eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

パラサイト 半地下の家族

カンヌ国際映画祭にて最高賞を満場一致で受賞
貧しい青年が裕福な娘の家庭教師をするが……
現代社会の側面をえぐる非常に辛辣な人間ドラマ

パラサイト 半地下の家族© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

2019年の第72回カンヌ国際映画祭にて審査員の満場一致で、韓国映画として初めて最高賞のパルムドールを受賞、2020年に開催される第92回アカデミー賞の国際長編映画賞にて韓国代表に選出された話題作。監督は『殺人の追憶』『グエムル-漢江の怪物-』のポン・ジュノが手がける。出演は、『殺人の追憶』ほかジュノ監督と4度目のタッグとなるソン・ガンホ、『最後まで行く』のイ・ソンギュン、『後宮の秘密』のチョ・ヨジョン、『新感染 ファイナル・エクスプレス』のチェ・ウシクほか。“半地下住宅”で暮らす貧しいキム家の長男ギウは、ひょんなことから裕福なパク氏の豪邸で家庭教師をすることになるが……。とても鋭い風刺を含むブラックすぎるコメディであり、瞬間的に闇にスイッチするある種のスリラーであり、目をそむけたくなるような現代社会の矛盾やどうしようもなさを直視して映像化した、非常に辛辣な人間ドラマである。

チェ・ウシク

一家4人全員が失業中の貧しいキム家は、“半地下住宅”で暮らしている。窓から路上で散布される消毒剤が室内に入り込み、電波もWi-Fiも弱く、水圧が低いからトイレが家の一番高い位置にある。過去に何度も事業に失敗、計画性も仕事もないが楽天的な父キム・ギテク、甲斐性なしの夫に強くあたる母チュンスク、能力はあるのに気が弱く大学受験に落ち続ける息子ギウ、美大を目指すも受験に失敗した妹ギジョン。一家は内職で日々をしのぎ、普通の暮らしがしたいと日々思っていた。そんな折、長男ギウがひょんなことから、高台にあるIT企業の社長パク・ドンイクの豪邸で、高校生の娘の家庭教師をすることに。ギウは妹ギジョンを美術の家庭教師に推薦。キム家とパク家、ともに両親と一男一女という同じ4人家族でありながら、まったく異なる2つの家族の出会いは思いがけない方向へ……。

韓国映画史上最多の202ヶ国での公開が決定、すでに公開している韓国やフランスやアメリカなどで、観客や批評家から大絶賛されている本作。動員数は韓国で1,000万人突破、フランスで160万人を突破したとも。多様な要素を含み、観る人によってさまざまな印象となるだろう内容だ。どす黒いダークなユーモア、えぐるような手厳しさに、個人的にはあまり笑えないものが。観終わると気力を吸い取られ、緊張で固まった心身がぐったりと脱力するような、おなかいっぱいでその日はもう何も情報が入ってこないような、そうした気分に筆者はなった。ジュノ監督は本作のテーマについて語る。「この社会で絶え間なく続いている、“二極化”と“不平等”を表現するひとつの方法は、悲しいコメディとして描くことだと思います。私たちは資本主義が支配的な時代に生きていてほかに選択肢はありません。今日の資本主義社会には、目に見えない階級やカーストがあります。私たちはそれを隠し、過去の遺物として表面的には馬鹿にしていますが、現実には越えられない階級の一線が存在します。本作は、ますます二極化の進む今日の社会のなかで、2つの階級がぶつかり合う時に生じる、避けられない亀裂を描いているのです」

イ・ソンギュン,チョ・ヨジョン

貧乏でも楽観的な父キム・ギテク役はソン・ガンホが、状況により変化してゆく様子をじわじわと、元ハンマー投げのメダリストでギテクの妻チュンスク役はチャン・ヘジンがしぶとく力強く、キム家の長男ギウ役はチェ・ウシクが、線が細いながらも冷静で賢さのある青年として、ギウの妹ギジョン役は美大志望のスキルをあらぬ方へ活用する、知恵の回る女性として。IT企業の若き社長パク・ドンイク役はイ・ソンギュンが、若く美しいパク社長の妻ヨンギョ役はチョ・ヨジョンが、パク夫妻の高2の娘ダヘ役はチョン・ジソが、少々エキセントリックなダヘの幼い弟ダソン役はチョン・ヒョンジュンが、パク家の家政婦ムングァン役はイ・ジョンウンが、それぞれに演じている。またギウの友人であるエリート大学生ミニョク役として、人気俳優パク・ソジュンがカメオ出演している。
 “パラサイト”といってもクリーチャーものやSFではなく、と前置きをした上で、“パラサイト”というキーワードと、本作に登場する人々の関係性について監督は語る。「この映画の登場人物たちは現実世界に生きる家族です。彼らは、他人と争わずに共生していきたいと願っているにも関わらず、上手くいかずに寄生的な関係へと追い込まれてしまいます。本作は、人々が皆で豊かな人生を送りたいと思っても、それがいかに困難であるかが見えた時に生じる、ユーモア、恐怖、哀しみを描いた悲喜劇だと考えています」

空気を入れ続けてパンパンにふくらんだ風船や、コップに少しずつ注がれた水が表面張力で保っているような、増水し続けて決壊寸前の川やダムのような。貧富の差と労使間のストレスやゆがみがじりじりと積み重なり、途中から“いつ何が起きてもおかしくない”というどうしようもない緊張感のなかで次々と展開してゆく本作。精神的に追い詰められていく感じが生々しく、観ていると息苦しくなってくる。パク家のモダンで美しい住宅や庭、無邪気な子どもの言動、シニカルでオフビートの笑いを誘うエピソードなどは、どこかウェス・アンダーソン監督作品の雰囲気を思い出す感覚もあるものの、それはただの序盤に過ぎず、物語はどんどんドロドロに濃く濁ってゆく。ジュノ監督が“ネタバレ禁止”を切に願っていることから、記事でも内容に触れることはできないものの、監督は観客へのメッセージのなかで、本作のストーリーについてこのように伝えている。「回避不能な出来事に陥っていく、普通の人々を描いたこの映画は“道化師のいないコメディ” “悪役のいない悲劇”であり、激しくもつれあい、階段から真っ逆さまに転げ落ちていきます。この止めることのできない猛烈な悲喜劇に、みなさまをご招待いたします」
 この作品のジャンルは、観る人によって受けとめ方が大きく変わるだろう。筆者にとっては、現代社会のある側面をえぐる非常に辛辣で悲哀に満ちた人間ドラマであり、深い闇にスイッチするスリラーであり、ダークすぎるコメディだ。この映画のジャンルについて、ジュノ監督は語る。「これは人間ドラマですが、強い現代性があります。独特で変わった一連の状況から成る物語ではありますが、実世界でも起こり得る物語です。ニュースやソーシャルメディア上の出来事を、スクリーンに映したと感じる人もいるでしょう。そういった意味では非常に現実的ではありますが、誰かがこの映画を犯罪ドラマだ、コメディだ、悲しい人間ドラマだ、もしくは恐ろしいスリラーだと言っても反論するつもりはありません。私は常に観客の期待をひっくり返そうと全力を尽くしています。そして、本作でもそれが成功していることを願っています」

パク・ソダム,ほか

2019年5月にフランスのカンヌで開催された第72回カンヌ国際映画祭にて、最高賞のパルムドールを審査員の満場一致で受賞したことも話題となった本作。同映画祭で審査員長を務めたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは、本作の魅力と最高賞に選出した理由について、このようにコメントしている。「この映画で、私たちは予想のつかない展開を体験しました。『PARASITE』はユーモラスで優しく、何かを決めつけることなく現実の問題に直結していました。ローカルな映画でありながら、非常に国際的であり、“映画とは何か”という本質の理解によって、素晴らしく効果的に生み出されていました。私たちは観た瞬間からこの映画に魅了され、観た後も自分たちのなかでどんどんと育っていきました。これが、私たちが満場一致でこの映画を選んだ理由です」
 日本での上映は、2020年1月10日からの全国ロードショーよりもいち早く、2019年12月27日よりTOHOシネマズ日比谷とTOHOシネマズ梅田にて先行公開が決定。できることなら新年のお正月映画というより、大晦日よりも前に観るほうがなんとなく合っている気が個人的にする。恐ろしいけれども目をそらせない独特の物語。ジュノ監督は観客へのメッセージとして、このように伝えた。「みなさんが多くのことを考えてくれたら嬉しいです。ある部分においては可笑しく、恐ろしく、そして悲しい。お酒を酌み交わしながら、この映画を観ながら感じたことを話し合いたいと思ってもらえたら、それ以上望むことはありません」

2019年12月16日更新

作品データ

公開 2020年1月10日より全国ロードショー
2019年12月27日よりTOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ梅田にて先行公開
制作年/制作国 2019年 韓国
上映時間 2:12
配給 ビターズ・エンド
原題 GISAENGCHUNG
英題 PARASITE
監督・脚本 ポン・ジュノ
共同脚本 ハン・ジンウォン
出演 ソン・ガンホ
イ・ソンギュン
チョ・ヨジョン
チェ・ウシク
パク・ソダム
イ・ジョンウン
チャン・ヘジン
ライター:あつた美希 CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。これまでに取材した人数は600人以上、2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』でコラム“シネマ・アロマ”を担当。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。