騙し絵の牙

作家・塩田武士が大泉洋にあてがきした小説を映画化
出版界の舞台裏を緻密な演出と豪華キャストで魅せる
各人が好奇心や情熱や野心ゆえに突き進む姿を描く群像劇

  • 2021/03/12
  • イベント
  • シネマ
騙し絵の牙©2021「騙し絵の牙」製作委員会

『罪の声』の著者・塩田武士が、大泉洋を主人公にあてがきした累計24万部の小説を、『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』の吉田大八監督が映画化。出演は『新解釈・三國志』の大泉洋、『劇場』の松岡茉優、『Fukushima 50』の佐藤浩市、『his』の宮沢氷魚、『夏、至るころ』の監督を手がけた池田エライザ、『サイレント・トーキョー』の中村倫也、そして佐野史郎、木村佳乃、和田聰宏、坪倉由幸、斎藤工、恂{晋也、リリー・フランキー、小林聡美、國村隼ほか豪華な顔合わせで。脚本は吉田監督と『天空の蜂』の楠野一郎が共同で手がける。創業一族の社長が急逝した大手出版社「薫風社」では、次期社長を巡って権力争いに。看板雑誌である文芸誌の面々が悠々としているなか、カルチャー雑誌「トリニティ」の編集長・速水は廃刊の危機に追い込まれるが……。もと神戸新聞社の記者である著者が4年間の取材をもとにリアルに描いた出版界の舞台裏を、緻密な演出と豪華キャストで映像化。「映画としての、新しい『騙し絵の牙』」として話題の人間ドラマである。

松岡茉優,大泉洋

大手出版社「薫風社」にて創業一族の社長が急逝。かねてからの出版不況のなか、次期社長を巡り改革派の急先鋒・東松と、社長の息子・伊庭惟高の後見人である保守的な常務・宮藤らの権力争いとなる。経営改革のなか、廃刊の危機となったカルチャー雑誌「トリニティ」の編集長・速水は新たな一手を打つ。伝統ある文芸誌「小説薫風」から文学への熱意にあふれる新人編集者・高野恵を引き抜き、部下の編集者たちも焚きつけて新しい企画を次々と打ち出していく。大御所作家、人気ファッションモデル、イケメンの新人作家らのページは注目を集め、速水は雑誌「トリニティ」のテコ入れをしながら、別の大きな企画のために動いていた。一方、東松は前社長の息子・伊庭惟高を閑職に追いやり、外資系投資ファンドと手を組んで大改革を秘密裡に進めていく。そして速水に出し抜かれた「小説薫風」編集部が「トリニティ」の方針を批判するなか、ある事件が起きる。

原作者の塩田氏が大泉洋にあてがきしたベストセラーを、吉田監督と豪華キャストで映画化した話題作。出版界を舞台に、出世のため、雑誌というコンテンツのため、より良い本をつくりたいという情熱ゆえ、人々が裏切り、出し抜き、猛進する姿を描く群像劇となっている。塩田氏は大泉洋の主演による今回の映画化について語る。「大泉洋という比類なき俳優を『小説であて書きする』という今回の企画は、映画化を持って完結する。ここまで来るのに7年の歳月を要した。決して平坦な道のりではなかったが、吉田大八監督がメガホンを取ってくださると聞いたとき、全て報われた気がした」

池田エライザ,宮沢氷魚

廃刊危機のカルチャー誌「トリニティ」の編集長・速水輝役は大泉洋が、どこかタイトな緊張感のあるスタイルで辣腕の編集者を表現。あえての緩みや間合いのある“彼らしさ”とは異なる本作の演技について、大泉は撮影中に吉田監督から「セリフの“間”を変える」という演出を受けて、相当苦労したとのこと。2021年3月4日に東京で行われた本作のイベントでは、松岡が「演技が大泉洋さんっぽいからNGというのもありましたよね」と撮影中の裏話をすると、大泉が「原作小説は私のあてがきですよ!」と言いつつも「私の映画のなかでは一番私らしくなくて新しい。結局は吉田監督に感謝です」とコメントしていた。
 伝統を誇る文芸誌「小説薫風」の新人編集者・高野恵役は松岡茉優が、本づくりへの情熱にあふれる人物として、同誌の編集長・江波百合子役は木村佳乃が誌面の“品格”にこだわる保守的な上司として、同誌の編集者・三村洋一役は和田聰宏が飄々と。出版社「薫風社」の専務・東松龍司役は佐藤浩市が、同社の常務・宮藤和生役は佐野史郎が、同社の前社長の息子・伊庭惟高役は中村倫也が、東松と手を組む外資ファンド代表・郡司一役は斎藤工が、文芸評論家・久谷ありさ役は小林聡美が、「トリニティ」の副編集長・柴崎真二役は、お笑いトリオ「我が家」のメンバーで個人での映画出演初となる坪倉由幸が、「トリニティ」誌に関わる大御所作家・二階堂大作役は國村隼が、同誌に関わる人気ファッションモデル城島咲役は池田エライザが、新人小説家・矢代聖役は宮沢氷魚が、高野恵の父親で書店の店主・高野民生役は恂{晋也が、“謎の男”役はリリー・フランキーが、それぞれに演じている。
 元THE BOOMの宮沢和史を父にもち、MEN'S NON-NO の専属モデルであり俳優である宮沢氷魚は、日常的に自身が出版社に出入りしていることから、本作のストーリーについてこのようにコメントしている。「編集部は身近で、他人事のように思えない不思議な感覚でした。(映画は)フィクションですけれど、結構リアルで現実に近いものが多いので、すごく楽しかったです」
 吉田監督の繊細な演出と、それに現場で応えていく大泉洋について、新垣弘隆プロデューサーはこのようにコメントしている。「吉田監督はミリ単位で演出される非常に緻密な方。シーンによっては何度もテイクを重ねます。我々には一見気づかない領域で、ディティールにこだわり微修正されている。どのテイクをどう組み合わせていくかあらゆるパターンを考えながら演出していて、明確なNGテイク以外は、すべてが選択肢になっている。芝居も、カメラも照明も、目指すところに向けて監督の演出によって徐々にチューニングされていく感じです。演出家としての直感も当然あると思いますが、どこをどう微修正したいのか理由が明確ですし、大泉さんとのやり取りのなかでは、監督が何を求めているのかを大泉さんも瞬時に察知し、数多ある芝居の引き出しのなかから、どれを取り出して合わせていくのか、お互いがすごい領域で共鳴し合っていたと思います」

原作の小説は、発案当初から映像化も視野に入れて企画がスタート。著者と出版社、大泉洋と芸能事務所によるディスカッションや試行錯誤を重ねて誕生した“異色の文芸作品”とのこと。大泉洋は映画化が始動した時に、そもそも企画のきっかけとなったエピソードについて、株式会社KADOKAWAのWEBサイトにてユーモラスに語っている。「もともと私をイメージして塩田さんが小説をお書きになられたというちょっと変わった作りの小説です。そもそも、この『騙し絵の牙』の発案の出発点というのが、雑誌『ダ・ヴィンチ』の表紙に出るとき、おすすめの本を1冊選ばなければならなかったことなんです。私は表紙撮影がある度に、『大泉エッセイ』を担当してくれていた同編集者に、いつも『お薦めの本、ない?』と、聞いていたんです。“映像化されて、私が主演をできるような小説”をと。それを、毎回訊かれるのが彼女はめんどくさくなったんでしょうね。『じゃあ、もう大泉さんを主人公としてイメージした本をつくります!』と言ったのが始まりなんです」
 また映画化が始動した際に原作者の塩田氏は、小説の完成までについてこのように語っている。「実在の俳優、それも唯一無二の役者をアテガキにして小説を書く──。芸能事務所の方と編集者と打ち合わせを続け、『完全アテガキの社会派小説』という未知の世界を前に何度もプロットを修正。新時代のメディア・ミックスに備えました。もちろん、大泉さんとも打ち合わせをし、その場で非常に鋭く厳しい読者目線のアドバイスをいただいたことにより、物語はさらに進化しました。それぞれの立場で、真剣に作品について考え続けた結果、私のイメージを遥かに超えた『小説の核』が出来上がったのです」
 そして塩田氏が出版業界と大泉洋を4年間じっくりと取材して執筆。2017年に発行された原作の小説『騙し絵の牙』は、「『罪の声』の塩田氏が大泉洋をモデルに」と企画段階から注目の的であり、映画化については各社の激しい争奪戦があったとのこと。2018年春ごろに「原作権をなんとかお預かりできた」という新垣プロデューサーは、苦戦した脚本化と映画への思いについて、このように語っている。「塩田先生の素晴らしい小説が目の前にあり、そこにできあがった世界観と、緻密に逆算された、ある種“騙し”の結末部分がある。小説は小説としてのラストの騙しや、逆転劇があり、原作を読んだ方はそれを知っているので、映画版としての新しい要素や仕掛けも必要になってくると感じていました。脚本家に楠野一郎氏を迎え、監督との共同作業で、ようやく今の脚本に至りました」

松岡茉優,和田聰宏,木村佳乃,國村準,大泉洋

劇中で登場する、どこかで見たことのある110年以上の伝統がある出版社「薫風社」の外観は、文藝春秋の社屋にて撮影。「小説薫風」「トリニティ」各編集部は日比谷の広いロケセットにて、美術、装飾、小道具などを作り込んだ。また映画の公開が2020年6月より延期となり2021年3月26日に公開決定となった際に、映画公開日を告知するスペシャル映像を、大泉洋・主演、吉田大八が企画・演出、映画本編の撮影・照明・録音スタッフが再集結し本編と同じカメラを用いて制作。2020年11月下旬にテストと本番を重ねながら全10カットを順撮りし、約2時間をかけて丁寧に撮影したとも。吉田監督はこの特別映像に寄せて、このようにコメントしている。「新公開日決定にあたり、なんとか僕たちの気合いを形にしたくて大泉さんと相談した結果、こんなものができました。楽しんでいただければ幸いです。誰も気づかないでしょうが勝手に TENET も意識しつつ、1年ぶりの再会とは思えないくらい撮影もスムーズに進みました。厳しい冬を乗り切れば明るい春が来ると信じて、無事に皆さんと劇場でお会いできる日を心待ちにしています」

出版業界を舞台に、出世のため、雑誌のため、より良い本をつくりたいという情熱から、人々が駆け抜けてゆく姿を描く群像劇である本作。原作者の塩田氏と吉田監督が本作への思いを熱く語る、完成前に寄せたコメントをご紹介する。
 塩田「大泉洋×吉田大八。これほど心躍る才能のぶつかり合いがあるだろうか。『騙し絵の牙』が表す出版業界の『希望』と『絶望』は、そのまま主人公・速水の『光』と『影』に響き合う。これまで私たちは大泉さんの『光』の部分に魅せられてきた。しかし、40代の男は『影』で何を物語るかが重要である。小説では、荒れる出版業界の海を痛いほどのリアリティで迫ったつもりだ。私が理想とする大人の男が、いかにしてその荒波に立ち向かうのか。今からスクリーンに映る速水編集長が楽しみでならない」
 吉田監督「誰しもいつかは負けるので、人間はいま負けているか、勝ちながら負けることを予感しているかに分かれます。それがわかっていても何故か戦ってしまう、どうしようもなく面倒で熱苦しい人間たちの映画を作りたいと思います。テーマはもちろん『負けて勝つ!』です」
 最後に、大泉洋が前述のイベントにて、観客に向けて語ったメッセージをお伝えする。「豪華な役者陣が騙し合いを繰り広げる痛快なエンターテインメント作。私も試写を観て本当に面白かったし、一度見始めたら脚本の面白さでグイグイ引き込まれるはず。今の映画館は換気にも十分に配慮をしているので、安心して映画館でご覧ください」

参考:「株式会社KADOKAWA

作品データ

公開 2021年3月26日より丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2021年 日本
上映時間 1:53
配給 松竹
監督・脚本 吉田大八
脚本 楠野一郎
原作 塩田武士
出演 大泉洋
松岡茉優
宮沢氷魚
池田エライザ
斎藤工
中村倫也
佐野史郎
リリー・フランキー
恂{晋也
國村隼
木村佳乃
小林聡美
佐藤浩市

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