eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

ジョジョ・ラビット

戦時下のドイツ、ナチス親派の少年とユダヤ人の少女が出会う
10歳の目線によるあどけなくコミカルなエピソードとともに
当時の人々の心情を描く風刺作品であり良質な人間ドラマ

ジョジョ・ラビット© 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation &TSG Entertainment Finance LLC

「広めるべきはヘイトじゃない。愛と寛容だ」。そう語るタイカ・ワイティティの監督・脚本・出演により、アメリカの作家クリスティン・ルーネンズの2004年のベストセラー『Caging Skies』を映画化した注目作。出演は、大勢の子どもたちのなかからオーディションで選出され本作が映画初出演、現在12歳のイギリス人ローマン・グリフィン・デイビス、映画『足跡はかき消して』で高い評価を得たニュージーランドの19歳の女優トーマシン・マッケンジー、『アベンジャーズ』シリーズなどのスカーレット・ヨハンソン、『スリー・ビルボード』のオスカー俳優サム・ロックウェルほか。第二次世界大戦下のドイツ。10歳の素直な少年ジョジョはヒトラーを信奉し、立派な兵士になるべく青少年集団ヒトラーユーゲントに入団する。しかしある日、自宅の隠し部屋にユダヤ人の少女が匿われていることに気づき……。史実をふまえて戦時下の人々の心情を今に伝える風刺作品でありながら、少年の目線による幻想やあどけなくコミカルなエピソードもふんだんに。子どもから大人まで幅広い層に向けて描く、良質な人間ドラマである。

サム・ロックウェル,スカーレット・ヨハンソン,ローマン・グリフィン・デイビス,ほか

第二次世界大戦下のドイツ。心優しい10歳の少年ジョジョは、“空想上の友だち”アドルフ・ヒトラーを心のよりどころに、青少年集団ヒトラーユーゲントで立派な兵士になろうと奮闘している。しかし、訓練中にウサギを殺すことができなかったことから、教官から”ジョジョ・ラビット”という不名誉なあだ名をつけられ、仲間たちからもからかわれてしまう。そんなある日、ジョジョは母親とふたりで暮らす家で隠し部屋を見つけ、ユダヤ人の少女エルサが密かに匿われていることに気づく。動揺するジョジョにエルサはきっぱりと、「通報すれば? あんたもお母さんも協力者だと言うわ。全員死刑よ」と言い放つ。

第二次世界大戦下のドイツを舞台に、洗脳によるヘイトや密告による厳しい取り締まり、戦争により父親不在の家庭での母と少年、ナチス親派の少年とユダヤ人の少女との出会いと交流を描く。つらく厳しい内容を含みながらも、気弱で想像力豊かな少年が徐々に成長してゆくさまは観ていてほのぼのとする。原作の映画化にあたり、このように考えたとワイティティ監督は語る。「自分のスタイルを持ち込こんで、この小説を映画化したいと思った。ファンタジーとユーモアをもっと入れて、ドラマと風刺の群舞のような作品を創り出そうと考えたんだ」
 そして脚本を執筆した際の思いについて、監督はこのように語っている。「憎悪と偏見についての直球の映画にしたくはなかった。その手のドラマには慣れきっているからね。だから、脚本にはまったく自制をかけなかった。言うべきことを言うにはひるまずに決死の覚悟で書かなくてはいけない。危険のないものなら、私がやる価値もない。大コケするかもしれないリスクを背負って必死になれば、最高に創造的で先進的な表現が出てくるからね」

タイカ・ワイティティ,ローマン・グリフィン・デイビス,ほか

10 歳の少年ジョジョ役はローマン・グリフィン・デイビスがかわいらしく。誇り高きドイツ人として、自分の家で見つけたユダヤ人をどうするか、懸命に考えて試行錯誤する様子がユーモラスだ。ジョジョの“空想上の友だちアドルフ”役はタイカ・ワイティティがコミカルに、ナチス・ドイツのもと軍人であり、戦いで片目を失い青少年集団ヒトラーユーゲントの教官をしているクレンツェンドルフ大尉役はサム・ロックウェルがアクを強めに、ジョジョを明るく元気に盛り立てる母親ロージー役はスカーレット・ヨハンソンがタフに愛情深く、ユダヤ人の少女エルサ役はトーマシン・マッケンジーがしなやかな勇気と賢さをもつ人物として、ヒトラーユーゲントの教官ミス・ラーム役はレベル・ウィルソンが、ジョジョの“実在する友達”ヨーキー役はアーチー・イェーツが、クレンツェンドルフ大尉に従う次官のフィンケル役はアルフィー・アレンが、ナチスの秘密警官ティエルツ大尉役はスティーブン・マーチャントが、それぞれに演じている。
 役者たちは本作への出演を心から喜び、スカーレットは「脚本を読んだだけで出演を引き受けることは珍しいけれど、今回は本当に出たいと感じたわ」とコメント。サムは本作のテーマについて、率直な話しぶりでこのように称える。「監督の頭にあった方向性は普通じゃなかったね。主役がナチス親派の少年と聞いて最初は混乱したが、すぐに寛容と家族と人間性の物語であるとわかった。素晴らしい、洗練された映画だと思うよ」
 監督はジョジョ役の選出にあたり、1000本以上のオーディションテープを観て、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカ、カナダ、ドイツまでリサーチし、ローマンと出会ってすぐに決定したとのこと。撮影当時11歳だったローマンは本作のテーマや意義について、このように語っている。「かぎ十字のことを話したら、友だちは知りませんでした。今までになかった語り口のこの映画を観て、ナチス・ドイツで何が起きたかを若い人たちも知ることを望みます。重いけれど大事なことについてのお話で、大部分がユーモアと喜劇を通して語られるところが大好きです」
 またジョジョの空想の友だちアドルフ・ヒトラー役は、何人かの役者にオファーするも引き受けてもらえず、監督が自身で演じたとのこと。劇中での“アドルフ”について、監督は語る。「私は歴史上のヒトラーを土台にしなかったので、演じることができた。ヒトラーはジョジョが想像した虚構だ。10 歳の少年の見識は狭いので、基本的にヒトラーはジョジョの肩に乗っているおかしな悪魔のようなものだ」

冒頭でドイツ国内のヒトラーへの熱狂を表現するビートルズの「I Want To Hold Your Hand」のドイツ語版「Komm gib mir deine Hand」をはじめ、本作はサウンドトラックも充実。トム・ウェイツの「I Don't Wanna Grow Up」、デヴィッド・ボウイの「Heroes」のドイツ語版「Helden」、エラ・フィッツジェラルドの「The Dipsy Doodle」、ウィーン少年合唱団による「ワルツ 《春の声》 作品410」などさまざまな名曲がストーリーを引き立てている。本作の音楽を担当している作曲家のマイケル・ジアッチーノは、ポール・マッカートニーにドイツ語版「抱きしめたい」の楽曲について、本作への使用許可を熱心に頼み込み、ポールがこの映画のテーマ性に納得したことで実現したそうだ。
 また劇中では、スカーレットが演じるジョジョの母ロージーのスタイリングや、ジョジョと2人で暮らす自宅のアールデコデザインを生かしたインテリアがカラフルで美しい。ロージーの衣装はヴィンテージのものをイタリア最高峰の衣装店からかき集め、新たに手縫いでブラウスやドレスを仕立てたとも。あるシーンでロージーの衣装が印象的に映るシーンでは、かなり染み入るものがある。
 ジョジョたちが暮らす架空の町ファルケンハイムは、チェコ共和国の小さな町ジャテツとウーシュチェクにて撮影。第二次世界大戦中はドイツの占領下にあり、戦火を免れたため戦前の建物が残っている地域という。

トーマシン・マッケンジー,ローマン・グリフィン・デイビス

現在ニュージーランド在住の原作者クリスティン・ルーネンズは、アメリカのコネチカット州生まれ。英米文学と言語学の修士号をハーバード大学で取得し、モデルとしてジバンシーやパコ・ラバンヌ、ニナ・リッチなどの顔を務めていたこともあるという個性的な人物だ。ワイティティ監督は母に薦められて原作の小説を知ったそうで、ロージー&ジョジョと同じくシングルマザーとして自身を育てた母に向けて、「この映画は僕にとって母親へのラブレター」とのこと。「また子どもの頃は父親とはどういうものかを想像して、自分の人生にいつも父親の存在を探していた」とも。そして自身のルーツとして母はロシア系ユダヤ人、父はニュージーランドの先住民族マオリ族であり、自身が子どもを授かり親となったことで改めて大人として伝えるべきことを実感したことなどをふまえて、本作に込めたメッセージについてこのように語っている。「原作のことを母から聞いた時、大人たちによって憎悪を吹き込まれたドイツ人少年の目を通して物語が語られるという設定に魅了されました。私は“マオリ系ユダヤ人”として成長する過程で、ある程度の偏見を経験してきました。本作を作ることは、私たちが子どもたちに寛容について教えなければならないこと、この世界に憎しみのための場はないことに、改めて気づかせてくれました。私は、本作のユーモアが、新しい世代の絆となってほしいと願います。子どもたちが耳をそばだて、学び、そして未来へと進むことを助けるために、第二次世界大戦の恐ろしさを繰り返し語る、新しく斬新な方法を見つけ続けることが重要なのです。今こそ無知に終止符を打ち、愛で無知に取って代わりましょう!」

2019年の第44回トロント国際映画祭にて最高賞の“観客賞(ピープルズ・チョイス・アワード)”を受賞した本作。つい先日に発表された2020年の第92回アカデミー賞のノミネーションでは、作品賞、脚色賞、助演女優賞、衣裳デザイン賞、美術賞、編集賞の6部門にノミネートというニュースも。2019年9月8日(現地時間)にカナダで行われた第44回トロント国際映画祭の舞台挨拶にて、ワイティティ監督は映画製作に携わるひとりの大人として大切にしている、心からの思いをこのように伝えた。「毎日、毎週、何気なく気がつく小さな間違いを、たいしたことではないと見過ごしていると、気がついた時にはすでに手遅れになり恐ろしい結果を招く。少数派の言っていることだと放置していると、過去の世界大戦のような大惨事が起こり、取り返しのつかない過ちが起きてしまう。無知をそのままにして、忘れてしまう傲慢さこそ、人間の罪であり過ちなんだ。私たちがどのように成長し、愛情をもって力を合わせて進み、どのような未来を作り上げていくのか。過去の過ちを決して忘れないために、同じ物語をさまざまな手段で今の世代と次世代に何度も繰り返し語り継いでいくことが私たちの役割であり、大切なことだと考えています」

2020年1月17日更新

作品データ

公開 2020年1月17日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2019年 アメリカ
上映時間 1:49
配給 ウォルト・ディズニー・ジャパン
原題 JOJO RABBIT
監督・脚本 タイカ・ワイティティ
出演 ローマン・グリフィン・デイビス
タイカ・ワイティティ
スカーレット・ヨハンソン
トーマシン・マッケンジー
サム・ロックウェル
レベル・ウィルソン
ライター:あつた美希 CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを担当。2015年よりフレグランスジャーナル社『アロマトピア』でコラム“シネマ・アロマ”を、2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。インタビュー記事の執筆も。