どん底作家の人生に幸あれ!

文豪C・ディケンズが最も愛した自伝的小説を映画化
工場に働きに出された少年は裕福な伯母を頼って脱走し……
少年の波乱万丈の成長物語にして明るく軽妙な人間ドラマ

  • 2021/01/15
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どん底作家の人生に幸あれ!©2019 Dickensian Pictures, LLC and Channel Four Television Corporation

イギリスを代表する文豪チャールズ・ディケンズが、「自著のなかで一番好き」と公言していた自伝的小説『デイヴィッド・コパフィールド(原題:David Copperfield)』を映画化。出演は、『LION/ライオン〜25年目のただいま〜』のデヴ・パテル、『フィクサー』のオスカー女優ティルダ・スウィントン、TVシリーズ「Dr.HOUSE -ドクター・ハウス-」のヒュー・ローリー、『007』最新シリーズのベン・ウィショーほか多彩な顔合わせで。監督、脚本、プロデューサーは、『スターリンの葬送狂騒曲』のアーマンド・イアヌッチが手がける。少年デイヴィッドは母と乳母ペゴティと幸せに暮らしていたが、暴力的な継父により都会の工場へ売り飛ばされてしまい……。デイヴィッド少年が突然の苦難から自力で這い上がり、さまざまな人たちと出会い、作家として成功するまでを明るいタッチで描く。時代を超えて愛される名作をシリアスではなく軽やかに映す少年の成長物語であり、さわやかな後味の人間ドラマである。

デヴ・パテル

ヴィクトリア朝時代のイギリス。デイヴィッドは優しい母と家政婦の3人で幸せに暮らしていた。しかし母と再婚した暴力的な継父とその冷酷な姉に反抗したことでロンドンの瓶詰工場に送り出され、低賃金で働くことに。里親の老紳士ミスター・ミコーバーは借金苦で、デイヴィッドは彼の家族のもとで貧しい暮らしを続けてゆく。歳月が過ぎ、成長したデイヴィッドは母の死をきっかけに工場から脱走。唯一の肉親である裕福な伯母ベッツィを頼り、カンタベリーの名門校に通い始める。少年の頃から周囲の変わり者について書き留めて空想し楽しんでいたデイヴィッドは、名家の同級生たちにこれまでの自分の体験をもとに作り話をすることで人気者となる。学校を卒業した彼は法律事務所で働き始め、憧れの令嬢ドーラと恋に落ち、順風満帆かのように思えたが……。

ディケンズによる初版1850年の8作目の小説を原作に、7度目の映画化である本作。これまでの映像化ではデイヴィッド少年が過酷な試練を乗り越えて成長し成功するといったシリアスな内容が多かったなか、軽妙な雰囲気でユーモアをもって表現しているのが特徴だ。2017年の映画『Merry Christmas!〜ロンドンに奇跡を起こした男〜』を思い出す展開が多々あるものの、こちらはディケンズの実話をもとに彼を主人公に空想と現実をミックスして描いた作品で、今回の映画はあくまでもデイヴィッド少年のフィクションのストーリーとなっている。イアヌッチ監督は昔からディケンズのファンであり、数年前に『デイヴィッド・コパフィールド』を読み返していた時に映画化を考えたそうで、特に原作にあるユーモアに惹かれたと語る。「どこかドタバタなコメディの要素があるんだ。デイヴィッドが法律事務所に就職した際にきしむ床と挌闘するシーンとか、ドーラに恋をした途端、彼を取り巻く世界が瞬く間に彼女一色になって雲のなかにも彼女の顔が見えてしまうところとか。シュールであり、リアルでもある。そういった要素を映画に取り入れたいと思ったんだ」
 脚本家のサイモン・ブラックウェルも同意する。「これは僕が今までに読んだなかで最も可笑しい小説のひとつ。しかし長編であるために映像化する際、コメディ要素を取っ払ってしまう傾向がある。笑いの部分は物語の筋とは無関係だからだ。でも、その部分こそが面白い。現代でも通じる面白さなんだ」

ヒュー・ローリー,デヴ・パテル,ティルダ・スウィントン

デイヴィッド・コパフィールド役はデヴ・パテルが、逆境でもへこたれないしなやかな強さとユニークな感性をもつ青年として好演。デイヴィッドの伯母ベッツィ役はティルダ・スウィントンが激しい気性ながらも心根の優しい女性として、伯母の同居人ミスター・ディック役はヒュー・ローリーがチャールズ一世の思考にとりつかれた変わり者として、デイヴィッドが通う名門学校の世話係ユライア役はベン・ウィショーが、デイヴィッドの名門校での学友スティアフォース役はアナイリン・バーナードが、コパフィールド家の家政婦ぺゴティ役はデイジー・メイ・クーパーが、デイヴィッドの里親で借金まみれの老紳士ミスター・ミコーバー役はピーター・キャパルディが、伯母ベッツィの弁護士ミスター・ウィックフィールド役はベネディクト・ウォンが、彼のもとで働く女性アグネス役はロザリンド・エリーザーが、デイヴィッドが恋をする令嬢ドーラ役はモーフィッド・クラークが、それぞれに演じている。本作では、監督の「なるべく多彩なキャストにしたかった」という強い思いから、両親がインド系であるイギリス人のデヴをはじめ、アフリカ系やアジア系といったさまざまな役者たちが登場している。そしてクラシックなヴィクトリア朝時代を描きながらも、キャラクターたちを形式ばらずに生き生きと演出した意図について、監督は語る。「この映画では過去の時代物のルールにとらわれないことにしました。過去の歴史や時代に戻る必要はないからです。劇中の登場人物たちがお互いに火花を散らし合いながら物語が進行する。彼らは現代に生きている人たちと同じです。そこが僕の意図したアプローチです」

ピーター・キャパルディ,ほか

ヴィクトリア時代の美術や衣装、ロケーションが楽しめるのも魅力のひとつ。舞台となる3つの街については、忙しない都会のロンドン、活気のある海岸の町ドーヴァー、名門校のある優雅なカンタベリーというイメージで演出。デイヴィッドの生家はノースフォークの家で、瓶詰工場は東ロンドン地区にあるポンプ場などで撮影した。
 監督は長編小説を約2時間の映画にする際に大事にしたこと、大変だったことについて、このように語っている。「物語に流れているクリエイティブな精神性を維持したまま、陽気で愉快な感情を失わないことが大切でした。900ページもの長編大作を忠実に再現するのとは違う作業です。そこが一番大変だったかもしれないですね。面白い登場人物がいても面白いシーンがあってもカットしなければならなかった。そこが一番苦労したところでした」

幼い頃から波乱万丈の環境のなか、さまざまな人たちとの出会いを経て作家として成功するひとりの少年の成長物語である本作。COVID-19により非常事態が世界的に続くなか、この映画を観たディケンズを知らない世代が原作者に興味をもち、家で過ごす時間にディケンズの本を読む、というきっかけになればそれはとても素敵なことだ。イアヌッチ監督は大好きな小説の映画化への思い入れを、このように語っている。「この映画の観客が、たとえチャールズ・ディケンズのことも小説『デイヴィッド・コパフィールド』のことも、僕の過去の作品についても何も知らなくてかまわないと思っています。僕はこの原作が大好きで、そこから放たれるバイタリティーやエネルギー、現代的な要素とユーモアが大好きなのでそれを映画に取り入れたかった。そこにキャストのアンサンブルが加わった楽しい作品にしようと思いました」

作品データ

公開 2021年1月22日よりTOHOシネマズ シャンテ、シネマカリテほかにて全国順次公開
制作年/制作国 2019年 イギリス・アメリカ
上映時間 2:00
配給 ギャガ
原題 The Personal History of David Copperfield
監督 アーマンド・イアヌッチ
原作 チャールズ・ディケンズ
出演 デヴ・パテル
ピーター・キャパルディ
ヒュー・ローリー
ティルダ・スウィントン
ベン・ウィショー

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