eHills Club 試写会日記

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ミナリ

アメリカ南部アーカンソー州に韓国系の一家が移住
農業の厳しさ、雄大な自然、祖母と共に過ごすこと
監督の実話を基に移民の暮らし描く家族のドラマ

ミナリ©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

2021年の第93回アカデミー賞にて6部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞、脚本賞、作曲賞)にノミネートされた話題作。出演は、TVシリーズ「ウォーキング・デッド」や映画『Okja/オクジャ』のスティーヴン・ユァン、『藁にもすがる獣たち』のユン・ヨジョン、『ファイティン!』のハン・イェリほか。監督・脚本は、新海誠監督の『君の名は。』のハリウッドリメイク版『YourName』のリー・アイザック・チョンが手がけ、エグゼクティブ・プロデューサーとしてブラッド・ピットが名を連ねる。1980年代、アメリカ南部アーカンソー州の高原に韓国系移民の一家が引っ越してくる。夫婦と2人の子どもが新しい暮らしに慣れてきた頃、韓国から破天荒な祖母がやってきて……。健やかな子どもたち、型破りなおばあちゃん、成功を夢見る夫、黙々と支える妻、そしてアメリカで生きる移民の暮らし、荒れ地を開拓し農作物を育てる厳しさを、雄大な自然の風景とともに静かに映してゆく。「両親への感謝の手紙となった」と語る、チョン監督の半自伝的な脚本による家族のドラマである。

アラン・キム,スティーヴン・ユァン,ネイル・ケイト・チョー,ハン・イェリ

1980年代、アメリカ南部アーカンソー州の高原に韓国系移民の一家が引っ越してきた。荒れた土地とボロボロのトレーラーハウスを見た妻のモニカは不安を抱くものの、農業での成功を夢みる夫のジェイコブ、しっかり者の長女アンと心臓に病を持つがやんちゃな弟のデビッドは、新しい暮らしに徐々になじんでゆく。まもなく毒舌で破天荒な祖母スンジャが韓国からやってきて、一緒に暮らすように。最初は反発していたデビッドも祖母とだんだん良い関係に。裕福ではなくとも一家なりの穏やかな暮らしをしていたが、地下水が干上がり、農作物が売れず、追い詰められた一家に思いがけない事態が起きる。

『ムーンライト』や『レディ・バード』などの制作スタジオA24と、『それでも夜が明ける』などブラッド・ピットの映画製作会社PLAN Bのタッグによる本作。チョン監督の脚本にPLAN Bのプロデューサーのクリスティーナ・オーが惚れ込み、A24とのタッグが決まったことでこの企画が始まった。チョン監督が物語の着想を得たのは、厄介な側面も含めて家族が自分にとっていかに大切かを、幼い娘に伝えたいと感じた時だった。そして劇中の印象的なエピソードの多くは、子どもの頃の実体験であると監督は語る。「僕が娘と同じ年の頃の思い出を、8つ書き出してみた。アーカンソーで両親が激しい口喧嘩をしたこと、父のもとで働いていた男性が十字架を引きずって街を歩いたこと、祖母のせいで農場の半分近くが焼けてしまったことなどだ。それらを見て、僕が語り継ぎたいのは、こういうストーリーだと実感した」

アラン・キム,ユン・ヨジョン

農業での成功を夢みる夫ジェイコブ役はスティーヴン・ユァンが、一本気だが家族との暮らしよりも夢を優先する人物として、信心深い妻モニカ役はハン・イェリが、生活に不安や不満はあるものの献身的に家族を支える母親として、祖母スンジャ役はユン・ヨジョンが、花札やプロレスが好きで豪快でややガラが悪いながらも、家族を大切にして真心で接する人として。そして長女アン役はネイル・ケイト・チョーがプロとしての女優デビューながら優しく落ち着いた少女として、ジェイコブの畑で働くポール役はウィル・パットンが独自の信仰を貫く姿を、それぞれに演じている。そしてチョン監督が自身を投影したキャラクターである弟デビッド役は、まったく演技経験がなく本作で子役デビューとなったアラン・キムが、かわいくてやんちゃ、生意気で好奇心旺盛という少年らしさをとても自然体で表現している。
 チョン監督は“韓国のメリル・ストリープ”と称される祖母役のユン・ヨジョンを「正真正銘のアーティストで、この道の第一人者」と讃え、出演を心から喜び敬意を表した。そして監督がスティーヴン・ユァンに脚本を真っ先に送った理由について、スティーヴンの実際の生い立ちにジェイコブと通じるものがあったからだと語る。「スティーヴン自身が韓国系アメリカ人として、独特な背景を持っている。彼がアメリカに移住してきたのは、物心がついてからだ。だから、本当の意味で、まだ片足を韓国に残している。でも、アメリカ中西部で育ったから、アメリカ人であるという気持ちも強い。つまり、両方の文化に溶け込みながら、両方の文化にとってよそ者なんだ」

リー・アイザック・チョン監督は、1978年アメリカのコロラド州生まれ。韓国から移住してきた両親のもとでアーカンソー州リンカーンのオザークにある小さな農場で育つ。イェール大学の学士課程で生物学を学んだ後、ユタ大学で映画学の修士号を取得。2012年に全米アーティスト・フォード・フェローシップを授与。2007年の長編映画デビュー作『Munyurangabo』がカンヌ国際映画祭でプレミア上映。新作は『君の名は。』のハリウッドリメイク版『YourName』である。チョン監督は『ミナリ』で描く農業の厳しさについて、実の父の働く姿をもとにしていると語る。「僕の父は、『大いなる西部』などの映画を観て憧れを抱いてアメリカに来た。この豊かな大地が、約束を果たしてくれるという夢をね。でも現実はもっと厳しかった。土は優しくはない。父が夜中の2時に雪の中で木々に覆いをかけていた姿を今も覚えている。農業は常に一定のリスクを伴うけれど、それを描いている映画は非常に少ない。だから、そういう部分を見せたかったし、それと対比して自然が優しさを見せてくれる部分も表現したかった」
 祖母とデビッドが散歩する草原や、澄んだ水が流れる川辺など、本作では自然の表現が力強く美しい。撮影はオクラホマ州タルサの郊外で、アーカンソーとの州境の西側にて。劇中に登場するモン族の移民たちが作業をしている農場は、実際にそこにあるという。チョン監督はこの土地での撮影について、「過去と現在の移民家族の間にある、直接的なつながりについて考えさせられた」とコメントしている。また劇中の火事のくだりは監督が子どもの頃に経験した実話に基づいていて、監督のこだわりにより視覚効果なしで本物の炎で撮影した。また監督は自身がハリウッド実写版の制作を手がける『君の名は。』について「とても神秘的で感動的な作品」と語り、『ミナリ』との共通点についてこのように語っている。「『君の名は。』は自然や大地に耳を傾け、どのように人に影響を与えているのかを受け入れていくというテーマ性も持ち合わせています。それは『ミナリ』にも共通していると思いました」

ネイル・ケイト・チョー,アラン・キム

ミナリとは韓国の芹(セリ)のこと。水辺に育ち、独特の香りと歯ごたえが特徴で、2度目の収穫のほうがおいしいとされることから、成長した子ども世代の幸せを願う親の気持ちを込めたダブルミーニングであるという本作。“新たなる家族映画のマスターピース”として高く評価され、第93回アカデミー賞にて6部門ノミネートをはじめ、第78回ゴールデン・グローブ賞にて外国語映画賞を受賞するなど世界の映画賞で265のノミネート、81の受賞となっている(※TOP10選出を含む/2021年3月17日現在)。“コロナ禍”のストレスからアジア系へのヘイトクライムが欧米で急増しているなか、アジア系の家族を描く良質な作品が世界的に注目されることで、状況が改善へ向かう一端となることを願うばかりだ。ジェイコブを演じたスティーヴンはこの映画のテーマについて語る。「この映画は、奥深いところに人間的な何かがある。簡単にレッテルを貼ることは、できない作品かもしれないね。良い人生とはどのようなものなのか、人生の目的は何なのかという、僕たち皆が抱く疑問を取り上げている。自分たちは一体何者なのかという会話のきっかけになる映画にもなったと思うね。でも、その問いかけに対する答えは、人によってそんなに違わないことを願っている。すべての人が仮面をかぶっていて、すべての人が勝利も失敗も体験するからね。誰もがこの一家のなかに、自分の家族の一部を見出せると思うよ」
 チョン監督は『ミナリ』の映像について、小津安二郎監督の空間づくり、西部劇に出てくる荒野の映像、スティーヴン・スピルバーグ監督の子どもの気持ちを表現する作風など何を参考にするか、撮影監督のラクラン・ミルンと共に念入りに話し合ったとのこと。最後に、日本の観客に向けて監督からのメッセージをご紹介する。「日本の皆さんへ、『ミナリ』が日本で公開されることにとにかく感謝しています。僕は小津安二郎監督はじめとした日本の<家族映画>は一番だと思っています。ストーリーテラーとしてインスパイアされたことは何度もありました。実際に、僕は『ミナリ』を作った後は家族に対しても思いが明確になりました。皆さんも『ミナリ』を観た後に同じように感じてもらえるといいなと思っています」

2021年4月2日更新

作品データ

公開 2021年3月19日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2020年 アメリカ
上映時間 1:56
配給 ギャガ
原題 MINARI
監督・脚本 リー・アイザック・チョン
出演 スティーヴン・ユァン
ハン・イェリ
ユン・ヨジョン
ウィル・パットン
スコット・ヘイズ
アラン・キム
ネイル・ケイト・チョー
ライター:あつた美希 CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。これまでに取材した人数は600人以上、2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』でコラム“シネマ・アロマ”を担当。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。