アガサ・クリスティー ねじれた家

著者が「ベストの一つ」という作品を実力派が初映画化
大富豪が死亡し、孫娘の元恋人の探偵が調査に乗り出す
殺人事件の顛末をモダンな演出で引きつけるミステリー

  • 2019/04/10
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アガサ・クリスティー ねじれた家© 2017 Crooked House Productions Ltd.

作家アガサ・クリスティーが自ら「この作品が私のベストの一つ」と語る、1949年の殺人ミステリーを初映画化。出演は、『天才作家の妻 -40年目の真実-』のグレン・クローズ、『黄金のアデーレ 名画の帰還』のマックス・アイアンズ、『アンコール!!』のテレンス・スタンプ、『ドラゴン・タトゥーの女』のジュリアン・サンズほかイギリスの俳優たちを中心に。脚本は『ゴスフォード・パーク』でアカデミー賞を受賞したジュリアン・フェロウズ、監督は『サラの鍵』のジル・パケ=ブレネールが手がける。大富豪が自宅の豪邸で毒殺。私立探偵チャールズは、富豪の孫娘で元恋人のソフィアから調査を依頼されるが……。美しい屋敷やインテリア、エレガントな衣裳とともに、大富豪一族にまつわる殺人事件の顛末をドラマティックに描く。真相が明らかになるまでの顛末をモダンな演出で引きつける殺人ミステリーである。

グレン・クローズ

イギリスでレストランとホテルの経営により一代で財を成した、ギリシャ出身の大富豪アリスティド・レオニデスが死亡。彼の孫娘ソフィアは、一族内部の犯行である可能性とスキャンダルを恐れ、かつての恋人で私立探偵のチャールズに調査を依頼する。ロンドン警視庁を訪れたチャールズは、亡き父の友人だったタヴァナー主任警部と会い、アリスティドの遺体から毒薬が検出されたと知る。そして一族の豪邸でチャールズは聞き込みを始めるも、アリスティドの亡くなった前妻の姉イーディスや愛人のいるらしい若い後妻、破産・倒産寸前の2人の息子とその妻と、全員に殺害の動機があり、何も確信を得ることができずにいた。そんななか、予想外の第2の殺人が起きる。

「自作の探偵小説の中で、私が最も満足している二作は『ねじれた家』と『無実はさいなむ』である」(『アガサ・クリスティー自伝』より)。一般的にはあまり知られていない作品ながら、作家本人が特に気に入っているという小説を初めて映画化した本作。現在ではさまざまに衝撃的な内容の物語が創作されているものの、この小説を発表した1949年当時はショッキングな展開に出版社が驚き、結末を変更するようにクリスティーに頼んだとも。マザー・グースの童謡『ねじれた男』を組み入れ、イギリスの裕福な一族で起こった殺人事件を描くこの物語について、「ある種の家族をよく観察するのは面白い」と著者は1972年に書いている。事件の真相に関わる人物について、タイトルを言ってしまうとネタバレになりそうなのでふせるものの、個人的にはジャン・コクトーのある小説の登場人物を思いだした。

マックス・アイアンズ,ステファニー・マティーニ

アリスティド・レオニデスの若くして亡くなった前妻の姉イーディス役はグレン・クローズが堂々と、私立探偵チャールズ役はマックス・アイアンズが熱心に、アリスティドの孫娘ソフィア役はステファニー・マティーニが、ロンドン警視庁のタヴァナー主任警部役はテレンス・スタンプが、アリスティドの後妻ブレンダ役はクリスティーナ・ヘンドリックスが、アリスティドの次男でソフィアの父親フィリップ役はジュリアン・サンズが、フィリップの妻でソフィアの母親マグダ役はジリアン・アンダーソンが、ソフィアの妹ジョゼフィン役はオナー・ニーフシーが、アリスティドの長男ロジャー役はクリスチャン・マッケイが、ロジャーの妻クレメンシー役はアマンダ・アビントンが、それぞれに演じている。
 劇中のクライマックスである晩餐会のシーンには12人の俳優が登場。全員のスケジュールが合う日が1日のみ、脚本8ページ分の場面だったことから、キャストもスタッフも高い集中力をもって取り組み、無事撮影を乗り切ったという。ソフィアの母マグダを演じたジリアンは、このシーンについて感慨深く、このように語っている。「本当に1日で撮り終えることができるのか皆心配していたわ。その場面にはとても興味深いリズムがあるの。テーブルの片隅で2、3人が会話を始め、それが別の人に移り、次のドラマの幕開けにつながっていく。ばらばらに見えて、すべてが綺麗に流れるよう計算されているの」

本作は伝統的な建造物や美術セット、美しい庭園も見どころのひとつ。レオニデス家の屋敷の外観の撮影は、イギリスのハンプシャー地方にある屋敷ミンリー・マナーにて。ここは1982年のフォークランド紛争の戦略会議で使われた場所とのこと。また部屋の内部の撮影はバークシャー州にあるヒューエンデン・マナーとウェスト・ウィカム・ハウス、そしてバッキンガムシャー州のパインウッド・スタジオでも。また“豪華な階段”の撮影は、サマセット州のラクソール村にあるティンツフィールド邸宅で行われた。
 また原作では1947年の出来事として描かれているものの、映画ではパケ=ブレネール監督の意思により1956〜1957年に設定を変更。スエズ運河危機の動乱を背景に、ロンドンのソーホー地区には自由な空気が流れていた、という当時について監督は、「この時代は大衆文化が大きく成長を遂げていた。ロックンロールの誕生、つまり若者文化の誕生だ。それ以前はティーンの世界はなかったんだ」とコメント。そしてこの映画について、自負とともにこのように語っている。「これまでのクリスティーの映画作品では見たことがない要素を取り入れることができた」

テレンス・スタンプ,クリスティーナ・ヘンドリックス

イギリスを代表する作家のひとりであるアガサ・クリスティーの作品では、エルキュール・ポアロ、ミス・マープルといった探偵のキャラクターは特に人気が高く、TVドラマ化も多数。アガサ・クリスティーは1890年にイギリスのデヴォン州トーキーに生まれ、1920年に長編『スタイルズ荘の怪事件』で作家デビュー。1976年に85歳で亡くなるまで、長編、短編、戯曲など100作以上を執筆。発刊数は本国イギリスだけで10億冊、全世界で20億冊以上といわれ、大英帝国勲章を1956年と1971年の2度授与された。
 「ほとんどすべての方々が『ねじれた家』に好意を持ってくださいました。ですから、この作品が私のベストの一つだという確信は、まちがっていないと思います」(ペンギン・ブックス1953年版の著者による序文より)。作家本人が自身で「ベストの一つ」と語る作品を、スタイリッシュに映画化した本作。「少しでも結末を変えれば、契約により“アガサ・クリスティー”の名前を使えなくなる」というなか、当時の最先端だったミステリーを、現代の観客に向けてどのように映像化していくか。本作には派手さはないものの、原作を尊重しながらほどよい硬質さ、じわじわくるカッコよさがあり見ごたえがあるのは、ジュリアン・フェロウズらによる確かな脚本とパケ=ブレネールの演出によるところだろう。近年ではアガサ・クリスティーの作品は、ケネス・ブラナー監督・出演と豪華俳優陣の共演で『オリエント急行殺人事件』が2017年に大々的に映画化され、その続編『ナイルに死す』が2020年10月2日に全米公開予定。日本でもスペシャル・ドラマとして、2015年の『オリエント急行殺人事件』(脚本・三谷幸喜氏)、2017年の『そして誰もいなくなった』などが話題に。2018年には『アクロイド殺し』を、三谷氏が再び脚本を手がけてスペシャル・ドラマ『黒井戸殺し』として日本で初めて映像化も。アガサ・クリスティー作品の映像化は、映画にドラマにさまざまな展開が今後も楽しみだ。

作品データ

公開 2019年4月19日より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 イギリス
上映時間 1:55
配給 KADOKAWA
原題 ROOKED HOUSE
監督・脚本 ジル・パケ=ブレネール
脚本 ジュリアン・フェロウズ
ティム・ローズ・プライス
原作 アガサ・クリスティー
出演 グレン・クローズ
テレンス・スタンプ
マックス・アイアンズ
ステファニー・マティーニ
ジリアン・アンダーソン
クリスティーナ・ヘンドリックス
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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