ボヘミアン・ラプソディ

イギリスの伝説的なロックバンド、クイーンの軌跡と
フレディ・マーキュリーの半生を名曲とともに描く
実話と愛情をベースに製作したドラマティックな感動作

  • 2018/11/01
  • イベント
  • シネマ
ボヘミアン・ラプソディ© 2018 Twentieth Century Fox

伝説的なミュージシャン、フレディ・マーキュリーを主人公にクイーンの逸話を描く映画が完成。出演はドラマ『Mr.Robot/ミスター・ロボット』でエミー賞を受賞したラミ・マレック、映画『ツーリスト』のグウィリム・リー、『メアリーの総て』のベン・ハーディ、『ソーシャル・ネットワーク』のジョセフ・マッゼロ、『オリエント急行殺人事件』のルーシー・ボイントンほか。監督は『X-MEN』シリーズ、『ユージュアル・サスペクツ』のブライアン・シンガー、そしてシンガーが降板後に約1/3の製作を引き継ぎ、製作総指揮としてクレジットされているデクスター・フレッチャー、脚本・原案は『博士と彼女のセオリー』のアンソニー・マクカーテン、そして音楽総指揮は「フレディの遺志を守るために」すべてに関わったと語り、今もクイーンのメンバーとして現役で音楽活動を続けているギタリストのブライアン・メイとドラマーのロジャー・テイラーが手がける。メンバーとの出会い、バンドの成功、継続していくなかでの不和や対立、そして。公的な面だけでなく、実直で堅実なインド人の両親のもとで育ち、イギリスで移民として暮らしていたフレディがスターとなり、自身の性愛について迷い、メンバーたちが結婚して家庭をもち、深い孤独を感じ……と、プライベートの知られざるエピソードを含めて描く。歌はほぼクイーンの演奏によるオリジナルの音源を使用、全世界で第1位となった11曲をはじめ28の名曲とともに惹きつける、ドラマティックな感動作である。

ベン・ハーディ,グウィリム・リー,ジョー・マッゼロ,ラミ・マレック

1970年、ロンドン。23歳のフレディは、昼は空港で荷物係として働き、夜はライヴ・ハウスに通う日々を送っている。ある夜、出演バンド“スマイル”のヴォーカルが脱退したと知ったフレディは、メンバーであるギタリストのブライアン・メイとドラマーのロジャー・テイラーに自身を売り込む。最初は相手にしなかった2人もフレディの歌声を聴いて納得、1年後にベーシストのジョン・ディーコンが加わり、フレディのアイデアでバンド名はクイーンに決定、4人でアルバムを制作する。それが音楽業界の目に留まり、レコード会社からメジャーデビュー。フレディは一目惚れしたガールフレンド、メアリー・オースティンとの恋愛でプライベートも充実。バンドはシングル「Killer Queen」の大ヒットをきっかけに初のアメリカツアーを実施し、クイーンは世界的な人気バンドとなり、フレディは“史上最高のエンターテイナー”と呼ばれるように。しかしメンバー内の不和や対立、フレディの実生活でのスキャンダルが報道され、フレディは孤独を深めてゆく。

「キャストの演技、この映画を誇りに思う」。2018年10月23日(現地時間)にロンドンのウェンブリー・アリーナで行われた本作のワールドプレミアにて、ブライアン・メイが称賛した通り、音楽的にも物語としても魅力的な内容となっている本作。そもそもの始まりは、本作の原案を手がけた脚本家のピーター・モーガンから、プロデューサーのグレアム・キングに「作品を手がけてくれる人が必要だ」と話し、キングがブライアンとロジャー、クイーンのマネージャーのジム・“マイアミ”・ビーチと連絡をとり、みんなで会ったところ意気投合し始まったとのこと(U)。そしてブライアンとロジャーが本作の製作過程に最初から最後まで関わったことで、事実に忠実な内容になっているとも。企画のはじまりから完成まで8年かかったという本作について、ブライアンは微笑みながら語る。「この映画は絶対に実現しないと、ロジャーと僕とで思っていた時期もあった。だから、完成させてくれたことに本当にワクワクしているんだ」
 グレアム・キングは自身もクイーンとフレディのファンであり、この映画の製作には光栄さと喜び、大きなプレッシャーを感じながら臨んだとのこと。そして本作の初期の編集版をブライアンとロジャーに見せた時は、「映画を見ずに、映画を見ている2人を見ていた」そうで、彼らが見終わってから1分ほど沈黙した後、「素晴らしい」と言ったことに、とても感動したと語っている(U)。

ラミ・マレック,ルーシー・ボイントン

ロンドンで暮らすインド出身のいち青年ファルーク・バルサラから、音楽界でトップを極めるミュージシャンとなるフレディ・マーキュリー役は、ラミ・マレックが熱く表現。落ち着いた雰囲気のギタリスト、ブライアン・メイ役はグウィリム・リーが、率直な気性のドラマー、ロジャー・テイラー役はベン・ハーディが、最後にバンドに加入した控えめな気質のベーシスト、ジョン・ディーコン役はジョセフ・マッゼロが、フレディが生涯大切にした女性メアリー・オースティン役はルーシー・ボイントンが、バンドの最初のマネージャーであるジョン・リード役はエイダン・ギレンが、弁護士からバンドのマネージャーとなるジム・“マイアミ”・ビーチ役はトム・ホランダーが、EMIレコードの社長レイ・フォスター役はマイク・マイヤーズが、フレディの個人マネージャーとなるポール・プレンター役はアレン・リーチが、フレディのボーイフレンドのジム・ハットン役はアーロン・マカスカーが、それぞれに演じている。
 劇中では「Killer Queen」「Bohemian Rhapsody」など有名なヒット曲にまつわる裏話、音楽やファッションを愛するフレディが、会計士の父親から長い間理解されず認められずにいたこと、フレディがインド出身の移民であることや、上あごの歯が通常より4本多く口元の見た目を気にしていたこと、ブライアンがインペリアル・カレッジ・ロンドンの大学院で宇宙工学を研究していたこと、ロジャーがロンドン・ホスピタル・メディカル・カレッジで歯科学を先行した後、ノース・ロンドン・ポリテクニック大学で生物学の理学士号を取得したこと、ジョン・ディーコンがロンドン大学のチェルシー・カレッジで学んだエンジニアであることなど、ファンでなければ知らないような意外な事実もさりげなく語られている。

劇中に流れる28の楽曲のうち、一部はラミも歌っているものの、ほとんどはフレディが歌うクイーンのオリジナル音源を使用。ブライアンとロジャーが音楽総指揮をつとめたサウンドトラック22曲は、とにかく選りすぐりの必聴ものだ。まずはブライアンの提案により、20世紀フォックス映画のオープニング音楽であるファンファーレを彼がギターで演奏し、最初からクイーンの世界へ引き込むという味な仕掛けをしている。そしてこれまでにオーディオ形式では未収録の音源も多数。大げさではなく、ロック史上で最高のライヴ・パフォーマンスのひとつと称えられている1985年7月13日の野外イベント「ライヴ・エイド」からの5曲、「Bohemian Rhapsody」「Radio Ga Ga」「Ay-Oh」「Hammer To Fall」「We Are The Champions」、また1979年のワールド・ツアー「ジャズ」よりパリ収録の「Fat Bottomed Girls」、1985年1月にブラジルで行われたロック・フェス「ロック・イン・リオ」より「Love Of My Life」など。「Don't Stop Me Now」はブライアンがギター・トラックを新たにレコーディングし、現在ライヴで演奏しているものに近いサウンドで、「We Will Rock You」はスタジオ音源からライヴ・パフォーマンスへ移行する特別ミックスとなっている。またエンジニアリングと共同プロデュースとしてクイーンと長年スタジオ作業を行ったスタッフたちがブライアンとロジャーとともに参加。ただのヒット集ではなく、いかに映画のシーンにマッチしドラマを引き立てるかを吟味し、貴重な音源の数々から厳選したそうだ(U)。

グウィリム・リー,ラミ・マレック,ほか

フレディは1991年に45歳でHIV発症による気管支肺炎で他界。彼の遺言により「Bohemian Rhapsody」の印税がエイズ基金「Terrence Higgins Trust」に寄付された。そして1992年4月20日にクイーンのメンバー3人は、エルトン・ジョン、アクセル・ローズ、デヴィッド・ボウイらとともにロンドンのウェンブリー・スタジアムにてフレディの追悼コンサート「The Freddie Mercury Tribute Concert for AIDS Awareness」を開催。その収益をもとに、ブライアンとロジャー、ジム・ビーチはエイズ撲滅を目指すチャリティー団体「The Mercury Phoenix Trust」を設立(http://www.mercuryphoenixtrust.com)。また本作の公開を記念し、「The Mercury Phoenix Trust」をサポートする企画第1弾として、人気アーティストのショーン・メンデスが「Under Pressure」をカヴァー。この楽曲の売り上げの利益はすべてこの財団に寄付されるそうだ。この企画について、ジム・ビーチはこのようにコメントしている。「非常に才能のあるアーティストのショーンが、クイーンとデヴィッド・ボウイによる名曲の素晴らしいヴァージョンを作り上げてくれました。マーキュリー・フェニックス・トラストの私たち全員、世界中でエイズを撲滅するために今も戦っている私たちを支援していただいて、ショーンとユニバーサル ミュージック グループに対して大きな感謝でいっぱいです」(U)

フレディの思いがあり、それを受けた仲間たちが団体を設立するといった具体的な動きを起こし、地道に活動を継続できる仕組みを作り、ファンがアクションできる仕掛けにつながる。そしてベースのジョンはすでに引退しているが、ブライアンとロジャーは現在もクイーンとして音楽活動を続けている。映画を観ていてしみじみと思ったのは、フレディは本当に愛あふれる人だったのだなと。彼の歌詞からもともとそう思っていたけれど、改めて実感した。映画の上映としては、2018年11月8日には<前夜祭上映>、11月9日には<胸アツ応援上映>といろいろな注目企画も。全身に響くコンサートばりの音響の上映があるなら、筆者もまた観に行きたいなと。時代を超えてフレディとクイーンを愛する人たちがいて、彼らの音楽と愛は永遠に生き続ける。本作はこの感覚を実話と愛情ベースで映画化している、魅力的な作品だ。最後にクイーンのギタリスト、ブライアン・メイと、本作のプロデューサー、グレアム・キングのコメントを紹介する。
 グレアム・キング:「これはクイーンの音楽と、史上最高のリード・ヴォーカルの1人であるフレディ・マーキュリーを称える映画だ。完成するまでに8年の歳月を費やしたが、それだけの価値があったと確信しているし、私たちがやり遂げたことをとても誇りに思っている。フレディは、既成概念や周囲の予想を打ち破り、自身と自らの音楽を信じて、すべてを変えた。その結果、フレディはバンドとともに並外れた成功をおさめ、地上最も人気を博したエンターテイナーの一人となり、今日に至るまで続いているレガシーを確立した。クイーンの曲は、数え切れないほどの映画やコマーシャルに使われ、今も世界中のスタジアムや、バーとパブで鳴り響いている。彼らの音楽は、アウトサイダーや夢を追う人、音楽ファンたちをインスパイアしてきた。ごく少数のパフォーマーにしかできない形で、人々とつながりをもったフレディだからこそ生みだせた音楽だ」(U)
 ブライアン:「完成した映画を観て、ワクワクしている。これは伝記映画ではなく、硬い岩から掘り出されたような、純粋なアートだ。家族や人間関係、希望に夢、悲嘆や失望、そして最後には勝利と達成感が、誰にでも共感できるような物語として描かれている。決して楽な旅ではなかったが、価値のある旅というのは、すべてそういうものだ! ラミとルーシー、それに若者たちがとてつもない演技を見せてくれ、実物よりもずっと立派だ!!」

※「(U)」の表記がある部分は、ユニバーサルミュージックのクイーンHPより引用。

作品データ

ボヘミアン・ラプソディ
劇場公開 2018年11月9日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2018年 イギリス/アメリカ
上映時間 2:15
配給 20世紀フォックス映画
原題 Bohemian Rhapsody
監督 ブライアン・シンガー
原作・脚本 アンソニー・マクカーテン
原案 ピーター・モーガン
製作 グレアム・キング
ジム・ビーチ
音楽総指揮 ブライアン・メイ
ロジャー・テイラー
出演 ラミ・マレック
ジョセフ・マッゼロ
ベン・ハーディ
グウィリム・リー
ルーシー・ボイントン
エイダン・ギレン
トム・ホランダー
マイク・マイヤーズ
アレン・リーチ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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