ライド・ライク・ア・ガール

瀕死の重傷から復帰し、栄光を掴んだ女性騎手の実話
生後半年で母が他界、父と10人兄妹で助け合って生きる
レーシング・ファミリーの15年を描く家族のドラマ

  • 2020/07/22
  • イベント
  • シネマ
ライド・ライク・ア・ガール© 2019 100 to 1 Films Pty Ltd

オールストラリアのメルボルンカップ(2015年)にて、女性騎手として初優勝を果たしたミシェル・ペインの実話をもとに描く。出演は、『きみがくれた物語』『ハクソー・リッジ』のテリーサ・パーマー、『ピアノ・レッスン』『ジェラシック・パーク』のサム・ニールほかオーストラリアで活躍する俳優たちを中心に。監督は、『ミュリエルの結婚』などで女優として活躍し、本作が映画監督デビューとなるレイチェル・グリフィスが手がける。元騎手で調教師の父親のもと、10人兄妹のうち8人が騎手というオーストラリアで有名なレーシング・ファミリーのペイン一家。その末娘ミシェルはようやくプロの騎手として活動を始めるも、ひどい落馬事故に遭い……。落馬による重傷と後遺症を克服して30歳で夢を実現した、女性騎手の不屈の姿を描く。競馬という男性優位の世界に飛び込み、実力で地位を確立したひとりの女性騎手の成功秘話であり、支え合って生きているペイン一家のあたたかい家族の物語である。

サム・ニール,スティービー・ペイン,ほか

末っ子ミシェルが生まれて半年後に母親が交通事故で他界したペイン家では、毎日が忙しい。元騎手で調教師の父親パディのもと、10人兄妹で助け合い、みんなで馬の面倒をみたり家族の世話をしたりしながら、明るくにぎやかに暮らしている。やがて、5歳の時に「メルボルンカップで優勝する」と言った末っ子ミシェルも騎手としてデビューし、10人兄妹のうち8人がプロの騎手に。兄パトリックや姉ブリジッドらの活動をみて、女性は実力があっても主要なレースに出場できない、といった女性騎手に不利な状況があると知りながらも、騎手として日々研鑽をしながら経験を積んでゆく。そして2004年、18歳のミシェルはチャンスを得てG1の大会に出場するが……。

オーストラリアの女性騎手ミシェル・ペインの約15年間を、実話をもとに描くドラマ。逆境でも夢に食らいついていく率直なハングリーさ、騎手としてのトレーニングや減量に打ち込む姿や、落馬を数回経験して瀕死の重傷を負いながらも諦めない姿を映している。ひとりの女性の成功物語というだけでなく、父パディが男手ひとつで子どもたちを育て上げ、父と10人兄妹みんなで支え合い助け合って生きている家族の物語としても味わい深い内容だ。本作で映画監督デビューをしたレイチェル・グリフィスは本作のテーマについて語る。「このストーリーの核心のひとつは、ミシェルの父パディが妻を、子どもたちにとっては母親を亡くした後、父と10人兄妹たちがいかにして家族を維持し、みんなでどのように暮らしてきたかです。そのメッセージは世界中すべての文化に通じるものだと思います」

スティービー・ペイン

ミシェル・ペイン役をテレサ・パーマーが、負けず嫌いで時には父にも反発し、騎手としての成功に向かって突き進む姿をひたむきに。10人兄妹の父親で馬の調教師パディ・ペイン役をサム・ニールが、子どもたちを見守る父親であり、根気よく指導していくレーシング・ファミリーのリーダーとして。注目は、ミシェルと仲良しのすぐ上の兄で、ペイン家の9番目の子ども、ダウン症であるスティービー・ペイン役だ。この役は、実際にミシェルの兄であるスティービー本人が演じている。劇中では、騎手と厩舎スタッフとしても良いタッグだったミシェルとスティービーの、子どもの頃からの絆を伝えている。グリフィス監督は当初、スティービー役はダウン症候群の俳優をキャスティングするつもりだったが、本人が前向きだったこともありオーディションをしたところ、スタッフ全員がとても胸を打たれ、スティービー本人が演じると決まったそうだ。
 ミシェルは2015年のメルボルンカップのレース前、彼女が騎乗する競走馬プリンスオブペンザンスのスタッフをつとめる兄スティービーについて、このように語った。「ダウン症の人たちが普段の生活で能力を発揮できると知ることは、素晴らしいことだと思います。スティービーはほとんど自分で何でもできるし、1人でいる時は自分の面倒を見ることもできます」
 そしてスティービーはこのレース後、優勝した妹ミシェルを称えて笑顔でこのようにコメントした。「10点満点のいいレースだったね」

見どころは迫力と疾走感ある競馬のレースや、ケガから復帰したミシェルが海岸で自由に馬を走らせるなど、走る馬たちを臨場感と共に映すシーンの数々だ。撮影では多くのカメラと手法を試し、レース・コンサルタントで騎手のクリス・シモンズが参加、現場では馬の安全ために獣医が付き添い、さまざまな予想外のアクシデントでたくさんの撮影カメラが壊れたとも。プロデューサーのリチャード・ケディはCGではなく、本物の競走馬で「非常に難しい撮影を慎重に行った」理由について語る。「騎手の実際の経験を理解できる映画を目指しました。ミシェルが経験したことを観客にできるだけ感じてもらいたいですね」

ライド・ライク・ア・ガール

ペイン兄妹の8人の騎手のうちひとりは、落馬事故のケガにより他界。ミシェルも2004年の落馬事故で頭蓋骨を骨折し脳内出血により言葉も話せず体も動かせないほどの重傷を負った。心配した家族たちから引退するように言われるも、ミシェルは不屈の意志で厳しいリハビリを経て騎手に復帰。しかしその後2012年に2回落馬し、9本の椎骨すべてと肋骨を骨折した時には引退を考えたという。しかしその3年後、2015年のメルボルンカップでミシェルは優勝。2004年の落馬事故の時には引退をすすめた父パディが、2012年の時には「時間は十分あるから、リラックスして考えた方がいい」と娘に助言したのは、騎手としてのスキルが波に乗っているのが見えていたからなのかもしれない。
 2015年のメルボルンカップの出場者24人中、ミシェルは唯一の女性騎手であり、当時はメルボルンカップ史上5人目の女性騎手だった。プリンスオブペンザンスの馬主のなかには、メルボルンカップに女性騎手であるミシェルの出場を反対する声も強かったなか、ジョン・リチャーズと調教師ダレン・ウィアーの推薦で挑戦する機会を得たことにとても感謝しているとミシェルは語っている。
 実のところスキャンダルもある。2017年にはミシェルが禁止されている食欲抑制剤フェンテルミンの服用を認め、管理を徹底できていなかったことを謝罪。2019年には電気ショックで馬を刺激する使用禁止の装置“ジガー”をダレン・ウィアーが所持していたことが発覚し、4年間の調教停止処分に。彼の厩舎では、スティービーが家族と一緒に子どもの頃から馬の世話をしてきた能力を認められ、スタッフとして10年働いていたことがあり、メルボルンカップでもミシェルの出場を後押しをしたことから、今回の問題に複雑な思いがありつつも、ダレン・ウィアーのシーンがどこもカットにならず、エピソードとして描かれていることをミシェルは嬉しく思っているという。「ダレンはスティービーに働く機会を与えて上手に付き合い、メルボルンカップでは私にチャンスを与えてくれました。映画のなかに彼がいてくれて本当に良かった。(ダレンとスティービーとのチームは)私にとってとても特別なことだったから」

「騎手に選ばれるためにできる努力はすべてしました。この馬なら勝てると思ったからです。女性を見下す人の鼻をあかせたと思っています」
 2015年のメルボルンカップ、レース直後のミシェルの優勝コメントだ。辛辣なワードを用いてズバッと言ったこのコメントに、グリフィス監督は惹きつけられ、映画化を決めたとのこと。「女性の“壁”についての会話はとてもグローバルで重要な会話になっています」と監督は語る。この映画の企画は、Screen Australia's Gender Matters: Brilliant Storiesを通じて開発資金を調達。オーストラリアにて女性主導の物語と、重要な創造的役割を担う女性の数を増やすことを目的とする、このプログラムの資金援助により製作した初めての作品だ。メイン・プロデューサーのリチャード・ケディは男性ながら、この映画のスタッフの多くが女性であり、それはジェンダーに関わりなくこの作品に合うスタッフを起用していくなかで自然にそうなったそうだ。そしてグリフィス監督は、本作のメイン・テーマについて語る。「最終的には父と娘、兄弟姉妹の物語です。彼らの人間的なつながりと優しさが、この映画の中心にあります」。
 ミシェル本人はこの映画について、とても喜んでいるという。「多くの人たちが経験している家族の困難な時期の物語であり、心に残る話です。レイチェルとリチャードが私の家族を表現してくれた方法を本当に誇りに思っています」

参考:「michellejpayne.com.au」、「if.com.au」、「ABC NEWS

作品データ

公開 2020年7月17日よりTOHOシネマズ シャンテ、イオンシネマほかにて全国公開
制作年/制作国 2019年 オーストラリア
上映時間 1:38
配給 イオンエンターテイメント
原題 RIDE LIKE A GIRL
監督 レイチェル・グリフィス
出演 テリーサ・パーマー
サム・ニール
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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