eHills Club 試写会日記

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沈黙のレジスタンス〜ユダヤ孤児を救った芸術家〜

戦時下にレジスタンス組織のメンバーとして活動し、
ユダヤ人の子どもたち123人をスイスへ脱出させた
“パントマイムの神様”マルセル・マルソーの実話を描く

沈黙のレジスタンス〜ユダヤ孤児を救った芸術家〜©2019 Resistance Pictures Limited.

“パントマイムの神様”と呼ばれるマルセル・マルソーが、第二次世界大戦下にレジスタンス活動をしていた事実を、実話に基づいて映画化。出演は、『ソーシャル・ネットワーク』のジェシー・アイゼンバーグ、『テネット』のクレマンス・ポエジー、『ワルキューレ』のマティアス・シュヴァイクホファー、『ポロック 2人だけのアトリエ』のエド・ハリスほか。監督はポーランド系ユダヤ人であり、ベネズエラで活躍する映画監督であり脚本家、作家でもあるジョナタン・ヤクボウィッツが手がける。昼間は父の営む精肉店で働き、夜はキャバレーでパントマイムを披露しているマルセルは、兄や従兄弟たちの活動に参加するよう声をかけられる。それはナチスに親を殺されたユダヤ人の子どもたち123人の世話をすることだった。アーティストとして生きることを夢見る青年が、気乗りしないながらも加わった活動のなか、真摯に取り組んでのめり込み、仲間たちと共に成長してゆく姿を描く。マルセル本人はあまり語らなかった事実について、証言者が語る実体験をもとに充実のキャスティングで映し出す物語である。

1938年のフランス、ドイツ国境近くの街ストラスブール。アーティストとして生きることを夢見るマルセルは、昼間は父が営む精肉店で働き、夜はキャバレーでパントマイムを披露している。従兄弟のジョルジュから子どもたちの支援に加わるよう促されたマルセルは、アーティスト活動になるべく専念したいと言いながらも参加。マルセルは子どもたちと心を通わせ、兄のアランも驚くほど、ジョルジュやマルセルが想いを寄せるエマや彼女の妹ミラと共に、ナチスに親を殺されたユダヤ人の子どもたち123人の世話をするようになる。1939年から始まった第二次世界大戦のなか、1942年にナチス・ドイツ軍がフランス全土を占領。ドイツに積極的に協力するフランスのヴィシー政権に憤ったマルセルは、仲間たちと共にレジスタンス組織で活動し始める。そしてフランス国内でもユダヤ人の安全が脅かされるなか、マルセルたちはアルプスの山を越えて、子どもたちを安全なスイスへと逃がそうと決意するが……。

ジェシー・アイゼンバーグ(中央),ほか

マルセル・マルソーの知られざる活動に惚れ込んだヤクボウィッツ監督が、証言者に自ら取材して脚本を執筆し映画化した本作。最初はアーティスト活動にしか興味がなく、ほかのことには関わりたくないと思っていた青年が、子どもたちと打ち解けて彼らをサポートし、仲間たちとのつながりを深めて成長してゆくさまを丁寧に描いている。監督はマルセル・マルソーの映画を今作った理由について語る。「今、憎悪が世界中で高まっているように思う。人種、国籍、宗教、政治などの違いからくる憎悪だ。人は他者の権利を顧みない時に、いとも簡単に憎悪できてしまう。私がマルセルと仲間たちを大いに気に入っているのは、世界のために行動し、人々の命を救おうと決断したからだ。これは、子どもたちの命を救うことで、自分の才能を発見し、芸術家として成功する男の物語だ。語られるべき価値のあるヒーローの物語は数多くある。だが、マルセルのような物語は多くない。だから、私は彼に惚れ込んだ。現代に生きる私たちにとっても、マルセルの努力は希望と人道行為の“道しるべ”だ」

マルセル・マルソー役はジェシー・アイゼンバーグが、パントマイムで子どもたちを笑顔にする青年を好演。ジェシーはユダヤ人であり、身内にホロコーストで亡くなった人がいて、彼の母親はプロの道化師だったとのこと。そのためマルセルと重なる面があり、実際にジェシーが「若い頃のマルセルに似ている」と監督は語る。ジェシーがパントマイムのトレーニングを熱心にして役作りに取り組んだことについて、パリのマルセル・マルソー国際マイム学院にてマルソー本人から直接学んだ日本人のマイム俳優・いいむろなおき氏のコメントをプレス資料のエッセイより引用する。「映画の中で出てくるマイムシーン、主演のジェシー・アイゼンバーグの演技の中にマルセル・マルソー独特の動きや、ちょっとした癖なども表現されていて驚きました。ちなみに彼にマイム指導をしたのは学校時代の後輩……足運びや表情の作り方など、僕の知っているマルセル・マルソーを彷彿とさせるものでした」
 マルセルが好意を寄せるしっかり者のエマ役はクレマンス・ポエジーが、マルセルの兄アラン役はフェリックス・モアティが、従兄弟のジョルジュ役はゲーザ・ルーリグが、エマの妹ミラ役はヴィカ・ケレケシュが、マルセルの父シャルル役はカール・マルコヴィクスが、マルセルとエマを慕うユダヤ人の子どもエルスベート役はベラ・ラムジーが、ゲシュタポの冷酷なクラウス・バルビー親衛隊中尉役はマティアス・シュヴァイクホファーが、アメリカ陸軍のジョージ・S・パットン将軍役はエド・ハリスが、それぞれに演じている。ヤクボウィッツ監督はキャストとスタッフに敬意を込めて語る。「本作では、キャストもスタッフも異なる国籍の人々を集めることが、歴史に対する私たちの責任だった。卓越した才能を持つ人々と仕事をできたことは大変な名誉だったし、共に作り上げた作品をこれ以上ないくらい誇らしく思う」

ジェシー・アイゼンバーグ

のちに“パントマイムの神様”と称されるマルセル・マルソーは、1923年フランスのストラスブール生まれ。ユダヤ人の両親のもと、幼いころからバスター・キートンやチャーリー・チャップリンに憧れて俳優を目指す。しかし戦争のため演劇学校に通うことができず、1942年からレジスタンス活動に参加。英語が堪能だったことから、アメリカ陸軍のジョージ・S・パットン将軍の渉外係を務めた。戦後、パリのサラ・ベルナール劇場で演劇を学んだ後、マイム俳優として活躍しパントマイムの劇団を結成。ニコライ・ゴーゴリの小説「外套」などを演じる。フランス国内のみならずアメリカをはじめ海外ツアーでも高い評価を得て、1978年にはパリ市マルセル・マルソー国際マイム学院を設立し後進の育成にも力を注いだ。フランスのレジオンドヌール勲章や国民功労章叙勲など受賞歴多数。映画にも、1962年のジェーン・フォンダ主演作『バーバレラ』や1976年のサイレント映画『メル・ブルックスのサイレント・ムービー』などに出演。2007年9月に84歳でパリにて死去。彼が1947年に創造した「Bip(ビップ)」というキャラクターは、白塗りのメイク、ボーダーシャツ、くたびれたシルクハットに赤い花をのせた姿で、パントマイムのイメージとして世界的なスタンダードとなっている。
 ヤクボウィッツ監督は、マルセル・マルソーが戦時下でレジスタンスの一員として行ったこと、普段どのように過ごしていたか、そして彼が自身をどう捉えていたかについて語る。「確かにマルセルは、レジスタンス組織内でパスポートの偽造を行い、マルソーという姓も自ら作り出した。城で子どもたちの世話もしたし、3回の旅であわせて100人以上の子どもたちを連れてアルプス山脈を越えた。画家になりたくて、スケッチや油絵を生涯描き続けたというのも事実だ。彼は過去について話したがらなかったし、自分の物語において自身をヒーローとみなすこともなかった」
 マルセル・マルソーの第二次世界大戦中の活動は、本人が生前に多くを語らなかったことから、詳しくは知られていなかった。ヤクボウィッツ監督は、生き証人に直接話を聞き、その実体験を中心に脚本を執筆。映画にも登場しているマルセル・マルソーの従兄弟ジョルジュ・ロワンジェに、監督は話を聞いたという。「執筆を始めた時、存命していたのは、ジョルジュ・ロワンジェだけだった。マルセルの従兄弟で、レジスタンス組織のリーダーだった人物だ。パリで会った時は106歳で、悲しいことに2018年12月に108歳で亡くなった。ジョルジュはこれ以上望めないほどの実体験の語り手で、この作品の大部分は彼の話に基づいている」

この映画の監督・脚本・製作を手がけたヤクボウィッツ監督は、1978年にベネズエラ、カラカス生まれのポーランド系ユダヤ人。ベネズエラ中央大学でコミュニケーション学の学位を取得し、映画監督や脚本家、小説家として活動している。2005年の長編劇映画初監督作品『ベネズエラ・サバイバル』は英国インディペンデント映画賞外国語映画賞にノミネートされ、2016年の第2作ハンズ・オブ・ストーン』はカンヌ国際映画祭でプレミア上映。2016年に発表した初の小説「Las Aventuras de Juan Planchard」はスペイン語圏でベストセラーとなり、2017年2月にはアマゾンの外国語フィクション部門ベストセラーの1位となった。ヤクボウィッツ監督は『沈黙のレジスタンス〜ユダヤ孤児を救った芸術家〜』への思い入れについて、このように語っている。「私自身がホロコーストを生き延びた者たちの子孫だから、あの戦争についての物語は生まれた時から人生の一部だった。今回、脚本執筆と撮影を通して、祖父母の思い出が蘇ったし、子どもたちがセットで演じているのを見ると、この国で殺害された何百人ものユダヤ人の子どもたちのことを考えないではいられなかった。悲しみの涙であれ、喜びの涙であれ、とにかく涙を流さない日は1日もなかったね。それは私だけでなく、すべての俳優がこの特別な物語に、私的なつながりを感じていた」

クレマンス・ポエジー,ジェシー・アイゼンバーグ

「ナチ1人を殺すより、ユダヤ人の子ども1人を助けよう」
 劇中でジェシーが演じるマルセル・マルソーが心から真剣に伝えるメッセージは、とても胸に響く。自身もユダヤ人であるヤクボウィッツ監督は、「以前は自分が第二次世界大戦についての映画を作ることができるとは思ってもいなかった」という。その理由は、「ユダヤ人だからというだけの理由で、家族が殺されるなんて、絶対に理解できなかったから」。この映画では、「リヨンの虐殺者」と呼ばれたナチ親衛隊の実在の人物クラウス・バルビー(1913〜1991年)が登場している。ドイツ占領下のフランスでレジスタンス活動家やユダヤ人を迫害した人物だ。そして映画のラストでは、バルビーの戦後の末路、マルセル・マルソーの父シャルルがアウシュビッツに送られて殺されたこと、ユダヤ人のレジスタンス組織が1万人の子どもを救ったことなどを伝えている。
 最初は子どもが苦手と気乗りせず、アーティスト活動にしか興味がなかった青年が、子どもたちの世話をするようになり仲間たちとのつながりを深めて成長していくさまを描く本作。ヤクボウィッツ監督がマルセル・マルソーの実話を基に映画を作ろうと決心した思いは、この作品を観て得られる感覚を一言で表している。「この映画を作ろうと決めた理由はただひとつ、悲劇という背景がありながらも、人生を肯定する物語だからだ」

参考:「Britannica

2021年8月30日更新

作品データ

公開 2021年8月27日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2020年 アメリカ・イギリス・ドイツ合作
上映時間 2:00
配給 アメリカ・イギリス・ドイツ合作
映倫区分 G
原題 RESISTANCE
監督・脚本・製作 ジョナタン・ヤクボウィッツ
出演 ジェシー・アイゼンバーグ
クレマンス・ポエジー
マティアス・シュヴァイクホファー
フェリックス・モアティ
ゲーザ・ルーリグ
カール・マルコヴィクス
ヴィカ・ケレケシュ
ベラ・ラムジー
エド・ハリス
エドガー・ラミレス
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。