Summer of 85

F・オゾン監督が思い入れのある小説を映画化
1985年の夏、ノルマンディーの海辺を舞台に
少年たちの出会いから始まる青春映画

  • 2021/07/28
  • イベント
  • シネマ
Summer of 85© 2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA-PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES

フランソワ・オゾンが監督・脚本を手がけ、強い思い入れのある小説を映画化。出演は、オゾン監督がオーディションで見出した若手俳優である『スクールズ・アウト』のフェリックス・ルフェーヴルと『さすらいの人 オスカー・ワイルド』のバンジャマン・ヴォワザン、『歓びのトスカーナ』のヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、『MISS ミス・フランスになりたい!』のイザベル・ナンティ、『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』のメルヴィル・プポーほか。原作はイギリスの作家エイダン・チェンバーズによる1982年の小説『Dance on my Grave(邦題:おれの墓で踊れ)』。1985年の夏のフランス、進路に悩む16歳の少年アレックスは、自然体で奔放な18歳のダヴィドと出会い……。人々がくつろいで過ごす海辺の町、1980年代の風合いを表現するフィルム撮影、当時のヒットソング、惹かれ合う少年同士の恋愛。感情のまま衝動的に突き進む10代の夏の顛末、“6週間の青春”を描く恋愛映画である。

バンジャマン・ヴォワザン,フェリックス・ルフェーヴル

1985年の夏、ノルマンディーの海辺の町。セーリングを楽しもうとヨットで一人沖に出た16歳のアレックスは、突然の嵐で転覆。同じくヨットで近くにいた18歳の青年ダヴィドが救出する。2人は急速に惹かれ合い、友情を超えやがて恋愛感情で結ばれる。アレックスにとって初めての恋であり、バイクの2人乗り、クラブでのダンスと、たくさんの“初めて”を経験し、ダヴィドとの関係にのめり込んでゆく。そしてある日ダヴィドの提案で、「どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊る」という誓いを2人は立てる。そんななか、ある女性をきっかけに2人の関係はこじれ、ダヴィドは不慮の事故に遭い……。

惹かれ合う10代の少年たちの恋を描く、オゾン監督の最新作。少年の恋愛映画は有名なものがいくつかあるなか、本作を観て筆者が特に思い出したのは2017年の映画『君の名前で僕を呼んで』だ。1983年の北イタリアの別荘を舞台に、文学や音楽を愛する少年と大学院生の青年との恋愛ドラマで、恋愛のときめきやきらめき、甘酸っぱさや切なさに加え、同性愛者として生きることの難しさといった視点も含む名作である。『Summer of 85』は物語の内容から、恋の始まりの楽しさを過ぎた後の、焦燥や煩悶、すれ違いや嫉妬や情念といった恋がもたらすダークな面と、それを越えてなお残るもの、といったことをより強く個人的に感じた。原作はオゾン監督が17歳の時に読み、「いつか長編映画を監督する日が来たら、第1作目はこの小説だ」と思ったほど強い感銘を受けたという、エイダン・チェンバーズの小説『Dance on my Grave(邦題:おれの墓で踊れ)』。監督はこの作品について、「知らず知らずのうちに小説のテーマを映画に取り入れていた」と語り、自身のこれまでの映画制作に大きな影響を与えた作品のひとつであるとコメントしている。もともと映画化を望んでいたという原作者のチェンバーズは、完成した作品を称えてこのように語っている。「オゾンが僕の夢を叶えてくれた。彼の作品の中で一番いいね。オゾンが小説の真髄に沿ってくれたことが嬉しかった。変更は小説を踏まえたものもあって、何なら小説よりよくなっているものもあったほどだよ」

バンジャマン・ヴォワザン,フェリックス・ルフェーヴル

進路に悩む16歳のアレックス役はフェリックス・ルフェーヴルが、シャイで繊細な高校生として。18歳のダヴィド役はバンジャマン・ヴォワザンが、感性のまま奔放に生きるタイプとして。オゾン監督は2人の適役が見つからなければ映画化自体を取りやめようとしていたほど俳優にこだわっていたそうで、2人の若手俳優フェリックスとバンジャマンは監督がオーディションで見出して抜擢。その時のことについて、「最初のスクリーンテストから、フェリックスとバンジャマンの間には通じるものが確かにあった。活き活きとしていたんだ。よほど相性がよかったんだろうね」とコメントしている。
 夫が残した船具店を営むダヴィドの母・ゴーマン夫人役はヴァレリア・ブルーニ・テデスキが、アレックスの母・ロバン夫人役はイザベル・ナンティが、アレックスが海辺で知り合う21歳のイギリス人女性ケイト役はフィリッピーヌ・ヴェルジュが、アレックスに進路を指導するルフェーヴル先生役はメルヴィル・プポーが、それぞれに演じている。

オープニングにTHE CUREの「In Between Days」が流れるのをはじめ、劇中では’80年代のヒット曲が印象的に用いられている。「In Between Days」を劇中で使用することについては、オゾン監督がTHE CUREに直談判したとのこと。そしてTHE CUREのメンバーから、楽曲使用の条件として「本曲リリースの1985年に映画タイトルを合わせること」と提示されたことから、映画のタイトルを当初の『Summer of 84』から『Summer of 85』へ変更したそうだ。またアレックスとダヴィドがクラブで踊るシーンなどで流れるのは、ロッド・スチュワートの1975年の曲「Sailing」。ゆったりとしたなじみのあるメロディが印象的に響く。この曲が決まった経緯についてオゾン監督は、「『Sailing』を提案したのは(アレックス役の)フェリックスなんだ。リズムと歌詞がしっくりきて、これだ!と思ったね」とコメントしている。またサウンドトラックは、「80年代とその後の電子音楽を想起させるような、セクシーでロマンティックで哀愁のある音楽が欲しかった」というオゾンの希望により、エレクトロ・デュオ「エール」のジャン=ブノワ・ダンケルが担当している。

バンジャマン・ヴォワザン,フィリッピーヌ・ヴェルジュ,フェリックス・ルフェーヴル

原作の小説は、イギリスの作家エイダン・チェンバーズによる1982年の小説『Dance on my Grave(邦題:おれの墓で踊れ)』。チェンバーズは1934年にイギリス北部で生まれ、15歳から文章を書き始め、教師として英文学と演劇を教えながら、’60年代に僧院の僧としても活動。1968年に児童書の書評専門誌の編集に携わっていた夫人と結婚、1970年に夫妻で出版社を興して児童書の書評誌の出版を始め、現在も各国の優れた児童書をイギリスに紹介している。1999年の著書「二つの旅の終わりに」でイギリスの児童文学賞であるカーネギー賞を、2002年には世界的な児童文学賞である国際アンデルセン賞を受賞した。チェンバーズは『Dance on my Grave』について、「10代で初めて感じるパッション、どうしても湧き上がる感情を綴った、世代や時代を問わない愛の物語」とコメント。オゾン監督は映画化にあたり、チェンバーズの思いや原作のストーリーを尊重し表現したことについて、このように語っている。「青春映画の約束事に沿って撮影することが、私にとって重要だった。少年2人の恋愛に皮肉を一切加えず、世界共通のラブストーリーにした」
 また監督は、映画ではアレックスとダヴィドのつながりを丁寧に描いたという。「大事なのは2人の信頼関係を見せること、僕が10代の頃に感じたことを表現することだからね」

まだSNSもなく、インターネットも一般的ではない時代に、フランスの海辺の町で本能と衝動のまま転がるように展開してゆく10代の夏の物語。切なくきらめく甘い部分だけじゃない、恋につきもののやるせなさやむなしさ、それでも残るもの。「恋愛とは?」と頭で考える作品ではまったくないけれど、劇中でケイトがある会話でズバッという一言は、シンプルながらとても的を射ている。まさに恋の正体のひとつだと個人的に思う。
 本作の撮影は、フランスのノルマンディーにある海沿いの街ル・トレポールにて。石が多い自然な風合いの浜辺や崖、防波堤の近くには’60年代に建てられた住宅が並ぶ、ノスタルジックな風景が印象的だ。このエリアは、原作の舞台であるイングランドのサウスエンド=オン=シーと似た雰囲気があるとも。そして本作の’80年代の質感は、全編フィルムの撮影にて表現。オゾン監督はこの作品の映像について、とても満足していると語っている。「あのざらざら感がたまらない。肌のアップなんか、すごく美しくて官能的だ。あの色合いは、曖昧さを許容しないデジタルでは決して出せない」
 海、出会い、初恋、諍い、それらを越えてゆくこと。恋のダークな面も描いているものの、観た後の印象が重くなることや悪くなることは意外とない。オゾン監督こだわりの映像、音楽、俳優による青春映画であり、ストレートな“夏の恋愛シネマ”である。

作品データ

公開 2021年8月20日新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか 全国順次公開
制作年/制作国 2020年 フランス
上映時間 1:41
配給 フラッグ、クロックワークス
原題 Ete 85
監督・脚本 フランソワ・オゾン
出演 フェリックス・ルフェーヴル
バンジャマン・ヴォワザン
ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ
メルヴィル・プポー

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