LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘

5億ドルのカギを握る少年を連れて、峰不二子が逃亡
不気味な殺し屋に狙われるなか、ルパンと次元が現れる
人物と作画のカッコ良さを原点回帰で打ち出す劇場版

  • 2019/05/17
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LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘原作:モンキー・パンチ ©TMS

モンキー・パンチ原作のアニメ―ション『ルパン三世』の、劇場版“LUPIN THE ⅢRD”シリーズ第3弾が完成。声の出演は1995年公開の映画『ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス』よりルパン三世役を引き継いだ栗田貫一、次元大介役を1971年放送の「ルパン三世」最初のシリーズから40年以上担当している小林清志、2011年より峰不二子の声を担当している沢城みゆき、ルパン作品に初出演で声優・俳優・歌手として活躍している宮野真守ほか。制作にはシリーズ作品の『LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標』『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』を手がけたクリエイターたちが再集結。監督・演出・キャラクターデザインは映画『REDLINE』の小池健、脚本は「ルパン三世 PART4」でシリーズの構成・脚本を務めた高橋悠也が手がけ、クリエイティブ・アドバイザーとして映画監督・石井克人が参加、音楽は小池健監督の映画『REDLINE』や石井克人監督の映画『PARTY7』などを手がけたジェイムス下地が担当している。父が横領した5億ドルのカギを握る少年ジーンを連れて、峰不二子は逃亡するが……。原作コミックの魅力を大いに生かした力強さ、キャラクターやストーリーのカッコ良さをクールに打ち出す作品である。

LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘

少年とともに植物観察をする峰不二子。彼女はある隠れ家で、少年ジーンと彼の父親ランディのもとでメイドをしていた。しかしランディが以前にコドフリー・マイニングという組織で5億ドルを横領していたことから追っ手が迫り、不二子はジーンを連れて逃亡。不二子とジーンは、得体の知れない力をもつ殺し屋ビンカムに執拗に狙われる。一方、ルパンと次元は自分たちの追っていることに不二子が絡んでいると知り……。

アニメ『ルパン三世』の劇場版第9作であり、気ままでセクシーな象徴的キャラクター峰不二子をフィーチャーした、映画“LUPIN THE ⅢRD”シリーズの第3弾。2014年の劇場版『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』、2017年の『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』のクリエイター陣が手がけ、クールでスタイリッシュな世界観により惹きつける内容となっている。実写さながらのリアルな動きや映像による最新アニメーションとは一味違う、1970年代当時のアニメーションのニュアンスをあえて打ち出しつつも、製作陣の技術やセンスにより現代の観客に向けてしっかりと作り込んでいるバランスが冴えている。こうした仕上がりは、大人世代にはどこか懐かしく、若い世代にはレトロな感覚が新鮮なのではないだろうか。上映時間は50分と短いものの、内容が充実しているので個人的には十分に楽しめた。

LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘

今回の峰不二子は子守のメイド、で終わるはずもなく、5億ドルをめぐる激しい攻防戦の渦中を子連れで疾走してゆく。冒頭のシーンでは、このご時世に不二子もとうとう腰を落ち着けて結婚し母親に? といった絵面であるものの、あっという間にいつものスリリングな展開に引き込んでゆく。ルパンは次元とともにある謎を追うなか、不二子が絡んでいると知り接触。5億ドルのカギを握る少年ジーンは、パパの仇をとってほしいと願い、幼すぎてお色気が効かないことから、不二子を手こずらせるところも面白い。そして不二子とジーンを狙う、コドフリー・マイニングが雇った殺し屋ビンカムは、呪術的な能力と口や指の爪などが凶器となる体で、標的を確実に追い込んでゆく。余談ながら、今回は五エ門と銭形警部は登場しない。
 “LUPIN THE ⅢRD”シリーズの魅力について、声を担当する演者たちはこのようにコメントしている。
 栗田貫一(ルパン三世役)「“LUPIN THE ⅢRD”シリーズのルパンは“渋さ”が魅力」
 小林清志(次元大介役)「普段のシリーズでは出来ない冒険が出来そうで毎回楽しみです」
 沢城みゆき(峰不二子役)「原作の…なんと言えばいいのか、安全じゃない、乾いたような雰囲気と、小池さんのスタイリッシュで新しい雰囲気が掛け算になっているシリーズだなと思います。演者の方も手加減なしでいくぞ、と挑むような感じで収録に臨んでいるような印象があります」

自らの知恵と場数と経験値と度胸で修羅場を切り抜け、美貌と肉体で人々を惑わせたらし込み、確実に目的を遂げてゆく。アニメーションとはいえ、女が“オンナ”を武器にするキャラクターは、いま改めて観てみると、前時代的で古臭い感覚になるのかなと思いきや、そんなこともなく。なぜかなと考えてみると、不二子は本質的な部分では誰にもまったく媚びていないからかなと。必要とあらば、ルパンにも敵にも誰にでも媚びることは表面的にはあっても、オンナを武器にするのはあくまでも手段。誰にも頼らずに身ひとつで生き抜くために最も有効な切り札であるから。お金や地位や名誉のために我慢して男に従うわけでも権力に媚びるわけでもなく、ゴージャスなライフスタイルが好きでお金が大好き、自由気ままに生きるために、あっけらかんと、「自分の最強の武器であるオンナを使って何が悪い」というところかなと改めて。欲望に忠実に盗み、欺き、時には殺人もいとわないというところに共感はできないが、アニメーションのキャラクターなのでそこはさておき。知力・体力ともに高く、割り切っていて強く、誰のものにもならずに、自分のしたいようにして生きたいように生きて自由でいる。時には関係者に情が移り、らしくない言動をする人間らしいゆらぎも含めて、フィクションとして観る分には、奔放で強靭で予測不能な面のある不二子のキャラクターはやっぱり魅力的なのだ。

LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘

そもそものきっかけとしては、27年ぶりの「ルパン三世」TVシリーズとして、2012年4〜6月の深夜に放送されたテレビシリーズ『LUPIN the Third 〜峰不二子という女〜』がある。劇場版の“LUPIN THE ⅢRD”とは“ルパン・ザ・サード”のタイトルの表記も製作スタッフも異なるものの、こちらのTVシリーズもとても見ごたえがある。“峰不二子という女”では不二子をメインに、モンキー・パンチの原作のテイストを生かしてルパン、次元、五エ門、銭形警部たちが出会った頃の若い時代を描いてゆく。監督はシリーズで初の女性監督であり、人気アニメ『ユーリ!!! on ICE』の山本沙代、音楽はジャズ・ミュージシャンの菊地成孔が手がけている。ジャズ・ピアニストの大野雄二による有名な楽曲「ルパン三世のテーマ」はないものの、菊地成孔による音楽の格好良さは抜群だ。時にはハードボイルドで時にはクール&セクシー、コミカルな面ももちろんあり、もともと原作者がアメリカのコミックに影響を受けていて絵柄がなじみやすいこともあるのか、『LUPIN the Third 〜峰不二子という女〜』がアメリカでも英語字幕付でWEB放送と映像ソフトが販売されている、というのもよくわかる。

本作は「限定劇場公開」ながら、同時期に“LUPIN THE ⅢRD”シリーズ旧作品の劇場上映も決定。詳しい上映館や最新のスケジュールは公式HPで確認できる。2019年4月11日、原作者のモンキー・パンチが81歳で他界したことから、この映画の最後には「モンキー・パンチ先生 ありがとう ルパン三世よ 永遠に」というメッセージも。原作者の晩年〜最晩年に、充実のスタッフと声優陣により華麗なる復活を遂げたルパンシリーズ。TVでも映画でもいずれにしても、日本製の魅力あるキャラクターたちの物語が、充実のメンバーによる作品として続いていってほしいと思うのは、筆者だけではないはずだ。

作品データ

LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘
公開 2019年5月31日より新宿バルト9ほかにて限定劇場公開
制作年/制作国 2019年 日本
上映時間 0:50
共同配給 ティ・ジョイ、トムス・エンタテインメント
原作 モンキー・パンチ
監督・演出・キャラクターデザイン 小池健
脚本 高橋悠也
音楽 ジェイムス下地
クリエイティブ・アドバイザー 石井克人
声の出演 栗田貫一
小林清志
沢城みゆき
宮野真守
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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