが分離独立をした経緯と背景について描いた物語。国家の分断にともなう1400万人の大移動は、チャーダ監督の祖父母が経験したことであり、この映画を作るきっかけになったと語っている。不穏で厳しい情勢を描くストーリーながら、総督一家は仲の良い家族であり、夫妻がともにインドの人々のために誠実に心を砕いたこと、またジートとアーリアという若いインド人の恋愛ストーリーがあることで、幅広い層に観やすい内容となっている。また女性の立場がとても弱い時代の物語であるものの、総督の妻エドウィナがとても進歩的で、差別や偏見をもたないよう心がけ、積極的に街を視察して夫に率直に意見し、夫も活動的な妻を尊重している、と夫婦にゆるぎない信頼関係があることも、観ていてホッとする。

ヒュー・ボネヴィル,ジリアン・アンダーソン,ほか

インドの最後の総督であり、英国王室の血を引くルイス・マウントバッテン役は、ヒュー・ボネヴィルが威厳とあたたかみのある人物として、妻エドウィナ役はジリアン・アンダーソンがインドの人々に寄り添う慈愛をたたえたしっかり者として表現。総督のお付きとして働き始めるインド人の青年ジート役はマニーシュ・ダヤールが一途な男性として、ジートとの関係に迷うアーリア役はフマー・クレイシーが、家族思いの真面目な女性として、総督の娘パメラ役はリリー・トラヴァースが気立てのいいお嬢さんとして、腹に一物あるイギリス政府の参謀長イズメイ役はマイケル・ガンボンが、アーリアの父役はインド人俳優のオーム・プリーが、新たな国境線を引く作業を担う英国人弁護士のラドクリフ役はサイモン・キャロウが演じている。また統一インドを望む国民会議派でありのちに独立したインドの初代首相となるジャワハルラール・ネルー役はタンギール・ガニーが、ネルーの指導者マハートマー・カンディー役はニーラジ・カビが、分離独立とパキスタン建国を強硬に目指すムスリム連盟のメンバーであり、のちにパキスタンの建国者となったムハンマド・アリー・ジンナー役はデンジル・スミスが、実在した要人をそれぞれ印象的に演じている。

本作では映画の撮影としては異例のことながら、現在のインド大統領官邸となっているもと総督の館に入る許可を大統領と首相から得たとのこと。そのため、劇中の外観シーンでは本物のもと総督の館を観ることができるのも特徴だ。この館はイギリスの建築家エドウィン・ラッチェンスが設計し、17年かけて1929年に完成した建物。今でも世界で一番大きな国家元首の官邸として知られている。また室内や階段や庭のシーンは、タージ・ホテル・グループの7つ星ホテルであり、その1棟がマハラジャの家になっているウメイド・バワン・パレスにて撮影。クラシックで瀟洒な建築物や豪華なインテリアといった美しいヴィジュアルも楽しめる。

マニーシュ・ダヤール,フマー・クレイシー

チャーダ監督はこの映画の企画を進めているなか、チャリティパーティでマウントバッテン卿の甥の息子であるチャールズ皇太子と会ったとのこと。そこで「大叔父様についての映画を制作中です」と話したところ、チャールズ皇太子から、マウントバッテン卿の個人秘書を務めていたナレーンダル・スィンフが書いた本『The Shadow of the Great Game』を薦められ、「本当は何が起きていたのかが分かります」と言われたそうだ。さらに数日後には、そのナレーンダル・スィンフの息子で俳優志望の青年がやってきて、「父の本をぜひ読んでほしい」と、その本を渡されたという。そして彼は本作で、マウントバッテン卿の副官役で出演も。また監督は脚本の執筆にあたり、劇中にも登場している総督の娘レディ・パメラ・マウントバッテンに数回会って話を聞いたとも。
 政治的な思惑と宗教の対立による暴動や紛争、市井の人々の混乱と苦しみは、今も一部の国々で続いている。1947年のインド分離独立の史実をもとにした物語を観ることが、いまも世界で続いている宗教対立や紛争に巻き込まれている市井の人々への理解や思いやりの一助に、ほんのわずかであってもなることができるかもしれない。チャーダ監督は本作のテーマについて、このように語っている。「可能な限り幅広い層の観客に作品を届け、ほとんど忘れ去られてしまった、このとても重要な出来事を、みなさんに再認識してもらいたい。私たちは歴史を振り返り考察することで自分たちが何者かを知り、現状を理解することができます。それこそがこの作品で成し遂げたいことなのです」

作品データ

劇場公開 2018年8月11日より新宿武蔵野館ほかにて全国順次ロードショー
制作年/制作国 2017年 イギリス
上映時間 1:46
配給 キノフィルムズ
原題 Viceroy’s House
監督・脚本 グリンダ・チャ―ダ
出演 ヒュー・ボネヴィル
ジリアン・アンダーソン
マニーシュ・ダヤール
フマー・クレイシー
マイケル・ガンボン
オーム・プリー
サイモン・キャロウ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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