さくら

西加奈子の初期の小説を矢崎仁司監督が映画化
たのしい時もそうではない時も、両親と兄弟妹と愛犬と
家族みんなでその先へと進むさまを描く家族のドラマ

  • 2020/11/06
  • イベント
  • シネマ
さくら©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会

2015年に『サラバ!』で直木賞を受賞した作家・西加奈子が、デビュー作『あおい』の次に発表し、累計55万部を超える小説『さくら』を映画化。出演は、『君の膵臓をたべたい』の北村匠海、『糸』の小松菜奈、2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の吉沢亮、『オー・ルーシー!』の寺島しのぶ、『カツベン!』の永瀬正敏ほか。監督は『三月のライオン』『ストロベリーショートケイクス』の矢崎仁司、脚本は『無伴奏』など矢崎監督と5度目のタッグとなる朝西真砂が手がける。音信不通だった父が2年ぶりに家に帰ってくると知らせを受けて、長谷川家の次男・薫は実家へと向かう。しかし薫は父と目を合わせず、久しぶりに会った母と妹ともぎこちなく……。仲の良い両親と兄弟妹、1匹のおっとりとした犬が織りなす家族の物語。子どもたちが小さかった頃のほのぼのとした幸せ、思春期になった彼らの恋やエゴ、そして後悔や苦しみを経て、家族みんなでその先へと進んでいくさまを描くドラマである。

小松菜奈,吉沢亮,北村匠海

音信不通だった父が2年ぶりに家に帰ってくる。その知らせを受けて、長谷川家の次男・薫は、その年の暮れに実家へと向かう。薫は父と再会するも目を合わせず、久しぶりに会った母や妹・美貴ともぎこちない。2年前、薫にとって幼い頃からヒーローのような憧れの存在だった兄の一(ハジメ)が他界したことをきっかけに、家族はバラバラになってしまった。子どもの頃は兄弟妹と両親と家族みんなで仲良く、幸せいっぱいだった。妹が生まれ、愛犬サクラと出会い、大きな家に引っ越し、ハジメも薫も美貴も10代になり初めての恋を経験した。その後、純粋な恋情や強烈な執着が交錯するなか、突然の事故が起きてしまう。そして今、大晦日の日の長谷川家である出来事が──。

実力派のスタッフと俳優たちにより、作家・西加奈子の小説を映画化。これまでに西加奈子氏の小説は3度映画化され、2013年の『きいろいゾウ』、2014年の『円卓こっこ、ひと夏のイマジン』、2019年の『まく子』に次いで、本作が4度目となる。原作の物語に込めた思いについて、西加奈子氏本人による当時のコメントをご紹介する。「彼らは少し風変わりな五人と優しい一匹。色とりどりの春と、屈託のない夏と、センチメンタルな秋と、静かな冬、彼らに巡ってくる、そして誰にでも巡ってくる季節の、そしてその中で起こった小さな、でも、かけねの無いある『奇跡』の物語です。だからこれはあなたの物語であり、私の物語であり、どこかで眠ってる誰かの物語でもあります。これを読んでくれたあなたが、恋人に会いたくなったり、お母さんに手紙を書いたり、友達の肩を叩いたり、そう、いつもより少し優しくて、暖かい気持ちになってくれたなら、私はとても幸せです」

寺島しのぶ,永瀬正敏,ほか

演技派のベテランと注目の若手たちの共演は、本作の見どころのひとつ。長谷川家の長男・一(ハジメ)役は吉沢亮がさわやかな人気者から急な変化に苦しむ姿を真摯に、次男・薫役は北村匠海がカッコイイ兄と美しく個性的な妹にコンプレックを抱く少年として、妹・美貴役は小松菜奈がコケティッシュに表現。3人の母・つぼみ役は寺島しのぶが、父・昭夫役は永瀬正敏が、美貴がバスケ部で仲良くなった友だち大友カオル役は小林由依が、ハジメの彼女・矢嶋優子役は水谷果穂が、薫が関係をもつ“ゲンカン”こと須々木原環役は山谷花純が、父の同級生でバーのママとなる溝口先史役は加藤雅也が、それぞれに演じている。矢崎監督は2020年10月に行われた本作の完成記念トークイベントにて、充実の顔合わせによる劇中の家族について、このようにコメントした。「この豪華なキャストで家族を作る――たぶん、近所にいたらみんな、うらやましいのと嫉妬で嫌うんじゃないかと思って(苦笑)、何とか嫌われない家族にしたい、愛されたいなと思いました。根底に笑いがあれば、好きになるんじゃないかと、笑いを散りばめることを意識しました」

映画には原作にはない見せ場や、ちょっとした1シーンがある。美貴が手紙にまみれる幻想的なシーンや、父が兄の部屋のドアを開けて、兄弟があるものをあわてて隠すシーンなど。また劇中の音楽はハンガリー出身のクラシック・ピアニスト、アダム・ジョージが手がけ、エンディングに流れる主題歌「青のI D」は、2020年1月に8年ぶりに再始動して話題となっている東京事変が、本作のために書き下ろした新曲というのも注目だ。この映画と椎名林檎が作詞作曲を担当した「青のI D」について、東京事変はこのようにコメントしている。

東京事変コメント

矢崎監督は今の情勢に届ける、この映画と主題歌への思いについてこのように語っている。「小説を映画にする時、一番大切にするのは読後感です。何度も泣いたし、いっぱい笑った、そして元気をもらったこの家族を描きたいと思った。素晴らしい俳優たちとサクラを演じた犬のチエちゃんとの奇跡的な出逢いで生まれた映画です。試写室ですすり泣く声を聞いたのも初めてですが、何より嬉しかったのは、涙より笑い声が起こったことです。“生”を描くには分母に“死”があり、“哀しみ”を描くには分母に“笑い”が必要です。きっと、この家族との出会いが、今の長いトンネルの先の一筋の光になってくれると信じています。最後に届けられた東京事変の主題歌『青のID』は、今だからこそ、世界に愛を叫ぶ、新しい喜劇の産声のように聞こえました。この家族に会いに来て欲しい。きっと元気になるから」
 そして原作者の西加奈子氏は、映画についてこのようにコメントしている。「当時の私のきらめきも、過ちも、全てを受け止めてくれた映画のおかげで、どうやら『さくら』が私より長生きしそうです」

北村匠海

美貌の3兄弟妹が印象的である本作。なかでも美形でエキセントリックな末っ子・美貴を演じた小松菜奈は瑞々しい魅力が映えている。小松は清楚な大人の女性でもコケティッシュな少女でもスッとそうなっている感覚で、実力ある若手女優のひとりだと改めて個人的に思った。最後に、前述の完成記念トークイベントにて小松と北村が語った、観客へのメッセージをお伝えする。
 小松「クスっと笑えたり、行き過ぎた愛が残酷な時もあったり、突き刺さるメッセージ性がある作品だと思います。ぜひ映画館で見届けていただけたら」
 北村「ひとつの家族が当たり前の日々を幸せに感じながら生きて、あるきっかけで崩れ、1匹の犬に救われながらまた再生していく物語です。いろんな感情にさせてくれる映画だなと思いますし、優しいだけでなく、とげとげしい思い、憎しみや怒りもひっくるめてこの家族を愛しく思っていただけたらと思います。いま一度、自分の家族を考えさせてくれると思います」

作品データ

さくら
公開 2020年11月13日より新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2020年 日本
上映時間 1:59
配給 松竹配給
原作 西加奈子
監督 矢崎仁司
脚本 朝西真砂
出演 北村匠海
小松菜奈
吉沢亮
小林由依(欅坂46)
水谷果穂
山谷花純
加藤雅也
趙a和
寺島しのぶ
永瀬正敏
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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