ブレス しあわせの呼吸

余命宣告から36年生きた英国人男性の実話を映画化
自らが発案し人工呼吸器付きの車いすを開発するなど
ユーモアをもち明るくタフに過ごした一家の姿を描く

  • 2018/09/06
  • イベント
  • シネマ
ブレス しあわせの呼吸© 2017 Breathe Films Limited, British Broadcasting Corporation and The British Film Institute.
All Rights Reserved

28歳で「余命数カ月」と宣告されてから36年、家族や周囲の人々とともに前向きに生きたイギリス人男性の実話をもとに映画化。出演は『ハクソー・リッジ』のアンドリュー・ガーフィールド、TVシリーズ「ザ・クラウン」のクレア・フォイ、『プライドと偏見』のトム・ホランダー、TVシリーズ「ダウントン・アビー」のヒュー・ボネヴィルほか。監督は『ロード・オブ・ザ・リング』3部作のゴラム役や、『猿の惑星』のシーザー役などモーションキャプチャーのプロとして知られ、本作で長編監督デビューとなるアンディ・サーキス、脚本は『グラディエーター』『レ・ミゼラブル』のウィリアム・ニコルソン、撮影監督は『JFK』『アビエイター』『ヒューゴの不思議な発明』でアカデミー賞を3度受賞したロバート・リチャードソンが手がける。運命の女性ダイアナと結婚し幸せに過ごしていたロビンは、アフリカでポリオに感染。首から下が全身マヒとなり、人工呼吸器なしでは生きられない体になるが……。呼吸器付きの車椅子をはじめ、障害をもつ人々が操作できる電子装置の開発に積極的に関わり、1974年に大英帝国勲章を授与されたロビン・カヴェンディッシュの半生を描く。寝たきりであってもよりよく生きる“生活の質”にこだわったロビンと、彼を支える家族や友人たちとの逸話をもとにした良質な人間ドラマである。

アンドリュー・ガーフィールド,ほか

1957年のイギリス。ロビンは一目惚れしたダイアナと結婚し、紅茶卸のビジネスを開始。茶葉の買い付けのためアフリカのケニアへ夫婦で赴く。まもなくダイアナは妊娠し、夫妻は友人たちとともに幸せに過ごしていたが、1958年にロビンがポリオに感染。首から下が全身マヒとなり自力で呼吸もできず寝たきりとなり、医師から「余命数ヵ月」と宣告される。1959年にダイアナは男の子を出産し、一家でイギリスへ帰国。専門の病院で寝たきりの状態になったことで絶望するロビンを、ダイアナは懸命に励まし続け、ロビンの願いを受け入れて自宅看護を決意。人工呼吸器の操作を看護師から学び、「2週間で死ぬ」と断固反対する病院関係者の反対を押し切ってロビンを自宅へと連れ帰る。ダイアナの献身的な看護を受け、息子のジョナサン、愛犬ベンジーとともに過ごすなか、ロビンは明るさを取り戻してゆく。そんな折、ロビンの友人で大学教授のテディは、ロビンからのアイデアを得て、1962年に人工呼吸器付きの車いすを手作りで製作。外出できるようになったロビンは、車いすが乗るように自動車の改造を依頼し、行動範囲を広げていく。

寝たきりとなった全身マヒの患者を自宅で看護することはあり得なかった当時に、病院を退院して自宅看護をし続け、患者が自らの発案で友人とともに人工呼吸器付きの車いすを開発。生涯にわたり患者が操作できる電子装置の開発に関わり、障害をもつ人々の生活をより良いものにすることに尽力したロビン・カヴェンディッシュの半生を描く。家族や友人、周囲の人々とともに過ごし、強靭な精神力でよりよい生活のためにできることを積極的にしていったロビンの実話をもとにしたこの作品は、いわゆる難病ものとは趣が異なる。闘病の苦しみや厳しい心情の描写がありながらも、陽気なユーモアや清々しい明るさとともに生きたロビンと家族の姿を映す、力強い内容だ。
 本作の製作を手がけるのは、『ブリジットジョーンズの日記』『エリザベス:ゴールデン・エイジ』などを手がけてきた映画プロデューサーであり、この映画の劇中にも登場するロビンの実の息子ジョナサン・カヴェンディッシュ。そもそもの映画化については、ジョナサンがウィリアム・ニコルソンの脚本による舞台『ある作家と死』を見た時に、セリフなどに両親の話していた風合いを思い出すような感覚があり、後日にニコルソンに打診したところ快諾。2人で数年かけて脚本を練り上げて完成した脚本を、ジョナサンが一緒に製作会社「ザ・イマジナリウム」を設立したアンディ・サーキスに見せたところ、監督をさせてほしいとサーキスが申し出たという。両親を先駆的な存在だと改めて気づかせてくれたサーキスへの信頼を、ジョナサンは語る。「彼が監督をやりたいと言った時、これは困難を克服した愛の物語だと一緒に確認しあった。でもアンディは、誰もが成し得なかったことをやり遂げる物語としてもこれを見てくれた。僕自身、両親が先駆者だったとは実感していなかったんだ」

アンドリュー・ガーフィールド,クレア・フォイ

スポーツ万能で快活なもとイギリス陸軍大尉、除隊後に紅茶卸のビジネスを始めるも28歳にして全身マヒとなるロビン役は、アンドリューが前半から表情だけの演技になりながらも明るくタフにロビンの本質を表現。ロビンを励まし難しい看護をし続ける妻ダイアナ役はクレアが、ポジティブかつ献身的に。アンドリューはロビンや周囲の人たちの実際の映像を何度もみることにより、ロビン自身の動きや話し方、人々との交流を参考に、またクレアは現在80代になりオックスフォードシャーで暮らしているダイアナ本人と話し、役作りに生かしたとのこと。クレアはこの役を演じたことで、人生を大切に生きることについて実感し、演技への取り組み方も大きく変化したという。ダイアナへの感謝とともに、クレアは彼女についてこのように語っている。「ダイアナと話せるなんて、とても幸運だったわ。彼女にはお孫さんが三人いて、とても充実した人生を送っている。彼女はロビンに対する愛ゆえに、並外れたことをやり遂げた、とても強い女性なの」
 夫婦を案ずるクレアの双子の兄、ブロッグス役とデヴィッド役はトム・ホランダーが1人2役で、ロビンの友人で呼吸器付き椅子を一緒に開発したテディこと、エドワード・トーマス・ホール(オックスフォード大学で1985年に教授、1989年に考古学の名誉教授となった)役はヒュー・ボネヴィルが、それぞれに演じている。

実在のロビン・カヴェンディッシュは、1930年イギリスのダービシャー生まれ。王立陸軍士官学校を卒業後、英国陸軍に7年在籍し大尉に。除隊後にアフリカで紅茶卸のビジネスを開始。1957年にダイアナと結婚してケニアに渡り、28歳の時にポリオウィルスに感染し、首から下が全身マヒに。1962年に友人であるオックスフォード大学のE・T・“テディ”・ホール教授とともに、呼吸器付きの車椅子を開発。保健省から資金提供を募り、改良モデルを作り続けた。その後、医師や科学者とともに、障害者が操作できる電子装置の開発に関わり、頭の動作で使用できる電話、テレビ、ヒーターなどの商品化に尽力。その功績が称えられ1974年に大英帝国勲章を授与。障害者の生活をより良いものにするべく活動し続け、1994年に64歳で他界した。そして1995年には障害をもつ人々のために個人や団体に助成金を提供するロビン・カヴェンディッシュ記念基金が設立、2017年にはポルトガルのリスボンにあるカルースト・グルベンキアン財団よりロビンとダイアナ夫妻に、障害をもつ人たちに与えた影響やその活動を称え、ペイシェント・イノベーション・ライフ・アチーブメント賞が授与された。

クレア・フォイ,アンドリュー・ガーフィールド,ほか

本作はアカデミー賞を3度受賞している撮影監督ロバート・リチャードソンの映像により、アフリカやイギリスの美しい風景が楽しめるのも特徴。冒頭のクリケットのシーンはイギリスのバークシャー州エングフィールドにて、ロビンとダイアナの自宅はルートンの近くにある屋敷にて、また貴族の邸宅の応接間や舞踏室などは、ハートフォードシャーにある壮大なジャコビアン様式の大邸宅「ハットフィールド・ハウス」にて撮影。南アフリカの高台から景色を見下ろす前半のシーンも美しく、こうした映像がカヴェンディッシュ一家の物語をカラフルに彩っている。

「この脚本のすごいところは、素晴らしいラブストーリーってだけでなく、実話にもとづいている上に、ユーモアも含まれていることだ」。アンディ・サーキスは監督を申し出た時、本作の魅力についてジョナサンにこのように語ったという。このコメントの通り、夫婦の会話や友人たちとのやりとりにはユーモアやウィットがあり、実験的な設備でありながら積極的に外出し遠出もするロビンは、いつもリスクと隣り合わせではあったけれど、深刻なアクシデントすらイベントに変えてしまうような、柔軟な知性があって。この映画のラストに関しては、人によってさまざまな感じ方があるだろう。肯定も否定もどちらもあっていいと著者は個人的に思う。そうしたことをふまえても、幅広い層におすすめできる作品である。

作品データ

ブレス しあわせの呼吸
劇場公開 2018年9月7日より角川シネマ有楽町ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 イギリス
上映時間 1:58
配給 KADOKAWA
原題 Breathe
監督 アンディ・サーキス
脚本 ウィリアム・ニコルソン
撮影 ロバート・リチャードソン
プロデューサー ジョナサン・カヴェンディッシュ
出演 アンドリュー・ガーフィールド
クレア・フォイ
ヒュー・ボネヴィル
トム・ホランダー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。