ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密

密室殺人、名探偵、推理作家の死、全員容疑者、遺産争い
王道のストーリーにユーモアを効かせて歯切れよく描く
豪華キャストによる良質なミステリーにして人間ドラマ

  • 2020/01/31
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ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密Motion Picture Artwork © 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

王道ミステリーの筋を現代的なリズムとセンスの妙で描くオリジナル脚本に、豪華キャストが集結。出演は、『007』シリーズのダニエル・クレイグ、『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』のクリス・エヴァンス、『ブレードランナー2049』『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のアナ・デ・アルマス、『ゲティ家の身代金』のクリストファー・プラマー、『ハロウィン』のジェイミー・リー・カーティス、『ヘレディタリー/継承』のトニ・コレット、『シェイプ・オブ・ウォーター』のマイケル・シャノン、『ジャンゴ 繋がれざる者』のドン・ジョンソンほか。監督・脚本・製作は『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』のライアン・ジョンソンが手がける。NY郊外の館で、大手出版社の創設者でありミステリー作家のハーラン・スロンビーが遺体で発見される。匿名の人物から依頼を受けた名探偵ブノワ・ブランは事件の調査を始めるが……。密室殺人、名探偵、推理作家の死、アクの強い裕福な一族の面々、全員容疑者、遺産争い。お約束の要素をふんだんに盛り込み、ユーモアを効かせてテンポよく歯切れよく描く、良質なミステリーにして人間ドラマである。

ジェイミー・リー・カーティス,クリストファー・プラマー,ドン・ジョンソン,マイケル・シャノン,ほか

大手出版社の創設者でミステリー作家のハーラン・スロンビーが暮らす、NY郊外の屋敷。彼の85歳の誕生日に、子どもや孫や親しい人たちが集まりお祝いをする。しかし翌朝、ハーランの遺体を屋敷の家政婦フランが発見。匿名の人物から依頼を受けた名探偵ブノワ・ブランは事件の調査を開始する。誕生日パーティ当日に屋敷にいた全員が第一容疑者であり、ブノワはエリオット警部補とともに彼らに話を聞いてゆく。ハーランの長女リンダと夫リチャード、夫妻の息子で一族の問題児であるランサム、ハーランの次男ウォルトと妻ドナ、夫妻の息子であるジェイコブ、ハーランの他界した長男の妻ジョニと娘のメグ、ハーランの年老いた母親ワネッタ、ハーランの専属看護師マルタが、それぞれ事件当日について話すなか、顧問弁護士がやってきてハーランの遺言書を開示。莫大な遺産の相続について明記されていたが……。

ライアン・ジョンソン監督が、“ミステリーの女王アガサ・クリスティーに捧げる”書下ろしのオリジナル・ストーリーであり、2020年の第92回アカデミー賞にて脚本賞にノミネートされている本作。ミステリーの王道の要素をしっかりふまえながらも、シリアスな状況にツッコミを入れるかのような軽妙な会話やユーモラスな間合いがほどよいテンポで入るところがユニークだ。クライマックスのシーンにもそうした面がキッチリあるのが小気味よい。ライアン・ジョンソン監督は本作について語る。「私はこの作品を、ヒントと謎がたくさん詰め込まれた、本当に面白い現代映画にしたいと思った。また、そのなかに家族の関係性も描きたかったんだ」

ドン・ジョンソン,ジェイミー・リー・カーティス,アナ・デ・アルマス

ハーラン・スロンビー役はクリストファー・プラマーが、大手出版社を一代で築き上げた実業家であり成功したミステリー作家として。名探偵ブノワ・ブラン役はダニエルが、南部なまりのちょっと気取った紳士として好演。冷静に観察して分析し全貌を見抜いてゆくさまをひょうひょうと演じている。ハーランに献身的に尽くす看護師マルタ役は、アナ・デ・アルマスが有能で素朴な移民の女性として、ハーランの長女リンダ役はジェイミー・リー・カーティスが、意思のはっきりとした不動産経営者として、リンダの夫リチャード役はドン・ジョンソンが、リンダとリチャード夫妻の息子で一族の問題児であるランサム役はクリス・エヴァンスが、ハーランの出版社を経営する次男ウォルト役はマイケル・シャノンが、次男ウォルトの妻ドナ役はリキ・リンドホームが、次男ウォルトとドナの息子ジェイコブ役はジェイデン・マーテルが、ハーランの亡き長男ニールの妻ジョニ役はトニ・コレットが、ニールとジョニ夫妻の娘メグ役はキャサリン・ラングフォードが、事件を捜査するエリオット警部補役はキース・スタンフィールドが、ハーランの高齢の母親グレート・ナナ・ワネッタ役はK・カランが、スロンビー家の顧問弁護士アラン役はフランク・オズが、スロンビー家の家政婦フラン役はエディ・パターソンが、事件の捜査を担当するワグナー巡査役はノア・セガンが、それぞれに演じている。
 個人的には、仙人や精霊のような存在感のワネッタおばあちゃんのまったく空気を読まない独自路線のリアクションや、たまにボソッと話す様子がいい味わいで、オフビートの笑いを誘うところがツボだった。また余談ながら本作には、ライアン・ジョンソン監督作である『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』を手がけた撮影監督スティーヴ・イェドリン、編集のボブ・ダクセイが参加。弁護士役のフランク・オズはヨーダの声とパペット操作で知られているなど、スター・ウォーズ関係者が関わっているのもファンには小ネタとしてちょっと面白い。

衝撃的な出来事に遭遇した時、危機的な状況に追い詰められた時、突発的な事態に陥った時、誰だって本性が現れる。劇中では、失望や絶望をしたそのあとに、そこから各人がどうするか、というあたりも見どころとなっている。思いがけないことが起きた時に、狼狽して食ってかかる者、陰謀を企てる者、脅迫めいた説得で有利に立ち回ろうとする者、少しでも損をしないようにと小賢しく振舞う者、真正面から非を訴える者。本作のストーリーには驚くほど心の広い人格者もいれば、親しい人たちを守るために究極の選択をする者もいて。人のなかに潜在的にある善悪の両面がむきだしになるさまを、勿体をつけずにハイテンポで描くところも引きつけられる。監督は本作でミステリーを通して人間ドラマを描いたことについて、このように語っている。「私はこの2つを両立させたかった。謎解きや風変わりな探偵、そしてミステリーの醍醐味であるすべての謎が解けるラストシーンの楽しさを維持しつつ、スリラーのかたちを使って、この家族で実際に起きている問題に観客を引き込みたかったんだ」

クリス・エヴァンス

ラストシーンの構図には、現代アメリカの一部の人々にある差別的な意識に、さらりと訴えかけるトーンがある本作。主演のダニエルも乗り気であることから、続編の製作に向けて話が進んでいるという一報も。アガサ・クリスティーの名探偵エルキュール・ポアロのシリーズのように、探偵ブノワも映画でシリーズ化なるか。観客のひとりとして筆者も楽しみにしている。最後に、ライアン・ジョンソン監督からのメッセージをお伝えする。「観客自身に探偵になってスリルを味わい、終始緊張感を感じてほしい。あれだけ多くのキャラクターとそれぞれの動機、そしてさまざまな展開が入り組んでいると、基本的な組み立てをしたうえで、さらに多くの計算が必要になる。重要なのは、すべての仕組みが観客に見えるようにすることだった。きっと大いに楽しんでもらえると思うよ」

作品データ

公開 2020年1月31日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2019年 アメリカ
上映時間 2:11
配給 ロングライド
原題 Knives Out
監督・脚本・製作 ライアン・ジョンソン
出演 ダニエル・クレイグ
クリス・エヴァンス
アナ・デ・アルマス
ジェイミー・リー・カーティス
トニ・コレット
ドン・ジョンソン
マイケル・シャノン
キース・スタンフィールド
キャサリン・ラングフォード
ジェイデン・マーテル
クリストファー・プラマー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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